挨拶代わりに2014年から2016年の映画ベスト
まずは僕のここ数年のベストムービーをご覧下さい。すべて「映画秘宝」で発表してきたものです。
2014年 ひぐたけが選ぶ映画ベスト10
1位 『ゴーン・ガール』
1位 『フューリー』
1位 『インターステラー』
4位 『複製された男』
5位 『her /世界でひとつの彼女』
5位 『パンク・シンドローム』
5位 『ザ・レイド GOKUDO』
番外 『深川通り魔殺人事件』(テレビ朝日『月曜ワイド劇場』にて1983年7月25日放映)
2015年 ひぐたけが選ぶ映画ベスト10
1位 『二重生活』(中国)
2位 『セッション』
2位 『マッドマックス 怒りのデス・ロード』
4位 『バードマン』
4位 『プリデスティネーション』
4位 『サンドラの週末』
4位 『グリーン・インフェルノ』
2016年 ひぐたけが選ぶ映画ベスト10
1位 『シン・ゴジラ』
2位 『エブリバディ・ウォンツ・サム!! 世界はボクらの手の中に』
C 『裸足の季節』
D レディオヘッド『Daydreaming』(監督:ポール・トーマス・アンダーソン/MV)
E 『クリーピー 偽りの隣人』
F 『淵に立つ』
G 『ブラインド・マッサージ』
H 『この世界の片隅に』
次点 『君の名は。』
※アルファベットはベストテン10入りだが、順位つけず
54年の第1作より、町山さんがゴジラ映画のベストに選んだ対ヘドラより、初めて劇場で観た84年より、2年前の渡辺謙が出たハリウッドゴジラより、比較にならないほど上。ゴジラが闇夜に火を噴いて東京を燃やすシーンは泣いた。破壊の美しさに涙が零れた。こうなったら庵野秀明には日本のトラディショナルヒーローを全部リメイクしてもらおう。ウルトラマンとか仮面ライダーとかキューティーハニーとか!
も、これだけで「こいつとは気が合いそうだな」とか「おまえ映画観るセンスなし」とか分かりますよね。本棚とかiTunesのプレイリストとか映画の好みで、人となりまでプロファイリングできるってもんです。
2017年、上半期の映画ベスト3
それではこちらを踏まえた上で、2017年樋口が選んだ上半期ベスト3を発表します。
3位『ありがとう、トニ・エルドマン』
こちらは週刊プレイボーイの映画評から。
控えめに言っても今年のベストテン入り確実
始まって1分で必ず笑う。5分で3回は抱腹絶倒。「国籍や肌の色に関係なく、誰だって親は恥ずかしい」をテーマにしているが、日本人にはこんな表現はできないせいぜい山田洋次が関の山だろう。珍道中を乗り越えて、それでもわかり合えない父と娘のお涙頂戴ハッピーエンドで落ち着くんでしょ?と高をくくっていたら、唖然・絶句・脱力のクライマックス。ブチ切れてる! 今年一番面白くて、頭がおかしい映画。普段抑圧されているドイツ人の感性が大爆発。笑い疲れたよ。
2位『メッセージ』
ネタバレ書きますけど、宇宙人の造形は古かったことはこの際置いといて、あれ驚きましたよね。主人公の過去の記憶だと観客が見ていたものが実は未来予想図だったという。
なんで主人公はそんなものを見ていたかというと、宇宙人の言語を解読することで得た、未来透視能力によるものだった。
これわかる。
例えば日本人にとって虹の数は7色だが、これがアフリカの一部地方によると3色だったりする。青と緑が一緒だから。
ネイティヴアメリカンにとって虹の数は?
