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ゴブリンサバイバー〜転生したけどゴブリンだったからちゃんと生き直して人間になりたい!〜 作者:坂東太郎

『第三章 漁村 ペシェール』

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第八話 おうおう、いくらお金になるからって俺の耳は刈らせないゴブよ?


『赤い布が外れないように気をつけてくださいね! いってらっしゃいませ』

『ゴブリンさん、オークさん、おねーちゃん、いってらっしゃい!』

 若女将と幼女の挨拶を受けて、俺たちは漁村・ペシェールの宿、斧槍亭を出た。
 なんかこう、ニンゲンに温かくされてじんわりくるゴブなあ。
 ニンゲンに襲われてニンゲン恐怖症になったシニョンちゃんも、母性あふれる女将と幼女なら問題ないのか、小さく手を振ったりなんかしちゃってるし。

 うんうん、この村に来て正解だったゴブ! というかあの幼女なじむの早いな! こちとらゴブリンとオークゴブよ? 夕食の時も朝食の時も、同じ宿に泊まってた人たちにマジかよコイツら?って目で見られてたゴブよ? 幼女すげえ!

 漁村らしい夜明け前後のバタバタした時間が終わってから、俺たちは宿を出た。
 目的地は昨日も行った冒険者ギルドだ。
 昨日預けたオオカミの解体も終わってるだろうから、売却の交渉をするのが一つ。
 でもそれより他の冒険者たちが気になるゴブな! モンスター系種族も見たいし、に、にに、人魚もいるらしいし!

 海に浮かぶ小舟や帆船を眺めながら海岸ぞいを歩く俺とオクデラとシニョンちゃん。
 まだ朝早いのに、道には昨日よりも通行人がいる。
 村人らしき人も、武装した冒険者らしき人も。
 あいかわらず俺たちのことを見てギョッとするけど、話しかけてくることも絡んでくることもない。
 なんか仲間うちで頷きあう冒険者がいるのは、あのコワモテのギルド職員に俺たちのことを聞いたんだろう。

 そんなことを考えながら歩いてると、冒険者ギルドが見えてきた。
 斧槍亭から冒険者ギルドは近い。
 よし、これ便利な宿を見つけたゴブ! 値段も高くないしご飯も美味しいし、ゴブリンとオークも泊めてくれるしこれは常宿にするしかないゴブな! 女将の色気にやられたわけじゃないゴブよ? 冷静で論理的に判断してゴブよ? 本当ゴブ!

 心の中で一つ頷いて、冒険者ギルドの扉を見つめる。
 今日はオオカミの売却交渉だけじゃなくて、ほかの種族や冒険者を見るって目的もある。
 それに。

 俺は、冒険者登録をしようと思ってる。
 俺ゴブリンだけど! でもこの村に入れるヤツは登録できるって聞いたゴブ! 美人受付嬢に「こ、これは……」って言われたのは諦めてるけどね! 受付はコワモテのおっさんだったし! おっと、絡まれないように気をつけなくちゃ!

 扉を押して冒険者ギルドに入る俺。
 中にいた人たちから、いっせいに視線が飛んできた。
 これこれ、この感じ! 想像してた通りゴブな! おうおう、こちとら見せ物じゃないゴブよ? おひねりくれたらいくらでも見ていいゴブよ? 全裸はちょっと困るけど! ゲギャギャッ!

 昨日の夕方は受付のおっさんしかいなかった冒険者ギルドだけど、今朝はそこそこ冒険者がいる。
 剣や槍やらを持ったニンゲン、魔法使いみたいなローブをかぶった男、腰に布を巻いたリザードマン、三つ又の槍を持った魚人間。

 ……魚人間?
 思わず二度見する。
 リザードマンも気になるけど、魚人間を。

 魚人間は腕と足をひょいっとくっつけた感じじゃなくて、ぬらぬらと肌が光ってる。
 どっちかっていうとリザードマンっぽい。顔は魚だけど。あとなんか腕に赤い布つけてるけど。

 …………。
 いやいやいや、これよく村に入れたな! コイツらでオッケーなんだったらゴブリンとオークなんて余裕でオッケーでしょ! 俺が止められた理由がイマイチわからないゴブ! やっぱりゴブリンが「男は殺せ! 女は犯せ!」だから? しょせんゴブリン、鬼畜生!

