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第六話 ついに漁村に着いたんで入れるように交渉します! 俺、ゴブリンなのに!
新しく取ったスキル【投擲術】と【短剣術】でオオカミたちを無事に退けた俺。
まあ俺にとっちゃオオカミなんざヨユーですよヨユー! ゴブリオ無双で瞬殺ですよ! ちょっと一回死んだけど。
オオカミの皮でも剥ぐかと思ったところで、漁村の方から走ってくるニンゲンが見えた。
『こっち、こっちです!』
『ねえ女将、ホントにゴブリンだったの? 人間を助けるゴブリン、ねえ』
さっき逃がしたニンゲンの女が、村の警備担当を連れてきてくれたみたいだ。
オオカミ退治のためだよね? ゴブリンな俺を見られたけど、俺【人族語】で逃げろって言ったし大丈夫だよね? ゴブリン退治じゃないよね?
一瞬不安になる俺。
そんな俺の肩にそっと手が置かれる。
『ゴブリオさん、大丈夫です。私、わたし、今度こそ、ちゃんと、説明しますから』
俺を安心させようとしたのか、そんなことを言い出すシニョンちゃん。
まだ襲われて以来ニンゲンが怖くて、いまも手が震えてるのに。
『シニョン、きっと、大丈夫。行商人、害ない、入れる、言ってた。俺、話す』
小さく首を振ってシニョンちゃんの前に出る。
俺は手に持ってた短剣を地面に置く。
両手を開いてニンゲンに見せて、武器を持ってないアピールも完璧だ。
ほら俺ニンゲンを襲うつもりなんてないゴブ! ぷるぷる、ぼくわるいごぶりんじゃないよ! 人前に出てるけど良いゴブリンだよ! おっと、ニッコリ笑顔を見せたらニンゲン引いちゃったゴブな! 気をつけないと! ゲギャギャッ!
『隊長、見てくださいあの邪悪な笑顔! ぜったい騙し討ちするつもりですって』
『そうは言ってもな。害がないならどんな種族も受け入れる。そう決めたのは村長たちだ。会話してみんことにはなんとも言えん』
『大丈夫ですよ。あのゴブリンは【人族語】で私たちに「逃げろ」って言ったんだもの』
ちょっと離れたところで立ち止まるニンゲンたち。
さっき逃がしたニンゲンの女と、揃いの装備の男が二人。
『はじめまして。俺、ゴブリオ。ニンゲン、攻撃しない』
とりあえず俺から話しかけてみる。
ニンゲンの言葉を話すゴブリン。
話を聞いても信じられなかったのか、男たちが目を丸くする。
『俺、行商人、聞いた。攻撃しない、この村、入れる、かも』
俺の言葉に顔を見合わせる男たち。
女の人は、ほらやっぱり、とばかりに微笑んでる。
くっそ色っぽいゴブ! え、なにコレ? 幼女がおかーさんって言ってたから30才前後なはずで、これがオトナの色気ってヤツゴブか! ゴブリオ惑わされそうゴブ!
動揺する俺の頭に、柔らかい何かが当たる。ちょっとだけ。
見ないでもわかる。
これ、おっぱいちゃんのおっぱいゴブな! ゴブリオひょっとして嫉妬されてるゴブか? 大丈夫、シニョンちゃんがいるからオトナの色気なんかに惑わされないゴブ! おっぱいちゃんの魔性のおっぱいに惑わされてる気がするけど!
『ほら! 隊長さん、これなら大丈夫ですよね?』
『【人族語】を話し、害意がないのか……』
『え、マジすか隊長、でもあいつゴブリンですよ?』
『だが規則は規則だ。曲げる訳にはいかないだろう』
『ぐわー、隊長、逆の方にも頭が固いんすね!』
やっぱりゴブリンを村に入れたことはないっぽい。
俺を放置してワイワイ話しはじめるニンゲンたち。
やがて隊長と呼ばれてた男が、俺に話しかけてきた。
『ゴブリン、いや、ゴブリオと名乗ったか。【人族語】はわかるのだな?』
『もちろん。でも、【人族語LV1】』
『もちろんか……。ああ、スキルレベルは関係ない。先ほど、こちらの女性をオオカミから助けたな。なぜだ?』
『俺、ニンゲン、仲良い、したい。村、入りたい。オオカミ、モンスター、敵』
『ふむ……』
『人間と仲良くしたくてモンスターは敵? ゴブリンなのに?』
『ゴブリン、なのに!』
隊長と呼ばれた人は考え込んで、なんかノリがいい若い方が俺に聞いてきた。
そう、俺ゴブリンだけどニンゲンと仲良くしたいゴブ! というかニンゲンになりたいゴブ! そうすればシニョンちゃんと堂々と、ど、堂々と、で、デデ、デートできるし、そ、その先も……ゲギャッ。
『そちらは巡礼者か?』
『はい。私はシニョン、巡礼者です。ゴブリオさんとオクデラさんと旅をしていますけれど、襲われたことはありません。むしろ、私は前に、ニンゲンに、盗賊に』
俺の手を握って、がんばって話しはじめたシニョンちゃんの言葉が止まる。
うーん、これは自業自得ゴブ! 隊長さんはそこまで聞いてなかったからね! ほら元気出してシニョンちゃん!