なんと24色。
つまり修得する言語によって視覚と感性は変わるということ。
いやーやられました。いつも一切情報を入れないで映画を観るんだけど、エンドクレジットで『複製された男』の監督、ドゥニ・ヴィルヌーヴだと知って、「やっぱこの人凄いなー」と。
こりゃ『ブレードランナー2049』も期待するしかないか。
そして——。
1位『ラ・ラ・ランド』
こちらはビッグコミックオリジナルに寄稿した原稿から。今年のアカデミー作品賞『ムーンライト』と併せて書きました。
『ムーンライト』より『ラ・ラ・ランド』
ずいぶんと古いネタだなと自分でも思うがやはり今一番大きな声で蒸し返しておきたい。
本年度のアカデミー作品賞『ムーンライト』を御覧になりましたか? 公開されてから2ヶ月近くが経過したので観た人も多いでしょう。
すでに多くの方が語っているように、黒人の肌色の美しさを伝える映像、貧困層のあまりに過酷な現実、黒人の男に生まれてゲイを隠して生きる辛さ、登場人物のキャラクター造形、観客を信用していることがわかるセリフの省略と場面転換の巧みさなど、なるほど、称賛に値する映画でした。
が、しかし。
それでも僕は思うのです。これは「心優しい佳作」あたりが妥当な評価ではないか。アカデミー作品賞に相応しかったのは本命視されていた『ラ・ラ・ランド』ではないかと(日本公開が軒並み遅いため、この原稿を書いてる時点で今年候補に挙がった作品では他に『マンチェスター・バイ・ザ・シティー』しか観れていません)。
近年のアカデミー作品賞は『スポットライト 世紀のスクープ』(カトリック教会の神父たちが信者の子供たちを性的虐待していたスキャンダルを暴く実話)といい、『それでも夜は明ける』(2010年代ワースト邦題候補。19世紀に奴隷にされた黒人が開放されるまでを描く)といい、作品自体の「面白さ」は二の次、三の次になっていないでしょうか。
もちろんアカデミー賞が「その年いちばん面白い映画が必ずもらえるもの」とは思っていませんし、作品の良し悪し以前に政治があることも知っています。「アカデミー作品賞」という熨斗(のし)を付けることで世間に広く問題提議をするのはとても大事だと思います。
僕に対して「お前は黒人でもゲイでも超貧乏でもないから『ムーンライト』に共感しなかったのだ」と言う人もいるでしょう。いえいえ、「古き良きジャズを崇める主人公がLAで美女と踊るミュージカル」のほうが共感からずっと遠いですよ。
『ラ・ラ・ランド』のどこが素晴らしかったのか?
「たられば」のラブストーリー、魅力的な俳優、古今東西の名作へのオマージュの嵐、幻惑的な夕暮れ、切ないエンディング、鑑賞後も耳に纏(まと)わり付くメロディアスな劇中歌など、映画が本来持っている恋と夢と歌がすべて詰まっています。
そもそもどうしてこんな原稿を書いているかというと、自分が見聞きしている限り、『ムーンライト』評がどうも「白すぎるオスカーの反動」などなかったかのような、そして「『ムーンライト』をベタ褒めしないと知性リベラルと認めてもらえない」といった、ある種の踏み絵になっている空気を感じるからです。
蓮實重彦、柳下毅一郎、中原昌也、高橋ヨシキ、菊地成孔といった錚々たる識者がディスった後で(ひとりを除いて信用する気持ちは変わりません)、『ラ・ラ・ランド』を絶賛するのは勇気がいることかもしれない。
が、しかし。
何度でも言います。それでも僕は『ムーンライト』より『ラ・ラ・ランド』のほうが、アカデミー作品賞に相応しかったと思う。理由は上にも書いたけどシンプルに「面白かった」から。以上です。
番外4本
さて。「あの作品は上位に入らないの?」って映画があるでしょ?
太鼓判を押せるものをざっと挙げておきます。
『20センチュリーウーマン』
これ、50ぐらいのリベラル知的女性にはたまらんものがあるのでは。余計な副題が付かなくて良かった。『フォレスト・ガンプ 一期一会』みたいな。バカな奴だったら『20センチュリーウーマン 袖触れ合うも他生の縁』とか付けていたかもしれない。
『ゴールド 金塊の行方』
これは思わぬ拾い物。『ウルフ・オブ・ウォールストリート』系だけどこっちのほうが楽しめた。ネットの映画.comが記事のタイトルからオチをバラしていて呆れた。
『ローサは密告された』
フィリピンの超下層生活者をリアルに描いた作品。タランティーノがぬるま湯に見えた。
『皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ』
映画秘宝読者向け。絶対ネタバレにならない対談はこちら。
『ハクソー・リッジ』
そうだ、メルギブの『ハクソー・リッジ』はちょっと長めに書いておきます。
