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漠としたイメージとしての失言

2017年6月30日(金)

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 稲田朋美防衛大臣が都議会議員選挙の応援演説の中で、失言を漏らした。
 朝日新聞が伝える当日の演説の要旨は以下の通りだ。

《東京都ではテロ対策、災害、首都直下型地震も懸念される中、防衛省・自衛隊と東京都がしっかりと手を携えることが非常に重要だ。地元の皆さまと国政をつなぐのは自民党の都議会の先生しかいない。(演説会場の)板橋区ではないが、隣の練馬区には自衛隊の師団もある。何かあった時、自衛隊がしっかりと活躍出来るためには、地元の皆さまと都民の協力、都議会、都、国のしっかりした連携が重要だ。下村(博文)先生との強いパイプもあり、自衛隊・防衛省とも連携のある○○候補(※実際の演説では実名)をお願いしたい。防衛省、自衛隊、防衛大臣、自民党としてもお願いしたい。》(ソースはこちら

 素人目に見ても、あり得ない発言だ。
 なにしろ、現職の防衛大臣が
 「防衛省、自衛隊、防衛大臣、自民党としてもお願いしたい」
 と、はっきりと個々の役職や組織の固有名詞を具体的に列挙して、その名前において特定の政党の候補への応援を要請してしまっている。これは取り返しがつかない。

 この中の、
 「防衛大臣として」
 の部分が、「公務員等の地位利用による選挙運動の禁止」を定めた公職選挙法に違反することは、公務員であれば誰でも知っていることだ。

 私の知るかぎり、公務員は、自分の役職にかかわる形で選挙に関与することを極力避けようとする人たちだ。過去において、選挙の応援がアダになって職を失ったり懲戒処分を受けた先達がたくさんいることを、彼らはよく知っている。その意味からすると、公務員がその地位の名において選挙運動をしないことは、寿司屋の板前がトイレで用足しした後にいきなりシャリを握らないことや、ガソリンスタンドの従業員が給油口の前でタバコを吸わないことと同じく、職務遂行上の大前提に属する話だ。

 それを、大臣の立場にある人間が、公衆の面前であっさりと無視してのけたわけだ。

 「自衛隊として」
 の部分は、さらにスジが悪い。

 防衛大臣が全自衛官を代表しているかのように聞こえるこの言葉は、同時に、自衛隊のトップである防衛大臣が、部下たる自衛隊員の投票行動をコントロールする意味を持っている。それ以上に、自衛隊という国家にとって唯一無二の実力組織を、防衛大臣が、選挙のために利用することを示唆したこのもの言いは、自衛隊を「私兵化」していると言われても仕方がない。

 ちなみに言えばだが、自衛隊の私兵化は、より大げさな言い方では、日本の国家権力に対する「簒奪」、てな話になる。

 もちろん、稲田防衛相は簒奪を宣言したわけではない。私自身も、彼女がそんな意思を持っているとは考えていない。

 しかしながら、稲田防衛相のこの日の発言が、そう思われても仕方のない内容を含んでいたことは事実で、とすれば、これは「口をすべらせた」とか「うっかり言い過ぎた」というレベルの「失言」で済まされるものではない。より深刻かつ異様な「暴言」ないしは「違法行為」と呼ばれるべきものだ。

 ことここに至った以上、政権のとるべきリアクションは、辞任の一択だと思うのだが、どうやら、そういうことにはなっていない。

 なぜだろう。

 どうして安倍政権は、度重なる失言や失策が伝えられているこの大臣をその椅子に縛り付けておこうとするのだろうか。

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「漠としたイメージとしての失言」の著者

小田嶋 隆

小田嶋 隆(おだじま・たかし)

コラムニスト

1956年生まれ。東京・赤羽出身。早稲田大学卒業後、食品メーカーに入社。1年ほどで退社後、紆余曲折を経てテクニカルライターとなり、現在はひきこもり系コラムニストとして活躍中。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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