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第四章 プロローグ
『ゴブリオさん、危ない!』
『おっと! いい動きゴブなあ、でもまだまだ甘いゴブ!』
俺のノドを狙って飛びかかってきたオオカミを【短剣術】で突き刺し、反対側の足を狙ってきたオオカミは【回避】する。
初めて漁村に行った時とはもうスキルの数が違うゴブ! 種族はけっきょく雑魚ゴブだけど中身は違うゴブよ? 【回避】だってLV2で……いてっ!
『ゴブリオさん! いま治しますから!』
『シニョン、大丈夫。これぐらい問題ないゴブ』
ちょっと油断してオオカミの爪がかすったけど問題ない。
浅い傷口から流れ落ちる血は、すぐに止まった。
よーしよしやっぱり仕事してるゴブなスキル【体力回復】! ボスオーガと比べてしょぼすぎるけどないよりましなのは間違いないからね!
ケガが治ったのを確かめて、今度は【投擲術】でオオカミにナイフを投げる。
よし、オオカミ五匹なんて楽勝ゴブ! ところでコイツら魔石なしのただのオオカミ? それともモンスターのグレイウルフ?
気になった俺は、頭の中で〈スキルウィンドウ〉を呼び出した。
■ ゴブリオ(ゴブリン)
【ライフポイント】
47 → 50
【スキル】
夜目、覗き見LV2、逃げ足LV2、隠密、短剣術、投擲術、統率、回避LV2、体力回復、ゴブリン語LV2、人族語LV2
【称号】
森の臆病者
いま倒したオオカミのうち、三匹はモンスターのグレイウルフだったらしい。
体内に魔石がある生き物を殺すと、俺の〈ライフポイント〉が増える。
俺は死んでもライフポイントを使って復活できて、それどころか種族やスキルを選べるようになってる。
なんでかは知らないけど。
考えてもわからないことはスルーする。
理由より結果が大事ゴブ! ゴブリオおバカなゴブリンだから考えてもわからないし! 元人間? なんのことゴブか? ゲギャギャッ!
オオカミもグレイウルフも死んだことを確認して、俺は仲間に目を向ける。
「ニンゲンの女ゴブ! ゴブリンとオークは殺せ! 女は犯せ! ヒャッハ……ゴブッ!」
「このオーク強すぎるゴブゴブッ!」
『オデ、ニンゲン、守ル!』
若女将からもらったハルバードを片手で振りまわすオクデラ。
もう一方の手にはタワーシールドを持ってるけど、活躍する機会はない。
オクデラの怪力でぶんまわされるハルバードを前に、敵ゴブリンはゲギャグギャゴブゴブ
阿鼻叫喚だ。
オクデラ強くなりすぎィ! 守るっていうか蹴散らしてるんですけど!
称号が【オーク the ED】から【オーク the END】に変化したオクデラは、【斧術】【槍術】【腕力強化】のスキルをゲットした。
ハルバードは相性がいいらしくて、いまのオクデラはかなり強い。
というかこれ俺より強いんじゃない? ひょっとして俺たち〈ストレンジャーズ〉で一番弱いのって俺? ……だ、大丈夫、俺、シニョンちゃんには勝てるゴブ! いやシニョンちゃんは前衛じゃなくて回復役なんだから当然なんだけどさあ!
覚醒したオクデラは放置して、俺はアニキに目を向ける。
アニキはオクデラが討ち漏らしたゴブリンを、鉄の棒で容赦なく叩き殺していた。
アニキもアニキで安定してるゴブなあ! え、称号が変化するとそんなに強くなるの? 【突然変異の革新者】が【突然変異の創始者】になっただけなのに? オクデラなんてNが入っただけゴブよ?
……これどうなってるんですかねえ神様! 俺まだ【森の臆病者】のままなんですけど! 俺ボスオーガ相手にけっこうがんばったと思うんですけど!
どうでもいいことを考えているうちに、戦闘は終わった。
オオカミ五匹とゴブリン十匹なんて、もう俺たち〈ストレンジャーズ〉の相手にならない。
ライフポイント稼ぎにちょうどいいゴブなあ! これで50になったから、ニンゲンになるまであと99万9950ライフポイント! はい遠すぎィ!