高橋ヨシキさんが週プレの映画評で100点を挙げていたので俄然期待値が高まったけど、正直それほどではなかった。
近年の戦争映画(と言うより戦場映画)で傑作として思いつくものといえば、
『プライベート・ライアン』『父親たちの星条旗』『硫黄島からの手紙』
だが、これらと比べると、『ハクソー・リッジ』は、映像の力、リアリズム、ストーリー、役者の演技、すべての面で落ちる。
イーストウッドの構成力と緻密度。
スピルバーグの極まった冷酷さなど、ふたりのほうが神的視点が高い。レベルが違いすぎる。
上半身の屍体を縦に突き進むシーンは『トータル・リコール』を想起させた。
(このテキストを書いた後に映画秘宝でヨシキさんと宇田丸さんの対談を読んだら同じことが書いてあった。みんな考えることは一緒ですね)
それでも『プライベート・ライアン』のオープニングで、兵士が自分のもげた手首を握りしめたまま突き進むシーンには到底敵わない。
スピルバーグはフェテイッシュというか、屍体だけでなく生きている人間も、モノとしか見ていない。
徹底して物語の道具として捉えている。
そうでなかったら『ミュンヘン』のあんな殺人シーンの描き方はできない。
世間ではアル中DVのメルギブのほうが性格が悪いと思われているけど、スピルバーグの性根の悪さと比べたら子供。
話を戻します。『ハクソー・リッジ』。
それにどうしても沖縄を舞台にした戦争というと、岡本喜八監督の『激動の昭和史 沖縄決戦』と比較してしまう。
『ハクソー・リッジ』を観ていると、まるで沖縄では米兵VS日本兵しかなかったかのよう。
およそ10万人の民間人が巻き込まれて惨たらしく殺されたのに、それがまったく描かれていない。
本作は「娯楽色の強いエンタメ戦場」という評価が相場ではないか。
2017年上半期ワースト映画は……
さあ最後。
ワースト発表。
『マンチェスター・バイ・ザ・シー』
何度も書くけどネタバレしてるからね!
すっごい楽しみにしていた。
なのに公開前に、町山さんが文春の連載コラムで「取り返しのつかない事故で~」とさらっと書いてて膝から力が抜けた。
あの不意打ちあれはなし。
ちょっと突っ込んだ話をしただけで、「ネタバレだ!」だとか叫ぶ輩と一緒にされたくないんだけど、「たまむすび」や「映画ムダ話」とか秘宝とか、ちゃんと「この映画について語ります」みたいに銘打ってそこで深い話をするのはこちらで意識してスルーすれば済む話だが、毎週楽しみに読んでいる文春コラムで、アカデミー賞授賞式の舞台裏の流れからさくっと書かれると、こちらも防ぎようがないっス。。
しかしまあ、そんなことは差し置いてもバレバレでしたけどね。
家が火事のシーンでクラシックが流れたときは興醒めした。演出過剰だろ。
観終わってから時間が経つほど腹が立ってきた。
『マンチェスター・バイ・ザ・シー』を観たという、ある映画監督に、以下のようにメールした。
深夜2時まで自宅で仲間と飲んで妻に怒られてもまだ飲みたくて寒い中片道歩いて20分のコンビニまで酒を買いに行ってる間に子供を死なせた罪の深さから「俺は酒場で誰を殴ってもいい」と思い込み、甥っ子の将来を相談なく決め、挙げ句夢の中で死なせた娘が起こしてくれたおかげで助かりましたという徹頭徹尾身勝手な主人公。死んだ娘が夢の中で助けてくれたって、グロテスクなことに気づかないのかな。
同じ身勝手でもたけしや内田裕也は女とヤッて人をぶん殴って殺しての身勝手さとは違う。痛快さや、抑圧からの解放がない。
同じように「子供が死んで主人公にありていな救済さえない」映画なら韓国のイチャンドン監督の「シークレット・サンシャイン」のほうが圧倒的。
そしたらメールを読んだ監督も「僕も今年のワーストでした」だって。
いや、いいところもありましたよ?
ミシェル・ウイリアムの見せどころのシーンでは、彼女の実生活の息子の父親のことを思い出して、こみ上げてくるものがあった。
でもこの映画、最後まで「巧いっ」と唸らされるものはなかった。
作為まるだし。まるでアメリカの倉本聰。
自分はこの映画を傑作と思える感性は持ち合わせていない。
『ムーンライト』といい、今年のアカデミー賞が小品揃いだったことがよーくわかった。
以上です。
エラそーなことを書きましたが、ほんとは全然映画観れていない。
特に『コクソン』が観れていないのはイタい。うちの近所の映画館では、毎朝8時40分の回一度だけだった。そんな早朝、子供を保育園に連れて行く用意で忙しいからムリだって!
僕が住む京都の映画事情はお世辞にも良いとは言えない。いつでもふらっと観に行ける東京の状況とは程遠い。
でも頑張りますよ。映画館がおいらを呼んでいるから(そんなわけないと自分がいちばんよく知ってます)。