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イノベーション東北 - supported by Google

ケース#16

「これは多分、僕らが行ったほうがいいと思って」
――スマホアプリ「南三陸てくてくMAP」を作った4人組の本音とは

  • 宮城県 南三陸町
  • 掲載日 2014年11月18日


いりやどの募集に応じ、アプリ「南三陸てくてくMAP」を制作した4人。左から杉山慎誠さん、福澤準さん、北川尚宏さん、佐々木晴也さん

宮城県南三陸町の研修施設「いりやど」のサポーター4人が作ったというアプリを見て驚いた。

使い勝手と美しさが正しく共存するプロフェッショナルなインタフェース。地図上の写真つきアイコンを叩くと、宮城県南三陸町の、震災前にはあった光景や土地に伝わる言い伝えなどの情報が表示される。単に閲覧用アプリではなく、ユーザーが自由に情報を追加投稿することでコンテンツが増えていくCGM(Consumer Generated Media、消費者生成メディア)となっており、その仕様もテクノロジーに不慣れな人が直感的に使えるよう工夫されている。


「南三陸てくてくMAP」。いりやどの研修プログラム参加者が、町で出会った風景や物語をスマホやタブレットを使ってその場で投稿できる仕様となっている

聞けば、イノベーション東北のサイトを通じ、いりやどのコーディネーター・安藤仁美さんの書いたサポーター募集(「楽しくて、ちょっとハイテクで、かっこいい」コンテンツ作りを目指して)に応じた若者2人が、2014年春、怒涛の勢いで南三陸までやってきて、1泊2日の滞在期間中に仕様書を書きあげ、同夏の終わりには若者は4人に増えており、そして「できました」と、くだんのアプリの試作品を送ってきたらしい。彼らは一体、何者なのだろう。

消えゆく記憶をアプリを通じて残したい

普段は“面白法人”の代名詞で知られる会社に所属する4人。けれど今回の件は「会社は一切関係なし。週末や深夜など余暇だけを使ってやった」という。

いりやどは全国の若手に、東日本大震災の現場視察や、そこから立ちあがった地元事業者との出会い等を通じ、「生きる」ことについて深く考える機会を提供することを目的に立ちあがった施設。豊かな海や里山に恵まれた三陸沿岸地でのフィールドワーク、暮らし体験を通じて、地域に根差すキャリアやビジネスについて考える場でもある。

サポーター募集は、研修プログラムに参加した若者が各地でのフィールドワークの過程で撮った写真や、インタビューの内容が、バラバラなフォーマットで漫然と貯まっていく状況を解決したい。できれば、「スマホやタブレットを使い、宝探し感覚で楽しく歩きながら学べる簡単なアプリ」にし、若者が入力した情報を、「その場で発表して終わりではなく、いりやどの知的財産としてストックしていきたい」という内容だった。


いりやどのコーディネーター・安藤仁美さん(左)。三陸沿岸地でのフィールドワーク、暮らし体験を通じ、全国の若者に地域に根差すキャリアやビジネスについて考える機会を提供している(右)

東日本大震災から3年以上を経て、瓦礫の山は姿を消し、地域に起きたことを記憶に留めることは難しくなっている。ましてや今、初めて南三陸を訪れる人が目にするのは、単に更地であって震災前後をイメージすることは難しい。また、「お年寄りの口から語られる言い伝えや昔話は、その人がいなくなってしまえばもう誰にも語られることのない」ものとなってしまう。

4人は、そんな内容に胸打たれ、忙しい仕事の合間を縫って活動参加した。

・・・といった回答を想定しながら動機を問うと、返って来たのはこんな言葉だった。

「んー、最初は仕事でイノベーション東北のサイトリニューアルに関わることになったのがきっかけで」


北川さん(左)と杉山さん(右)。勤め先でも隣席に座っているという2人のやりとりは気心の知れた感じが見ていてなんとも心地いい

よくわかってる人はハイテクって言葉は使わないんですよ

無表情で淡々と話すのは技術部の杉山慎誠さん。「何事も使ってみないと、どうにもならないじゃないですか。なので、とりあえず使用感を試そうと自分がサポーター登録してみたんですよ。で、ついでにサポーター募集のページも見て、応募してみた」

これに慌てたのが企画部の北川尚宏さんだった。

「え?本当に申し込んじゃったの?なんで?」
「んー、まー、できそうだったから。あと、『楽しくて、ちょっとハイテクで、かっこいい』って何だよ、って」

職場でも隣席に済み、同じプロジェクトを回すことも多いという2人。この無茶ぶりを北川さんが見事に拾った。

「募集を読むとアプリを作りたいということなんですが、アプリのこととか最新技術のこととか、よくわかっている人はハイテクって言葉は使わないんですよ。それで、これは多分、僕らが行ったほうがいいと思って。じゃないと多分、外の業者さんに発注するにしても大変だろうから」

遠隔のテレビ電話のやりとりでは具体的に話を詰めるのは難しいと判断した北川さんと杉山さんは週末を使い、いきなり現地を訪ねる。それが2014年3月末の話だ。

「初日の昼にヒアリングして、その日の夜に仕様書を書いたんです。というか厳密に言うと書かされたんです(笑)」(北川さん)

別に納期のあるものでもないし、東京に戻ってからでもよかったのでは?と問うと、「いやー、でも杉山が、『明日までに書いてください。プロなんだから』って、寝かせてくれなかったんで」と言う。


