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「日本が滅びても残る芸術を作りたい」平田オリザ×金森穣対談

「日本が滅びても残る芸術を作りたい」平田オリザ×金森穣対談

Noism劇的舞踊 vol.3『ラ・バヤデール―幻の国』
インタビュー・テキスト
徳永京子
撮影:岡村大輔 編集:佐々木鋼平

『東京オリンピック』の開催を控え、膨大な文化予算が投入されはじめた昨今。しかし一方で、日本の文化政策はいびつだと言われ続けている。先進国のなかでは極端に少ない文化予算(2015年でフランスの約10分の1、韓国の約8分の1、中国の約半分)、長期的なビジョンの欠落、早急に結果が求められる成果主義など、並立するはずのない条件が無理やり混在し、そのしわ寄せは現場にかかっている。

民間の小劇場・こまばアゴラ劇場のオーナーであり、城崎国際アートセンターの芸術監督を務める平田オリザ。日本初のレジデンシャルダンスカンパニー(公共劇場専属の舞踊団)Noismの芸術監督であり、りゅーとぴあ 新潟市民芸術劇場・舞踊部門の芸術監督でもある金森穣。公共劇場の最前線を渡り合う芸術家である彼らが、Noismの新作『ラ・バヤデール』で共作することになった。ともに国際的に活躍し、幅広い知見を持つ二人が、芸術と公共と自由について、『東京オリンピック』後を見据えて語り合った。

日本はしっかりしている国じゃないと、ハッキリしてしまった。最後の望みが決壊した落胆感が、若い人からすごく感じられるんですよ。(平田)

―いま、日本で「芸術」の話をすると、どうしても『東京オリンピック』が関わってきます。スポーツと同様に文化も重要であることが強く打ち出され、さまざまな文化プログラムが動きはじめているからです。

金森:私も文化庁の検討会に委員として関わっていましたが、結局どのようにオリンピックを盛り上げるかで議論が止まっていました。重要なのは『東京オリンピック』の後に何を残せるか? ということ。私が舞踊部門の芸術監督を務める「りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館」も、2020年以降に新潟がどういう都市でありたいかを考えなければいけません。しかし残念ながら現場は目先のことで精一杯だし、要職についている人たちは自分の任期中のことしか考えていないんです。

金森穣
金森穣

―平田さんは、近著『下り坂をそろそろと下る』(2016年)で、経済的なピークを超えた日本がこれからをどうやって過ごすべきかを書かれていますが、当然『東京オリンピック』後については……。

平田:はい、もうダメだと思っています(笑)。

―具体的には何がダメなんでしょうか?

平田:大学や劇団で若い人たちと触れ合うことが多いんですけど、「五輪エンブレム問題」「新国立競技場問題」は、想像以上にショックを受けている人が多いみたいなんです。地震も大変だし、借金も多いし、経済も停滞している日本だけど、もうちょっとしっかりしていると思っていたのが、そうじゃないとハッキリしてしまった。最後の望みが決壊した落胆感が、若い人からすごく感じられるんですよ。

平田オリザ
平田オリザ

金森:私と近い世代もみんな諦めています。ただ、自分はどうしても抗ってしまうんです。なぜなら、みんなそこまで本気で向き合ってないじゃないかという思いがあるから。すべてが瓦解するときこそ、そのなかに屹立するような強い意志と信念を持つべきなんです。もし自分たちの世代では無理でも、志のある未来の世代のために、せめて避難場所を作っておきたい。何かを残すことに対する執着があるんでしょうね。

―遠い未来には希望を感じている?

金森:平田さんは、もはやシニカルというか達観しているゾーンにいる気がするんです(笑)。私も、もう日本は限界だとわかっているんですけど、それでも諦めきれなくて「悪あがき」をしている。そもそも舞踊に携わっている時点で、生老病死に対する悪あがきですからね。ここに一つギャップがあるんですよ……。

平田:達観というか、できるだけ今後の傷を少なくしたほうがいいと思っているので。

―平田さんが成立に尽力された「劇場法(劇場・音楽堂・文化ホールなどの機能を活性化し、音楽・舞踊・演劇・伝統芸能・演芸の水準の向上と振興を図るために制定された法律)」は、その避難場所の一つと言えますが、成立 から約5年が過ぎました。

平田:作るときに、「20年ぐらいが目処」と言っていたんです。劇場文化が日本に根付くのに、それぐらいかかるかなと。

左から:金森穣、平田オリザ

―劇場文化が根付くというのは、どんな状態ですか?

