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第十話 衣食住も仕事も装備も充実するとか人里は便利すぎるゴブ!
『ああっ! おかーさん、リオちゃんとデラっちとシニョンさんが帰ってきた!』
『あらあら、プティったらご挨拶が先でしょ? みなさん、お帰りなさいませ』
『タダイマ』
『ただいま! くっ、迎えてくれる人がいるっていいものゴブなあ!』
『ゴブリオさん? どこ見てるんですか?』
『えっと、みなさん、おかえりなさいませ! ねえねえデラっち、またお仕事てつだってほしーの!』
俺たちが漁村・ペシェールで暮らすようになってから、30日ぐらい経った。
村に入れるって印をつけても警戒されてたゴブリンの俺とオークのオクデラだけど、冒険者パーティ『ストレンジャーズ』として活動するうちに、けっこう受け入れてもらえるようになった。
オクデラなんて、宿屋『斧槍亭』の看板幼女のプティちゃんに懐かれて、いまじゃデラっちって呼ばれてるほどだ。
馴染むの早いなデラっち! でもデラっち、プティちゃんが甘えてくるのは力仕事を頼みたい時だけだぞ! 幼女賢い!
まあオクデラは、『オデ、デキル』って頼られてうれしそうにしてるからいいんだけど。
あと手伝いが終わると、『ごほーび!』って言われて幼女と一緒にオヤツ食べてるし。
エサで釣られてるぞオクデラ! 一部の性癖の人なら幼女と一緒にオヤツなんて夢の時間だろうしまあいっか! オクデラも純粋にうれしそうだし! アメとムチでやっぱり幼女すげえ!
俺たちは冒険者として漁村や近くのモンスターを倒したり、薬草なんかを採取する依頼をこなしてる。
陸の細かい仕事を受ける人が少なくて、おっさんギルド職員からはわりと歓迎されてるみたいだ。
水棲種族や漁村の冒険者は海に関する依頼を、俺たちは陸の依頼を。
住み分けってヤツゴブな! 俺たちが海の依頼を受けるわけにはいかないから当然だけど! 俺は泳げるけどオクデラは怪しいもんゴブ! それに、シ、シシ、シニョンの水着姿とか、濡れた感じとか絶対やばいし! くっ、早く水着を買いたいゴブ!
冒険者としての稼ぎは少ない。
でも続けて斧槍亭に泊まってもちょっと余るぐらいは稼いでる。
コツコツお金を貯めて、俺は服も装備も一新した。あとオクデラも。
服は街に潜入した時に買ったヤツを着てたけど、鎧は死体漁りしてニンゲンから身ぐるみはがしたのを、おっと、宝箱から手に入れたのを無理やり着てただけだからね! くうっ、やっぱり人里って素晴らしい!
いま俺は布の服に革鎧を着て、ショートソードと短剣と、いくつかの投擲具を武器にしてる。
スキル【短剣術】を取ったからメイン武器は短剣だ。
【覗き見】で獲物を発見して【隠密】して近づいて【投擲術】で攻撃して、倒せなければ【短剣術】で戦うか、【逃げ足】で逃げるか。
俺カンペキなスキル構成ゴブなあ! 正々堂々戦う? なんのことゴブか? 俺ゴブリンだからよくわからないゴブ! さすがゴブリン、鬼畜生!
獲物はモンスターじゃないシカやウサギを狩る時もある。
俺たちの食料になるし、売れば金になるから。
ほかにも野良ゴブリンが見つかったって冒険者ギルドに情報が入ったら、できるだけ狩るようにしてる。
アイツらが悪さしたら、ゴブリンな俺は漁村に入れなくなるかもしれないし。
あと俺ならゴブリンを狩るの簡単だし。
あっちにニンゲンがいたゴブ! とか言って仲間な顔して近づいて、野良ゴブがニンゲンを襲うつもりになったら、敵認定して後ろからブスッと。
楽勝ゴブなあ! 卑怯? なんのことゴブか? 俺、元人間だけどゴブリンだからよくわからないゴブ! ゲギャギャッ!
俺はゴブリンだけど、心までゴブリンになったつもりはない。
ニンゲンを襲うつもりならゴブリンは俺の敵だ。
うん? アニキ以外のゴブリンが味方だったことがないような? ……まあ俺元人間だからしょうがないよね!
「ゴブリオ、オデ、プティ、手伝ウ」
「おう、わかった。危ないことがあったら守ってやるんだぞ。俺は荷物を置いたら、今日の成果を冒険者ギルドに報告してくるゴブ」
オクデラはプティちゃんを手伝うことにしたみたいだ。
なんか子供が一人でいろいろできるようになっていくのを見守る親みたいな気分ゴブ! ちょっとは自信ついたみたいだなオクデラ! 俺に依存しなくなって少し寂しいけどうれしいぞオクデラ!
