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「クロマグロ 漁獲量削減へ」(くらし☆解説)

合瀬 宏毅  解説委員

今日のくらし解説「クロマグロ 漁獲量削減へ」という話題です。担当は合瀬宏毅(おおせひろき)解説委員です。

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Q.クロマグロについては先月、国際的に決められた漁獲枠を突破した話題をお伝えしましたよね?

そうですね。日本近海を含める太平洋のクロマグロは、資源量が過去最低水準にあると言われ、各国が漁獲量を決めて資源の回復に取り組んでいます。

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具体的には、資源回復のために特に重要とされる30キロ未満の幼魚のクロマグロについて、漁獲量を過去の半分にすること。日本には年間4007トンの漁獲量が割り当てられている。
ところが、今年はクロマグロの来遊量が多く、5月には割り当て量を突破。先月の29日時点で4102トンと100トン近くオーバーしています。

Q.増加に歯止めが掛かっていないのですね。

クロマグロの漁期は7月から6月の一年間になっているので、今日までの分は午後にも発表されると言うことですが、全体としてかなりの数量が積み上がっている恐れがある。
問題は、今シーズン超過した分を、明日からの漁業枠から差し引くことになっていること。つまり今年積み上がった100~200トン程度の漁獲量を明日以降の1年分から減らさなければならない。

Q.漁獲枠をオーバーして大丈夫でしょうか?

日本は世界最大のクロマグロ消費国で、その管理には責任が伴う。その日本が国際約束した漁獲枠を守れないというのは大きなマイナス。明日からの一年間は決して漁獲枠を超えないようにしなくては成らない。

Q.明日からの管理はどうなるのか。

それが難しい。水産庁では、取り過ぎた地域に、責任を持ってその分を減らしてもらうことを基本方針としている。ではどこが取り過ぎてしまったのかです。
日本近海では様々な漁法でクロマグロをとっています。4007トンのうち、まずは大型や中型の巻き網漁業に2000トン、そして沖合漁業などに106トン。そして沿岸漁業に1901トンを、過去の実績により割り当てている。

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このうち巻き網や沖合漁業はすでに漁が終わっていて、割り当てより少ないことが分かっている。問題は引き縄や定置網などの沿岸漁業。ここが5月29日段階で2145トンと200トン以上オーバーしている。

Q.沿岸漁業が超えているのですか。

例えば島根県。割り当て72トンに対し、4月末で漁獲量は138トンになっている。また三重県は、東京都などと13の都府県との共同管理として50トンの割り当てなのに、自分の県だけで2倍以上の125トンとってしまっている。他にも長崎や千葉など様々な県が割り当てをオーバーし、その結果、国全体の漁獲枠を超過していることがわかった。

Q.ずいぶんオーバーした県があったのですね?

実はクロマグロは資源の変動が大きい魚で、年によっては沢山捕れることがある。今シーズンは意図せず定置網に入ったり、他の魚を狙ったのに針にかかったりなど、例年になく多かったと漁業関係者は言います。
ただ、無許可でクロマグロを捕ったり、漁獲量を報告しなかったりするなど違反も少なくなかった。これでは管理にはなりません。

Q.しかし、各県が超過分を引くと、捕れない県も出てくるのではないか?

これが頭の痛いところ。最終的な漁獲量はまだ出ていないが、来年度、全く枠がない。つまり獲ることが出来ない県がでてくることになる。
このため超過した県のなかには日本全体として200トンぐらいの超過なのだから、それを考慮して、各県に配分して欲しいとか、例えば超過分を翌年、一度で減らすのではなく数年にわたる分割払いにして欲しいなどの声が出ている。

Q.調子がいいように聞こえますよね?

ただルール通りに適用すれば、明日から1匹も獲れない県が出てきます。一方で、削減幅を大幅に減らせば、今度はしっかり管理を行った県から不公平だとする不満が出かねない。

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水産庁としても、こうしたことは初めての経験で、各県の意見を聞きながら来月末を目処に来シーズンの漁獲枠を決めていきたいとしている。

Q.それにしてもなぜ小型魚の保護が重要なのでしょうか?

資源量に直結しているからです。

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これはクロマグロを年齢毎に並べたものですが、クロマグロは生まれてから3才までに体長1メートル20センチ、体重30キロ程度となり、ここで初めて産卵をするようになります。そして4才で全体の半分が産卵。5才になって初めて全てのクロマグロが産卵するようになります。
ところが、太平洋クロマグロの場合、71%が0才魚、24%が1才魚で、3才までに98%が取り尽くされてしまいます。つまり産卵前にほとんどのクロマグロが取り尽くされてしまう訳で、これでは資源は先細りしていくばかりです。

Q.なぜ、大きくなってから獲らないのか?

大きな巻き網で獲ってしまえば、サイズに関係なく網には入ってしまう。また現在の規制が導入された2014年以前は、規制は一部で、いわば取り放題。先に獲った方が勝ちと乱獲につながった。
私たちがイメージする大型のクロマグロは、取り尽くされ、ヨコワやメジマグロと呼ばれるクロマグロの幼魚が、大量に水揚げされているのが実態だった。

Q.その結果、今の規制が導入されたというわけですか。

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はい。これは卵を産む3才以上の太平洋クロマグロの推移です。かつては10万トン以上いた親魚は、右肩下がりに少なくなり、現在は1万7000トンと歴史的な低水準になっている。
国際機関としては、これを2024年までに4万1000トンにまで増やすことを目標にしており、そのためにも30キロ以下の幼魚を保護する必要がある。漁獲量半減はそのための措置です。

Q.それだったら、漁師の人たちも漁獲枠を守らなければなりませんよね。

漁業関係者もここで少し我慢すれば、クロマグロの資源は復活し、日本近海でも大型のクロマグロを、沢山捕ることが出来るようになるかもしれません。そうした例が海外にある。

Q.どこですか?

大西洋クロマグロの漁場、地中海です。資源量が減少し、絶滅危惧種に指定された大西洋クロマグロは、2008年に国際機関がおよそ6万トンだった漁獲量を、実質8割削減。3歳未満の幼魚は原則漁獲禁止にしました。
漁には監視員が同行し、違反が見つかると、罰金などのペナルティが科されます。厳しい規制で、廃業に追い込まれる漁業者も相次ぎました。

Q.ずいぶん厳しく規制したのですね。

しかしその結果、大西洋クロマグロの資源量は、6年で3倍以上に回復したのです。クロマグロ漁業規制の成功例となっている。

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このように、規制すれば一定の成果は現れてきます。
クロマグロに対する日本の資源管理については、海外から厳しい目が向けられており、水産庁としても、国内の資源管理について厳しく対応せざるを得ません。
来年はクロマグロ漁業にとって厳しい一年になりますが、様々な工夫をして、資源を持続的に使えるようにしてもらいたいと思いますね。

(合瀬 宏毅 解説委員)

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