平田:ヨーロッパでは当たり前なのですが、お芝居やダンスを観たり、音楽を聴きに行くことが、ある種の嗜みとして習慣化されている状態です。たとえば、フランスは月曜日に職場に行ったとき、週末に何をしていたかが問われる社会なんですよ。それを語れないと出世できないくらい、劇場文化が社会に密接に結び付いているわけです。

金森:理想的ですよね。日本では、それを誰が政策として発案し、実現できるのかが課題なんです。特に実現に関しては、批判や孤立を恐れない覚悟と、行政的言語化と、芸術的創造力のすべてが必要になる。

平田:劇場のプログラムを考える芸術監督とプロデューサーも重要です。それに伴って劇場で働く人も増える。本当はそこまで含めて「劇場文化」なんですが、それが日本に根付くのに20年はかかる。ただ「芸術監督」の部分は思いのほか進行が遅いです。やっぱり日本は一人に権限を集中させることを嫌う文化なんだと思う。なんでも会議で決めたがるんですよね。

―逆に早かった部分は?

平田:『フェスティバル / トーキョー』や『TPAM』のように、国際的なパフォーミングアーツフェスティバルの存在が非常に大きくて、日本人アーティストが海外で活躍するようになりましたよね。岡田(利規 / チェルフィッチュ主宰)さんや、タニノ(クロウ / 庭劇団ペニノ主宰)さんらが、海外で公演するまでの流れは格段に早くなっていて、良かったと思います。

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イベント情報

Noism 劇的舞踊 vol.3
『ラ・バヤデール―幻の国』

演出:金森穣
脚本:平田オリザ
音楽:L.ミンクス、笠松泰洋
空間:田根剛(DORELL.GHOTMEH.TANE / ARCHITECTS)
衣裳:宮前義之(ISSEY MIYAKE)
木工美術:近藤正樹
出演:
Noism1&Noism2
奥野晃士(SPAC - 静岡県舞台芸術センター)
貴島豪(SPAC - 静岡県舞台芸術センター)
たきいみき(SPAC - 静岡県舞台芸術センター)

新潟公演
2016年6月17日(金)~6月19日(日)全3公演
会場:新潟県 りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館 劇場
料金:
一般 S席4,000円 A席3,000円
U25 S席3,200円 A席2,400円

神奈川公演
2016年7月1日(金)~7月3日(日)全3公演
会場:神奈川県 横浜 KAAT神奈川芸術劇場
料金:5,500円

兵庫公演
2016年7月8日(金)、7月9日(土)全2公演
会場:兵庫県 西宮 兵庫県立芸術文化センター 阪急中ホール
料金:A席4,000円 B席2,500円

愛知公演
2016年7月16日(土)全1公演
会場:愛知県 名古屋 愛知県芸術劇場 大ホール
料金:SS席5,500円 S席4,000円 A席3,000円 学生2,000円
※車いす席、チャレンジシートあり

静岡公演
2016年7月23日(土)、7月24日(日)全2公演
会場:静岡県 静岡芸術劇場
料金:一般4,100円

鳥取公演
2016年9月24日(土)全1公演
会場:鳥取県 米子市文化ホール

プロフィール

平田オリザ(ひらた おりざ)

1962年東京生まれ。劇作家、演出家、劇団「青年団」主宰。こまばアゴラ劇場芸術総監督・城崎国際アートセンター芸術監督。1995年『東京ノート』で第39回『岸田國士戯曲賞』受賞。1998年『月の岬』で第5回『読売演劇大賞優秀演出家賞 / 最優秀作品賞受賞』。2002年『上野動物園再々々襲撃』(脚本・構成・演出)で第9回『読売演劇大賞優秀作品賞』受賞。2002年『芸術立国論』で『AICT評論家賞』受賞。2003年『その河をこえて、五月』(2002年日韓国民交流記念事業)で、第2回『朝日舞台芸術賞グランプリ』受賞。2006年『モンブラン国際文化賞』受賞。

金森穣(かなもり じょう)

演出振付家、舞踊家。りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館舞踊部門芸術監督、Noism芸術監督。17歳で単身渡欧、モーリス・ベジャール等に師事。NDT2在籍中に20歳で演出振付家デビュー。10年間欧州の舞踊団で舞踊家・演出振付家として活躍後帰国。2004年4月、日本初の劇場専属舞踊団Noismを立ち上げる。2014年より新潟市文化創造アドバイザーに就任。平成19年度芸術選奨文部科学大臣賞、平成20年度新潟日報文化賞ほか受賞歴多数。

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