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ゴブリンサバイバー〜転生したけどゴブリンだったからちゃんと生き直して人間になりたい!〜 作者:坂東太郎

『第三章 漁村 ペシェール』

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第二十五話 海辺の岩場で俺たちは一つになったゴブ! いやエロい意味じゃなくてね?


『ゴブリオ、オデ……』

 称号が変化してなんかめっちゃ強化されたオクデラが、ためらいがちに呟く。
 EDがENDに変わっても性格は変わってないっぽい! ゴブリオちょっと安心したゴブな! ところでEDは治ってるのかな? 治ってたら治ってたでヤバいかもしれないからね! 人里で暮らすオークがEDじゃなくなってたらシャレにならないゴブ!

『どうした、オクデラ? 言いたいことがあったら言ってほしいゴブ』

 EDが治ってシニョンちゃんとしたいとか言い出したらぶっとばすけどなあ! あれ? ひょっとしてぶっとばせない可能性も? 覚醒オクデラに雑魚ゴブリンは勝てるゴブか?

 たらりと冷や汗が流れるけど、オクデラはうつむいて迷ってる感じだ。
 どうもそんなことじゃないっぽい。

『オデ、ゴブリオニ、頼ミアル』

 ……俺はずっと、オクデラに頼んでばっかりだった。
 二人で過ごした時も、アニキやシニョンちゃんを入れて三人で過ごしてた時も。
 頼みがあったら言ってくれって伝えたのは〈果ての森〉にいた時だったか。
 俺の脳内で言っただけで伝えてないかもしれないけど! こまけえこたあいいんだよ!

『オクデラ、俺は言ったろ? 頼みがあったら言ってくれって。俺たちは仲間だから、叶えられるようがんばるゴブって』

 ニンゲンを食べたいとか犯したいとか言い出したらがんばらないけどなァ!
 オクデラと俺の会話を聞いていた、アニキとシニョンちゃんが近づいてきた。
 アニキはアニキで、弟の頼みを叶えたいと思ってるんだろう。
 俺はそれで助けられたから。

 言うかどうか迷っていたオクデラは、やっと決意したみたいだ。
 顔をあげて俺たちに視線を向ける。
 やがてオクデラは、その頼みを口にした。

『オデ、オデ、ニンゲン、守ル! オーク、滅ボス! ゴブリオ、手伝ッテホシイ!』

 …………。
 ……オクデラ極端すぎィ! いや称号そうなってるからわかってたけどね! それにしても滅ぼすって極端過ぎるだろおい! 純情弱気ぼっちオークどこいった! そうだね滅ぼしたらぼっちになるもんね! ハハッ!

 でも、元人間でニンゲンになりたい俺にとって悪い話じゃない。
 オークはニンゲンの敵だし、オクデラ以外のオークを殺しまくったところでニンゲンに恨まれることはないだろうし。
 漁村の冒険者ギルドじゃ喜ばれそうだしね。
 滅ぼせるかどうかは置いておいて、手伝うことは問題ない。
 それにオークには勝てるしライフポイント溜められるから。

『わかった。俺も一緒に戦うゴブ!』

 滅ぼせるかどうかは別だけどなァ!
 俺の返事を聞いて、オクデラは目を潤ませる。
 そんでガバッと飛びついてくる。
 見てから回避ヨユーです! さすが【回避LV2】! その勢いでこられたら吹っ飛ばされてゴブリオ大変ゴブ!

 立ち止まったオクデラにあらためて抱きしめられる。
 オクデラのスキルはめっちゃ強化されたけど、とりあえず性格も体の感触も変わらないみたいだ。

『ゴブリオ、アリガトウ! オデ、オデモ、ゴブリオ、頼ミ叶エル!』

 俺が一緒に戦うって言ったことに感動したのか、オクデラは泣きながら言ってきた。

 ほんと、変わってないゴブなあ。
 俺はオクデラに何度も頼み事をして、オクデラはためらうことなく協力してきたのに。
 EDがENDになっても変わらないオクデラに安心する。

 そして。
 ここにはオクデラもシニョンちゃんも、やっと再会できたアニキもいる。
 オクデラが今後時間をかけてでもやりたいことを言ってくれたんだ。
 きっとこれは、いい機会なんだろう。
 いつか言おうと思ってたから。

『オクデラ、じゃあ、俺がニンゲンになるのを協力してほしいゴブ』

 俺の腕の中、というかオクデラの腕に抱かれて、口にする俺。
 たぶんアニキにもシニョンちゃんにも聞こえてる。
 みんなを見てから、俺は続けた。

『俺、元人間なんだ』

 その言葉を一番近くで聞いてたオクデラは……キョトンと首を傾げた。

 おいいいいい!
 けっこう勇気出したんですけど通じてないんですかね! 俺そんな難しいこと言ってないゴブ!

『ゴブリオ、ニンゲン? ゴブリオ、ゴブリン?』

 俺を見つめてコテンと首を傾げるオクデラ。
 いやいやオークが首を傾げてもかわいくないからね! 称号が変化してスキルが強化されたのに頭は強化されてないんですかね神様! これじゃ単じゅ、純情オークのままゴブ!

『あー、いまはゴブリンなんだけど、俺はニンゲンだったゴブ。だから、ニンゲンになりたいんだ。方法はわかってて、後でゆっくり説明するゴブ』

『……ワカッタ!』

 はいこれ絶対わかってないヤツ!
 よくわからないけどゴブリオの言うことならいいかとか思ってるヤツ! 信頼されてるみたいでうれしいけど勇気出した俺の気持ちはどうしてくれんだオクデラァ!