オクデラの口からじゃっかんヨダレが垂れてるのはご愛嬌だろう。
仕事の後の『ごほーび!』のオヤツを想像するのが早すぎる。
『デラっち、こっちこっち!』
『プティ、待ッテ』
そう。
この漁村で暮らすことは、衣食住と仕事と装備が充実するほかに、もう一つ大きなメリットがある。
神殿だ。
漁村に入れる印があるから、ゴブリンの俺とオークのオクデラも神殿の礼拝堂に入れる。
もちろんニンゲンで巡礼者のシニョンちゃんも。
この世界では、神殿の礼拝堂で神像に見られながら祈ると、スキルが生えたりスキルレベルが上がる。
俺が隠れて入った街では【隠密】のスキルが生えたし、【覗き見】のレベルが上がった。
堂々と入れるこの漁村の礼拝堂で祈ったオクデラには、あるスキルが生えた。
それもあって幼女に懐かれてる。
【人族語LV1】。
シニョンちゃんが俺たちと行動するようになって、ずっとニンゲンの言葉を勉強してきたオクデラは、【人族語】のスキルが生えたんだ。
今では俺だけじゃなくて、オクデラもニンゲンとコミュニケーションが取れるようになってる。
もちろん祈ったのはオクデラだけじゃない。
俺は何も生えなかったけど、【逃げ足】がLV2に、【人族語】もLV2になった。
新しいスキルは生えなかったけど。
く、悔しくなんかないんだからね! 生き直しがあるからスキルが生えなくても強くなれるし! 死ねば新しいスキルを取れるし!
でも神様、【ラッキースケベ】は生えないゴブか? 主人公だったら必須って聞いたゴブよ? それとも俺は脇役ゴブか? そうだねゴブリンだもんね! むしろ序盤で殺されたり殲滅される役だもんね! 鬼畜生!
シニョンちゃんも祈ったけど、新しいスキルは生えなかった。
シニョンちゃんが言うには、スキルのレベルアップはともかく、新しいスキルはそうそう生えないみたいだ。
でも俺と同じで、シニョンちゃんにもレベルが上がったスキルがある。
【光魔法】がLV1からLV2に。
あ、うん、【光魔法】ってスキル名だけどニンゲンから【神聖魔法】って呼ばれてるヤツね! 『やりましたゴブリオさん! 私の祈りが神様に届いたみたいです!』とか喜ぶシニョンちゃんに、『いやそれ光魔法だから。神要素ねえから』なんて言えなかったゴブゥ!
なんでスキルの表示が日本語なんだよ! 判別できなくて間違って伝わってるじゃん!
あと、シニョンちゃんはもう一つスキルレベルが上がってた。
【受難LV2】。
……。
…………。
おいいいいい! なんでよりによって【受難】のレベル上がるんだよ! ってかそのスキルにもレベルあるゴブか!? もしゴブリンとニンゲンに襲われまくったのが【受難】のせいならLV2ってどうなっちゃうゴブ!?
とりあえずいまのところ変化はない。
【受難LV2】のせい、みたいな困難はない。
俺がビクビクしてるだけで終わるといいゴブなあ……。
『ゴブリオさん? どうしたんですか?』
『なんでもないゴブ。じゃあ俺たちは冒険者ギルドに行こうか』
『はい! うふふ、二人っきりですね、ゴブリオさん』
……。
…………。
ありがとうプティちゃん! がんばってオクデラを引きつけてくれよな! その間に俺はシニョンちゃんとデデデデートしてくるゴブ! 海ぞいを二人で散歩して! ひょ、ひょっとして、手、手なんか繋いじゃったりなんかして! ゲギャッ。
『あら、うらやましいですねえ。いってらっしゃいませ』
流し目の若女将に見送られて、俺とシニョンちゃんは冒険者ギルドに向かった。
あ、そうそう、冒険者生活でライフポイントもまた溜まってきてます! まだ34だけど! ニンゲンになるまであと99万9966必要だけど! 先が長すぎゴブゥ!
■ ゴブリオ(ゴブリン)
【ライフポイント】
34
【スキル】
夜目
覗き見LV2
逃げ足LV2 ※LV UP!
隠密
短剣術
投擲術
ゴブリン語LV2
人族語LV2 ※LV UP!
【称号】
森の臆病者
【装備】
ぬののふく
かわのよろい
ぬののローブ
ショートソード
短剣×2
投剣
ボーラ
ブラックジャック
ほか
■ オクデラ(オーク)
【スキル】
夜目
ゴブリン語LV1
人族語LV1 ※NEW!
鈍感
【称号】
オーク the ED
【装備】
ぬののふく
かわのよろい
ぬののローブ
皮の手甲
タワーシールド
長柄のメイス
短剣
■ シニョン(普人族)
【スキル】
人族語LV4
夜目
魔力感知
魔力操作
光魔法LV2 ※LV UP!
受難LV2 ※LV UP!
【称号】
運命神の愛し子
【装備】
ぬののふく
巡礼者のローブ
巡礼者のネックレス
木の杖
短剣
■ アニキ(ゴブリン / 行方不明中)
【スキル】
夜目
ゴブリン語LV3
棍術
鱗化
【称号】
突然変異の革新者
【装備】
皮の腰巻き
皮のベルト
棍棒
黒曜石のナイフ
ウサギのポンポンのアクセサリー
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