挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
ゴブリンサバイバー〜転生したけどゴブリンだったからちゃんと生き直して人間になりたい!〜 作者:坂東太郎

『第四章 港町 デポール』

75/79

第八話 決戦直前! ついに港町からゴブリンとオークの姿が見えたゴブ!

遅くなりました!
主人公ゴブリオ視点ではありません。
ご注意ください。

 暗黒大陸の玄関口、港町・デポール。
 街はいま、静まり返っていた。
 通りに人気(ひとけ)はなく、わずかに自警団らしき集団が歩くのみ。
 いつもなら賑わっているはずの広場も市場も、港さえ閑散としていた。
 港から海を見れば、大小無数の船が浮いている。

 戦えない老人や子供、女性は船に乗って一時退避を。
 戦える者たちは……。

『敵の数は5000! 対して我らは1500である!』

 港町を囲む石壁の上と、門前広場に集まっていた。

『おいおい、正直に言いすぎだろ。大丈夫か領主様』

 兵士も冒険者も、声を張り上げた領主も、ぼそっと呟く漁村の冒険者ギルドのコワモテ職員も。
 それどころか、腕に覚えがある海の男たちや、おっかなびっくり武器を持つ町人、なぜか手慣れた様子で農具を武器にする農民の姿も見える。
 わずかな人数を自警団として街中の見まわりを任せ、港町で暮らすほとんどの男たちは、石壁の上と門前広場に並んでいた。
 港町に避難してきた、周辺の住人たちも。

『だが恐れるな、我が民よ! 港町は石壁で守られておる! この石壁は、ゴブリンとオーク程度には破れぬ!』

 領主は石壁の上の踏み台に立って、声を張り上げている。
 華美な装飾が施された鎧はともかくとして、この場に立って鼓舞しているだけでも上出来なのかもしれない。
 なにしろ見た目からしてでっぷりと太り、明らかに戦えなそうなので。

『ゴブリンを倒した農民もいるだろう! オークを殺した冒険者もいるだろう! なに、一人三匹か四匹も倒せば我らの勝利だ!』

『オーガを殺した英雄はいねえがな。領主様は言わねえつもりか』

 演説をぶつ領主にも聴衆にも、コワモテのギルド職員の独り言は聞こえない。

『臆するな、我が民よ! 5000の数がどうした! しょせん雑魚の集まりよ! この我でさえ、石壁の上から矢を放てば殺せるわ!』

 ぜい肉だらけの体を収めて樽のようなシルエットの鎧を、べちんと叩く領主。
 兵士以外の面々から笑いがおきる。
 緊張と恐怖を解きほぐす領主の狙いはうまくいったようだ。

『横を見よ! この港町では、多くの種族が隣人である!』

 人族語を理解して、害をなさないようならば港町・デポールに入れる。基本的には、だが。

『後ろを見よ! 海上に避難した主らの妻や子や親は、水棲種族が守っておる!』

 海上の船を守り、生活を手助けしているのは水棲種族だ。
 港町の住人であるリザードマン、漁村からついてきた人魚やサハギン。
 もし水棲種族の協力がなければ、海上への避難策も取れなかっただろう。

『多種族が暮らすこの港町を! 主らの家族が、友人が、仲間が暮らすこの港町を! 野蛮なゴブリンとオークに荒らさせるものか!』

 拳を振り上げた領主に、おう!と声をあげて住人たちが続く。
 冒険者は不敵に笑い、兵士たちは盾を打ち鳴らした。

『戦え、我が民よ! 家族のために! 友のために! 仲間のために!』

 踏み台の上で領主が両手を掲げると、割れんばかりの雄叫びがあがった。

 成金趣味っぽいでっぷり領主、少なくともアジテーションはできるらしい。
 かつて冒険者として数多の修羅場をくぐり抜けたコワモテギルド職員は、形だけあわせて冷静な目で職業兵士とにわか兵士たちを見まわす。
 本来は2000に届くはずだった戦力は、逃げ出した商会の護衛として一緒に、あるいは個別に逃走して1500ほどになっている。
 士気こそ高いが、敵の姿はまだ見えていない。

『雑魚は問題ねえんだ。ただのゴブリンとオークならな。問題は上位種とオーガなんだが……』

 コワモテのおっさんは、危ういものを感じていたようだ。
 だが、いまから打てる手はない。
 ボスオーガ率いるゴブリンとオークの大群は、港町からいつ見えてもおかしくないところまで接近していた。



 石壁の上に設けられた通路に兵士が並んでいる。
 集まった兵たちは、港町の外を注視していた。

 港町の外に広がる農地、その先には丈の短い草におおわれた草原。
 草原の奥にはまばらに木が生えて、そのまま森へと続く。
 〈果ての森〉から流れてくる川は草原を抜け、街のすぐ横を通って海に繋がっている。

