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ゴブリンサバイバー〜転生したけどゴブリンだったからちゃんと生き直して人間になりたい!〜 作者:坂東太郎

『第四章 港町 デポール』

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第七話 アニキの武器と俺の武器をゲットしてテンション上がるゴブ!

遅れました

『いたいた! おーい、ゴブリンさーん!』

 小さな丘にある一本の木の根元に座っていた俺とオクデラ、アニキ、シニョンちゃん。
 何事か叫びながら、遠くから近づいてくるニンゲンの姿が見える。
 ここで待ち合わせしていたいつもの行商人だ。
 めっちゃ足はやい! え、【逃げ足】スキルって逃げてなくても効果発揮するの? それとも何かから逃げてるゴブか?

 行商人の後ろを【覗き見】してみるけど、追いかけられてる様子はない。
 でも速い。
 ほんとスキルはよくわからないゴブ……とりあえずあとで行商人に聞いてみるか。
 そんなことを考えているうちに、行商人はあっという間に近くまで来ていた。

『お待たせしちゃいましたね! でもいろいろ揃えてきましたから!』

 あいかわらずテンション高いゴブなあ! コイツ状況わかってんの? ポジティブすぎない?

『いま来たところだから、ぜんぜん待ってないゴブ』

 ……デートの待ち合わせかな? ほんとのことを言ったらなんか変な感じになっちゃったゴブ!

『そうですか、ならよかった! では取引をはじめましょうか!』

 行商人は背負子を下ろして、さっそく荷物を広げはじめた。
 あいかわらずマイペースすぎゴブなあ! でもモンスターの大群が近づいてるしここは外だしその方がいいのかな? コイツそんなこと考えてなさそうだけど! 敵が来ても逃げられるって余裕ゴブか? え、【逃げ足】って実は神スキル?

『まずはコレを見てください!』

 そう言って、俺に触らせてくる行商人。

『おお! 黒くて硬くて長いゴブ!』

『でしょう? ここまでのモノはなかなかありませんよ?』

『そうゴブなあ、こんな立派なモノはそうそうないはずゴブ』

 すりすりと棒を触る俺。
 ぐっと握ってみると、確かな硬さが手に返ってくる。

『あの、ゴブリオさん? なにを……?』

 離れた場所に座っていたシニョンちゃんは、気になったのか俺たちに近づいてきた。
 アニキもオクデラも興味があるらしい。

『シニョンも触ってみるといいゴブ!』

 俺は振り返って、シニョンちゃんにそっと差し出した。

『キャッ! ……なんですかコレ?』

 行商人が持って来た黒い棒をおそるおそる触るシニョンちゃん。
 むきだしの黒い棒が何かわかってないらしい。
 俺はニンマリ笑ってシニョンちゃんにささやく。

『立派なモノゴブなあ? ……これ、アニキの武器ゴブ!』

『わかりますよ巡礼者さん。装飾もありませんし持ち手も先端も加工されてませんから、パッと見は武器に見えませんよね!』

 2mぐらいの長さで黒光りする硬い棒。
 丸じゃなくて六角になっているのは滑りにくいようにだろう。
 行商人が言うように、持ち手と先端はそのままだ。
 武器というより何かの部品や建材に見える。

『んんー、中央に縄でも巻いた方がいいかな? どう思うアニキ?』

 俺は金属の棒をアニキに手渡す。
 手に取ったアニキは、ぶんぶんと振りまわして感触を確かめる。
 おお、けっこう鋭い感じになってるゴブな! きっとあのボスオーガにもダメージ与えられるはずゴブ! ……与えられるかな? 与えられるって信じてる!

 そういえば、木製じゃない金属の棒でも〈棍〉なんだろうか。
 でもアニキの素振りを見てる感じ、【棍術】スキルは働いてるっぽい。
 コレほんとどうなってるんですかねえ。スキルが謎すぎるゴブ!

「ゴブリオ、森にいた時のように縄を巻いてほしい。それ以外は問題ない」

「了解ゴブ!」

 OK出たし、オクデラの斧槍に続いてアニキの武器も確定っと。
 うんうん、強化が間に合ったゴブな!

『おお、素晴らしい振りですね! その棍にはアダマンタイトが含まれてるんです。きっといままで以上にダメージを与えることでしょう!』

『アダマンタイト! 夢のファンタジー金属ゴブな! んじゃ俺、俺のは!?』

 ふんすと鼻息も荒い行商人、ついついテンションが上がっちゃう俺。
 行商人に頼んでたのはアニキの武器だけじゃない。
 これ、これはもしかして! 俺の武器もあるゴブな!? ファンタジー金属でできた俺の武器! 聖剣とか魔剣とかエクスカリバーとかゲイボルグとかミョルニルとかカラシニゴブとかそういうヤツ!

