ブリューゲルのほうへ 「バベルの塔」展 -1-

ご無沙汰しております。

https://s-media-cache-ak0.pinimg.com/564x/e0/99/eb/e099ebe754a4aa91b71e35cbf055c65a.jpg

今日は東京都美術館で開催中(7月2日まで。7月18日~大阪)の「バベルの塔」展に行ったことを書きますね。

ピーテル・ブリューゲル1世の油彩『バベルの塔』と版画が来ています。1世と書いているのは、ブリューゲル画家一族は大変多い。なんと五代も栄えました。長男もピーテルというのだから紛らわしいのですが、一族の始祖、父ブリューゲルのことです。ちなみに来年1月には「ブリューゲル展 画家一族150年の系譜」という子孫たちの展覧会もあります。

ブリューゲルバベルの塔』を2つ描いています。一つはウィーンにあって、1563年の作品ですが、ストーリーに忠実で見てわかりやすい。つまり人間が天に届く塔を立てようとしたので、神がその傲慢さに怒り、人間たちの言葉を通じなくしたという。(伝承・解釈は一つではないようです)

ウィーンのほうの作品は、左下に注文主であるニムロド(旧約聖書に出てくる。ノアの子孫)がいばりくさって何か命令しています。石を切っていた作業人たちは膝をついて謝っているようです。石だけで塔を作るとなると相当な重量でしょうね。

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/f/fc/Pieter_Bruegel_the_Elder_-_The_Tower_of_Babel_%28Vienna%29_-_Google_Art_Project_-_edited.jpg/800px-Pieter_Bruegel_the_Elder_-_The_Tower_of_Babel_%28Vienna%29_-_Google_Art_Project_-_edited.jpg

周りの風景は、右に港と運搬用の船、塔の3階あたりに当時最新式のクレーン(みなさん、私がクレーンオタクなの、覚えている?)があります。

https://s-media-cache-ak0.pinimg.com/564x/85/f5/47/85f547526938fc51f416eca4be7c55a9.jpg

塔の左側の風景は町、それも賑やかな都市に見えます。聖書の話でも、舞台はブリューゲルの生きた16世紀のベルギーに置き換え、しかもなにげに自分が結婚式を挙げた教会(下に解説)まで描き込んでいます。

 

それから約5年たった1568年の作品が、今回オランダの美術館から来たバベルです。もう一度上の絵を見てください。黒い雲が不吉な感じ、そして塔の上の方は変に赤いですね。あれが元のレンガの色であって、下のほう、色が変わっているのは年月が経ったことを表している。また赤い煉瓦を引き上げていく途中、擦れたり壊れたり

https://s-media-cache-ak0.pinimg.com/564x/2a/eb/3f/2aeb3fd1c38a8192cbe0000650b47263.jpg

するので赤い帯ができている。白いのは石灰であるらしく、働く人間まで粉をかぶっているのが笑えます。

煉瓦は現場で焼くのです。その窯も小屋も塔のまわりに点在していますね。田園や樹木、滑車やクレーンのリアル、作業する人間(1400人だとか!)の細密ぶりに言葉を失います。

そして今回のバベルの塔はもう完成間近なように見えます。聖書の話、つまり人間の傲慢のテーマをひとまず置いて、16世紀の人間は力を合わせてこんな大きな建造物も作れる。すごいことです。ただ暗雲が気になります。そんなところからEUの将来にかかる暗雲を心配してしまいます。

ブリューゲルは明らかにイタリア旅行でスケッチした、ローマのコロッセウムからヒントを得ていますが、それ以外の知識はどうしたのでしょう。ブリューゲルの生きた16世紀、アントウェルペン、およびブリュッセル(含めてブラバントという)はヨーロッパで最も繁栄を誇った都市だったのです。アントウェルペンはその当時建築ラッシュで、市庁舎や証券取引所など豪華な建造物が建てられました。ブリューゲルは熱心にスケッチをしたのではないでしょうか。国際商業都市だったアントウェルペンには外国人も大変多かったから、異国のファッションにも気を留めていたようで、作品のあちらこちらにそのエキゾチックな衣装が正確に描かれています。そして医学(解剖学の本が出版される。オランダを通じて日本へも。)や珍しい動植物についても当時の画家は知識がありました。

https://s-media-cache-ak0.pinimg.com/564x/78/44/d0/7844d0aa5e776bc3135687909727ead8.jpg

