[PR]

 香港の基本制度を50年変えない――英国から香港を返還された時、中国はそう約束した。

 あれから20年。一歩ずつ近づく2047年以降はどうなるのか。いまのままでは、香港の人びとの胸中に暗雲が広がるのは無理もあるまい。

 社会主義色を帯びた中国本土と、資本主義の香港を区別し、香港の高度な自治を保障する。それが、返還時の約束ごとである「一国二制度」である。

 ところが最近、中国・習近平(シーチンピン)政権によって自由は侵食され、制度の建前が損なわれてきた。一国二制度は空洞化していると言わざるをえない。

 この数年の出来事がそれを物語る。中国に批判的な本を扱った書店の関係者が失踪した▽当選した香港の議員に、北京から議員失格の判断が示された▽メディアが中国企業に買収され、中国の圧力を受ける――。

 3年前の「雨傘運動」で、若者らが反対運動に立ち上がったのは当然だった。香港政府のトップである行政長官選で普通選挙を導入するにあたり、習政権はあらかじめ候補者を絞る制度を押し付けようとしたからだ。

 市場経済、高い教育水準、整った司法制度、そして言論・結社の自由。民主主義を定着させる条件はそろっている。なのに一国二制度の枠組みの下で約束された普通選挙が実現せず、民主化は前進していない。

 経済の「中国化」も進行している。香港の主要な産業である金融や不動産で中国企業の比重が高まり、香港で上場する企業の半数は中国系となった。

 それに伴う中国資金の流入で不動産価格が高騰するなど、庶民の生活は揺さぶられ、貧富の差を広げている。また、中国の各都市が発展するにつれ、物流や金融の拠点としての香港の地位は相対的に低下している。

 政治・経済の各面で香港の悩みが深まるなか、きのうあった記念式典で、習主席は強面(こわもて)の演説をした。

 「国家の主権・安全を害する」行為や「中央の権力」への挑戦は「絶対に許されない」と表明した。雨傘運動後に一定の政治勢力へと成長した香港独立派を念頭に置いたものだ。

 しかし、こうした高圧的な態度こそが、香港人意識を高め、ひいては独立を叫ぶ人びとを増やしている。中国と香港の関係にとって悪循環でしかない。

 香港の未来を切り開くには、自立した市民で構成される自由社会・香港のあり方を、北京側が最大限尊重することこそが起点である。このまま一国二制度を衰退させてはならない。

こんなニュースも