現下の景気の局面は、消費が順調に推移するとともに、求人が増大する中、男性の就業者数が頭打ちとなっており、いよいよ、賃金と物価へ波及する環境が整いつつある。4-6月期は、前期に続き、消費を中心とした成長を遂げる公算が高い。これが続くことによって、賃金と物価は高まっていく。デフレから脱却し、当たり前の経済になるまで、あと一歩のところに来ている。
………
5月の商業動態の小売業は前月比-1.4だったが、前月に+1.3と急伸した反動もあり、4,5月平均は前期比+0.8と高水準を維持している。仮に6月が横バイだったとしても、前期比0.6を確保できる。品目的には、今月は、衣料に反動が出るも高め、車は高めをキープし、燃料が低下というところだ。他方、家計調査は、消費水準指数(除く住居等)が前月比+0.7であった。なお、今月も、可処分所得が前月比-4.8で消費性向が+5.0になるなど、荒れ気味である。
消費については、日銀や内閣府の指数を待つことになるが、商業動態と家計調査の結果を踏まえると、5月は、いずれも若干のマイナスになると予想している。そうすると、4,5月平均の前期比は+0.8前後に落ち着くだろう。いずれにしても、4-6月期の消費は2%成長のペースに乘っており、1-3月期より加速していると考えられる。まあ、「消費の腰は重い」のかもしれないが、腰を据えて見守るほかあるまい。
消費を裏打ちする雇用については、5月の新規求人倍率は、除くパートが2.02倍と、一気にバブル時ピークの1991年2月に並んだ。このところ停滞気味であったが、それを取り戻すような大幅な上昇だった。求人の内容を見ると、除くパートでは、引き続き、男性に向く、建設業、製造業が強く、運輸業も伸びてきた。いつもどおり、医療福祉の求人が最多であるものの、今月は卸小売も増えている。
それにも関わず、5月の労働力調査では、男性の就業者数が前月比-4万人と、ここ数か月、足踏みが続く、そのうち雇用者数は減り気味だ。他方で、非労働力人口が増えているわけでもない。男性については、そろそろ、労働力の供給が難しくなってきたのかもしれない。むろん、女性については、5月の就業者数こそ+1万人にとどまったものの、着実に積み増してきており、まだ余裕がありそうだ。
(図)
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消費者物価を見ると、5月の全国は、サービス(除く帰属家賃)の原数値が、3か月連続の上昇となり、12か月移動平均に追いついた。また、財(除く生鮮)の原数値も、4月の急伸に続いて上昇し、サービス以上に12か月移動平均を引き上げている。この上昇は、主に石油製品の値上がりによる。こうして見れば、消費や賃金の増加に伴う物価の動きは、上向きにはなっただけで、ごくわずかと考えられる。
最後に、5月の鉱工業指数を点検してみよう。生産は、4,5月と6月予測の平均は、前期比+2.5と極めて好調だ。設備投資を占う資本財出荷(除く輸送機械)は、4,5月平均が前期比+5.7にもなる。前期の低下の反動もあるにせよ、十分に高い。6月予測を加えた生産の平均も同様の水準だ。他方、建設財出荷は、前期比-0.1と停滞している。6月予測を含む生産では更に下がる形になる。ただし、今期の住宅着工件数には、持ち直しが見られる。
以上を踏まえれば、4-6月期は、消費を中心とし、これに設備投資が伴うという、在るべき姿での成長となるだろう。加えて、1-3月期には足を引った在庫が、鉱工業在庫の様子からすれば、逆に押し上げることが考えられ、その場合は、意外なほど高めの数字になる可能性もある。ちなみに、外需については、ニッセイ研の斎藤太郎さんによると、4,5月の実績からは、概ね寄与度ゼロのようだ。
景気は、輸出と建設投資の追加的需要から始まり、所得が増して消費につながり、需要の波及によって雇用が拡がった。やがて、賃金と物価が上昇するようになる。収益性ではなく、こうした需要の連鎖がリスクを癒し、人々の行動を合理性のある積極的なものにする。1-3月期は、税収の伸び悩みもあり、政府の財政収支の改善が止まったが、その反面、家計の収支が楽になった。前期からの消費回復には、こうした背景もある。
………
蛇足になるが、今回は規制改革に触れておく。例の獣医学部の件である。筆者はオールド・リベラリストであり、50年ぶりに新規参入を認めたことは積極的に評価する。ただし、1校の新規参入を認めるのなら、その枠を巡って、自由な競争を確保すべきであった。複数から寄せられる政策課題の解決に関する提案を比較考量し、公明正大に選定していれば、今のような事態は避けられただろう。
規制改革は、ただ参入させれば良いというのではない。競争によって創意工夫を促して、高質で低廉な供給を実現し、国民生活を向上させるところにある。せっかく、参入の道を開いたのに、自分で地域的な「規制」をかけ、一者入札のような形にしたのでは、本来の目的以外の意図を強く疑われてしまう。早く実績を上げようと、結論は見えているとばかりに、自由な競争のプロセスを省いたことが蹉跌となったのではないか。原点の重要さが思い起こされる一幕であった。
(今日までの日経)
企業の現預金 世界で膨張。物価見通し下方修正へ・日銀。消費回復 腰重く。核燃の費用底なし。正社員の有効求人0.99倍。税収、成長頼みに限界、法人減税で返らず。産業用ロボ・人手不足の中国爆買い。事務職派遣の時給上昇。年金・免除多用で制度空洞化。預金、東京一極集中。
