イモト・出川・宮川・みやぞんを大ブレークさせた『イッテQ!』~快進撃の秘密は“熱量”と“時代の風”~

視聴率独走の『イッテQ!』

『世界の果てまでイッテQ!』が凄いことになっている。

視聴率で見ると、放送開始当初の2007年の年間平均は12%ほどだった。ところが徐々に上昇し、13年は16%台、14年18%台、そして15年19%台と右肩上がりが続いた。

ところが16年は17%台に後退した。この年は熊本地震を初めとする大災害・大事件が続発し、NHKが全体的に強くなったことが一因だ。さらに裏番組のNHK大河『真田丸』が高視聴率をとったため、煽りを食らった格好だった。

ところが今年は凄い。

上半期に19回放送があったが、そのうち12回が20%超え。しかも先週まで8週連続20%超と、近年のバラエティ番組では類を見ない快進撃となっている。

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質的評価もバツグン!

凄いのは視聴率だけじゃない。

データニュース社「テレビウオッチャー」が調べる番組内容への満足度や、次回を見たい率も極めて高い。

満足度では、19回中3回4.0を突破し、平均でも3.90に達している。

例えば春クールで視聴率1位だったドラマ『緊急取調室』の満足度は3.85だった。視聴率2位の『小さな巨人』で3.92。評価が高いドラマと互角の満足度をバラエティが出すのは、極めて稀である。

「絶対見る」「たぶん見る」を足しあげた次回見たい率でも同様だ。

見た人の84.8%が次回見たいと言っている。さすがに『緊急取調室』や『小さな巨人』などの人気ドラマには5ポイントほどの差をつけられた。ところが次回見たくないと答えた人は1%ほどしかいない。ここでは人気ドラマと互角あるいはそれ以上の成績となっている。

バラエティはもともと“暇つぶし”や“慰安”を求めて見る人が多い番組ジャンル。目的をもって専念視聴されるドラマとは、この辺りが大きく異なる。それでも「次回も見たい」と多くの人に思わせ、「次回は見たくない」人をほとんど出さないのは快挙と言えよう。

バランスも絶妙

テレビ番組は視聴率さえ高ければOKかと言えば、そんなに単純でもない。

まず視聴率という量的評価と、満足度など質的評価の関係で見てみると、絶妙なバランスとなっている点が特筆に値する。

例えば今年3月19日の「木村佳乃が2年ぶりの参戦!vsイモトと爆笑女優対決」。視聴率こそ16.7%と最低だったが、満足度は4.09と今年最高、次回見たい率も86.4%と4位の好記録を出していた。低視聴率は番組内容のせいとは限らず、裏番組との関係など外部要因が寄与した可能性もある。

4月23日の「温泉同好会とイモト珍獣ハンティング」の時も、視聴率は18.1%と平凡だった。それでも満足度3.82、次回見たい率85.7%は好記録だった。視聴率が低い回があったとしても、高い質的評価となっているので、視聴者離れの心配がないとわかる。

視聴者の年齢層もバランスが良い。

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裏のNHK大河は視聴率こそ13%前後で、日曜夜8時台で競合関係にある。ところが大河ドラマ視聴者の大半は60歳以上と偏っている。

一方『イッテQ』は男女も年齢層の構成も極端な偏りがない。例えばフジテレビの月9『貴族探偵』は、女性が多く、しかもF2層(女35~49歳)が突出している。どちらかと言えば『貴族探偵』は少数の視聴者がディープに見る番組で、『イッテQ』が家族など幅広い層に分厚く支持を得ていることがわかる。

時代の風

『イッテQ』がここまで盤石となったのには幾つか理由がある。

一つはターゲット層と筆者は考える。日本テレビは2000年代半ばから、F1層に強かったフジテレビに対抗するため、F1層を挟むティーンや子供と2層(35~49歳)をターゲットにし始めていた。親子で随伴視聴する番組を意識的に強化したのである。

この時期は放送のデジタル化が始まり、テレビがブラウン管から液晶など薄型・大型テレビに代わっていった時期でもある。もともとは1家に1台の家電としてテレビは普及したが、80~90年代は1家に複数台、1人1台の個電になっていた。この時期に、F1など若年層に特化したフジが好調だった所以である。

ところが日テレにとっては、デジタル革命が重なったため随伴視聴が戻り、家族一緒に見る番組の注力が波に乗った。

さらに2011年の東日本大震災が起こった。家族の絆が見直されるようになり、日テレの狙いとシンクロしたのである。

2つ目に、番組のテイストの問題がある。

若年層に特化したフジの黄金期、『THE MANZAI』から始まり、『俺たちひょうきん族』『笑っていいとも』などで一世を風靡した同局の番組には、毒が絶妙に散りばめられていた。たけし・さんま・タモリなどは、こうした路線のスターだった。

ところがここ何年か、不快感・嫌味のない番組が好まれるようになっている。例えば80~90年代に多用された“苦痛・忍耐・屈辱”を笑いの対象にするような番組は、今や数字を獲れない。