『む、すまん』
『あーあ、隊長が変なこと聞くから! えーっと、そこのオークも仲間、なのかな?』
空気を変えるように若い方が聞いてくる。
俺たちの後ろに立ってるオクデラについて。
ちなみにオクデラはちょっとニンゲンを警戒してるのか、メイスも盾も持ったままだ。
構えないでダラッと下げてるけど。
『はい、そうです』
『オーク、オクデラ。俺、シニョン、仲間。「オクデラ、ニンゲンの挨拶を」』
『オデ、オクデラ』
港町で入れなかった時と同じように、片言のニンゲンの言葉で自己紹介するオクデラ。
ニンゲンの男たちはまた驚いてる。
『聞き取れはしたが、そのオークは【人族語】スキルはないようだな』
『ゴブリンとオークと旅って。その、大丈夫なの? えっと、あの』
『あらあらあら? この子は何を聞くつもりかしら?』
思わずという感じで口にした若い方の男に、ニンゲンの女が微笑みながら睨みつける。
おおう、そういうタイプなのね! 暗黒微笑ってヤツゴブか? ゴブリオ微笑みの黒さなら負けてないゴブよ? さっきニンゲンたちどん引きだったしね! 邪悪な笑顔って! 邪悪な笑顔って……しょうがないよね、俺ゴブリンだから……。
『問題、ない。俺、襲わない。オクデラ、男だけど、その、男、なれない、えっと』
『男だけど男になれない? ああEDか、かわいそうに! ……オークなのに?』
『オーク、なのに!』
ノリがいい男の方は、俺が言いたいことをわかってくれたみたいだ。
すまんオクデラ! お前のプライバシーより、シニョンちゃんが汚れてないってわかってもらう方が大事だったんだ! ほんとすまん! でもほらオクデラが危ないオークじゃないってアピールになるし!
『害意はなし、話は通じる。オークも、ゴブリンの言うことを聞く、か……』
『俺、村、入れる? オクデラ、入れる?』
『巡礼者さんは問題ないんだけどねー。隊長、どうします?』
『お二人とも、お願いします。私と娘を助けてくれた恩人なんです。入れるようならウチに泊めますから』
『人間と旅をしても問題を起こさなかったようだし、害がなければどんな種族も受け入れる、という規則は曲げられないだろう』
『じゃ、じゃあ、じゃあ、俺!』
『だが巡礼者シニョンよ、よいのか? ゴブリンとオークと連れ立って行動するとなれば……その、口さがない者もいるぞ? そうした目で見られ、聞きたくない言葉を耳にするかもしれない』
入れそうな話の流れで喜んでた俺だけど、その言葉で止まる。
そうだ。
俺たちはゴブリンとオークだ。
いくら違うって言っても、一緒にいるシニョンちゃんは、そういう目で見られるだろう。
ゴブリンとオークを連れたニンゲンの女。
それ、どう見てもビッチじゃんね。人外に犯されて喜ぶド変態じゃんね。
ちょっと考えれば当たり前のことなのに、俺はそんなことにも気付かなかった。
というかあの行商人、ぜんぜんそんな目で見てなかったゴブな! 俺とシニョンちゃんに普通に接してたゴブ! 男なら健全なエロ目だったぐらいで! アイツやっぱり頭イッてるゴブなあ! いい意味で、いい意味でね?
『私はどう思われてもかまいません。だって私、ゴブリオさんとオクデラさんに何度も助けられて……だから、いいんです。二人がいなければ、私は生きてませんでしたから。ご心配、ありがとうございます』
シニョンちゃんは強かった。
ニンゲンのことがまだ怖い、はずなのに。
俺とオクデラのために。
いや、人里に入りたいっていう、俺のワガママのために。
『……そうか。覚悟の上であれば問題ない』
シニョンちゃんの決意を聞いて、隊長は重々しく頷いた。
つまり。
『奇妙な旅人たちよ。歓迎しよう』
『ははっ、ゴブリンとオークなんて村はじまって以来でしょきっと! ようこそ、ペシェールの村へ!』
よっしゃああああ! 俺、俺、堂々とニンゲンの村に入れるゴブな!
ありがとうシニョンちゃん!
ありがとうここを教えてくれた行商人!
ありがとうニンゲンを守るってアピールしやすくしてくれたオオカミたち! お前らの犠牲は忘れないゴブ! あと死体漁りも忘れないゴブ! アピールチャンスとお金をくれるなんてできたオオカミゴブなあ! ゲギャギャッ!
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