たけうちんぐ最新情報
⬛︎ たけうちんぐ/竹内道宏と申します。ライターと映像作家をやっております。 プロフィールはこちらをご覧ください。
⬛︎ 文章・撮影などのご依頼・ご相談はこちらのメールアドレスまでお気軽にお問合せください。takeuching0912@gmail.com
2017年6月14日水曜日
それは理屈じゃない。 - 映画『ベイビー・ドライバー』が凄すぎた
ヤバい。マジでヤバい。この作品、とんでもなく半端ない。
ヤバいなんて語彙をなくす作品こそが至高で、言葉を選ぶ前にまず誰かに伝えたくなる。まるで火事を目撃したかのように、UFOに遭遇したかのように、「おーい!」と大声を上げて視覚・反応・共有へと繋げるスピードが早ければ早いほど、その映像の威力を感じさせるのだ。
今年ナンバーワンだとか安直な言葉で片付けたくない。気持ちを落ち着かせるためにも、それ以上の表現を早く見つけてしまいたい。
エドガー・ライト監督の新作『ベイビー・ドライバー』は超大傑作だった。
昨日宣伝担当の方からお誘いいただき、ソニー・ピクチャーズ試写室の内覧試写で観てから、いまだに全然興奮が収まらない。テキサスのSXSWで観客賞を手に入れたり、米批評サイト・ロッテントマトで100%を叩き出したり、そもそもエドガー・ライトの新作ってだけで期待値は十分に振り切っていた。でも、そのハードルを余裕で飛び越えてきてやがる。一刻も早く一日中繰り返して観たい。
こんな映画を今までに観たことがないのだ。
音楽が身体を踊らせ、人生を狂わせ、悲しみを塞ぎ、歓びを与える理由が全部詰まったロックンロール・カーチェイスムービー。それは音楽と同じく、“理屈じゃない”ところから刺激を得て、その快感が約2時間持続する。もし覚せい剤に手を染めるつもりなら、覚醒するのはこの作品ですでに間に合っているから大丈夫だ。
物語は至ってシンプルで、強盗の逃走車を運転する“逃し屋”の青年=通称“BABY”がウェイトレスと恋に落ちたことで、裏稼業から手を引こうとする。
BABYは少年時代の事故のせいで耳鳴りが止まず、音楽を聴くことでそれが掻き消される。そんな無口な青年が車に乗ってiPodを再生すると、イカれたドライバーへと変貌を遂げる。これは、たとえば部屋の中でこっそり一人で音楽を爆音で鳴らして踊り狂うアレだったり、その音楽を聴くことでなぜか最強になった気がするアレだったりする。その“アレ”とは一体何なのか、それは理屈で語ることができない。子どもが嬉々として音楽に合わせて踊ることに、理屈なんて要るのだろうか?
一人のドライバーのお話をここまで魅力的に映させるのは、紛れもなくロックンロールとそれに合わせた編集のセンスだ。主人公のプレイリストが鳴り止まないように、劇中音楽が全く途切れることがなく暴走する。驚くべきことに、その映像の切り出し方がほとんど楽曲のリズムに合わせている。
ギターのカッティングで刻まれるカット割り。スネアとともに叩かれるリズミカルな銃撃音。ジョンスペ、ダムド、クイーンなどの楽曲がこの映画のために書かれたのかと錯覚するほど。“ロックンロール版『ラ・ラ・ランド』”とも呼ばれているらしいが、その楽曲と映像の順序は全然違う。愛情しかないのだ。オリジナル曲ではなく既存曲と同期している映像から、エドガー・ライトがいかにその楽曲を愛しているかが伝わってくる。ジョンスペなどに青年時代に出会ってからずっと想像していたシーンなのだろうか、監督の笑顔が垣間見れる瞬間が多々ある。楽曲のリズムが落ち着くとカット割りもまた落ち着き、加速するとBABYの走行速度もグンと上がるのだ。
予告編 https://www.youtube.com/watch?v=WLoNgynP52A
人生から現実から「逃げる」ことがキーワードになっていて、それは音楽という存在からも感じ取れる。
音楽は踊らせるだけじゃなく、耳を塞がせてくれる。外界のノイズを掻き消し、吐き気のする現実を爆音で吹き飛ばしてくれる。イヤホンやヘッドホンはインナーワールドを作り出す。決して誰かと肩を組んで仲良く聴くだけのものじゃない。理屈を越えて、時には医学さえ超えて、孤独な者の心を癒してくれる。
BABYが音楽からパワーを得て、それが原動力となって運転テクニックを引き出す。幼少期のトラウマから、内向的な自分から逃れるために、音楽で“最強”になる。アイアンマンのスーツのように、ドラゴンボールのスーパーサイヤ人のように、音楽がどこにでもいる彼を超人へと導くのだ。
ロックンロールの衝動ってつまりそういうことだろう。
もし音楽に少しでも意識を彼方へ飛ばして、思考を忘れて身体を踊らせたことがあるなら、いやそうじゃなくても、『ベイビー・ドライバー』は今までの映像体験の中で特別なものになるに違いない。
この先この映画に影響される作品が次々と生まれるに違いない。シナリオに組み込んだ選曲とそれに合わせたカット割りから、もはや新しい映画のスタイルの原点を目撃したように思う。
特筆すべき点は限りがない。リリー・ジェームズとエイザ・ゴンザレスという二人の女優が可愛さとエロ美しさのダブルパンチで、それだけでも十分拍手喝采なのにケヴィン・スペイシーとジェイミー・フォックスという二大悪役の演技が存分に楽しめる。
そして主演のアンセル・エルゴートだ。スマートでスタイリッシュな出で立ちから、立ち姿だけで様になる。カーアクションは体育会系の筋肉野郎だけのものじゃない。ここでは内向的な音楽キ◯ガイのお手の物で、何より心が優しいのが特徴的だ。一人一人の命を大切に扱った作品でもあり、よくある従来のアクション映画で見て見ぬふりをされてきた“脇役の死”を、この作品は決して無視をしない。
エドガー・ライト監督には一歩引いた視点がある。それは今までのゾンビモノでも、警官モノでも、終末モノでも、恋愛モノでも。そして、今回のカーアクションモノでも。かつて焦点が当てられなかった、現実からかけ離れた映画の“ウソ”をちゃんと理解している。
映画には“ハッピーエンド”という最大のウソがある。人生に待ち構えているのは確かな死であり、そこではハッピーエンドが厳しい。いつか終わりが来ることは誰もが知っているのに、それを忘れるように暮らしている。エドガー・ライトはそれを拾うことで、主人公たちの次の次を想像させる物語に仕上げている。
銃撃もカーチェイスもありながら、温かい気持ちにされてくれるのだ。
心優しき音楽オタクがカーチェイスするなんて、しかもそれが超大傑作だなんて、音楽へのリスペクトが十二分に発揮されている。
もはやカッコイイの代名詞。センスというセンスを全て掻っ攫うつもりだろうか。
アメリカでは今月下旬から、日本では8月19日から公開が決まった。この作品は絶対に絶対に絶対です。座って観たくなかった。小声で「ヤバい…」と呟いてしまった。
「この映画をあと何回繰り返し観ると気が済むのだろう。」
これは今年の夏、世界中の多くの人の深刻な悩みになるに間違いありません。
映画『ベイビー・ドライバー』公式サイト
http://www.babydriver.jp/
登録:
コメントの投稿 (Atom)
0 件のコメント:
コメントを投稿