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ゴブリンサバイバー〜転生したけどゴブリンだったからちゃんと生き直して人間になりたい!〜 作者:坂東太郎

『第三章 漁村 ペシェール』

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第二十四話 健気な幼女は反則ゴブ! ゴブリオ泣いちゃって……これ鬼の目に涙ってヤツゴブな!


 神殿で新スキルやスキルレベルを確認した俺たちは、また漁村の道を歩いていた。
 海ぞいの道をとぼとぼと。
 まあとぼとぼ歩いてるのは俺だけなんだけど! アニキとオクデラはなんかお話してるし、シニョンちゃんも普通だし! イマイチ伸びが悪くてへこんでるのは俺だけゴブ! オクデラなんか「アニキ、スゴイ!」っておおはしゃぎだったし!

 漁村・ペシェールは活気づいている。
 ゴブリンとオークの群れに襲われたけど、人の被害はなかった。
 いま村人や冒険者は、荒らされた場所や壊された物を総出で直してる。
 海に避難する時に貴重品を持ち出す時間はあったみたいで、村人に悲壮感はない。

 そういえば俺たちがいた〈果ての森〉のゴブリンの里はオクデラを受け入れなかったけど、あの群れは共存してたゴブなあ。
 きっと例のボスオーガの方針なんだろう。
 里のゴブリンたちだって、アニキがリーダーだったら受け入れただろうしね! 共存できればアイツらだって冒険者たちにあっさり殺られ……たゴブな! 共存してても意味なさそうゴブ! いまの俺ならオークを倒せるぐらいだし!

 海ぞいの道を歩く俺たち〈ストレンジャーズ〉。
 村人の目は思ったより厳しくない。
 冒険者ギルドのコワモテのおっさんや美人受付嬢、冒険者たち、それに若女将が俺たちのことを話してくれたんだろう。
 人によってはちょっと複雑な目を向けてくるけど、それだけだ。
 嫌がらせもないし冷たい扱いもされないゴブ! 漁村の村人いいヤツすぎゴブな!

 でもこれは、冒険者ギルドのおっさんが言うように、人の被害がゼロだったことがデカいんだと思う。
 俺たちはゴブリンとオークの群れにさらわれた若女将とプティちゃんを助け出した。
 100を超えるゴブリンとオークに連れ去られて、二人はどれほど怖かったか。

 若女将は、きっと強い女性なんだろう。
 ボスオーガから逃げ出してしばらくしたら、俺たちと変わらず接してくれてる。
 俺はゴブリンで、オクデラはオークなのに。
 アニキ? アニキはよくわからないゴブ。もう新種ってことで。

 でも、変わってしまったものもある。

『オクデラ、大丈夫か?』

 俺たちが泊まってる斧槍亭が近づくにつれて、オクデラの歩みが遅くなっていく。
 気持ちは、わかる。

『ゴブリオ、オデ、オデ』

『……宿、変えた方がいいかもしれないゴブなあ』

 変わってしまったもの。

 あの日以来、プティちゃんは俺とオクデラに話しかけてこない。
 俺たちを見かけたらすぐに隠れてしまう。
 シニョンちゃんには変わらず懐いてるみたいだけど。

 プティちゃんと仲良くしてたオクデラにはツライだろう。
 というか俺だってキツイ。
 あんなに無邪気で明るかったプティちゃんが、俺たちを見ると怯えるんだから。

 でもこれは、しょうがないゴブ。
 プティちゃんはまだ幼女で、母親と一緒にゴブリンとオークにさらされて、俺とオクデラはゴブリンとオークなんだから。
 怖がられてもしょうがないゴブ。

『あれ? プティちゃん? ゴブリオさん、プティちゃんです!』

『え?』

 うつむいて歩く俺の肩をポンと叩いて、シニョンちゃんが道の先を指さす。

 そこには、プティちゃんがいた。
 草と花でできた輪っかを持って、後ろに若女将を引き連れて。

『さあプティ、言うんでしょ? がんばって』

 そっとプティちゃんを押し出す若女将。
 プティちゃんは、一歩、俺たちに近づいた。
 俺はゴブリンで、オクデラはオークなのに。

『あのね、あのね……助けてくれてありがとう!』

 プティちゃんは、また一歩、俺たちに近づいた。

『これプティが作ったの! リオちゃんとデラっちに、感謝のシルシなんだよ!』

 手に、二つの花かんむりを持って。

『デラっち、しゃがんで?』

 さらわれる前みたいにプティちゃんはオクデラに指示を出す。
 怖がられないように、オクデラはゆっくり動いて、プティちゃんの前にヒザをついて身を屈める。

『はい、これ! ありがとう、デラっち!』

 プティちゃんは、オクデラの頭にそっと花かんむりを乗せた。
 小さな手を震わせて。
 オクデラはうつむいてる。

『リオちゃんはちっちゃいからプティも手が届くね! はい!』

 ちょっと頭を下げたら、プティちゃんが俺にも花かんむりを乗せてくれた。

 ……言葉が出ないゴブ。
 俺はゴブリンで、オクデラはオークなのに。

 ゴブリンだからニンゲンの言葉が出なくてしょうがないよね! オクデラはオークだし! 俺もオクデラも【人族語】のスキルはあるし、俺なんて元人間だけど!