 たぶんこの魚人間がサハギンなんだろう。
 コイツらが村に入ってもオッケーってけっこう衝撃的だ。
 魚人間もこっちのことをそう思ってるのか、おたがい二度見しちゃったゴブ。
 そりゃあのエロい行商人も、俺たちも村に入れるかもって言うわけだ。

『おう、昨日のゴブリンどもか。解体は終わってるぞ。清算すっか?』

 俺たちに声をかけてくれたのは、昨日ちょっと話したコワモテのおっさん職員だ。
 依頼が貼ってあるっぽい掲示板が気になったけど、とりあえず俺はカウンターに向かう。
 俺たちが動くと冒険者たちの視線も動く。
 おうおう、見せ物じゃないゴブよ? 俺もオクデラも、あとおっぱいちゃんのおっぱいも見せ物じゃないゴブよ? 歩くたびに揺れるからついつい見ちゃうのはしょうがないけどね! ゴブリオもつい【覗き見】しちゃうけど! ゲギャギャッ!

『オオカミ、皮、だけ?』

『普通のオオカミはそうだな。昨日預かったヤツのうち、三匹がそうだ。だが体が一まわり大きかったヤツ、アイツはグレイウルフってモンスターでな。皮のほかに、体内にある魔石が売れる。あわせてこの値段でどうだ?』

 話しかけた俺に答えるおっさん。
 だけど俺は途中から聞いてなかった。
 おっさんの隣にいる、もう一人の受付担当を目にしちゃったので。
 コワモテのおっさんの隣で微笑む、美人受付嬢を。

『おい、聞いてっか? うん? 隣がどうした? ……ああ、美人だろ? 俺の自慢の娘でなあ。手を出したら殺すぞ?』

『え? はい? ソーリー?』

『俺の娘だ。くそ、ゴブリンにまで疑われちまった。いいか、娘に手を出したら、ゴブリンだろうがオークだろうが人間だろうが等しく殺すぞ?』

『もう、お父さんったら! ほらゴブリンさん、お父さんが何か言ってますよ』

 そこ平等にしなくていいでしょ!
 は? 優しそうに微笑んでる美人受付嬢が、ハゲでヒゲ面でいかつい感じのおっさんの娘? 遺伝子どうなってるゴブ! この世界に遺伝子があるのかわからないけど!

『そんでどうする? 俺は交渉とかめんどくさくて嫌いだからよ、こっから上がりも下がりもしねえぞ』

 俺の視線から美人受付嬢を離すように話しかけてくるおっさん。
 イヤイヤ現実に引き戻される俺。
 おっさんが提示した値段は斧槍亭五泊六日分ぐらいだ。
 けっこういい値段に思える。
 シニョンちゃんも頷いてるし、ぼったくりではないっぽい。

『わかった、ゴブ』

『おう、じゃあ商談成立ってことで。お前ら、あと売れるもん持ってねえか? ……ああやっぱ交渉はめんどくせえな。もういいや。ゴブリン、ホーンラビットの角とソードディアの角を売る気ねえか?』

『これ、ゴブか?』

『ああ、それよそれ。お前らを見かけたヤツが、持ってたぞって言ってたもんでな。それ、売る気ねえか? 他の場所に持ち込むより高く買うぞ?』

 今日は村の外に出る気はないけど、俺もゴブリオもシニョンちゃんも武装してる。
 とうぜん、投擲に使う一角ウサギの角や剣シカの角も。
 ギルド職員のおっさんはコレを売ってほしいらしい。
 カウンターに角を置くと、俺たちに向けられる視線が強まった気がした。

『ほれ、ウチの村には水棲種族の冒険者もいるだろ? アイツらにはそのへんの素材から作った武器が人気でな。金属製じゃ錆びちまうんだと』

 チラッとサハギンとリザードマンに目を向けるおっさん。
 なるほど、そりゃそうゴブな! 金属製の武器なんてすぐ錆びそう! 使うたびに手入れすればいいだろうけど、そもそもサハギンとか陸に上がる方が少ないだろうし!

『これ、故郷の、森の。思い出、品物』

『おいおい、俺は苦手だってのにゴブリンが交渉するのかよ! 邪悪な笑顔だなおい!』

 そりゃ売るなら高い方がいいからね! 水棲種族のギラつく目線を見たら高く売れそうって思っちゃったゴブ! 一角ウサギも剣シカも、この辺じゃ見かけなかったし!

 困り顔のおっさんとやり取りして、持ってた五本の角は予想以上の高値で売れた。
 剣シカはともかく、一角ウサギなんて雑魚モンスターの角が高く売れるとかぼろ儲けゴブな! 故郷の森の思い出? そんなんどうでもいいゴブ! これでしばらく斧槍亭に泊まれるし、ニンゲンの村で暮らすにはお金は大事だから!