『ゴブリオさんには、こちらの短剣を』

 ……短剣かあ。
 地味すぎるゴブなあ……。
 ちょっとガッカリしちゃったのはしょうがないだろう。
 行商人から鞘ごと受け取る。

『どうぞ、中を確かめてください!』

 抜いてみる。
 短剣の刀身は、青白く輝いていた。

『おおっ!? おお、おお!』

『この短剣はミスリルでできています! 魔法の力も込められてるんですよ!』

『おおおおおお! ミスリル! 魔法の力! そ、それでどんな力があるゴブか!? 魔法を使えるようになったり? 単純に斬れ味がよくなったり?』

『ゴブリンやオークが近づくと、青い光を放って警告してくれるんです!』

 はい役立たず!
 それ意味ないから! コレは俺の武器で俺はゴブリンなわけで! 光りっぱなしで意味ないゴブ! 俺の近くにはだいたいいつもオークのオクデラがいるし! ゴブリオとオクデラで光りっぱなしゴブ!

『……魔法の力、それだけ?』

『あっ。……ミ、ミスリルは斬れ味も鋭いですから! きっとオーガ相手でも難なく斬り裂けるはずです! 素晴らしい武器ですよねミスリルの短剣!』

 どうやら行商人は、込められた魔法の力に意味がないことに気付いてなかったらしい。
 …………。
 とりあえずボスオーガに通用しそうなら文句は言えないゴブな! めっちゃ光ってるけど! あれこれ夜の潜入とか向かないんじゃね? ……敵ゴブリンもきっと【夜目】持ちだし問題ないゴブ! 光って目立つ前に見つかるだろうからねきっと!

 行商人のセールストークを聞く俺。
 この短剣は売り物じゃなくて、漁村のおっさんギルド職員が貸してくれたらしい。
 ありがとうコワモテおっさん職員! 俺たち〈ストレンジャーズ〉の担当、娘の美人受付嬢ちゃんにならないかなあって思って申し訳なかったゴブ! おっさんいいヤツゴブな!

 ともあれ、俺とアニキの武器は手に入った。
 俺の短剣はいいとして、アニキの武器やほかに頼んだ物、行商人が持ってきた物の価格交渉はあとにして。
 俺は、行商人から港町の様子を聞くことにした。
 今後の〈ストレンジャーズ〉の動き方を考えるために。



『それで、港町はどんな様子ゴブ? 敵ゴブリンと敵オークの情報も新しいのがあったら教えてほしいゴブ』

 木陰に車座になった俺とオクデラ、アニキ、シニョンちゃん、それに行商人。
 俺が促すと、行商人は最新の情報を話しはじめた。

『街から見える距離になるのは、あと五日後だろうと予想されています。敵はゴブリンとオーク、それにオオカミを使役しているそうです。斥候がボスを目視して、オーガであることも確定しました』

 行商人なのにやけに詳しいなーと思ったら、冒険者ギルドのコワモテおっさん職員が教えてくれたらしい。
 外にいる俺たち〈ストレンジャーズ〉に伝えてくれって。
 アイツらも漁村の冒険者だからなって。
 くっ、おっさんかっこよすぎて濡れちゃ……わないゴブ! 俺は男だしゴブリンだからね! 水棲種族とは違うゴブ!

『領主様は戦えない老人や子供、女性を海上に逃がして、篭城策を選びました。兵士と冒険者あわせて戦力は2000ちょっとでしたから、妥当な策だと思われたのですが……』

『どうしたゴブ?』

『篭城して、本国から援軍と物資が届くのを待つはずが、第一陣は海路でモンスターに襲われて壊滅。第二陣がいつ来るかもわからないと……冒険者を護衛に雇って逃げ出した商会もあります』

『は? んじゃ援軍なしで篭城ゴブか? 戦力も減ったのに?』

『……ええ。隠せないと判断されたようで、すでにこの情報は知れ渡っています。港町の住人はずいぶん不安なようですね。まあ楽観的な者もいますが』

『この状況で? バカゴブか?』

『しょせんゴブリンとオーク、突撃してくるだけだろ! 石壁があるし突っ込むバカを殺せばいいんだから余裕だ! ですって』

 んんー、否めないゴブ! バカはゴブリンの方だったゴブなあ!
 でも。

『ボスオーガのほかにも、ゴブリンとオーク、それぞれに統率してるヤツがいるゴブ。斥候だか先遣隊だか、俺たちいくつも潰したゴブよ』

 薄汚れた布の袋を行商人に渡す俺。
 中にはゴブリンとオークの討伐証明部位が入っている。
 三日前に行商人と別れてから、潰したグループは大小あわせて八つ。
 俺のライフポイントは初めて100を超えて108まで伸びてる。
 108ってライフポイントの話ゴブよ? 煩悩は関係ないゴブ! 俺の煩悩が108なわけないからね! ほら俺、鬼畜生だし! って多い方かよ! ゲギャギャッ!

