2010年に起きた東京都青少年保護条例(非実在青少年条例)問題回想

現在、東京都議選期間の終盤で、非常に盛り上がりを見せています。
しかし東京都議会というと、私は思い出すことがあります。それは2010年に起こった表現規制問題である、東京都青少年保護条例(非実在青少年条例)問題。
私はこの当時、親の病状が悪化してほぼ寝たきりになり行動的にも精神的にもかなり余裕がなく、反対集会があった豊島公会堂に行ったくらいであとはブログなどで書いていただけという人間でしたが、この時のことをふと思い出しました。
その立場から当時のことを思い出して書いてみようと思います。

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東京都青少年保護条例問題(非実在青少年条例問題)とは

まず、もう7年も経っているので知らない人、忘れている人も多いでしょうから、当時書いたものとしてここからどうぞ。

非実在青少年条例と言われた東京都青少年育成条例はそれからどうなったのか。前編

ただ後編は途中経過になっているので、参考用としてWikipediaの当該記事も載せておきます(こっちだと変更の可能性などあるので、あとで自分のほうので12月のことなどを追記しておきます)。

ポイントとしては、有名な語句「非実在青少年」のように、架空の存在を実在と同一視して扱っていること、東京都の条例だけど、多くの出版社など表現関係の企業は東京都に集中しているため、事実上かなり広範に規制対象になること、本来リアルでも法律違反ではない近親相姦表現まで対象になっている(重婚は法律違反だが、近親相姦を罰する規定はない)こと等があります。

本当にいきなりだった青少年保護条例改正案提出の発覚

事の起こりは2010年2月27日、とあるブログに「東京都青少年保護条例改正案」が提出されたこと、そしてそこにある表現規制面での問題について、以下のブログで書かれます。

 第201回で元となった答申案のことを取り上げたが、東京都青少年保護条例(正式名...

それを見てかなりマズイと思って自分でもブログ記事を書きました(下のは引っ越し後のものになります)。

東京都青少年育成条例改正案における表現規制の危険性について語る
前々から話題となっていた、表現規制を含む東京都の青少年育成条例が提出されたようです。■番外その22:東京都青少年保護条例改正案全文の転載: 無名の一知財政策ウォッチャーの独言これのソース元はここみたいですね。■The Prefectural Ordinance about young healthy upbringing (a reform bill) - 2010/2/24まだ断片的な情報なのですが、かなり見た時に「ネタ?」と疑いました。事実、今でもかなり信じられない感じです(もしネタだったら「よかった……変な改正案は存在しないんだ」とでも言って、ウイスキーでも飲みます)。というのは、あまりにも法律としてその定義が曖昧であり、このまま施行してしまうと運用次第ではとんでもないことになってしまうので。しかし多くの人(特に表現物になじみの薄い人)は「そのようなこ...

そのあたりからあちこちで問題となりますが、その経緯については以下に詳しいです。

2010年2月27日(土)、「番外その22:東京都青少年保護条例改正案全文の転載」というエントリーによって、東京都が18禁でないものも全部含めたマンガ・アニメ・ゲームなどなどの実在しないキャラク

それ以前からあった表現規制の予兆

ただ、この提出は当初報道されることもなく、最初のブログで書かれていきなり、という感じだったのですが、ただその前の年から「予兆」はありました。
まずその前年の2009年、児童ポルノ法改正案が国会で検討されていたのですが、主な検討課題は児童ポルノの単純所持罰則化。ただ、この時検討されていた条文では、対象は実在のものだけではなく、マンガやゲームやアニメといった二次創作物についても研究するとして、将来的にその範囲内に加えられる危険性が非常に高かったのです。それ故に表現規制の危険性として注目が集まっていました。
ちなみにこの時は政権交代などもあり流れますが、その後も児童ポルノ法に表現物を含めるという動きは絶えず、成立した2013年の時でさえその危険性が非常に高いものでした(結局は関係各位の努力によって外されましたが)。詳細は以下。

児童ポルノの単純所持を禁止する児童ポルノ禁止法改定案が自公の議員立法により提出が迫っている。漫画・アニメなど創作作品の規制につながる「調査研究」と3年後の「必要な措置」も盛り込まれており、漫画・アニメ関係者の緊張が高まっている。

まあこういう2009年の時にこのように創作物の表現規制までもが児童ポルノ法に盛り込まれる危険性が高かったが故に、いろいろなところで警戒が生まれていました。

その折、東京都の青少年保護条例改正案に携わる東京都青少年問題協議会の内容で、驚くべき発言があったことがすでに2009年には一部で伝わっていました。それは委員の中から

『酷い漫画の愛好者達はある障害を持っているという認識を主流化していく事は出来ないものか』
『何とか法規制しようとしている人達に対し、漫画家達が凄い数の抗議メールを送ってきたのは、どう考えても暴力だ。法規制の根拠を示す必要も無いぐらいの暴力だ』
『性同一性障害と同じく持って生まれた嗜好だという事で、子供に対する性暴力漫画を好む人達を放免とするのであれば、彼らは認知障害を起こしているという見方を主流化する必要があるのではないか』
『彼らに認知障害があり、暴力的だという事が分かっていれば、証拠が無いのに法規制出来るのかという主張を論破出来る。そうした対策を考えていきたい』

というようなコメントが同協議会でなされていたこと(今は消えていますが、これは東京都で公開されていた議事録にしっかり掲載されていたので、そこから判明したものです)で、これはかなり危険だろうという予兆が一部であったことによります。そして提出時にそれを書いたブログがそれまでも書いていたので、私もよく見ていたが故、その条例がかなり危ないと思ってブログに書いた感じでした。