 牧歌的な景色。
 だが兵士たちの表情は硬く、目つきは鋭い。
 すでにその耳には、ドンドンと太鼓らしき音が聞こえていた。
 石壁の上に作られた物見台から、兵士が叫ぶ。

『敵第一陣、見えました! 森から出てきます!』

 物見を担当する兵士は【覗き見】スキルを持っているのだろう。
 報告は続く。

『敵はゴブリンとオーク! ……整列して森から出てきます!』

 物見の報告に兵士たちがどよめく。
 ゴブリンもオークも、頭が悪いことで有名なモンスターだ。
 統率された行動を取ることはまずない。

『リーダー、それにボスがいるのは間違いないか』

 報告を聞いていた領主が呟く。
 演説では黙っていたようだが、旧知のおっさんギルド職員から届けられた情報は、領主の耳に入っていた。

『見えたっ!』
『ゴブリンとオークが、並んで?』

 森から出てきたモンスターたちの姿が、【覗き見】スキルを持たない者の目にもとらえられた。
 整列して進むゴブリンとオークの群れという異様な光景に、兵士たちは動揺を隠せない。
 それでも、訓練された兵士はまだ表に出さなかった方だろう。不敵に笑う冒険者も。

『な、なんだあの数……』
『ひ、ひいっ!』

 石壁の上には、矢の補充などの補助役として一部の住人もいた。
 戦いに慣れていない一般人は、モンスターの大群を見て怯えてしまったようだ。
 モンスターたちは、そんな人間を気にすることなく行軍する。
 どこぞの村から奪った太鼓を鳴らして。

『チッ、演説はいま行うべきであったか。……ん?』

『で、伝令、伝令!』

 怯える住人を見て、士気を鼓舞するのは直前にするべきだったと後悔する領主。
 その領主の元に、ひとりの兵が走ってくる。
 なにやら騒がしくなった物見台から。

『何があった?』

『申し上げます! 川に小舟が!』

『逃げ後れた者か? まあ海に出ればリザードマンあたりに保護されるだろう。問題あるまい』

『いえ! その、小舟は川をさかのぼっております! モンスターの群れに向かって!』

『……は?』

 ゴブリンとオーク、5000の大群に近づいていく者がいる。
 ポカンと口を開けて川を見やる領主。

 そこにはたしかに、一艘の小舟があった。
 帆も張らず、オールも漕いでいないのに、ゆっくりと川をさかのぼって。

 人影が見える。

『……あれは?』

 戸惑う領主や兵士をよそに、おっさんギルド職員は驚きの声をあげる。

『マジか! アイツらマジかよ!』

 おっさんだけではない。
 まわりにいる漁村の冒険者たちも。

『おいおいおい、アイツらバカだろ!』

 小舟の上には三つの人影。

 小舟の後部では、ローブ姿の人物がひざまづいている。
 身にまとう巡礼者のローブにふさわしく、神に祈っているのだろう。

 小舟の中央には大きな体の偉丈夫。
 鎧姿の人物は、手にタワーシールドと斧槍を持っていた。

 小舟の舳先(へさき)にいるのは、ひときわ小さな男だ。
 ばさばさとローブをはためかせ、腕を組んで前方を睨みつけている。

 5000ものゴブリンとオークがいる、前方を。

『おっさん、アレもしかして……』

『俺に【覗き見】スキルはねえが、間違いないだろ。あと一人が水中で舟を引いてるんだろうよ』

『伝令! 舟に乗っているのは、ゴブリンとオークです! 別働隊がいた模様!』

 話し合う漁村のギルド職員の耳にも、領主に報告する伝令の声が届いた。
 漁村の冒険者たちは半笑いだ。
 まあそりゃそう思われるよな、とばかりに。

『あー、領主様とは知己だからな、俺が説明してくるわ』

 わかってもらえるかね?という冒険者の言葉に肩をすくめて、コワモテのおっさんは歩き出す。

『まったく、アイツらは』

 困ったもんだ、とばかりに小さく首を振って、コワモテのおっさんは領主の元へ向かう。
 あれは別働隊ではないと知らせるために。
 小舟の上にいるゴブリンとオークは、敵ではないと知らせるために。

『死ぬなよ、〈ストレンジャーズ〉』

 小舟に目を向けたおっさんが、ポツリと呟いた。
 少なくとも一人、いや一ゴブは確実に死ぬ。たぶん何回も。

 ともあれ。
 港町・デポールの存続をかけた戦いがはじまる。

次話、6/23(土)18時更新予定です!

6/25(日)が『ゴブリンサバイバー 2』の発売日ですし、
しばらく連続更新するかも?
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