『プティちゃん、ありがとう』

『……オデ、ウレシイ。アリガトウ、プティ』

 二人してやっと絞り出した言葉がコレだ。
 がんばって顔をあげたら、プティちゃんの笑顔が見えた。

 でも。

『あのね、リオちゃんとデラっちはこわくないんだよ! プティを助けてくれたんだもん! あれ、おかしいな、プティのおひざ、なんでふるえちゃうんだろ……えへへ』

 プティちゃんは、震えてた。

 ゴブリンとオークが怖い。
 でも俺たちは仲良くしてたし、助けてくれたし、アイツらとは違うと思ってくれたんだろう。
 だから、勇気を出して、俺たちに感謝のシルシをくれた。

 ……強い幼女ゴブなあ。

『俺、用事を思い出しちゃったゴブ。ちょっと出かけてくる。オクデラ』

『ウン』

 オクデラの手を取って、俺は歩き出す。

 プティちゃんの気持ちはうれしい。
 でもまだ震えてるし、こういうのはちょっとずつ進んだ方がいいだろう。

 すれ違う時にちょっと頭を下げたら、若女将には通じたみたいだ。
 プティちゃんを後ろから抱きしめて、落ち着かせようとしてくれた。

 俺とオクデラは、ゆっくり斧槍亭を後にした。

 ポタポタと、目から汗を流しながら。



 俺たちが来たのは村の外れだ。
 アニキとシニョンちゃんもついてきてるけど、気をきかせてちょっと離れてくれてる。

 海ぞいの岩場。
 普段は誰も来ない場所。

 俺とオクデラは、声を出して泣いていた。

 ここなら、プティちゃんがいないから。
 口からちょっと牙が出ても大きな声を出しても、怖がる幼女がいないから。

『よかったゴブ、オクデラ! 助けられてよかったゴブ!』

『オデ、ウレシイ! プティ、ヤサシイ!』

 二人で抱き合いながらおんおん泣いてる。
 オクデラと会話になってない気がするけどしょうがないよね! 俺たちだけじゃなくてアニキとシニョンちゃんももらい泣きしてるゴブ!

 気付いてたけど、気付かないフリしてた。
 助けた時も逃げた時も合流した時も、プティちゃんは固まったまま震えてたこと。
 俺とオクデラと目を合わせないようにしてたし、帰ってからも避けられてたこと。
 しょうがないと思ってた。
 幼女の立ち直り早すぎゴブ! プティちゃんは強いゴブなあ!

 ひとしきり泣いて、やっと俺は涙がおさまってきた。
 オクデラはまだ泣いている。

『プティ、オデ、トモダチ! ニンゲン、オデ、群レノ仲間!』

 冒険者ギルドで受け入れられたこと。
 またプティちゃんと仲良くできそうなこと。
 俺とアニキに出会うまで、ずっと一人だったオクデラはそれがうれしいんだろう。

『怖イニンゲン、イル。ヤサシイニンゲン、イル!』

 オクデラはまだ泣いている。
 あいかわらず純情弱気ぼっちオークだなオクデラ! でももうぼっちじゃないし、プティちゃんを守るって弱気でもなくなってたなオクデラ! ただの純情オーク? いや純情オークってのもおかしいんだけど!

『ゴブリオ、オーク、ナンデ、ニンゲン襲ウ? プティ、サラウ?』

 やっと号泣がおさまって普通の涙になったオクデラが俺に聞いてくる。
 なんでオークがニンゲンを襲うのか、かあ。哲学的な問いかな? むしろ俺が聞きたいゴブ! メスのオークだっているはずなのになんでニンゲンを襲うゴブか?
 そんなのオークに聞けば……オクデラにオークの知り合いいなかったねすまん。
 そんで【オーク語】ないからオクデラは話が通じないんだったねすまん。

『ゴブリンと同じゴブ。男は殺して喰って、女は犯して孕ませる。食料の確保と、群れを強くするためゴブ。たぶんだけど』

『ソンナ! ジャア、プティハ!』

『もし助けられなかったら……若女将はたぶん、生かされてたゴブ。プティちゃんは、どっちになったか』

 オークにオークの謎生態を説明する男ゴブリオ、元人間。
 これもうどっちが剣と魔法のファンタジー世界の住人かわからないゴブ。
 オクデラはゴブリンがそうすることは知ってたけど、オークも同じだって知らなかったらしい。

 殺しても喰わないことが侮辱だってのは知ってたのにね! 群れ育ちじゃないオクデラの知識の偏りがわからないゴブ! あ、俺もだったわ! 俺も群れ育ちじゃなくてしかも元人間だからわかりませんでしたわ! すっかりゴブリンに馴染んでて忘れてましたわ! ゲギャギャッ!

