近代の科学を打ち破るカギは「モノと心」の一体化
もちろん今日の経済もソニーの繁栄もその騙されたパラダイムの上に立ってできあがったものだと思う。我々は現代の科学とういうもののパラダイムをぶち壊さなきゃほんとじゃない。物質だけというものの科学というものでは、もう次の世界では成り立たない、というところまで今きている。
それはどういうことかと言いますと、「デカルトがモノと心というのは二元的で両方独立するんだ」という表現をしている。これを話していたら1時間くらいかかるから、このぐらいにしておきますけど、モノと心と、あるいは人間と心というのは表裏一体である、というのが自然の姿だと思うんですよね。
それを考慮に入れることが、近代の科学のパラダイムを打ち破る、一番大きなキーだと思う。それが割に近いところで、我々がどういう商品を作ろうか、さっき話のあったカスタマーを満足させるためのモノをこしらえようか、というのは人間の心の問題だと思う。ハードウエアからだんだんソフトウエアーズが入ってきて、だいぶ人間の「心的」なものが出てきたんですけども、まだソフトウエアーズというと、なんだか分かんないんですよね。
ソフトウエアーズの意味もいろいろありますけど。もっと単刀直入に人間の心を満足させる、そういうことではじめて科学の科学たる所以があるので、そういうことを考えていかないと21世紀には通用しなくなる、ということをひとつ覚えて頂きたいと思います。
(司会)
ありがとうございます。今の井深名誉会長のお言葉、21世紀に向けての真のパラダイムシフト、今日お集まりの2400人全員、あるいは部下の方全員の宿題とさせて頂きます。宿題のできた方はR&D戦略までぜひ届けて頂きたいと思います。
20年の時を経て1本につながった映像
映像は約9分。実は長い間、その後半部分だけ存在していた。でも前半部分もどこかにあるはずだ、ということになり昨年大捜索を行った結果、広報部の棚の奥から見つかったという。
当時のマネジメント会同は2400人と大規模だったが、最近は600ー700人に絞られて開催されている。広報部によると、92年1月24日の会場にいた人物はもう今のソニー社員にはいないだろう、と。
それでも井深さんや、同じファウンダーである盛田昭夫氏の語録や映像は膨大なアーカイブとして残っており、ソニー社員であればいつでも見ることができる。
明 豊
10月27日
幸いにも映像を見る機会を得た。井深さんは病気がちだったと聞かされていたが、声の張りや顔つやはまったくそんな事を感じさせない。一度もお会いしたことはないが、この一つ一つの言葉と肉声を聞くだけで、心が震えた。
井深さんはこの年、文化勲章を受章する。その時のコメント。
「私は、もはやソニーの経営には直接関与していませんが、ソニーとエレクトロニクスに対する情熱は少しも衰えておりません。新しい技術や魅力ある商品に出会うと、今も私の技術者としての好奇心が騒ぎます」
このようなファウンダーを持つソニーは幸せである。
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