※社会面連載の「危き皇位継承」は、とても良い記事だったね。
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5月の商業動態の小売業は前月比-1.4だったが、前月に+1.3と急伸した反動もあり、4,5月平均は前期比+0.8と高水準を維持している。仮に6月が横バイだったとしても、前期比0.6を確保できる。品目的には、今月は、衣料に反動が出るも高め、車は高めをキープし、燃料が低下というところだ。他方、家計調査は、消費水準指数(除く住居等)が前月比+0.7であった。なお、今月も、可処分所得が前月比-4.8で消費性向が+5.0になるなど、荒れ気味である。
消費については、日銀や内閣府の指数を待つことになるが、商業動態と家計調査の結果を踏まえると、5月は、いずれも若干のマイナスになると予想している。そうすると、4,5月平均の前期比は+0.8前後に落ち着くだろう。いずれにしても、4-6月期の消費は2%成長のペースに乘っており、1-3月期より加速していると考えられる。まあ、「消費の腰は重い」のかもしれないが、腰を据えて見守るほかあるまい。
消費を裏打ちする雇用については、5月の新規求人倍率は、除くパートが2.02倍と、一気にバブル時ピークの1991年2月に並んだ。このところ停滞気味であったが、それを取り戻すような大幅な上昇だった。求人の内容を見ると、除くパートでは、引き続き、男性に向く、建設業、製造業が強く、運輸業も伸びてきた。いつもどおり、医療福祉の求人が最多であるものの、今月は卸小売も増えている。
それにも関わず、5月の労働力調査では、男性の就業者数が前月比-4万人と、ここ数か月、足踏みが続く、そのうち雇用者数は減り気味だ。他方で、非労働力人口が増えているわけでもない。男性については、そろそろ、労働力の供給が難しくなってきたのかもしれない。むろん、女性については、5月の就業者数こそ+1万人にとどまったものの、着実に積み増してきており、まだ余裕がありそうだ。
(図)
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消費者物価を見ると、5月の全国は、サービス(除く帰属家賃)の原数値が、3か月連続の上昇となり、12か月移動平均に追いついた。また、財(除く生鮮)の原数値も、4月の急伸に続いて上昇し、サービス以上に12か月移動平均を引き上げている。この上昇は、主に石油製品の値上がりによる。こうして見れば、消費や賃金の増加に伴う物価の動きは、上向きにはなっただけで、ごくわずかと考えられる。
最後に、5月の鉱工業指数を点検してみよう。生産は、4,5月と6月予測の平均は、前期比+2.5と極めて好調だ。設備投資を占う資本財出荷(除く輸送機械)は、4,5月平均が前期比+5.7にもなる。前期の低下の反動もあるにせよ、十分に高い。6月予測を加えた生産の平均も同様の水準だ。他方、建設財出荷は、前期比-0.1と停滞している。6月予測を含む生産では更に下がる形になる。ただし、今期の住宅着工件数には、持ち直しが見られる。
以上を踏まえれば、4-6月期は、消費を中心とし、これに設備投資が伴うという、在るべき姿での成長となるだろう。加えて、1-3月期には足を引った在庫が、鉱工業在庫の様子からすれば、逆に押し上げることが考えられ、その場合は、意外なほど高めの数字になる可能性もある。ちなみに、外需については、ニッセイ研の斎藤太郎さんによると、4,5月の実績からは、概ね寄与度ゼロのようだ。
景気は、輸出と建設投資の追加的需要から始まり、所得が増して消費につながり、需要の波及によって雇用が拡がった。やがて、賃金と物価が上昇するようになる。収益性ではなく、こうした需要の連鎖がリスクを癒し、人々の行動を合理性のある積極的なものにする。1-3月期は、税収の伸び悩みもあり、政府の財政収支の改善が止まったが、その反面、家計の収支が楽になった。前期からの消費回復には、こうした背景もある。
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蛇足になるが、今回は規制改革に触れておく。例の獣医学部の件である。筆者はオールド・リベラリストであり、50年ぶりに新規参入を認めたことは積極的に評価する。ただし、1校の新規参入を認めるのなら、その枠を巡って、自由な競争を確保すべきであった。複数から寄せられる政策課題の解決に関する提案を比較考量し、公明正大に選定していれば、今のような事態は避けられただろう。
規制改革は、ただ参入させれば良いというのではない。競争によって創意工夫を促して、高質で低廉な供給を実現し、国民生活を向上させるところにある。せっかく、参入の道を開いたのに、自分で地域的な「規制」をかけ、一者入札のような形にしたのでは、本来の目的以外の意図を強く疑われてしまう。早く実績を上げようと、結論は見えているとばかりに、自由な競争のプロセスを省いたことが蹉跌となったのではないか。原点の重要さが思い起こされる一幕であった。
(今日までの日経)
企業の現預金 世界で膨張。物価見通し下方修正へ・日銀。消費回復 腰重く。核燃の費用底なし。正社員の有効求人0.99倍。税収、成長頼みに限界、法人減税で返らず。産業用ロボ・人手不足の中国爆買い。事務職派遣の時給上昇。年金・免除多用で制度空洞化。預金、東京一極集中。
※社会面連載の「危き皇位継承」は、とても良い記事だったね。