中島敦の作品は、とにかく「山月記」が非常に有名だけれども、その他の作品を読んだことがある人はそれほどいないと思う。
ネットでも、「山月記」の話題はたまに読むけれども、中島敦の他の作品についての議論はぜんぜん見かけない。
これは非常にもったいないことだと思う。
というのは、中島敦の他の作品は「山月記」と同じくらいか、それ以上に面白いからである。
その面白さというのは、ある種の文豪の作品のように、苦労して辛抱強く読み続けて初めて理解できる、というものではない。
谷崎潤一郎の作品のように、読み始めれば最後、話の中に引き込まれるようなおもしろさである。
まず、話そのものが面白いのだ。
そして、とにかく文章が美しい。
いわゆる文豪の中でも、ここまで美しい文章を書ける人はほとんどいないと思う。
驚異的な文章のうまさである。
だから、話が面白くて文章が美しい小説を読みたいなら、中島敦の小説を読んでみてほしい。
本当に、他の作品も「山月記」みたいに文章が美しく、話として面白いのである。
とはいうものの、中島敦の作品はある程度読者を選ぶ。
「山月記」とは違い、多くの作品は内容が過激であり、差別的な表現もバンバン出てくる。
ポリコレが嫌いな人(もっと言うと、ポリコレ的なものを拒絶するような知性をもつ人)にはものすごい受けるだろうが、そうでない人には何が面白いかわからないかもしれない。
基本的には読書人のインテリが面白く読めるように書いてあるため、万人に向けて薦められるか、というと、よくわからない。
しかし、ありがたい事に、中島敦の作品で代表的なものは青空文庫で読むことができる。
作品が無料で読めるならば、万人向けとはとても思えない中島敦の作品も、万人に向かって、「とりあえず読んでみれば?」と薦めることができる。
そこで、ここでは青空文庫で読める中島敦の作品にどのようなものがあるのかを紹介しようと思う。
盈虚
中国の暴君の話。
親も子もない裏切りが繰り返され、暴君の子が暴君になる、というパターンが終わらない。
環境があまりに過酷で、皇帝になったらそれまでの埋め合わせをするかのように暴虐の限りを尽くす。
最後は気が抜けた終わり方をするが、中島敦は暴君の権力の虚しさを表現しようとしたのかもしれない。
http://www.aozora.gr.jp/cards/000119/files/24438_11322.html
かめれおん日記
喘息を患う女子高の教師の日常の出来事や、考えたことが淡々と記される。
ひどい喘息を患うとどのような目に会うかが、かなり具体的に書かれている。
アドレナリンや塩酸コカインなど、過激な薬剤が当たり前のように使われており、医学史的にも興味深い。
http://www.aozora.gr.jp/cards/000119/files/24443_15509.html
環礁 ――ミクロネシヤ巡島記抄――
日本統治下のミクロネシアの様子が書かれている。
記述が非常に具体的で、ポリネシアの文化や歴史を理解する上で強力な足がかりを得ることができる。
非常に本質的な文明論が展開される。
とにかく文章が美しい。
個人的には、これが中島敦の最高傑作なのではないかと思った。
http://www.aozora.gr.jp/cards/000119/files/46429_26617.html
牛人
魯の宰相が、数十年前にワンナイトラブで作った子供に自分の子供を殺され、続いて自分も殺される話。
陰惨なだけの話だが、救いは二人の子のうちの一人は助かった(少なくとも作中の限りでは)という事だろうか。
http://www.aozora.gr.jp/cards/000119/files/1742_14529.html
鏡花氏の文章
泉鏡花の文学を称賛したもの。
中島敦の文学に関する考え方の一端がうかがえる。
http://www.aozora.gr.jp/cards/000119/files/24441_11320.html
悟浄出世
西遊記を現代風に完全に書き直したもの。
ほとんどギャグ小説である。
化け物だった悟浄が、哲学的な苦しみを克服するために妖怪の世界を旅した結果、三蔵法師の一行に加わる話。
http://www.aozora.gr.jp/cards/000119/files/2521_14527.html
悟浄歎異
悟浄が三蔵法師の一行に加わった後の話。
悟空の知性と三蔵法師の知性という、二つの全く異なった知性が比較される。
http://www.aozora.gr.jp/cards/000119/card617.html
山月記
改めて読むと、やはり古文漢文はもちろん、英語・ドイツ語・フランス語の本を膨大に読みこんでいる人しか書けない作品だなあ、と思う。
それから、中島敦の他の作品には多かれ少なかれ、権力(皇帝から学校教師まで)に対する批判があるが、これは珍しくポリコレ的に問題がない。
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十年
1,000文字程度の掌編。
フランス文化に対する憧憬を書いているが、これが、いかにも仏文コミュニティーの周辺にいる人が書きそうな感じの文章なのである。
中島敦の文学はフランス文学の影響が非常に強いと思う(その文学の方向性は、澁澤龍彦の文学に似ている所がある)。
http://www.aozora.gr.jp/cards/000119/files/58014_61337.html
章魚木の下で
戦時下における文壇の風潮を批判したもの。
1943年の新年に発表されたものだが、思ったよりものんびりしている。
まだ国民生活に余裕があったのかもしれない。
http://www.aozora.gr.jp/cards/000119/files/56242_53066.html
罪・苦痛・希望・及び眞實の道についての考察
http://www.aozora.gr.jp/cards/001235/files/53047_42901.html
凡ての他の罪惡がそこから生ずる根元的な罪惡が二つある。性急と怠惰。性急の故に我々は樂園から追出され、怠惰の故に我々はそこへ歸ることができぬ。併しながら、恐らくはたゞ一つの根元的な罪惡があるのみであらう。性急。性急の故に我々は追放され、又、性急の故に我々は歸ることができない。
