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ゴブリンサバイバー〜転生したけどゴブリンだったからちゃんと生き直して人間になりたい!〜 作者:坂東太郎

『第三章 漁村 ペシェール』

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第二十話 今度こそボスオーガとタイマンゴブ! 結果? そんなのわかりきってるゴブなあ!

最初の三行アキまでは前話のあらすじです。

 アニキが助けに来てくれたけど、三人で戦ってもボスオーガには勝てそうになかった。
 だから俺は、一人残ることを決めた。
 俺とシニョンちゃんとオクデラを助けてくれた、アニキみたいに。

「さあ、ここは俺に任せて先に行くゴブ!」

 理解してくれたアニキが、オクデラが、シニョンちゃんと若女将とプティちゃんを抱えていく。
 ボスオーガは攻めてこなかった。
 まるで、一人残ったゴブリンをおもしろがるように。

「さあ、我に奥の手を見せてみよ!」

 またファイティングポーズをとるボスオーガ。
 強者のクセに手を抜いてくれる気はないらしい。
 しかも奥の手があるから大丈夫って言ってみんなを安心させた、俺の言葉を聞いてたみたいだ。
 でも。

「あの……ごめん、奥の手はもうないゴブ」

 残念ウソでした!
 もう奥の手なんて使い切っちゃったゴブ! 残ってるなら俺とオクデラとアニキで囲んだ時に使うに決まってるじゃん! 敵の言葉を信じちゃうとか単純ゴブなあ! ゲギャギャッ!



 あ、やべ、ボスオーガの赤い肌がますます赤くなってる。
 怒らせちゃったっぽい。

「死ね」

 おおっとストレート! そんで攻撃も大振りストレート! そんなわかりやすいのなら【回避】でかわせるゴブ!
 これアレだ、おちょくったりして怒らせた方が戦いやすいかも。
 失敗したら一撃死だけど! それはいまにはじまったことじゃないゴブな!

 ボスオーガの拳をしゃがんでかわす俺。
 手には短剣を持ってる。
 攻撃のためっていうより、持ってれば【短剣術】が働いて防いだり避けやすくなるんじゃないかと思って。

 ボスオーガの攻撃が続く。
 拳と蹴りだけで攻撃してくるのは【格闘術】を持ってるからだろう。
 ひょっとしたら投げとか関節技もあるのかもしれないけど! 怖いから近づきすぎないようにしないとね! まあ後ろにはシニョンちゃんが残していった「聖壁」があるし下がれないんだけど! くっ、時間稼ぎも命がけゴブ!

 ボスオーガが冷静にならないように、大振りの攻撃をかわしながらチクチク短剣で攻撃する。
 ダメージほとんどないし、すぐ回復しちゃうのもわかってるんだけど、それでもいい。
 考えさせないことが大事! ほらほら、当たってないゴブよ? 一撃で殺せそうな攻撃も当たらなければどうということはないゴブゥ!

 集中して戦い続ける俺、できる男ゴブリオ。
 ちょっと息があがってきたけど、取ったばっかのスキル【体力回復】が役に立つって信じてる!

 ボスオーガの攻撃は止まらない。
 蹴りが、左右のストレートが飛んでくる。
 でも単純すぎてなんとか【回避】できるゴブなあ! あれ、これ時間稼ぎならヨユーかも! さすが元人間、ただの雑魚ゴブ、おっと、ただのゴブリンリーダーじゃないゴブよ?

 拳を避けて、また短剣を突き刺そうとして。
 イヤな予感がして、左腕をあげた。

 いってえええええ! え、さっきまでヒザとか使ってなかったじゃん!

「ふう。ゴブリンのくせに、やるではないか」

 左腕に右のヒザ蹴りを受けて、ゴロゴロ吹っ飛ばされた俺に言うボスオーガ。
 息があがった様子はない。
 というかついに冷静になっちゃったみたいだ。
 んんー、おちょくりが足りなかったゴブ! あと神様、なんで【苦痛耐性】とか【痛覚無効】のスキルないんすか! めっちゃ痛いんですけど! いっそオクデラと同じ【鈍感】を……いやアレほんとに痛みを鈍くしてるかわからないし! 性格が【鈍感】になるだけだったら最悪だからね!

