記憶をたどってみると、文在寅(ムン・ジェイン)大統領が脱原発に初めて本格的に言及したのは2012年のことだった。当時は大統領選挙を前で、福島原発事故発生後の日本を訪れた時だ。数日間はニュースになったが、それだけでその話題は出なくなり、文大統領は同年の大統領選挙で落選、脱原発の話もなくなった。それから文大統領が再び脱原発について語るのを聞いたのは昨年冬、韓国映画『パンドラ』の試写会場だった。この映画は、地震で原発が爆発して深刻な被害が出たのに、政府は無能だったというストーリーだ。文大統領はこの映画を見て、「たくさん泣いた」と言った。しかし、原子力専門家らはこの映画を「とんでもない内容だ」と酷評した。映画は観客動員のため極端な状況を設定し、大きく誇張することが多い。それにもかかわらず泣くとは、フィクションを事実のように感じて受け止めてしまっているようだ。一般人ならよくあることだろうが、大統領がこの映画を見て感じた心情のままに国家政策を左右しようというなら尋常なことではない。
事実、文大統領は就任して1カ月余りで脱原発政策を発表した。この脱原発政策は、政策そのものが与える衝撃よりも、そのプロセスの方が衝撃的だ。文大統領自身の原子力知識が『パンドラ』以上とは言いがたいだろう。文在寅陣営の環境・エネルギーチームにも原子力専門家とされる人はいない。責任者は李明博(イ・ミョンバク)政権の「4大河川整備事業」に反対した河川環境専門家だった。エネルギー関連公約では、環境活動家1人と微生物学専攻の医学部教授が関与していたという。このとんでもない政策を発表しておきながら、どんな人々がどのような根拠で決定したのかについては、まだ明確な説明がない。このため、環境に対して偏見を持つ何人かが集まって「なにか一発やってやろう」という調子で決定したのが「脱原発」なのではないかという懸念が頭の中から消えない。