サザエbot考察② 気持ち悪いほど巧妙な4つの心理術
さて、前回はサザエbotの特徴とオワコン化させない秘訣について考察してみた。今回はそれを更に掘り下げてみよう。
長年ソーシャルメディアマーケティングに関わってきた私の目から見ても、サザエbotは非常に興味深い。なぜならサザエbotはマーケティングにおける4つの重要ポイントを完璧に押さえているからだ。
今回は順を追ってそれらを紹介していこう。
①ハロー効果
恐らく耳にしたことのある人も多くいるだろう。ハロー効果とは、ある人物の優れた部分を目の当たりにすると、無意識的にその他の部分まで優れて見えてしまう心理効果のことをいう。
例えば私たちは、初対面の人が東大卒であったり、字が綺麗だったりすると、それだけでその人物が人格的にも優れていると思い込んでしまう。有名企業がテレビCMで好感度の高いタレントを起用する理由も、ずばりこの効果を狙っているからだ。(特に日本人はこの影響を受けやすい。)
サザエbotは「サザエさん」という圧倒的知名度・好感度を誇る国民的キャラクターの仮面を被っている時点で、究極のハロー効果を得ている。
また、ハロー効果のハローとは「後光が差す」という意味だ。震災後、サザエbotはまさに後光が差したようなアイコンを使用していたが…これは確信犯だろうか?
②カクテルパーティ効果
カクテルパーティ効果とは、たくさんの人がそれぞれに雑談している中でも、自分が興味のある分野の会話、自分の名前などは自然と聞き取ることができる効果のことをいう。
膨大な情報が流れるタイムラインはまさにパーティと酷似した状況だ。サザエbotはここで見事に「ピンポイントで語りかける」という手法を使っているから驚きだ。
例えばこのツイートを見てみよう。
カツオ?その課題は明日に持ち越しちゃダメよ。今目の前の課題を明日に持ち越してしまうようなあなたが、明日には課題を与えられてすぐにこなせるほど成長してると思う?一晩寝ただけで、あなたがそこまで覚醒してると本気で思う?
— サザエbot[自動投稿中] (@sazae_f) November 11, 2013
こうしてサザエbotが語りかける「ワカメ?」や「カツオ?」は、前提として「Twitterユーザーに多くいそうな人物」であるケースが非常に多い。しかも憎いことに、このツイートは平日の夜22:00頃に投稿されている。まさに「課題を明日に持ち越したくなる時間帯」だ。これにより多くのユーザーは「私にいっているのではないか?」と思い込み、数多の情報の中から無意識的にサザエbotのツイートに注目してしまうのだ。
③バンドワゴン効果
バンドワゴン効果とは、あるものごとが大勢に受け入れられている、流行っているという情報が流れることで、そのものごとへの支持が一層強くなる効果のことをいう。
サザエbotのお気に入り項目を見れば一目瞭然だ。サザエbotは意図的に自身に関する評価をお気に入り登録し、場合によってはそれをリツイートすることでイメージアップを計っている。これはメルマガや書籍を出版するユーザーや大手企業がよく使うプロモーション手法だ。特に前回取り上げた ニコニコ超会議 #サザエbotを探せ で効果的に使われ、ついにはトレンドでトップの座に君臨した。
トレンド入りでございま~す!うふふふ~! #サザエbotを探せ #chokaigi pic.twitter.com/uzHa8FOY
— サザエbot[自動投稿中] (@sazae_f) April 28, 2012
④スノッブ効果
スノッブ効果とはバンドワゴン効果の反対で、流行れば流行るほど需要が減少する現象のことをいう。早い話が「他人とは違うものがほしい」という心理を利用した手法だ。
コラ!カツオ!Pink FloydのTimeを聴く時に、2分30秒の「Ticking away~♪」まで早送りするのはやめなさ~い!あの前奏があるからこそ、曲が引き立つのよ~!
— サザエbot[自動投稿中] (@sazae_f) July 22, 2012
国民的キャラクターである「サザエさん」がサザエさんらしからぬネタを口にすることの意外性、そしてそれはマニアックであればあるほど希少価値が高まる。尚かつこれを何十万人に向けて発しているのだ。「私にはこのマニアックなネタがわかる」と思ったら、記念にお気に入り登録したくなる。
そして驚くべきは、守備範囲の広さだ。サザエbotはマニアックネタをあらゆる方向に幅広く投稿している。音楽、アート、文学、数学、映画、ガジェット、テクノロジー、ファッション、料理から、下ネタに至るまで。こうして多くのユーザーは一気にサザエbotに親近感が湧き、他のつぶやきにまで興味が湧いてしまうのだろう。
バイラルマーケティングのお手本
以上4つを振り返って、改めて私はサザエbotを「バイラルマーケティングのお手本である」と評価したい。バイラルマーケティングとはfacebookの「いいね!」やAmazonの「この商品を友達に教える」を利用し、ユーザーからユーザーへバイラル(ウイルス、病原菌)のように感染させ、短時間で指数関数的に広めるプロモーション手法だ。早い話がソーシャルメディアを使った口コミである。
マーケティングにおける4つの重要ポイントを押さえたサザエbotのツイートは、どれも200回〜500回、多いもので6000回以上リツイートされている。そしてそれは名言bot、転載botにコピペされ、Naverまとめにまとめられ、今もなお拡散され続けている。
コラ!スタートアップ企業!同業種や身内にいいねボタンを押してもらっただけで評価された気になってるようじゃイノベーターとマジョリティの間にあるキャズムは乗り越えられないわ!まず対象をマジョリティに移行させることを考え、その後強い購買ニーズをもつ顧客セグメントに絞り集中させるのよ~!
— サザエbot[自動投稿中] (@sazae_f) February 20, 2012
イノベーター理論をツイートしてるあたり、やはりプロの犯行なのだろうか?
かくして私も早速サザエbotに仕掛けられたこのスノッブ効果に食いついてしまった訳だ。悔しいが、キャズムを越えてどこまでも走り続けるサザエbotからは、まだ当分は目が離せそうにない…。
と、サザエbotの中身が自演してみた。