『はあ、まあいいだろ。これでウチに儲けを出そうと思ってるわけじゃねえしな。さてゴブリン、他に何か用事はあるか?』

『うん。ゴブリオ、オクデラ、シニョン、冒険者、なる』

『ゴブリンとオークの冒険者か……』

『ダメか? 村、入れる、冒険者、なれる、聞いた』

『まあなあ。他のヤツらもそうだし、入れるんだったら俺たちは止めねえんだがよ……』

 困り顔のおっさん。
 うん、冒険者たちの視線の動きを見たらわかる。
 というか、遠くが見えるようになった【覗き見LV2】と、シニョンちゃんから教わったニンゲンの文字を読んで気付いた。

 俺を見て、依頼が貼ってある掲示板の一点を見る冒険者たち。
 そこには依頼書が二枚貼ってあった。
 ゴブリン討伐・オーク討伐って書いてある依頼書が。

 おうおう、俺たち見せ物だけど討伐対象じゃないゴブよ? 討伐証明の右耳をチラチラ見るのやめるゴブ! 俺たちの耳を刈っても安いから! 俺、斧槍亭一泊分にもならないのかよ! さすが雑魚ゴブ、安すぎゴブ! 鬼畜生!

『……まあいいか。んじゃこれが登録用紙だ。後ろの巡礼者さんにでも書いてもら……は?』

 おっさんがカウンターに置いた粗い紙を手にして、サラサラとペンを走らせる俺。
 おっさんも、隣の美人受付嬢も、後ろの冒険者たちも驚いてるのがわかる。
 シニョンちゃんにニンゲンの文字を教わっておいてよかった! ゴブリオただのおバカな雑魚ゴブとは違うゴブ! 耳はくそ安い雑魚ゴブだけど!

『お前、名前書けるのかよ……ゴブリンなのに?』

『ゴブリン、なのに!』

 このやり取り、この村で流行ってんの? 気持ちはわかるけど! ニンゲンの言葉を理解して、ニンゲンの文字を読み書きできるゴブリンとかビビるゴブな!

 登録用紙には、名前と出身、得意武器、スキル、犯罪歴を書くところぐらいしかない。
 ちなみに犯罪歴は、書いたら警備隊のところに連れてかれる引っかけ問題らしい。
 スキルは書いても書かなくてもいい自己申告だそうだ。
 ただスキルを明かすと、仲間を探すのに有利になることもあるとか。

 俺は、というか俺とシニョンちゃんは何も書かなかった。
 あと俺が代筆したオクデラの分も。
 俺たち、仲間を新規募集する気はないからね!

『おう、この『アニキ』ってヤツはどいつだ? ここには三人? 二匹と一人? しかいないようだが』

『アニキ、行方不明。探す、依頼、したい』

『ん? ああ、そりゃかまわねえけどよ。そんで、そのアニキってヤツと合わせてパーティを組むってことか?』

『そう。四人、決まってる』

『お、おう。それで、これがパーティ名だと。……なんて読むんだこりゃ?』

 そう、仲間を新規募集する気はない。
 ゴブリンのゴブリオと、オークのオクデラと、ニンゲンで巡礼者のシニョンちゃん。
 仲間はあと一人。
 冒険者ギルドに捜索依頼を出して、見つけ出す予定のアニキだけ。
 おっと、間違えて討伐依頼出さないようにしないとね! ゴブリオ、アニキの耳をもらってもどうしようもないゴブ! そんな形でアニキ見つけたら泣いちゃうゴブよ!

 パーティ名はもう決まってる。
 冒険者ギルドでパーティ登録できるって女将に聞いて、昨日決めておいた。

ストレンジャーズ(奇妙な者たち)

『奇妙な者たちか。ははっ、まあいいんじゃねえか?』

 パーティ名を聞いたおっさんはちょっと笑ってた。
 ニンゲンになりたいゴブリンな俺と、オークなのにピュアでEDなオクデラと、ニンゲンだけどニンゲン恐怖症なシニョンちゃんと、行方不明でゴブリンだけど【突然変異の革新者(ミュータント)】なアニキと。

 ストレンジャーズ(奇妙な者たち)

 俺たち四人にぴったりゴブな! 俺、これから冒険者としてバリバリ活躍してやるゴブ! モンスターを倒しまくればライフポイントも溜まるしお金も稼げるしぴったりゴブな!
 よーし、ゴブリンの討伐依頼はどこゴブ? ゴブリオ、邪悪なゴブリンどもを狩り尽くしてやるゴブ! 「男は殺せ! 女は犯せ!」なゴブリンに同族意識なんてないゴブよ? むしろ騙し討ちできそうでおいしそうな獲物ゴブなあ! ニンゲンになりたい俺のライフポイントにしてやるゴブ! ゲギャギャッ!

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