以前、少し似たようなことを書いた事があったのを思い出した。
急いでやってもゆっくりやっても、結果は変わらないような気がしてきた - グローバル引きこもりブログ
弟子
孔子らの政治活動を40年にわたって書く。
国語の教科書向け。
http://www.aozora.gr.jp/cards/000119/files/1738_16623.html
斗南先生
50才離れた「叔父」と、大学生の「三造」の交流を描く。
この叔父は、漢学者とも漢文教師とも文筆家とも分類できない、漢文関係者としか言いようがないような人物で、かつての弟子や親族から支援を受けて暮らしている(しかも、当然の権利としてこれを受け取っている)。
それで、他人に支援を受けて何をするかというと、漂泊の生活を送るばかりで何もしない。
そういう叔父の最晩年の様子が描かれる。
終わり方がすがすがしいのは、一つの偉大な(あるいは、少なくともユニークな)精神の大往生を、将来ある若者の視点から描いたものであるからだろう。
「こういうような事でも、やはり支那人は徹底的に懲して置く必要がある」という発言があるなど、当時の漢文コミュニティーの右翼思想がうかがわれる所が興味深い。
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虎狩
日本統治下の朝鮮の旧制中学を舞台に、朝鮮人の親友「趙大煥」との友情を描いた作品。
趙は両班(朝鮮の貴族)の息子で、母親が日本人という噂がある。
プライドは非常に高いのに実力が伴わず、他の日本人に馬鹿にされながらどうする事もできない、という生徒である。
日本統治下における両班出身の朝鮮人の惨めさが冷静に描写される。
結構ひどい事を書いているのに、その筆致がどこか同情的なのは興味深い。
http://www.aozora.gr.jp/cards/000119/files/24439_11321.html
南島譚
これも日本統治下のミクロネシアをテーマにした作品である。
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光と風と夢
「ジキル博士とハイド氏」や「宝島」などの作品で知られるロバート・ルイス・スティーブンソンのサモアでの生活をテーマにした作品である。
白人による腐敗した植民地政策に対抗して、スティーブンソンは(弁護士の資格があった)原住民の側に立って奮闘する。
興味深いのは、たしかに白人は残忍だけれども、その残忍さには限度があることで、戦争状態になっても負傷した敵(原住民)は看護されるし、スティーブンソンと植民地の支配者たちとの交流も断絶せずに続いていく。
そういう所を今の日本社会の惨状と比較すると、なんだかんだで日本よりもヨーロッパ文明のほうが文明的なんだろうなあ、と思わなくもない。
白人の植民地支配、さらには白人文明そのものについて考えさせられる。
結末は悲しいが、限りなくハッピーエンドに近いともいえる。
http://www.aozora.gr.jp/cards/000119/files/1743_14532.html
名人伝
弓の名人が弓の道を究めるあまり、超能力的な力を発揮するようになる話。
ギャグ小説である。
道が極まると何もしていない人間と同じになってしまう、という結末は皮肉である。
http://www.aozora.gr.jp/cards/000119/files/621_14498.html
文字禍
古代バビロニアを舞台に、文字がもたらす害悪について論じられる。
識字率100%の世界に住んでいると文字の害悪といってもよくわからないが、文字が発明された当時、文字によって人間の知性は劣化するのではないか、という懐疑論は実際に存在した。
過剰教育によって社会が閉塞しつつある(というか、もっとはっきり言うと破滅しつつある)今日の日本においては今日的なテーマなのではないだろうか。
http://www.aozora.gr.jp/cards/000119/files/622_14497.html
妖氛録
50才になってもなお、万人を虜にする妖婦をテーマにしたもの。
そんな妖婦に夢中になるのは馬鹿馬鹿しいが、それでも虜になってしまうのが妖婦たる所以なのだろう。
http://www.aozora.gr.jp/cards/000119/files/56243_53070.html
李陵
漢の将軍、李陵の数奇な人生を描く。
李陵の人生が数奇なものになったのは(小説では)匈奴に対する無謀な討伐計画が原因なのだが、そこから話はものすごい勢いで突っ走っていく。
終わり方はどこか寂しい。
そして、非常に自然である。
どんな物事でも、いずれは歴史の彼方に消え去る事になっているんだなあ、と考えさせられる、素晴らしい終わり方である。
http://www.aozora.gr.jp/cards/000119/files/1737_14534.html
狼疾記
病気のために女子高の教師という地位に甘んじる主人公の自己嫌悪が延々と綴られる。
この作品にも、「山月記」の「臆病な自尊心」が出てくる。
終わり方は不思議と明るい。
http://www.aozora.gr.jp/cards/000119/files/42301_16282.html
電子出版した本
多分、世界で一番簡単なプログラミングの入門書です。プログラミングの入門書というのは文法が分かるだけで、プログラムをするというのはどういう事なのかさっぱりわからないものがほとんどですが、この本はHTMLファイルの生成、3Dアニメーション、楕円軌道の計算、 LISPコンパイラ(というよりLISPプログラムをPostScriptに変換するトランスレーター)、LZハフマン圧縮までやります。これを読めばゼロから初めて、実際に意味のあるプログラムをどうやって作っていけばいいかまで分かると思います。外部ライブラリーは使っていません。
世間は英語英語と煽りまくりですけれども、じゃあ具体的に英語をどうするのか?というと情報がぜんぜんないんですよね。なんだかやたら非効率だったり、全然意味のない精神論が多いです。この本には僕が英語を勉強した時の方法が全部書いてあります。この本の情報だけで、読む・書く・聞く・話すは一通り出来るようになると思います。