僕はサバイバー
生きるために背中を見せた
いじめサバイバー
僕はサバイバー
立ち向かう勇気を持てなかった
いじめサバイバー
僕は逃げた
生きていたいから
逃げ続けた
後ろを振り返らず
目を瞑りただ走った
出来るだけ遠くへ
手が届かないほど深くへ
追いつかれたくなかったから
要らないものは極力捨てた
先が見えなかったから
着の身着のままで
国を超えた
ベットリと記憶に塗りつけられた
鮮明な痛みと悔しさ
対処する術が分からずに
それらを怒りに変えて生きてきた
僕は僕の無くしたものを探している
殴られて抜けた歯は何処だ?
無理やり取られた金は何処にある?
家の鍵は?
剥ぎ取られた服は?
燃やされた髪の毛は?
割られた爪は?
青白くなる明け方に
何度もしつこく声を掛けるが
無くした時間は返事をしない
シナリオを描く
赤い炎と銀の刃先
自尊心と虚栄心が
「復讐しろ」と心をつつく
ダンベルを上げる
収まらない気持ちに煽られて
夜中に通りを駆け抜ける
無くならないイメージ
泣いても消え去ってくれない場面
腕立てをしても
腹筋をしても
シャドーに没頭しても
2時40分の土曜日は失せない
空気中の粒子で姿を造る
視界を奪った後に
鼻を潰す
背後に回って膝を砕き
頚動脈を力いっぱい締める
あれほど憎んだ暴力に
これほど心を食い散らかされ
我を忘れて繰り返す模擬訓練
正気に戻った夕暮れに
鏡を見つめて頬を張る
弱い自分に怒りを覚え
浴室のドアに頭をぶつける
「何やってんだ」
「一体、何をやっているんだ」
ズレたメガネに真っ赤な顔
三面鏡に映る自分は
額を押さえて震えている
こんな事を
あと何回やればいい?
どれだけ目を血走らせれば
時間は振り向いてくれるんだ?
答えはない
いつも答えはない
返事がないから空を見る
高く広く
上へと伸びる場所を見つけて
何時間でも空を見る
形を変える急ぎ雲
4時を過ぎると
空の衣替えが始まる
首の痛みを感じ
重い頭を地面に垂れる
その先にあるものは
一列に並んだ蟻の行列
言葉を発しないその列は
身の丈ほどの葉っぱを運んでいた
***
僕は年を重ねた
あれからたくさん時間が経った
変わっていったもの
変わらずに残ったもの
今現在の気持ちを抱えて
僕は今日も生きている
僕は僕の無くしたものを探すのをやめた
僕は何も失ってなどいない
抜けた前歯は入れ歯にした
お金は頑張って稼いでいる
家の鍵には
少し大きめのキーホルダーを付けたよ
オシャレではないけれど
気に入った服も持っている
髪型はフザけていて
爪は年中 深爪だ
行方不明の時間は
まだ姿を現さない
だけど
それはそれでいい
無くしたのではない
取られたのではない
僕は放棄したのだ
全て自らの意思で差し出した
生きる事と引き換えに手放したんだ
眠れない夜をきっかけに
そう思い込むように努めた
だから
奴らから取り返すものは何もない
取り戻さない
その代わりに
新しく作り直す
時間と労力は掛かるだろう
でも
それは大した問題ではない
生きていれば
ゆっくりでも再生できると信じている
僕は今でも
怒りについて考えている
回数は減ったけど
たまに心を食べられるよ
それでも
思考は支配されない
鉄の塊を上げ下げしているけど
それは復讐のためではないんだ
もう自分のためには
ダンベルは上げない
訓練を続けているその意味は
大切な存在を守るためだ
僕の信念は揺るがない
奴らはきっと報いを受ける
けれども
それをするのは僕ではない
許さないし忘れない
でも
恨みと共に生きはしない
***
僕はサバイバー
過去を飲み込んだ
いじめサバイバー
僕はサバイバー
暴力を強く否定する
いじめサバイバー
いかなる理由があろうとも
いじめの正当性を認めない
いじめからの生存者
僕はこうして旗を振ろう
生きてこられた感謝を込めて
白く大きな旗を振ろう