 涙目で立ち上がる俺、諦めない男ゴブリオ。
 諦めたらそっこーで殺されちゃうし、ボスオーガはオクデラたちを追うだろうから。

 勝てなくても、せめて時間を稼ぐ。
 アニキに守られた俺が、今度はみんなを守るんだ。
 アニキが言うゴブリンの尊厳じゃなくて、元人間の誇りのために。

「うーん、こんなもんゴブか? たいして効かないゴブ!」

 痛いけど、痛みを隠して、効いてないフリをして、ボスオーガに近づく。
 ボスオーガはちょっと驚いた顔をして、笑った。

「くくっ、おもしろいゴブリンよ!」

 またさっきと同じ攻防の繰り返しだ。
 攻防っていうか俺の攻撃は見せるだけで本気で攻める気はないんだけど! 通じないってわかってても攻めておかなきゃ容赦なく攻められるだけゴブ! ちょっとでも防御にまわって攻め手が減るなら儲けモノ!


 チクッと刺して、攻撃をかわして、よけて、【回避】して。
 ボスオーガは攻撃を受けても効かないのに、俺は一発でもいいのをもらったら終わり。
 まさに死線で(ダンス)っちまう俺。

 どれぐらい時間が経ったのか。
 オクデラは、アニキは、シニョンちゃんは、みんなはもう逃げられたのか。
 ちょっと頭がぼんやりしてきたのは、疲れか、それとも痛みか。

 左腕は上がらない。
 避けられない攻撃を何度か受けて、変な方向に曲がってる。

 足もあんまり力が入らない。
 両足ともローキックをもらって、太ももがパンパンに腫れてる。
 かすっただけで切れるから、せっかく買った革鎧はボロボロだ。

 でも、俺は、立ってる。
 ボスオーガは、目の前にいる。

「これほど抵抗するとは。見上げたものだ」

 ボスオーガは無傷だ。
 正確には何度も短剣が刺さってるけど、あっという間に回復する。
 ねえそれなんのスキル? 俺の【体力回復】はあんまり役に立ってる気がしないゴブよ? 強者が自動回復するとかズルくないゴブか?

「だが。そろそろ終わりにしよう」

 ボスオーガが近づいてくる。
 ちょっと哀しそうな顔するとかコイツほんと戦闘狂ゴブな!
 ボスオーガの赤い拳が俺に向かってくる。
 ゆっくり。

 ああ、また走馬灯ってヤツゴブな。
 さっきはアニキに助けられたけど。
 みんなはもう逃げられたかなあ。
 漁村まで逃げ切ったらコイツも追わないでしょきっと。
 追わないよね? 追われたら漁村ごと全滅しそうなんですけど!

 まあもし追うようなら、また俺がジャマすればいいか。
 連続は初めてだけど俺また復活できるよね?
 できるって信じてるゴブ!
 ボスオーガの拳はもう目の前だ。
 ゆっくり近づいてくる拳が。
 俺の頭を。

 簡単に砕かれてやるわけにはいかないゴブゥ!

 前に倒れこんで拳をかわして、最後に残った右腕の短剣を突っ込む。
 近づいてきたボスオーガの口に。

 鋭い牙が見えてたけど関係ない。
 肌は固くても口の中はどうゴブか?
 奥の手はなかったけど手をなくしてでも一矢報いてやるゴブ!
 あわよくば死ね!

 …………。
 ……い、いてええええ!
 口の中を刺すどころか短剣を噛み砕かれたゴブ!
 そんでついでに手をガブッともうひと噛みってね! ひと噛みで手を食いちぎれるとかずいぶん丈夫な歯と強いアゴですね! そうですよね大鬼ですもんね! ハハッ、痛すぎて笑えないゴブゥ!

 逆転をかけた作戦は、ボスオーガに喰い破られた。文字通り。
 右腕は手首から先がまるごとなくなった。
 左腕は動かない。
 足もパンパンだ。

 ボスオーガは、噛み砕いた俺の手をゴクッと飲み込んで。

「最期まで、見事であった」

 今度こそ、拳を振り抜いた。

 俺は死んだ。(今日二回目)


  □ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □


「楽しい時間であった。変わったゴブリンもいたものだ」

 頭が砕けたゴブリンの死体を見下ろす一匹のオーガ。
 わずかな時間、目を閉じる。
 まるで、さっきまで敵だったゴブリンを悼むかのように。

「右手を喰ったのだ。あとはよかろう」

 オーガが目を開けて呟く。
 ゴブリンやオークは、殺しても食べないことが侮辱になる。
 どうやらオーガも同じらしい。

 ゴブリンの死体は、すでに右手が喰いちぎられている。
 食べられたとひと目でわかるし、これなら侮辱ととられまいと思ったのか。
 あるいはこのオーガは、食欲よりも別の欲求が強いのかもしれない。
 先ほどまで楽しそうに戦っていたのだ。
 戦闘狂なのだろう。