『その情報はギルド職員さんに伝えます。もし本当にそこまで賢いのであれば……最悪ですね』

『最悪?』

『たとえば取り囲まれてそのままの場合、餓死者が出るでしょう』

『でも相手の主力はオークとゴブゴブ。打って出れば雑魚を蹴散らして包囲を破れるゴブな?』

『問題は、オーガです』

『ゴブリオさん、オーガは(うた)に謳われる英雄が相手にするようなモンスターなんですよ』

『シニョン? 行商人、どういうことゴブ?』

『強靭な腕力、ケガと疲れを癒す【体力回復】スキル。強者が相手をしてオーガを抑え込むか勝利しない限り、打って出ればオーガに蹂躙されるでしょう』

 この世界にはスキルがある。
 だから雑魚ゴブの俺だって、同じ雑魚ゴブ相手に無双できる。
 どうやら強者や強モンスターは、単体で軍を蹂躙できるらしい。
 俺たちよくボスオーガと戦ったゴブな! 生き延びただけでおっさん職員に驚かれたのも納得ゴブ! 生き延びたっていうか完敗で俺は死んだけど! 復活できなければ殺されてたけど!

『援軍が本当に望めず餓死者が増えるとなれば、一か八か打って出る可能性はあります。結果次第で、非戦闘員を乗せた船は奇跡に賭けて出港するでしょうね』

 初めて、行商人が暗い顔を見せる。
 ずっとポジティブで、同業の軽いイジメにも鋼のハートを見せて、ゴブリンの俺とも取引する頭がイッちゃってる行商人が。いい意味で、いい意味でね?

『状況は、思った以上に悪いゴブなあ』

『ええ。ああそうだゴブリオさん、ギルド職員さんが小舟を取りに来るように言ってましたよ。包囲される前に運び出しとけって』

『はは、あのおっさん気を遣いすぎゴブ』

 ゴブリンとオークは泳げない。
 だから小舟を確保しておけば、港町が包囲されても海路で逃げ込める。
 モンスターが襲来した港町で、ゴブリンの俺とオークのオクデラがどうなるかわからないけど。
 でもおっさんは、俺たちを守ろうとしてくれてるんだろう。
 漁村の冒険者だからって。
 ほんと、いいヤツすぎゴブ。

『んじゃアニキを取りにやるゴブ。アニキは港町に入れるし、【水中行動】があるから海も川もお手のものだし』

 口は挟んでこなかったけど、アニキはちゃんと聞いてたんだろう。
 アニキは新しい武器を持って立ち上がる。
 川ぞいの待ち合わせ場所を決めて、俺は行商人とアニキを送り出した。


『ゴブリオさん……どうするつもりですか?』

『シニョン、まだ時間はあるゴブ。アニキが帰ってくるまで、移動しながら考えるゴブよ』

『オデ、オーク殺ス! デモ、ミンナ守ル!』

 港町の状況は思った以上に悪かった。
 商会が護衛を連れて逃げたせいで2000ちょっとの戦力からさらに減ったから、5000のモンスターの大群は、数だけでも三倍に届いちゃうだろう。三倍の法則的な?
 そのうえモンスターを率いるのはあのボスオーガ。
 篭城しても援軍と物資は届かないかもしれない。
 下手したら全滅か、絶望的な賭けをする必要が出てくるかもしれない。

『状況は最悪ゴブなあ……』

 俺たちだけだったら逃げられるだろう。
 小舟一艘あれば、川をさかのぼって〈果ての森〉に帰ればいい。
 ほとぼりが冷めるまでどこかの森で暮らしてもいい。

 俺ひとりなら逃げても挑んでもよかった。
 ライフポイントがあれば俺は復活できるから。

 でも。
 港町には、若女将やプティちゃん、コワモテのおっさんに美人受付嬢、漁村の村人たちが避難してる。

『状況は最悪ゴブ……』

 俺は、ブツブツと考えながら、川に向かって歩いていった。

 アニキが小舟をまわしてくるはずの待ち合わせ場所に。
次話、6/16(金)18時投稿予定です!
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