 オクデラの声が聞こえてこない。

 ふと見ると。
 オクデラは、ショックを受けていた。

『ゴブリオ、ドウシテ、オークハ……ニンゲン、ヤサシイノニ』

 地面にヒザをついてがっくり項垂れるオクデラ。
 オクデラはすっかりニンゲン寄りになってたらしい。
 何しろオークの群れから追い出されて、ゴブリンの里は入れてもらえなかったから。
 初めて集団から、群れから受け入れられたのはこの漁村のニンゲンたちだから。
 うんまあリザードマンとかサハギンとか人外も多いけどね! ハハッ!

『ドウシテ、オデハ、ニンゲンジャナイ! ドウシテ、オデハ、オークカ!』

 オクデラが、ヒザをついたまま空を向いて慟哭する。

 これ、俺のせいゴブなあ……。
 俺がニンゲンの村で生活しててオクデラも受け入れられちゃったから、すっかり存在理由(レーゾンデートル)が揺らいじゃってるゴブなあ。
 アイデンティティの危機的な? でも男は殺せ、女は犯せのオークとゴブリンのアイデンティティなんて壊れちゃった方がいい気もするけど! おっとコレは俺が元人間だからそう思うだけか!

『女将、犯サレル。プティ、喰ワレル。オデ、許セナイ!』

『オクデラ、でも俺たちは間に合ったゴブ』

『危ナカッタ! オデ、許セナイ! オーク、許セナイ!』

 オクデラが叫ぶ。
 ニンゲンを襲ったオークを、自分と同種のモンスターを、許せないと。
 怒っているのか、オクデラの顔も体もちょっと赤くなってる。

『オクデラ、落ち着くゴブ』

『オデ、オデハ、オークヲ、許サナイ!』

 オクデラが叫んだ。
 その目に涙はない。
 ふうふう息が上がっててちょっと紅潮してて、立ち上がったオクデラは迫力があった。

 うん? 迫力? 純情オークでEDなオクデラに?
 息が整ってきたけど赤みが抜けないし、迫力もそのままだ。
 え、おかしくね? オクデラどうした? と思ったところで、気がついた。

 コレひょっとして。

『オクデラ、落ち着いて。ちょっと『スキルウィンドウ』で、模様を見てほしいゴブ』

『ゴブリオ? オデ』

『ほら、さっきアニキが使った炭と板があるから』

 オクデラを落ち着かせるためにも、俺は無理やり押し付けて書いてもらった。

 書き終わった模様を眺める。

 ……やっぱり。
 コレ、アニキと同じゴブな。
 称号が変化して、スキルが生えてきてるゴブ。

 というか……。
 え、ちょっ、オクデラまで強化されすぎなんですけど! これ俺が一番の雑魚になっちゃうんですけど! おっと雑魚もクソもいま俺ただの雑魚ゴブリンでしたわ! 元々《果ての森》で三人でいた時も最弱でしたわ! ハハッ、笑えないゴブゥ!

 オクデラの称号は変わってた。

 称号【オーク the ED】から【オーク the END】へ。

 ……EDどころか滅ぼす者になっちゃってるじゃん! これちょっと変わりすぎじゃないですかねえ神様! スキルもめっちゃ強化されてるんですけど!
 俺、俺の称号も変えてください! いつまで【森の臆病者(チキン)】なんでしょうか! 俺ボスオーガ戦で勇気出したと思うんですけどダメですか神様ァ!

次話、4/28(金)18時投稿予定です!

人族語のセリフが増えて『 』が増えてきたので、固有名詞は〈 〉にしてみました。
以後、これでいくと思います。
ところで、称号の変化はバレバレでしたね……w

■ オクデラ(オーク)
 【スキル】
  夜目
  斧術LV1   ※NEW!
  槍術LV1   ※NEW!
  腕力強化    ※NEW!
  体力回復    ※NEW!
  鈍感
  ゴブリン語LV1
  人族語LV1
  オーク語LV1 ※NEW!
 【称号】
  オーク the END ※UP?
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