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ゴブリンサバイバー〜転生したけどゴブリンだったからちゃんと生き直して人間になりたい!〜 作者:坂東太郎

『第三章 漁村 ペシェール』

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第十七話 そういえば強敵と戦うのは初めてかも! 正々堂々? なんのことゴブか?

週一更新ですので、最初の三行アキまでは前話の振り返りを入れています。

 若女将とプティちゃんをゴブリンとオークの群れから助けて逃げ出した俺たち。
 しんがりの俺はゴブリンとオークを妨害して追撃を遅らせた。
 いまゴブリンだけど元人間の俺にかかればしんがりなんてヨユーだ。
 ちょっと一回死んだけど。

 追ってきたゴブリンとオークを殲滅して、俺は先を走るオクデラたちと合流した。
 逃げてるはずなのに、立ち止まってたオクデラたち。
 追いついた俺は、オクデラたちがなんで立ち止まってるか理解した。
 オクデラとシニョンちゃんと若女将とプティちゃんの前に、ソイツがいたんだ。
 まるで以前見かけた森の(ヌシ)みたいに、圧倒的な強者のオーラを放つソイツ。

 オーガ。
 逃げろって本能の警告を無視して一歩踏み出した俺に、オーガは言った。

「ほう、我に立ち向かうか」

 ちょっと口の端を持ち上げて。



 強者の余裕にイラッときたゴブ! だいたいなんでオーガのクセに【ゴブリン語】しゃべれるんだよ! え、オーガってひょっとしてゴブリンの上位種? 小鬼と大鬼だけに?
 おっと、いまそんなこと考えてる場合じゃない。

「敵は殺せ! 殺して喰らえ! ヒャッハー、お祭りゴブ!」

 叫びながらドタバタ走り出す俺。
 これならどこからどう見てもただのおバカなゴブリンゴブ! 頭がまわりそうなヤツなら油断すること間違いなし! 油断したところでブッスリいってやるゴブ!
 ほーらボスオーガも油断して……あれ?

 ボスオーガは背中に担いでたらしい金属の棒を構える。
 メイスとはまたちょっと違う長めの棒。
 ボスオーガの身長と同じぐらいだから2メートルぐらいの棒で、先端も真ん中も太さは同じ。
 走って近づく俺に、その棒の先端を向けてくる。

 あれ、ボスオーガぜんぜん油断してないっぽい? なんかモンスターのクセに威風堂々だしまさかの武人タイプ? というか武器が金属の棒って本物の「鬼に金棒」じゃん! コイツもしかしてアニキと同じ【棍術】スキル持ち?

 イヤな予感がした俺は、ドタバタ走るのをやめて立ち止まる。
 と、目の前を棒が通過した。
 ブオンッ!って音を立てて。

「これをかわすか。我はまだ見くびっていたようだな」

 …………。
 ……イヤイヤ見くびってくれていいですから! こちとらただの雑魚ゴブリン、おっと、しがないゴブリンリーダーですから! 油断しない強者とか最悪ゴブ!

 たらりと冷や汗が流れる。
 とりあえず左手を動かして、【投擲術】で小石を投げてみる。
 右手は短剣を持ってるから、左手のスナップだけでピッと。

 ボスオーガはわずかに棍を動かして小石を弾いた。
 動揺することなく、あっさり。
 ……ちょっ、これマジで勝ち目が見えないんですけど!

『シニョン、若女将、プティちゃんを連れて逃げるゴブ!』

 倒せないかもと思った俺は、後ろにいるシニョンちゃんたちに声をかけた。
 でも。

『ダメですゴブリオさん。プティちゃんも若女将さんも、腰が抜けて走れないみたいで……私も、足が震えて』

 それなりに修羅場を体験してきた俺とオクデラだって、ボスオーガの威圧感で体が震えてる。
 戦いを知らない若女将も幼女も、強者を前に立てなくなっちゃったらしい。

 おうっふ、最悪ゴブ。
 俺が一人で足止めして、オクデラが二人を抱えて逃げる? でもシニョンちゃんも走れるか微妙?
 ……厳しいゴブなあ。

 そんな過酷な現実を噛みしめていると。
 こちらを見るだけだったボスオーガが動いた。

「来ないならば我からいこう」

 なんでもないようにスタスタ距離を詰めてくるボスオーガ。
 俺に向けられてた棍の先が伸びる。
 あぶ、あぶなっ! ちょっ、アニキの突きより鋭いんですけど! コイツの【棍術】、ひょっとしてLV2以上? そりゃそうか、あの数の群れを束ねるボスがアニキより弱いわけないゴブなあ!