その後、藤本由香里・明治大准教授などを中心として、マンガ家や出版社にも一気に問題が広がったのは当時のニュースにもなりました。

都の青少年育成条例改正案に反対するちばてつやさんや永井豪さん、里中満智子さんらは「改正案が通れば文化の根を断つことになる」と強い危機感を表明。

その後3月18日の議会で継続審議、6月の議会で否決となり、即時の危機は回避されましたが、正直なところ、最初ブログで書いた時はここまで一気に問題が広まるとは思っていませんでした。正直可決まで半月は短すぎたので。しかしここまで一気に広まったのは、潜在的には表現規制問題に関して意識していた人がかなり多かったからだと思っています。

修正の末可決したことと政治の壁

しかし、その後改正案経て12月に可決してしまいます。一応「作品に表現した芸術性、社会性などの趣旨をくみ取り、慎重に運用すること」という附帯決議がついてはいましたが。

12月15日に開かれた東京都議会本会議で、青少年健全育成条例の改正案が、「慎重な運用を求める」とする付帯決議付きで可決された。

ここでは党として反対していて共産党、生活者ネットワークのほか、民主党などにも本当に最後まで廃案を主張していた民主党の方もいたのですが(武蔵野氏の松下候補、中野区の西沢候補など、今回の都議選にも出ている方もいます)、多くが当時若手で、且つ議会全体からすると少数であり、上の方針に逆らえないという状況でした。

参考

・松下玲子都議( @matsushitareiko )の都政報告会を報告してくださった皆さんのツイートをまとめました・非実在少年規制の賛成派と反対派の攻防がなぜ起こったのか、都政では一体何が起こっ..

条例はその後施行され、現在も運用が行われており、時折対象になったものが伝えられてきます。ちなみにイメージ的に男性向けだけという印象を持っている人もいらっしゃるかもしれませんが、当然女性向けのBLも対象になっております(むしろ東京都ではそっちのほうが多い)。

※タイトルにはやや誇張があります。 表現規制とかに関心が高い方は、東京都指定不健全図書・諮問図書について目を配る機会があるのではないかと思います。 月に1回(毎月10日前後)に東京都青少年健全育成審議会というのが開催されまして、その会において何作品か(通例1〜3作品ほど)「不健全な図書類」というのが指定されます。 その...

表現規制はいつやってくるかわからない存在

ここ数年、2013年の児童ポルノ法改正時に表現物が含まれなかった以降は、細かな問題は多々あれど、かつてあったような国や都レベルでの法規制という面ではそこまで大きなものは起きていません。しかし、これらはここまで書いたように、本当に状況次第ではいきなりやってきて、いきなり可決してしまうものです。
これは、どの政権がとったから、というものではありません。ほとんどの政党では、表現を規制する側の議員、それに反対する側の議員が両方いるというのは、過去の事例が示す通りです(しかも規制側が多い)。

以前、有害コミック運動についても書いたことがあります。

1990年代のマンガに対する表現規制運動である、有害コミック運動はそれからどうなったのか。

あれから20年近くが経ち、忘れたころにやってきた非実在青少年条例問題、そしてそれから7年も経っている今、このままの状態が続くという保証はどこにもないのです(実際エロの修正基準は数年前よりかなり厳しくなっていると聞く)。

7月2日は東京都議会議員選挙

現在都議選の選挙期間中で、もうすぐ投票日となります。そしてその候補にも表現規制問題に対しての考えがそれぞれにあります。故に、政治家を支持する際に表現規制問題をふまえるのであれば、個人が表現に対してどのような考えを持っているかを見極めるのが重要でしょう。
以下のものは、「表現の自由会」がそれらについてのアンケートをとった結果となりますので、こちらを一助にされてもよいでしょう。

各候補の簡易結果・連絡先一覧 – 表現の自由を守る会wiki (各陣営への質問状 からの回答)

もちろん、ほかの政策への期待を込めたい人も多いでしょうからその判断は当然個人の自由になりますが、ひとまずどなたを支持するのであっても、選挙には必ず行きましょう。これは都議選に限らず、あらゆる選挙で。
あと、今回の都議選の場合は政党名ではなく候補者の個人名を書かないと、票にはならない可能性が高いので注意。

追記:2020年オリンピック時の東京ビックサイト問題

上のアンケートにも含まれていますが、表現規制問題と同じく「東京ビックサイト問題」というものがあります。これは2020年東京オリンピック開催時に、東京ビックサイトが事実上使用不能になるという問題。しかもそれは2019年の準備期間にも波及します。

これらはコミケが出来なくなる、ということでよく話題になり、そこにしか関係ないと思っている人もいるようですが、本質はそこだけではありません。というのは、このビックサイトがオリンピック期間に使用中になることにより、都内で行われるビジネスイベント含む大規模展示会イベント全般が1~2年間使用不能になるということ、そしてその代替場所はほとんどないに等しいこと、そしてそれらが東京外のみならず海外(たとえば香港やシンガポール、韓国)に流出し、多大な経済効果やビジネスチャンスを失いかねないという危険性があります。こちらにも選挙前、選挙後とも多いに注目するものでしょう。
こちらの詳細は以下に(そのうちまた詳しく書きます)。

☆関連

これはおぎの稔大田区議が公開したもので、今から溯ること7年前に起きた、東京都青少年保護条例問題(非実在青少年条例問題)についてのマンガになります。これを見て当時のことを思い出して今日のエントリーを書きました。