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第十四話 こちらゴブリオ、ゴブリンとオークの群れに潜入した! やっぱりコイツらバカゴブなあ!
「ふぬけなニンゲンどもめ! メシも武器も手に入れて、カシラは最高ゴブ!」
「女、女ァ! カシラ、あの女たち犯していいゴブ?」
「止めろ。まずは王にお伺いを立ててからだ。あとカシラではなくリーダーと呼べ」
ニンゲンの道を外れ、草原を離れて森の獣道を行くゴブリンとオークの群れ。
100を超える群れの中心には、荷車を引いた一隊がいた。
周囲のゴブリンより装備が整った一隊。
数台の荷車には村から集めた武器らしきものと食料が乗っている。
そして一台の荷車には。
後ろ手に縛られた、二人の女性が乗せられていた。
漁村・ペシェールの宿屋『斧槍亭』の若女将と看板幼女のプティちゃん6才である。
二人の女性というか、一人の女性と幼女である。
手足が縛られているだけでなく、口には猿ぐつわをされている。
叫ばれること、それに魔法の詠唱を警戒しているのかもしれない。
ゴブリンとオークたちは、少なくともカシラと呼ばれるリーダーは、普通の雑魚ゴブリンよりも頭がまわるようだ。
……まあ元人間の俺より頭悪そうだけど! なにしろ俺が潜入しても気付いてないしね! しょせんゴブリン、ただのバカゴブ! あとこのリーダーがアニキじゃなくてよかった!
ゴブリンとオークの群れに追いついた俺とオクデラ、シニョンちゃん。
俺はいつも通りお仲間ゴブリンのフリして単独で潜入した。
装備が違うのにコイツらはやっぱり気付かなかった。
荷車に近づいた俺は、若女将とプティちゃんに目配せしてニコッと笑う。
俺だって気付いたのか、若女将は目を丸くする。
プティちゃんは泣きながらもごもご言ってる。
おっと、幼女がなんか言いかけてて危なかったゴブ! 猿ぐつわされててよかったかもしれないゴブなあ! まあコイツらはスキル【人族語】を持ってなくて通じないかもしれないけど! あとゴブリオスマイルが邪悪な笑顔とか今はいいから!
なんとか間に合った。
今回は100以上の群れが相手だから、オクデラにも戦ってもらうことになってる。
俺が【覗き見】して決めた襲撃ポイントはすぐそこだ。
口の前に指を立てて、若女将とプティちゃんに『静かに』と伝える俺、できる男ゴブリオ。
若女将は俺と目を合わせてコクリと頷いた。
プティちゃんは泣きじゃくってる。
荷車があるのは群れの真ん中ぐらい。
俺はその横にいて、リーダーと呼ばれてたヤツはすぐ前。
焦る気持ちを抑えてチャンスを待っていると、前方でズンッと音がした。
「なんだ? 木でも倒れたゴブ?」
「カシラ、どうするゴブ?」
「お前ら、見に行ってこい。何かわかったら報告に来るように」
「わかったゴブ!」
「俺に任せておくゴブ!」
本当にわかったか怪しげな返事をして、リーダーの取り巻きゴブリンたちが離れていく。
周囲にはたっぷりゴブリンとオークがいるけど、リーダーのまわりは減った。
チャンスと見て俺は動き出す。
よくやったオクデラ! 倒木や岩を探して投げ込むようにって言ったのは俺だけど、バッチリ陽動になってるゴブ! プティちゃんを助けるんだって殺る気になっただけあるゴブな!
何があったのかなー、みたいな顔してさりげなくリーダーに近づく俺。
リーダーも周囲のゴブリンとオークも、俺を警戒する様子はない。
きっとこれもスキル【隠密】の効果ゴブな!
俺は音を立てないようにそっと短剣を抜いて、リーダーの背中にグサッと突き刺す。
「な、なにが……ゴブゴブッ」
おいいいいい! ゴボゴボ血を吐いてるはずがゴブゴブになってんじゃん! 血を吐いてるのか語尾のゴブなのかわかんねえし! しまらない最期の言葉ゴブ!
「リーダー、どうしたゴブ!? ニンゲンの襲撃ゴブか?」
俺は倒れるリーダーに声をかける。
まあニンゲンじゃなくて俺が殺った自作自演だけど! 毎度おなじみ不意討ちゴブ! さすがスキル【短剣術】持ちな俺、短剣で一撃ゴブなあ! 正々堂々? 鬼畜生のゴブリンにそんな騎士道精神あるわけないゴブ! ゲギャギャッ!
「カシラ! どうしたゴブ!」
「リーダー、じゃなくてカシラがニンゲンに殺られたゴブ! 縛られてないニンゲンを探せ!」
おっと、危ない危ない、カシラねカシラ。
敵ゴブの質問に、隠れてたニンゲンが殺ったんだとウソをつく俺。
まわりにいたゴブリンもオークも、カシラを殺った犯人が俺だと気付いてないみたいだ。
よーし、作戦成功! コイツらやっぱりバカゴブなあ!
ゴブリンとオークはまわりの低木に棍棒をぶつけてみたり、木の上とか荷車の下を探しはじめる。
俺はもしもの時のために荷車から離れないようにして、スキを見て攻撃する。
取っててよかったスキル【投擲術】! ほーら、手首のスナップだけで投剣を飛ばせるゴブよ! おバカなゴブリンとオークはいつになったら気付くかな?