 サッと屈んでなんとかかわす俺。
 ありがとう【回避】! ギリギリだったし役に立ったって信じてるゴブ!

 初撃を外されたのに、ボスオーガは口の端を持ち上げる。
 まるで「ほう、なかなかやるな」とでも喜んでいるかのように。

 余裕なボスオーガに向けて、俺は右手の短剣を【投擲術】で投げる。
 続けて左手で小石、もう一回右手でボーラを投げてみる。
 さっきはあっさり弾かれたけど連続ならそうはいかないでしょきっと!
 もう一本の短剣を抜いてボスオーガに近づく俺。

 キン、カンと音がして、短剣と小石はあっさり弾かれた。
 足下を狙って投げた重り付きのヒモ、ボーラは軽くジャンプしてかわされる。
 はいチャーンス! 空中にいるから避けようがないゴブな!

 短剣を構えて走り込む俺。
 強者なボスオーガに近づくとかめっちゃ怖いけど、そんなこと言ってる場合じゃない。
 俺の後ろにはシニョンちゃんと若女将とプティちゃんがいるから。オクデラ? うんまあね。
 勇気を振り絞って近づく。

 ジャンプしたボスオーガは棍の先で地面をついて後ろに下がり、俺から距離を取った。

 あ、やべ。
 棍ってそんな使い方もできるのね。
 誰だよ空中にいるから避けられないとか思った単純なヤツ! 俺だよ!

 着地したボスオーガは、すぐ横薙ぎに棍を振る。
 反応できたし【短剣術】の効果か短剣は当てられそうだけど。
 これ防いだところで武器ごと持っていかれそう! 絶対痛いゴブなあ!

 走馬灯的なアレなのか、俺にゆっくり近づいてくるように見える棍。
 痛みを覚悟してちょっと目をつぶっちゃったところで。
 ガンッと音がした。

「オデ、オデ、ゴブリオ、ミンナ、守ル!」

 オクデラだ。
 さっき震えてたはずのオクデラが、タワーシールドで俺を守ってくれた。
 おおおおお! やるじゃんオクデラ! ゴブリオ感動したゴブ!

「よし! これで二対一だ!」

 ボスオーガがちょっと驚いた顔をしたので、そのスキにオクデラの陰から【投擲術】で投げ込む。
 頭めがけて投げたそれを、ボスオーガは小石や短剣と同じように棍で弾いた。

 俺が漁村の道具屋と一緒に作った、()()()を。

 鶏の卵に穴開けて中身抜いて乾燥させて、唐辛子入りの粉末を詰めただけなんだけどね! まあ本物の唐辛子かどうか知らんけど! でも涙が出ることは間違いないゴブ! ほーら、ボスオーガが強者でも涙目ゴブなあ!
 卑怯? ゴブリオ鬼畜生だからなんのことかわからないゴブ! ゲギャギャッ!

 目の前で割って直撃したボスオーガほどじゃないけど、俺とオクデラも涙目なのはナイショだ。
 ゴーグルは開発できなかったもんで。
 今度こそチャーンス!

『オクデラはスキを見てデカいのを狙え! 俺はかく乱するゴブ!』

 ぐおおおお、と声をあげて悶えるボスオーガ。
 目を閉じて悶えながら、ボスオーガはめちゃくちゃに棍棒を振りまわしている。
 俺たちを近づけないようにだろう。

 まあこうなったら近づく必要もないんだけどね! 俺には【投擲術】があるから! さーて、的当てゴブ! 商品はボスオーガの命とライフポイントです! ゲギャギャッ!

 俺はさっきと違って、思いっきり振りかぶって石を投げる。
 ボスオーガの体に当たったけどあんまり効いてないみたいだ。

 今度は手持ち最後のボーラを投げる。
 足に絡まったけど、暴れるボスオーガに耐えられずに紐がちぎれた。
 どんな脚力してるゴブ! コイツやっぱりヤバすぎィ!

 もう温存してる場合じゃない。
 俺は奥の手、小型のツボから出た布に火をつける。

 すぐにツボごと投げる俺。
 ボスオーガに当たってツボが割れて、中に入った液体が燃えだした。
 ほーら、()()()()の味はどうゴブか? 石は通じなくても熱ならイケるでしょ!

 燃える油が熱いのか、さっきよりも激しく暴れるボスオーガ。
 まだ棍棒を振り回してるから、オクデラは長めのメイスを振りかぶったまま動かない。

「くっ、これならもっと火炎ツボを用意してくればよかったゴブ!」

 声を出して悔しがる俺。
 ボスオーガは俺の声を聞いて、めちゃくちゃに暴れるのをやめて体をこっちに向けた。

「そこか! 我を舐めるなよ!」

 ボスオーガが棍棒を振り回しながら突進してきた。
 おおっと、思わず声出したせいで狙われちゃったゴブ! 油断しすぎてゴブリオピーンチ!

