THE ZERO/ONEが文春新書に!『闇ウェブ(ダークウェブ)』発売中
発刊:2016年7月21日(文藝春秋)
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June 30, 2017 08:00
by 牧野武文
中国教育部(文部科学省に相当)は、教科書内に記載したリンクに問題が発生した2冊の教科書を使用停止にした。そして教科書内にURLやQRコードを記載しないように関係各所に通達したと『IT之家』『法制晩報』などが報じた。
問題が発生したのは、中学高校用の副教材『中国古代詩歌散文鑑賞』と高校2年生用教科書『生物3』の2冊。いずれも教科書内に参考資料として記載されているURLにアクセスすると、『中国古代詩歌散文鑑賞』の場合はアダルトチャットサイトに、『生物3』の場合は違法ギャンブルサイトに接続される。教育部では、この事件を受けて、すべての教科書の内容をチェックし、以後、URLやQRコードを教科書に記載しないように通達した。
ことの起こりは、法制晩報への読者からの情報提供だった。高校生の娘をもつ母である張さんが、自宅のPCで勉強をしている娘の姿を背中越しに眺めていた。すると、突然、娘のPCにアダルトサイトが表示されたのを目にした。半裸の女性の写真が並び、お金を払えば、その女性とビデオチャットが楽しめるサイトだった。驚いた張さんはすぐに咎めた。すると、娘は「自分はなにもしていない。教科書のURLを入力しただけ」と言う。
張さんが確かめると実際にその通りだった。娘が勉強していたのは、国語の副教材『中国古代詩歌散文鑑賞』。その15ページに諸葛亮孔明を讃える『武侯廟』という詩が掲載されている。その後ろに、参考として「歴朝歴代の武侯(諸葛亮)を讃える詩大全」へのリンクが記載されていた。娘は、このURLを入力しただけだった。
張さんは驚いて、この事実を法制晩報の編集部に連絡、問題の教科書も提供した。記者が確かめると、確かにアダルトサイトが表示される。
この教科書を発行している人民教育出版社は、中国の教科書出版社の最大手。以前は、中国教育部の直属の国家機関だった。大多数の学校が、国語だけに限らず多くの科目で、この人民教育出版社の教科書を採用している。その信頼ある教科書の中に、アダルトサイトへのリンクが記載されているということに関係者はショックを受けた。
問題の『中国古代詩歌散文鑑賞』副教材の15ページ。諸葛亮孔明を讃える詩『武侯廟』の参考として掲載されたリンクを入力すると、アダルトチャットサイトに接続された。
問題のアダルトチャットサイト。中国の掲載規制によりモザイクがかけられているが、写真は下着姿の女性たち。一定の料金を支払うと、その女性とビデオチャットが楽しめたという(Sina.cn)。
法制晩報の記者が問題のサイトを調査すると、サイトの所有者はminghui zhaoという英文名でサイトを開いていた。最新のアクセス日時は、1ヵ月前の1月17日。おそらく以前は武侯の詩歌を掲載していたが、このときにアダルトサイトに置き換えられたのではないかと思われる。
中国では、サイトを開設するには関係部署に申請を出し、責任者の身分証の写しと顔写真の提出が必要になる。また、サイトには責任者の実名、住所、電話番号などの連絡先を記載することが必要だ。記者が、記載されている電話番号に電話をかけてみたが、呼び出し音が鳴るだけで誰も出なかった。
記者は、インターネットの専門家である鄒良東(すう・りょうとう)氏に取材した。すると、善意の人がサイトアカウントの乗っ取りにあって改竄されてしまった可能性も否定できないものの、多くの違法サイト開設の典型的な手口だったのではないかと言う。
中国では、公序良俗に反するようなサイトの開設申請をしても、ほぼ100%許可が下りないので、まず、真面目な内容のサイトで申請を出し、許可が下りてしばらくは申請通りの内容のサイトを掲載する。その後、時機を見計らって、違法な内容のサイトに衣替えをするのだという。記者は、この問題を公安に情報提供し、問題のサイトは即座に開設許可が取り消され、閉鎖された。
その後、高校の生物の教科書でも、参考URLのリンク先が違法ギャンブルサイトになっていたという事態が発生して、教育部の通知に至った。
中国では、本来であれば開設許可の下りないアダルトサイトが近年増え続けている。特に動画共有サイトで女性が性的な内容をライブ配信するものや、女性とビデオチャットができるサイトが増えている。
発覚するたびに、開設許可が取り消され閉鎖となっているが、このような違法サイトが次から次へと現れる状況が続いている。短期間に大金を稼げることから、半年営業できれば充分一財産作れるのだという。公安は警戒を強めているが、しばらくの間はこのいたちごっこの状態が続くと思われる。
色情網站(seqing wangzhan):アダルトサイト。中国では、アダルトサイトの開設許可は100%下りないため、日本のような「18禁サイト」という考え方すらない。しかし、真面目なサイトで開設申請を出し、後から内容を入れ替えるという手法で、多くのアダルトサイトが登場している。子ども向けのフィルタリングも難しく、教育関係者は頭を悩ませている。
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