「初日の昼にヒアリングして、その日の夜に仕様書を書いたんです」(北川さん)

そのとき書かれた仕様書がこちら。全15ページに及び、骨格は殆どできている。

ここまでのスピード感をもって動いたのは、さすがの杉山さんも被災地に行き、安藤さんの想いに胸打たれたから・・・「ていうか、趣味がプログラミングなんで」(杉山さん)

「いや、もちろんそれだけじゃないんです。話を聞く前に南三陸を車で回ってもらったんですが、更地に唯一残っている防災対策庁舎も取り壊されるという話を聞いて、情報をストックしていくことに意味を凄く感じたわけです」(北村さん)


南三陸の防災対策庁舎。町から瓦礫はなくなり、かさ上げしての宅地造成が進んでいる。震災発生時を知らぬ人にとって、その爪痕を想像することは難しい


佐々木さん(左)と福澤さん(右)。「このメンバーじゃなければできなかった」と北川さん

最近ここにUIの神がいるって聞いたんだけど、って

南三陸で、安藤さんとイメージのすりあわせをし、サーバー費用など最低限かかるコストや工数などについても具体化してきた2人。帰京後の動きも早かった。

当然ながらアプリ開発は、仕様書を書いてそれで終わりというものではない。さまざまな言語での実装に精通する「プログラムが趣味」の杉山さんも、表側のデザインまで全て自分だけでできるわけではない。普通に仕事として受けるとしたら、4~5名のプロジェクトチームで2カ月以上はゆうに要する開発案件。

「プライベートの時間をある程度、腹をくくって切り崩してくれる仲間が必要」と、北山さんは若手に声をかけてまわったが、なかなか適任が見つからず苦慮したという。

「そんなとき颯爽と現れたのが意匠部の福澤準さんとHTMLファイ部の佐々木晴也さんだった」(北村さん)


裏側のデータベースまで丁寧に設計されたアプリ。「仕事として受けたら4~5名で2カ月以上はゆうにかかかる」(北川さん)

が、これも、本人らに話を聞くとだいぶ様相が異なる。

「・・・違いますよ、仕事してたら杉山さんが、いきなり訪ねて来たんですよ」(福澤さん)
「え?そうなの?」(北川さん)

「そうですよ。突然来て“最近ここにUI(ユーザーインタフェース)の神がいるって聞いたんだけど、って(笑)」(福澤さん)
「僕も同じ感じです。僕の場合は大学の先輩がいりやどで働いているというつながりをどこで調べたか握られていまして」(佐々木さん)

熱いのか何なのか、よくわからない。ただ言えるのは、「この3人じゃないとできていないアプリだった」(北川さん)ということ。「開発というのはチームを組んだ時点で上手く行くかが決まる。その意味では今回の3人は、社内でも一緒にやりたがるメンバーの多いチームだし、仕事の外で地域と関わり誰かの役に立てたっていうのと同じくらい、このメンバーとやれたことも自分にとっては価値あることだった」(北川さん)

「この3人じゃないとできていない」。とは言え、開発に際し、上手く進まない場面はなかったのだろうか?「ないです。そう(破綻しないように)作ってるんで」(杉山さん)


アプリは「安藤さんに直接、見せてからローンチする」(北川さん)という。その日に向けて既にダウンロード用のウェブサイトまでできている

普段、当たり前にしていることで人から感謝される。それがスキルを磨く動機にもなる

話を聞く限りでは、“巻き込まれた”感の強い2人にも感想を聞いてみた。

「いや、先輩とか関係なしに、本当にやってよかったです。自分の場合は普段、プロモーション用のアプリ開発に携わることが多いので、ユーザーの使い方を直接的にイメージしながらモノづくりのできる機会が少ない。使ってくれる人の顔を具体的に考えながら形にしていく経験はお金では買えないものだったと思っている」(佐々木さん)

「自分もそれは同じです。安藤さんら、いりやどの人たちが『凄いね』『本当にできるんだね』と興奮していたという話は伺っているんですが、このあと、使い方の説明を兼ねて皆で南三陸に行くつもり。それで対面で納品したら、もっと実感が湧いてくるんだろうなと」(福澤さん)

ちなみに今後はどうだろう。4人はまた、別な誰かのチャレンジをサポートするのだろうか。

「僕はやりますね。地域の未来を考える活動に興味があるし、たとえば日本酒のラベルを作って、お金ではない対価、たとえば現物支給でお酒をもらうような枠組みにもっと参加していきたい」「あと若いメンバーに、もっとこういうのに参加したほうがいいということも言っています。ウェブでもアプリでも仕事でやると“できて当然”ということが、プロボノですると感謝される。感謝されると、もっと多くの人に喜ばれるためにスキルを磨いて行こうという意欲にもつながる。そういう好循環を感じたので、どんどん宣伝しています」

熱く語る北川さんに対し、この人、杉山さんが、やはりふるっていた。
「いや特に」。そう言いながら、きっとやるんだと思うけど。

(取材・文 加藤小也香)

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チャレンジオーナー

  • 南三陸まなびの里 いりやど

サポーター

  • 福澤 準,杉山 慎誠,佐々木 晴也,北川 尚宏

コーディネーター

  • 伊藤孝浩
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