都議選の定番ネタで、自民党本部や官邸が足を引っ張っているので自民党候補者への逆風が吹いているという話があります。ただ、今回都民ファーストの会などが対自民党争点として設定しようとした「受動喫煙」問題がまったく都民の間に定着せず、かえって2020年東京オリンピックパラリンピックの開催問題や豊洲新市場への移転問題は「都民へのイシューでもなければ関心事項でもなかった」ということが浮き彫りになったわけです。
 
 小池百合子都知事への支持率は50台後半から60台と概ね高いとみられる一方、日本の地方政治においては任期を重ねているかどうかにかかわらず現職の支持率は高い傾向にあるので、ある意味で「都政の国政一体化現象」とか「国政の状況に影響されやすい都政」などという側面はあるんじゃないかと思います。

 そこへ、こんな話題が出てきました。記事の中身はとてもまっとうですし、関心のある人は是非読んでほしい内容ではあります。私も受動喫煙が健康を害することがはっきりしている以上、施設や路上では例外なく禁煙であったほうが望ましいと思います。

「都議選の結果は、長期的に国民の健康を左右することになる」 受動喫煙とどう向き合うべきか?
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 ただし、ここに「国政における政争」がハマり込むと途端に議論がむつかしくなっていきます。というのも、塩崎恭久大臣の失脚、罷免が受動喫煙対策の後退を惹起するという懸念はあるにせよ、単純な話、塩崎大臣が人望なさ過ぎて厚生労働省内にも自由民主党内にも影響力を行使できず政策の説得に失敗しているという事情があるように見えるためです。

 明らかに塩崎大臣のやろうとしていることは正しく、理知的であるのに、その関係者や党人派を説得できず大臣としての仕事が前に進まないというのは残念なことですし、塩崎大臣への評価としても「考えていることや仕様としていることは正しいけど、政治家としては仕事ができていない」という話になり、そういう人物をこれからの社会保障費の削減やブラック対策が求められる労働行政、少子化対策や幼少期育児の問題、年金運用の在り方といった未来の日本に関わる重大な問題が目白押しの重要閣僚に据えたままでいいのか、みたいな話はどうせ出てきます。

 この記事も、8月に大幅な内閣改造が噂されている安倍政権(あるいは安倍晋三総理が誰かに首相を禅譲する決断をすること)で文字通り塩崎恭久さんを更迭する可能性が高いという観測があることを意味してます。まあ、頭はとても良いのは間違いないのでしょうが、必ずしも頭の良い人ばかりが相手ではない政治の世界で人望を失うことは政治家として大丈夫なのかと言われてもしょうがないだろうという気持ちもないではないのです。

 返す返す、黒川清さんと津川友介さんの議論が高品質で重要な問題を提起しているにもかかわらず、当事者である大臣の資質のお陰で仕事が進まないというのは残念でならないし、関係者がいくらきちんとした議論をしても世の中が変わらない理由を見せつけてるようにすら感じます。

 各論ですが、塩崎大臣がアチャーと思われている理由こそ、医師需給分科会という本丸・本筋の議論に二階屋重ねるようにして働き方ビジョン検討会を立ち上げ、反対派を中央突破しようと画策して挫折したことにあります。これで半年以上の医療従事者改革の時間が失われたと批判されても仕方がありません。

 塩崎大臣は側近の学者などから医師を年間1万人以上作ることでこれから増える医療ニーズに対応しようという方針を打ち立てるわけですけど、そもそも日本の新生児は年間当たり100万人を切った状態です。育成も運用も高コストの医師を国民の100人に1人作ることが、2040年には人口減少となり医療ニーズも減少に転じる日本の将来に意味があるとも思えません。確かに団塊の世代が後期高齢者に入ることを考えると当面の病床数や医療ニーズは上がるでしょうし、いまの医療業界はブラック体質が蔓延っていますからこれへの改善は急務であるとするならば、それこそ上級の看護師資格を用意するか、中二階となっている歯科医師の携われる範囲を広げて医歯併合ぐらいの議論はして然るべきです。

 確かに塩崎大臣が指し示す政策は正しく、やっぱりこの人凄いんだなあと思う一方、政策面では失敗続きであり大臣としては荷が勝ち過ぎたことを考えると、都議会選の結果云々関係なく塩崎大臣のクビが内閣改造で涼しくなるのは仕方のないことです。というか、自民党からすれば負け前提のいまの都議会選を塩崎大臣の人事に絡めること自体が私はナンセンスだと思います。さっさと辞めてもらって、受動喫煙対策だけでなく社会保障関連、少子化対策にきちんとコミットできるバランスの取れた党人派を用意してほしいという話をするべきだと思います。

 蛇足ですが、私は今回の一連の自民党への逆風は、本来いまの自民党が取り組むべき課題を正面から見据え直すための大変良い機会になったんじゃないかとさえ思います。いまの政権に求められていることは憲法改正などなど「特定の政治家が歴史に名前を遺すための政策」ではなく、「右肩下がりで国威・国力が低下していく日本が、活力を失わずに百年反映していくために必要な政策」であろうと考えるからです。安保法制や共謀罪がどうでもいいとは申しませんが、アベノミクスがすでにひとつのストーリーを終え、前回の選挙では一億総活躍社会と銘打ち、今回の都議選でも大きな敗戦が見える以上、大きな国策(National Idea)として何を据えるのかもう一度考え直してほしいと願うところです。


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