ブリューゲルといったら、みなさんはどんな絵を最初に思い浮かべますか。美術の教科書に載っていた『雪中の狩人』という人は多いのではないかしら。子どもの私にとっても、ブリューゲルのこの絵とドイツのデューラーは「北方ルネッサンス」の代表として脳裏に刻み込まれました。『ネーデルランドの諺』や農民を描いたシリーズ、ヒエロニムス・ボスばりの幻想画の数々を知るのはあとになってからです。

ブリューゲルが戦艦オタク(*)だったこと、土木工学に精通していたこと、人文主義の教養人だったことを知ったのはやっと最近です。

(*『メッシーナ海峡での海戦』1561年をご覧ください。ブリューゲルナポリで、オスマントルコ神聖ローマ帝国軍の対戦を見ていたと思われる。後の人々が船舶の種類を学んだというほどのマニアックぶり!)

 

一日行ったらたっぷり楽しめるブリューゲル

驚くことはまだまだありました。

ブリューゲルの作品だけでなく、漫画家大友克洋氏のバベルも、美術館入り口に飾られていました。大友氏はベルギー、オランダ、ウィーンをまわり、実際にブリューゲル作品を見てきました。塔の内側を描くという大胆な試みです。

ここは無料で誰でも見られるし、写真もOKです。

f:id:cenecio:20170630161927j:plain

(初めてコラージュ、やってみました。えへへ)

babel2017.jp

世界的に有名な大友氏がオランダに現れたからさあ大変!そのことはあっという間に知れ渡って、急きょボイマンス美術館の中で晩餐会を開くことになったそうです。

さらに大友氏の作品は英文の紹介記事(ブログ)であちこちに広まり、先日ベルギー人も自分のブログに載せていました。自分のことのように嬉しい私です。

 

 

さらなるビックリは東京芸大の学生さんたちです。バベルの油彩画を立体化するというのですから。

東京藝術大学COI拠点 主催 Study of BABEL

場所:Arts &Science LAB. 1階エントランスギャラリ

f:id:cenecio:20170630162250j:plain

美術館とは別に、大学校舎内1階に設置されていました。大きさがわかりますね。大変細かい、気の遠くなるような作業です。

写真右下には人間たちが…。白い人間たちはプロジェクションで動くのです。滑稽なポーズをとっているので皆がクスクス笑っています。

右上の写真は、立体バベルの裏側に入って見る「夜のバベルの塔」で、松明をもった謎の行列(宗教行事?)が進んでいきます。短いムービーといった感じ。ケータイで撮った写真なのにうまく写って満足です!(^^)!

 

書きたいことはまだたくさんあるのですが、今日はいったん切ります。

参考までに、ブリュッセルの中心部にあるノートルダム・ドゥ・ラ・シャペル教会。(2016年3月撮影)。ブリューゲルが結婚式を挙げ、墓もある教会です。

2015年に横にブリューゲル像が設置されました。遺作の絵に因んで画家のまえに「絞首台」と「カササギ」を置いています。カササギは悪口や密告の象徴だそうです。

f:id:cenecio:20170630163851j:plain

 

おまけの写真

ブリューゲル展にいらした、おそらくインドネシアからのお客さん。可愛らしくて目が離せませんでした。

f:id:cenecio:20170630163933j:plain

よっぽど銀色の球のオブジェが気にいったようです。

f:id:cenecio:20170630163949j:plain

 

今日はこの辺で終わります。また続けて書くかもしれません。

このところすっかりご無沙汰してしまい、申し訳ありません。仕事が忙しいうえ、前にもちらとお話ししたと思いますが、家族の具合が悪くて、とてもブログどころではないのが実情です。今後も不定期で更新すると思いますので、コメント、☆などどうぞお気遣いなくね。返事はできそうもないのです。

別ブログですが、「こどもの領分」をこちらに引っ越します。たぶん明日にでも。過去の日付に入れ、カテゴリー「子どもの領分」です。ほとんどのかたには関係がありませんので、更新のお知らせ(あるのかな?)が来ても無視してくださいね。

写真ブログは長く閉めていましたが、来週にでも開けようと思っています。ただこちらは全くの自分のメモ用で、また次回、海外へ出張するときに使っていこうと思っています。

 

闘病中のかた、ご家族をみていらっしゃるかたがた、これから暑くなりますね。お体に気をつけて、がんばりましょう。

そろそろ更新したかな、とのぞいてくださる皆さま、いつもありがとうございます。ヨーダよりちょっと若いだけなので老いをヒシヒシ感じる昨今ですが、飲み過ぎに気をつけて長生きしたいと思います。

 

ではまた次回!