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 共産党の一党支配を墨守し、今なお民主化にたがをはめ、十分な人権を保障しない。

 そんな大国・中国の体制に異議を唱える勇気ある人びとのなかで、ノーベル平和賞を受けた劉暁波(リウシアオポー)氏(61)は最もよく知られた人物である。

 長年獄中におかれていたが、その間に肝臓がんが悪化し、仮出所して瀋陽市内の病院に移されたことがわかった。

 そもそも投獄されたことも、そして病状への対応も、きわめて不当な人権侵害である。中国政府は即刻、万全の救済措置をとらねばならない。

 劉氏は鋭い文芸評論で1980年代から活躍した。89年の天安門事件で学生の側に立ち、幾度も投獄の憂き目に遭った。

 2008年に、民主化を真正面から求める「08憲章」を知識人ら300人超の連名で発表した際に中心的役割を担った。

 これにより「国家政権転覆扇動罪」で懲役11年の判決を受けた。10年に受けたノーベル賞の式典には出席できなかった。

 弁護士らによれば、先月下旬に末期がんと診断され、「刑務所内の医療施設では対応できない」として仮出所になった。

 現在は専門医が付いているというが、劉氏はかなり前から体調不良を訴えていた。病状が深刻になるまで放置していたとしか考えられない。

 容体を案じる欧米諸国が中国当局に対し、国外への移送と治療を提案している。習近平(シーチンピン)政権は早急に検討すべきだ。

 劉氏が声を上げた08年当時はまだ、民主化を議論する余地があった。政治改革を声高に主張するのは難しくても、各地域で庶民の権利を守ろうと活動するNGO、弁護士らがいた。

 その後、状況は明らかに悪化している。今ではネット規制や大学への管理強化を通じて、知識人は沈黙を強いられている。人権派弁護士は次々拘束、訴追された。これでは、各地で土地収用や環境汚染などの問題に直面する庶民に寄り添う者がいなくなる。

 劉氏の問題は、中国の人権状況を象徴する問題である。中国は国際人権規約に署名し、04年の憲法改正で「国家は人権を尊重し保障する」と明記したが、現実は逆行している。

 劉氏らが高らかに掲げた「08憲章」は、「人類の平和と人権の進歩に貢献すべきである」と記した。きびしい弾圧の下でも世界の市民とともに理想を追おうとした決意が重く響く。

 日本を含む国際社会はもっと大きく声を上げ、習政権への働きかけを強めねばならない。

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