一見似たような場面も、『イッテQ』では芸人のギリギリ頑張りと、途中に散りばめられた笑い、その結果伴う感動で包まれている。時代の風を受け止め上手く作り替えた結果、家族で安心して見られる、幅広い層に支持される番組になったのである。

ドキュメントバラエティの流れ

ここに至るまでには、30年の歴史があった。

ドキュメントバラエティを完成させるプロセスで、黄金期のフジに対抗する取り組みだった。

バラエティとは、歌・トーク・コント・コメディ・ものまねなど、幾つかのコーナーを組み合わせた番組だ。

歌謡ショーや落語・漫才などをそのままテレビで放映したのが、テレビ草創期の娯楽番組。そこから歌にコントやトークを加えて行ったのが、日本の音楽バラエティだった。

後にバラエティは、音楽・情報・トーク・コント・クイズなど、様々に分化・進化していく。80~90年代に独走したフジは、数字の取れるタレントを囲い込み、トークバラエティやコントバラエティで他局を寄せ付けない存在となっていた。

これに対して日テレは、ENG(フィルムを使わないVTR一体型ビデオによる映像・音声の取材システム)を活用して、『元気が出るテレビ』(85~96年)を始め、『進め!電波少年』(92~2002年)へとつなげて行った。強力なタレントをブッキングできないため、企画力で勝負する路線だった。

この流れは『ウッチャンナンチャンのウリナリ!!』(96~02年)、『ザ!鉄腕!DASH!!』(97年~)を経て、『イッテQ!』(07年~)で一つの頂点に到達している。

強さの秘訣を一語で表現すると“熱量”となる。

出演者が本当に“笑う”“泣く”“怒る”“喜ぶ”など本物の感情を出すことで、その熱量が多くの視聴者を魅了した。それを可能にしたのが、ロケを前提としたドキュメントバラエティだった。

例えばイモトアヤコの登山が典型だ。次々に世界最高峰の山々を征服して来たが、14年のエベレストでは極限状況の中で登頂を断念せざるを得なかった。その時の彼女の悔しがり方は、まぎれもなく本物だった。

去年放送された52歳のウッチャン(内村光良)が鉄棒の大車輪に挑戦する企画。長期に渡る練習で、傷だらけになりながらも、予定のロケ期間の中では達成できなかった。ところが収録3日前に、内村から“泣きのもう1回”が入り、本当に最後の最後で成功させた。この中年男の不屈の魂には、理屈抜きの感動があった。

熱量を生み出す出演者たち

安易な“内輪ネタ”“楽屋落ち”に頼った番組は、容易に当たらないか、当たったとしても長続きしない。『イッテQ』は、そうした番組と一線を画している。

ただし、この熱量を出し続けるのは並大抵のことでは出来ない。

そこで重要になって来るのが、しんどい挑戦を厭わずに体当たりしてくれるタレントとなる。この部分を日テレは、無名のタレントを抜擢することで、熱量の維持に努めてきた。

例えば今や『イッテQ』の顔のイモトアヤコは、この番組でレギュラーになるまでは全く無名だった。同番組で大活躍する他、ドラマで女優を演ずるまでに進化している。

90年代にデビューした出川哲朗は、「汚れ役」「いじられキャラ」として浸透していたが、女性誌『an・an』が行う「嫌いな男ランキング」で、01~05年と5年連続1位だった。ところが『イッテQ』で、体を張った芸が支持され始め、今や人気・好感度の高いタレントとなっている。

6月11日放送の「出川パパラッチinカンヌ」は、視聴率で6週連続20%超の立役者だ。しかも満足度4.09・次回見たい率89.1%は、今年19本の中で最高記録となった。今や出川は、イモトと並ぶ『イッテQ』の顔と言って過言でない。

宮川大輔やみやぞんも『イッテQ』でブレークしたタレントである。

宮川は世界各地のお祭りに参加する企画「世界で一番盛り上がるのは何祭り?」がきっかけで、老若男女問わず幅広い層の人気を得るようになった。

また去年から出演するようになったみやぞんは、「イッテQで覚醒」と評される。走って来る闘牛を飛び越える“ブル・リーピング”が神回と言われたこともあった。この1年での急成長株だ。

こうしたタレントが新たに大ブレークする手法は、『電波少年』の時に編み出されている。松本明子・松村邦洋・有吉弘行などが元祖である。無名ゆえに、多大な熱量で挑戦し、結果として大きな感動を呼ぶ。『電波少年』を担当した土屋敏男氏は、「スターがテレビを作るのではなく、テレビがスターを作る」と言っているが、人気タレントに依存したフジテレビと対象的な路線だったのである。

ちなみに『イッテQ』の企画・演出を担当する古立善之氏は、『電波少年』で育っている。90年代のヒット番組を、時代に合わせてチューンアップし、より高みに押し上げたと言っても過言でない。

いずれにしても、“熱量”と“時代の風”を両輪にし、今年上半期の平均視聴率を20%超にまで押し上げた『イッテQ』。幾つかのファクターを見るにつけ、死角の少ない大番組として、まだまだ隆盛を極める予感がしてならない。