小さな動きを自分の体の陰に隠して、投剣を投げつける俺。
スキルの補助とニンゲンが作った武器の鋭さで、急所に当たったゴブリンもオークもバタバタ倒れてく。
「くそっ、どこだニンゲンめ! はやく見つけるゴブ!」
しらじらしく悔しがる俺、殺ゴブ犯。
ときどき前方からズンッと音が聞こえるのは、オクデラがいまもいろいろ投げてるんだろう。
さすが気は優しくて力持ち! 俺、オクデラはやる気になったらできる子だって信じてたゴブ! 本当ゴブよ?
ゴブリンとオークの群れは混乱したままだ。
不意打ちと投擲で、俺はリーダーと雑魚ゴブリン、オーク、合わせて10匹は倒しただろう。
「女たちは俺が見張っておく! 攻撃してくるニンゲンを探すゴブ!」
まだ混乱してる群れにまたリーダーっぽく指示を出す俺。
おバカな雑魚ゴブとオークたちは、荷車から離れて周囲に散っていった。
ゴブ影が少なくなったところで俺は二人に話しかける。
『いま縄を切るゴブ。縛られてるフリをして、静かに』
おおいかぶさるように俺の体で隠して、短剣で二人の手足の縄を切る俺。
『ゴブリオさん、ありがとうございます』
猿ぐつわを自分で外した女将は気丈に言ってきたけど、プティちゃんは泣きながら女将にしがみついてる。
俺の心がズキリと痛む。
『お礼は助かってから。ここはまだ敵地ゴブ』
心の痛みを無視して言う俺。
荷車に横たわったままの若女将の服が乱れてて、ちょっと谷間が見えちゃって目も潤んでて色っぽくって動揺なんかしてない。
こんな敵だらけの場所でゴブリオのゴブリンがゴブリそうになったなんてことはない。
ないったらない。
幼女の涙も女将の色気もスルーして、俺は周囲を【覗き見】する。
冒険者ギルドのおっさんは、オークが10匹でゴブリンが100匹を超えてるって言ってた。
不意打ちと【投擲術】で殺って、残るオークは7匹、ゴブリンが……まだ100はいそうだ。
数が多すぎて俺とオクデラとシニョンちゃんだけじゃ勝てないだろう。
でも問題ない。
ここまで、作戦通りだから。
作戦ではこの後……ほーら、音が近づいてきたゴブ!
ダダダッて走る音と、ガンガンぶつかる音が!
群れの前方を【覗き見】してる俺の目に入ったのは、横になったタワーシールドだ。
ぐんぐん近づいてきて、途中にいるオークもゴブリンもはね飛ばしてる。
オクデラだ。
スキル【鈍感】があるんだから、オクデラは突進すればいい。
俺がオクデラに教えた技は、装備が揃って破壊力が増した。
重くてデカいオクデラが頑丈なタワーシールドごと突っ込んでくるとか悪夢ゴブ! これもう交通事故ゴブな!
『オクデラ、こっちだ! 俺も女将もプティちゃんも無事ゴブ!』
『ヨカッタ! オデ、オデ、心配デ!』
オクデラに場所を知らせるため、わざと【人族語】で叫ぶ俺。
まわりのゴブリンとオークが俺を見てくる。
やっと俺がお仲間ゴブじゃないって気付いたみたいゴブなあ! もう遅いけど!
俺と、女将とプティちゃんがいる荷車の近くまで突進してきたオクデラ。
立ち止まったオクデラと俺を、ゴブリンとオークが囲む。
「コイツら敵ゴブ!」
「殺せ殺せ! 裏切り者は食わずに放置してやるゴブ!」
俺はオクデラを後ろにかばって前に出る。
敵ゴブは口々になんか言いながら襲いかかってくるけど【短剣術】と【投擲術】があるいま、雑魚ゴブは俺の敵じゃない。
俺が初めてゴブリンからシニョンちゃんを助けた時とは違うゴブ! 俺も強くなったもんだ! ゴブリオの無双タイムがスタートゴブ! いてっ!
ゴブリン相手に調子に乗ってたらオークに攻撃された。
ぶっとい棍棒は短剣で防いだけど、勢いに負けて転がる俺、調子にのった男ゴブリオ。
『ゴブリオ!』
『ゴブリオさん、大丈夫ですか!?』
オクデラとシニョンちゃんの声がする。
『こっちは任せておくゴブ! それより脱出の準備を!』
『わかりました、がんばってくださいゴブリオさん! 女将さん、プティちゃん、オクデラさんの背中に乗って!』
そう、シニョンちゃんだ。
オクデラは背負子にシニョンちゃんを乗せて、上からオオカミの毛皮をかぶせて突進してきた。
これなら別行動しなくてすむし、もしオクデラがケガしたらシニョンちゃんが回復魔法ですぐ治せるから。
重くてデカいオクデラが頑丈なタワーシールドごと突っ込んできて、もしケガしても回復されながら突進を続ける! これがオクデラの必殺技、突進の最終型だ! 【鈍感】で【ED】だからできるオクデラオリジナルゴブな! いまED関係ないって? EDじゃなかったら背中に当たるおっぱいちゃんのおっぱいちゃんに耐えられるわけないゴブ!
アニキはいないけどこれで『ストレンジャーズ』勢揃い! あとは女将とプティちゃんを連れて逃げるだけゴブ! 全部倒さなくていいんだし、逃げるぐらいいけるはず! なんてったって俺【逃げ足LV2】だし!
……ところでシニョンちゃん、【受難LV2】の仕事はこれで終わりゴブな? おかわりはないゴブな? ゴブリオもうお腹いっぱいゴブゥ!
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