 オーガはゴブリンの死体から目を離し、森の先を見る。
 ゴブリンの仲間たちが逃げた方向を。
 ゴブリンが、必死でオーガを行かせまいとした方向を。

「時が過ぎた。それに……」

 ふたたびゴブリンの死体を一瞥するオーガ。
 口にしたのは言い訳で、浮かんだ笑みが本音なのだろう。
 このオーガが求めているのは戦いで、いま、満足いく戦いができたのだから。

「守りたいものがある男か。ふむ……」

 アゴに手を当てて、何かを考え込みながら。
 オーガがこの場を離れていく。

 ゴブリンの仲間たちが逃げたのとは、違う方向へ。
 ゴブリンの死体を残したまま。

 ボスオーガが歩き出し、森の中に消えて、しばらく経ち。
 ゴブリンの死体がまぶしい光を放つ。
 その光を見た者は、誰もいなかった。


  □ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □


 いつもの空間に行った俺は、また種族とスキルを選んだ。
 ライフポイント48あったけど、スキルは取りませんでした! あとこの後どうなるかわからなかったし、ライフポイントの節約でゴブリンに!
 せっかくゴブリンリーダーになったのにあっという間に雑魚ゴブに逆戻りゴブ。

 そんでいつもみたいに魂? 意識? が先に戻って。
 ボスオーガが目の前にいて、光るな光るなって思ってたらけっこう粘れました!
 これホントどうなってんだろ。
 もしボスオーガがオクデラとシニョンちゃんたちを追いかける気ならゾンビアタックを仕掛けるつもりだったけどね! 油断したところを後ろからブッスリ!ってね! 騙し討ちとか外道ゴブなあ! さすがゴブリン、鬼畜生! ゲギャギャッ!

 ともかく。
 ボスオーガは、追いかけないで立ち去ったみたいだ。

 止めるのをやめて光って、俺の意識が体に戻る。
 目を覚ました俺は、上半身だけ起こして座り込んだ。
 頭を触って、喰いちぎられた右手を確かめて、ケガした場所をチェックして。
 ぜんぶキレイに治ってることを確認する。
 うん、問題なし。

「ふう、危うく死ぬところだったゴブ! あ、俺いま死んでたわ! 頭がパーンってなってましたわ! ゲギャギャッ!」

 誰もいない森に、俺の独り言が響く。

 もし、もしあのボスオーガがオクデラとシニョンちゃんたちを追う気なら。
 後ろから襲いかかったところでたいして傷付けられないし、俺はまた死んだことだろう。
 その場で復活してゾンビアタックを仕掛けたところできっとムダだった。

 いくつかスキルを取っても対抗できそうにないし、ゴブリンリーダー以上の種族は選べないし。
 残り47のライフポイントを使い切るまで、ただ殺されるだけ。

 もしそれで時間を稼いでも、あのボスオーガが追う気なら、きっと意味がなかった。
 オクデラもアニキも勝てないだろうし、漁村に逃げ込んでもまるごと潰されただろう。

 俺が生きてるのも、みんなが助かったのも、たまたまだ。

 ボスオーガに、その気がなかったから。

「悔しいゴブなあ……」

 敗北。
 惨めなほどの。
 きっと残りのライフポイントをつぎ込んでも勝てなかった。

 惨敗。
 一人残ったのに、みんなが助かったのはボスオーガに追う気がなかったから。
 俺が助かったのは、ボスオーガが俺の生き直しに気付かなかったから。

「悔しいゴブ……」

 ポタポタと涙が落ちる。

 手を動かしてみる。
 パーンって砕けたはずの頭を、もう一度後頭部まで触ってみる。
 なぜか治ってて、問題ない。

 きっとこれも生き直しの効果ゴブな! ありがとう神様! でもやっぱりいきなりフィールドボスとかマジで勘弁してほしいゴブ!

 さーて、切り替え切り替え! 考え込むのは後にして、さっさとオクデラとアニキとシニョンちゃんたちと合流するゴブ! ちゃんと無事に漁村へ送り届けるまでが救出作戦だからね!

 まあ俺だけ無事じゃなかったけど! 頭パーンってなって死んだけど! おっと、今日はその前にも一回死んでましたわ! ぜんぜん無事じゃありませんでしたわ! ゲギャギャッ!

■ ゴブリオ(ゴブリンリーダー → ゴブリン)
 【ライフポイント】
  48 → 47
 ※スキルは変更なし
+注意+
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