「うわわっ!」

 突っ込んでくるボスオーガを見てうろたえた声を出す俺。
 まだ体に火がついてるのに、ボスオーガは勝利を確信したのかニヤッと笑う。
 でも。

『神よ、彼の身を守る奇跡を与え賜え。聖壁(プロテクション)

 シニョンちゃんの詠唱が聞こえる。
 スキルレベルが上がって新しく覚えた【光魔法】、いや、【神聖魔法】。

 俺の前に半透明の光の壁ができる。
 突っ込んできたボスオーガは、ガゴッと音を立てて光の壁に阻まれた。
 ゴブリオが油断してピンチになったと思った? 残念ウソでした! こんな単純な手に引っかかるとかボスオーガもしょせん鬼畜生、やっぱりバカゴブ!

『ゴブリオさん、聖壁はもう持ちません!』

『シニョン、充分ゴブ!』

 そう、充分だ。
 やっとボスオーガの動きが止まったから。

「オオオオオ!」

 オクデラが、うなりを上げてメイスが振る。
 臆病で自信がなくて、でも力持ちで優しくて、俺やプティちゃんを守るって決意したオクデラの、渾身の一撃。

「があッ!」

 吹っ飛ぶボスオーガ。

 メイスが当たった右腕は変な感じで曲がって、金属の棒を取り落とす。
 よーしよしよし、GJオクデラ! これ腕折れてるゴブな! 武器もなくなったし蹂躙ターイム!

『殺るぞオクデラ!』

『ワカッタ!』

 俺とオクデラは吹っ飛んだボスオーガに向けて走り出す。
 オクデラは、今度はタワーシールドを掲げ、勢いをつけて突進する。
 俺はオクデラの後ろに続いて二撃目を担当する予定だ。

 二人だけどジェットストリームなんちゃらゴブ!
 武器も落とさせたし、右腕折ったし、あとは二人で囲んでボコッて殺ってやる! ボス相手でもけっこう戦えるものゴブなあ! ライフポイントどれだけ溜まるか楽しみゴブ! ゲギャギャッ!

 この後の作戦を考えながら、俺は低い姿勢でオクデラのすぐ後ろを走る。

 ガゴオンッと音がして、俺の上をオクデラが飛んでいった。

 走ってたのとは逆方向に。
 タワーシールドは真ん中からくの字に曲がって。

 立ち止まって【覗き見】するまでもなく、前を向いた俺が見たのは。

 片足立ちで、右足を上げたボスオーガだった。
 まるで、ミドルキックを放った後、みたいな。

 …………えっと?

「ふう。すまぬ、我はまだ見くびっていたようだ。しょせんゴブリンとオーク程度、と」

 そんなことを言いながら、ボスオーガは上げていた足を下ろす。
 まるでファイティングポーズをとるかのように、両手を上げるボスオーガ。

「ここからは、我も本気を出そう」

 吹っ飛ばされて転がったからか、火はもう消えてる。
 火はもう消えてるんだけど、なんか陽炎(かげろう)みたいに揺らめいてる感じがする。

 強者のオーラ、的な? え、待って、このボスオーガ、【棍術】より【格闘術】の方がスキルレベル高い感じ? まさかだけど武器持ってない方が強い感じゴブ? それにさっき右腕折れてたよね? もしかして俺みたいに【体力回復】とかある感じ?

 また冷や汗が流れる。
 とりあえずさっきみたいに石を投げてみた。
 シュッと鋭い音がして、小石が砕けた。
 蹴り一つで。

『オクデラさん! しっかりしてくださいオクデラさん、いま治しますから! 神よ、癒しの奇跡を与え賜え。治癒(ヒール)!』

『オデ、立テル。シニョン、魔法、アリガトウ』

『あっ、待ってくださいオクデラさん! まだ左腕が!』

 立ちすくむ俺に、後ろの喧噪が聞こえてくる。

 本気になったボスオーガ。
 オクデラは盾が壊れて怪我もしてる。
 いま二回使ったから、シニョンちゃんが魔法を使えるのはあと二回。
 若女将とプティちゃんがいるから逃げられない。
 俺は罠も投げナイフも催涙卵も火炎瓶も使い切って、もう奥の手はない。

 …………。
 状況がキツすぎるゴブゥ!
 くっそ、こうなったら死線で(ダンス)ってやるゴブ!
 これちょっとどころじゃなく難易度上がりすぎじゃないですかねえ神様ァ!

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