“真っ黒”なサイト その意図は?

“真っ黒”なサイト その意図は?
トップページにある「ENTER」の文字をクリックすると…真っ黒な画面。これはIT大手のヤフーが公開しているホームページです。7月2日に投票が行われる東京都議会議員選挙を前に立ち上げられたこのサイト、あるメッセージを込めて制作されました。(ネットワーク報道部・清有美子記者)
東京都議会議員選挙の投票が7日2日に行われます。告示の前日の6月22日、IT大手のヤフーは、インターネット上である「特設サイト」を開設しました。

“真っ黒”なホームページ その意図は?

東京都議会議員選挙の投票が7日2日に行われます。告示の前日の6月22日、IT大手のヤフーは、インターネット上である「特設サイト」を開設しました。
このサイト、通常のサイトとは少し異なります。トップページは真っ黒な背景に、「東京都議選特設サイト」の文字。「ENTER」をクリックすると、真っ黒な画面が表示されます。よく見ると、下の方に「何も見えないと思った方は、ここをクリック」の文字が。その部分をクリックすると…『選挙には、見えない格差がある。視覚障害者にとって』と始まる文章が現れます。そこには、視覚障害者が選挙に参加する難しさが書かれています。
ヤフーのテストページ ※音声あり(実際の選挙は関係ありません)
真っ黒な画面は、視覚障害者がインターネットを使って選挙に関する情報を探そうとする際、実際にどのような経験をするのか、広く知ってもらおうという目的で作られました。

“選挙情報にアクセスできない”

駒澤 史さん
東京都内に住む会社員の駒澤史さん(50)は、難病で生まれつき目が見えにくく、20代後半で視力を失いました。成人してから失明したため、点字は苦手で日常的には使っていません。ふだんは、インターネット上の文字を音声で読み上げるソフトを使い、生活に必要な情報を得ています。

選挙の前には国や自治体の選挙管理委員会のホームページから候補者に関する情報を探しますが、候補者の名前や政策などが詳しく紹介されている「選挙公報」のページを開こうとすると、ソフトは「このページにはテキストがありません」と読み上げるだけ。何が書かれているのか、知ることができません。

「選挙公報」は文書全体が画像化されたPDFファイルという形式で掲載されています。いわば、文章が写真として撮影されているのと同じことなのでソフトが文字を認識できないのです。

駒澤さんはこうした現状について「疎外感を感じます。東京都や国が出している情報なのに視覚障害者への配慮がありません。障害がある自分たちが、投票権を持っていると思っていないのではないかと感じてしまいます」と話しています。

なぜ選挙公報は“PDF”?

なぜ、選挙公報は画像化されたPDFファイルで掲載されているのか。複数の自治体に取材すると、5年前に総務省が出した通知が影響しているといいます。通知の中で総務省は、選挙公報が改ざんされるのを防ぐため、ホームページ上には選挙公報をPDFファイルで、「そのまま」掲載するよう求めています。
総務省の通知(平成24年3月29日)
PDFファイルは、1枚の画像として処理したものと、文字情報を残した形式のものと主に2種類あります。文字情報を残したものであれば、視覚障害者が利用するソフトでも音声を読み上げることができます。総務省は、PDFの具体的な形式については定めていませんが、多くの自治体が、改ざんされないよう画像化されたPDFを利用していて、視覚障害者はそのままでは選挙公報の情報にアクセスできないのです。

独自の取り組みを始める自治体も

こうした現状を変えようと一歩進んだ取り組みを試験的に行っている自治体も出てきています。

千葉市選挙管理委員会は、視覚障害者団体からの要望を受け、2年前の統一地方選挙から選挙公報を音声化したファイルを「選挙のお知らせ」としてホームページに載せ、誰でも聞けるようにしています。
千葉市選挙管理委員会のホームページ
市議会議員選挙では音声ファイルへのアクセス数は691件に上ったといいます。千葉市では選挙期間中に障害者団体に登録している視覚障害者およそ250人に選挙公報を音声にしたCDやテープを配布しています。その数を大幅に上回るアクセスがあったことについて担当者は「障害者団体に登録していない目が不自由な人や、お年寄りが利用してくれたのではないでしょうか。需要は間違いなくあると思います」と分析しています。

総務省の見解は…

しかし、懸念もあります。総務省は音声ファイルの読み上げの時間に差があることは、候補者間の公平性を保てず、選挙管理委員会が行う便宜供与の範囲を超えるのではないか、という見解を示しているのです。

インターネット上にある選挙公報はソフトを使っても音声化できない…、音声ファイルとしてインターネット上に公開する自治体もほとんどない…。

総務省の通知は自治体を対象にしたものです。ヤフーの特設サイトでは、選挙公報の内容を文字で打ち直し、候補者の経歴や政策をソフトを使って音声として読み上げられるようにしています。

総務省の担当者は取材に対し、視覚障害者に選挙の情報が十分に行き届いていない現状を認識しているとしたうえで、「ネットで公開している選挙公報を視覚障害者向けの音声読み上げソフトに対応するようにすることや音声ファイルを公開することについては、候補者同士の公正、平等を考え慎重に検討する必要がある」としています。

専門家「総務省は対応改善の検討を」

国連の障害者権利委員に日本人として初めて選ばれ、内閣府の障害者政策委員会の委員長を務める静岡県立大学教授で自らも全盲の石川准さんは「候補者の公平性を保つことを理由に障害者の選挙参加の権利が置き去りになっていることは間違っている」と指摘します。
石川 准 教授
日本も平成26年に批准した障害者の差別禁止や社会参加を促す「障害者権利条約」では、障害者が情報を自由に求めて受けとれることや、政治的権利やその機会を保障することに対し、国が適切な措置を取るよう求めています。

石川教授は「国は視覚障害者の選挙公報へのアクセスを可能にするべきだ。国は現在、障害者施策の方向性を示す新たな「障害者基本計画(第4次)」の議論を進めている。総務省には現状の説明を求め対応の改善に向けて検討することを申し入れたい」と話しています。