今回は90年代に日本のヒップホップブームを作り『日本語ラップ』というものを大きく日本に広めた立役者、キングギドラをご紹介します。
日本のラッパーの代名詞的存在でもあり『フリースタイルダンジョン』のオーガナイザーでもお馴染みのZeebraさん、現在はタレントとしても活躍中の元祖社会派ラッパーのKダブシャインさん、そんな二人のラップを際立たせるトラックを作り自らもマイクを握るDJ OASISさん(以下敬称略)の3人組です。
レジェンド達が台頭した90年代
キングギドラといえば90年代半ば、Microphone Pager、雷家族、Buddha Brandと共に日本のヒップホップシーンに大きく勢いを付けたグループです。
彼らがストリートスタイルを日本に定着させ、さらに同時期にはスチャダラパー、Rhymesterなどの活躍もありました。
まさに今では大御所のレジェンドクルーたちがバリバリの若い頃だった激アツの時代がこの90年代だったのです!
日本語ラップのパイオニアいとうせいこうが作った導火線に火を付けて爆発させたのが彼らとも言えます。
世間に「日本語のラップ」というものが広く認知され、CDショップの邦楽コーナーにも『HIPHOP/Rap』というのができたのもこの辺だと思います。
英語を封印し『日本語』にこだわった
93年、ZeebraとK DUB SHINE(当時は英語表記)は社会への思いや矛盾、今起きている現状『リアル』をラップにのせ吐き出すというP.E(パブリック・エナミー)のようなスタイルを日本でもやってやろうという意気込みのもと、Zeebraの友人であるDJ Oasisの3人とともに『キングギドラ』を結成します。
彼らはアメリカのHIPHOPにも精通しており当時からすでに英語も非常に堪能でしたが''日本語で表現する''ということに対するこだわりはとても強く、Zeebraは後のインタビューで
「この頃は日本語というものに凄くこだわった。英語を禁止したりとかね。外来語を使うにしてもわざとカタカナ発音にしたり、『ラジオ』はOKだけど『レイディオ』とは言わない、みたいな(笑)」と語っています。
そうやって彼らが『日本語のラップ』というものの土壌を作り徐々に固めていきました。
わずか2,3年で活動を休止
しかしながら93年の結成から95年末に発売された1stアルバム『空からの力』がリリースされるまでの2年半、ZeebraとK DUB SHINEは考えのすれ違いや方向性の違いなどで関係が悪化。
DJ Oasisもモチベーションの低下で音楽自体をやめようと思っていたと話しており、翌96年にミニアルバム『影』をリリースした後、活動を休止しています。
その後は個々がソロ活動を開始し活躍。グループの活動休止後も再結成を望むファンは多く、伝説のヒップホップクルーとして歴史に名を刻みました。
待望の復活と市民団体の抗議
2001年に休止後はそれまで交わる事のなかったZeebraとK DUB SHINEがOJ Oasisのデビューアルバム『東京砂漠』に参加し、5年ぶりの3人揃い踏みとなりました。
さらに同年のK DUB SHINEのミニアルバムにも3人の曲が入っており当時のヒップホップシーンは伝説のキングギドラ復活の予感にざわつき始めます。
そして2002年4月に6年ぶりとなるキングギドラ名義の音源『UNSTOPPABLE』『F.F.B.』が遂に発売しました。
両タイトルともオリコンチャートTOP10入りを果たしますが、オブラートに包まない『リアル』にこだわる彼らの過激な表現が問題となり市民団体からの抗議を受け2枚とも発売停止を受けるという鮮烈な復活劇でした。
ドラゴンアッシュへの痛烈なディス
さらに同年はセカンドアルバム『最終兵器』を発売します。特に話題となったのは当時2000年前後のラップブームの火付け役の1人ともいえるDragon Ashのkj(降谷建志)に対する名指しでの痛烈なディス(批判)曲『公開処刑』です。
Zeebraのヴァースではkjを、K DUB SHINEのヴァースではセルアウト(売れ専)に走ったキックザカンクル―・リップスライムを批判。
降谷建志はこれを受け、ミュージシャンを辞める事すらも考えるほどのダメージを負ったと後に語っています。この騒動から後にDragon Ashは完全にラップを封印しロックバンドとして活動しています。
この『公開処刑』の騒動はヒップホップの大きな特徴の1つである『ディス』という文化を日本に広めるきっかけとなりました。
再び活動停止
2002年世間を引っ搔き回し大暴れしたキングギドラですが翌2003年に『最終兵器』のリミックスアルバム『最新兵器』をリリースし再び活動を休止し身を潜めるというところもまたファンとしてはなんとも言えず歯がゆいところです。
Kダブシャインはタレントとしての活動も開始している一方、Zeebraも新レーベルの立ち上げや『フリースタイルダンジョン』の運営などなど忙しそうですが、ファンとしては再び正式に復活してほしいところです。