『終わったゴブな。ゴブリンは魔石と討伐証明部位だけ取って、オオカミは死体ごと持ってくゴブ』
『ワカッタ』
『アニキとオクデラに任せていいかな? 俺はちょっと見まわりしてくるゴブ』
『ああ、頼んだゴブリオ』
『ゴブリオさん、私も剥ぎ取りを手伝いますね!』
『オーク、見ツケル。オデ、殺ス!』
みんなに頼んで、俺は血と肉片が飛び散る戦場を後にした。
いやグロいとか臭いから逃げたんじゃないよ? 【隠密】と【覗き見LV2】を活かして索敵しようと思ってね? 本当ゴブよ?
あとオクデラ殺る気満々すぎィ! ちょっと落ち着こうな?
いま〈漁村 ペシェール〉の村人は、海路と陸路に分かれて〈港町 デポール〉を目指してる。
ボスオーガが率いる、ゴブリンとオーク、5000の群れが近づいてきてるから。
大氾濫。
魔物の大群を前に、この地の領主は近隣住民を港町に避難させることにしたらしい。
俺たち〈ストレンジャーズ〉は、陸路で港町に向かう漁村の住人の護衛を務めている。
護衛というより周辺警戒役だけど。
俺はゴブリンで、オクデラはオークだから。
近くにいると落ち着かないだろうし、漁村はゴブリンとオークの群れに襲われて、いまだってゴブリンとオークのせいで避難してるんだから。
だから俺たちはできるだけ離れて、避難する人たちが襲われないように索敵と殲滅を担当してる。
ニンゲンがモンスターに襲われないようにモンスターを襲うモンスターとかこれもうよくわかんねえな! ゲギャギャッ!
『異常なし。この辺に敵はいないみたいゴブ!』
『ゴブリオさん、どうしますか?』
『オオカミの毛皮の処理もあるし、一回合流するゴブ』
俺の提案に、みんな異論はないらしい。
というかシニョンちゃんもオクデラもアニキも、俺に判断任せすぎゴブな! そりゃ俺が〈ストレンジャーズ〉のリーダーだけど!
とりあえず、俺たちは陸路で避難する漁村の住人のところへ戻ることにした。
漁村のみんなは、俺たちを受け入れてくれてるから。
でも。
『これから、どうするかなあ』
『ゴブリオさん?』
もうすぐ、ほかの村の住人も合流するらしい。
ここからは一緒になって港町へ避難するんだって。
避難する人数が増えても、冒険者の数も増えるから護衛は問題ないらしい。
ほかの村のニンゲンたち。
漁村と違って、人外の種族を村に入れない人たちだ。
とうぜんゴブリンのゴブリオとオークのオクデラは、その村には入れなかっただろう。
『なんでもない、なんでもないゴブ!』
『そうですか? ならいいんですけど……』
俺たちは奇異の目で見られるだろう。
それだけならまだいい。
追い出されたり、それどころか討伐に向かってきたりしてもおかしくない。
俺はゴブリンで、オクデラはオークだから。
アニキ? アニキはよくわからない新種族っぽいゴブ!
ほらリザードマンの亜種とかこの辺にはいない旅のリザードマンとでも言っておけばいいんじゃない? リザードマンは港町にも入れるらしいしイケるイケる!
アニキとシニョンちゃんは問題なさそうだけど……。
近づいてくる5000のモンスター。
俺たちを受け入れなさそうなニンゲンたち。
ほんと、どうしようコレ。
……まあいっか、とりあえずみんなのところに戻るゴブ!
大丈夫大丈夫、なんとかなるって! ほらゴブシゴブサってね! ゲギャギャッ!
『ゴブリンサバイバー 1』の発売が近づいてきたので
今日からしばらく毎日更新します!
早いところだともう書店に並んでるかも?
また、活動報告に『ゴブリンサバイバー 1』の特典情報をアップしました!
よろしければご覧くださいませー。
次話、明日5/24(水)18時更新予定です!
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