 オクデラには後でちゃんと説明することにして、俺は振り返る。
 シニョンちゃんと、アニキを。

『ゴブリオさんが、元人間……』

『ふむ』

 驚いてるシニョンちゃん、アゴに手を当ててるアニキ。
 アニキもスキル【人族語LV1】があるから、言葉はちゃんと通じてたみたいだ。さすがアニキ。

 俺はゴブリンだけど、元人間だってことは初めて言った。
 二人の反応が気になる。

『それでゴブリオさんは賢かったんですね!』

『過去がどうあれ、ゴブリオはゴブリオだ』

 シニョンちゃん軽すぎィ!
 アニキはアニキでセリフがイケメンゴブなァ! あれ【人族語】はLV1じゃないゴブか!? なんでフツーにしゃべってるゴブ!

 そんでみんなあっさり受け入れすぎで俺の勇気なんだったゴブ! ちょっと目から汗が流れてきちゃうゴブ! 今日はよく目にゴミが入る日ゴブな! ゲギャギャッ!

 ニンゲンになる方法、生き直しとかライフポイントの説明には時間がかかるから、後でゆっくり話すことにして。
 俺はオクデラに向き直った。

『俺は、オークを滅ぼすためにオクデラと一緒に戦う。オクデラは、俺がニンゲンになるために俺と一緒に戦ってほしいゴブ』

 そう言って、俺はオクデラに手を差し出した。

 オクデラが俺の手を握る。

『オデ、ゴブリオ、仲間! 一緒ニ戦ウ!』

 自分の頼みを聞いてくれたと、俺たちは仲間だと、うれしそうに。

 緑色の小さな手と、ちょっと赤みがかったむっちりな手。

 その上に、ギザギザのウロコが生えた手が重なった。

『アニキ?』

『弟たちが望みを口にした。叶えるのが兄の役目だろう?』

 いままでと変わりなく、当然だと言わんばかりに。

 アニキって名前を付けたのは俺で、血の繋がりなんてないのに。
 あいかわらずイケメンだ。
 というか姿が変わってはっきりウロコになったせいで見た目もブサメンじゃなくなってるゴブ! でもゴブリンでもリザードマンでもないからどの種族にもモテなそうだけど! アニキこれ本物のぼっちじゃん!

 アニキの手が重なって、オクデラはまた涙ぐんでる。
 うんうん、気持ちはわかるぞオクデラ! 俺たちはそれぞれぼっちだけどもうぼっちじゃないからね!

 もう一つ、手が重なった。

 色白で柔らかくてキレイな手が。

『ゴブリオさんもオクデラさんも、アニキさんも、私を受け入れてくれました。私も、共に在ります。人間が怖いからではなく、仲間ですから』

 シニョンちゃんが、微笑みを浮かべて。

 ニンゲンが怖くなっちゃって俺たちと暮らしてたシニョンちゃん。
 いい人だらけのこの漁村でだいぶニンゲンに慣れてきたのはわかってた。
 ひょっとしたらお別れが近いかも、なんて思ってたんだ。
 俺たちはモンスターで、シニョンちゃんはニンゲンだから。

 でも違ったらしい。
 見た目なんてどうでもよくて、シニョンちゃんはただ俺たちと仲間なんだと。
 そう言ってくれた。

 ゴブリンなのにニンゲンになりたい元人間の俺、ゴブリオ。
 オークなのにたぶんいまもEDでオークを滅ぼしたいオクデラ。
 もうゴブリンなのかリザードマンなのかわからなくて、一人だけの新種族になったアニキ。
 ニンゲンが怖くて、モンスターな俺たちと一緒にいて、仲間だと言ってくれたシニョンちゃん。

 ほんと、みんな変わり者ゴブ。
 まあ一番おかしい俺が言えたことじゃないんだけどね! なにしろ生き直しなんて変なシステムがあるのも俺だけらしいし!

 でも。
 みんな変わり者だけど、四つの手が重なった。

 これも運命なのかもしれないゴブなあ。
 オクデラが、アニキが、シニョンちゃんが俺を見てくる。
 リーダーなんだ、なんか言えってことだろう。

 ちょっと考えて、俺は口を開いた。

『ココロとカラダの種族が合ってなくても、見た目がおかしくても、目標がバラバラでも。認め合って、助け合って生きていくゴブ! ほかの誰かに理解されなくても、何があっても!』

 俺の言葉で、オクデラとアニキとシニョンちゃんの手に、ぎゅっと手がこもる。

 俺も、力を入れて。

『変わり者でも俺たちは一人じゃない! 誇りを持って胸を張るゴブ! 俺たちは、《ストレンジャーズ(奇妙な者たち)》だ!』

 拳を突き上げた。

 みんなの手ごと。

 青空に四つの拳が並ぶ。

 ゴブリンと、オークと、新種と、ニンゲンの。

 なんかすごい青春っぽいゴブな! いいこと言ったぞゴブリオ!
 しまった、いま「我ら四人、生まれた日、時は違えど」ってやるとこだったゴブ! 桃園の誓いならぬ海辺の誓い的な! でも死ぬ時は一緒って言っても成り立たなかったからこれでよかったゴブ! 誓い通り一緒に死んだら俺だけ復活しちゃうとか鬼畜すぎィ! いくら俺が鬼畜生でもそんな鬼じゃないからね! ゲギャギャッ!

次話、5/5(金)18時投稿予定です!
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