もう加計と決まったから「一校のみに」と苦渋の要請を山本大臣に行った:日本獣医師会

山本地方創生担当大臣は行政手続法を理解しているのか、疑問が浮かび上がってきた(写真:Natsuki Sakai/アフロ)

「12月8日の要請で、1カ所1校のみというのを入れた。もう11月9日に『広域的に獣医師系養成大学等の存在しない地域に限り』となりましたから、実際に『加計』かどうかは書いていませんが、ほぼ決まったと。 

パブコメは「反対」で出したが、次々とできるのは困るので、苦渋の選択として、『1カ所1校のみにしてくれ』というのを12月8日に出した。これは以前、成田市で国際医療福祉大学の医学部新設が国家戦略特区で認められた時に、(告示に)『1校に限り』と書いてあったんですね。私たちもその前例に倣って出したのが12月8日です。」

そう筆者に語ってくれたのは、公益社団法人「日本獣医師会」の境政人専務理事だ。

既報「総理大臣名の告示『1校に限り』を新たなご意向で『全国展開』か」に対して、「ご参考ください」とツイッター上で情報提供があり、辿るとそれは、今年3月21日に開催された獣医師会の「平成28年度第5回理事会」の会議報告だった。

6 国家戦略特区に関する件」として次のように書かれ、その後、1月4日に告示があったことの報告が続いていた。

(1)境専務理事から,国家戦略特区についての本会の取組みとして,以下について説明された.

1.平成28年12月8日付け28日獣発第230号「戦略特別区域による獣医学部の新設に関する要請」をもって,山本内閣府特命担当大臣あて,獣医学部の設置認可申請があった際は,国際水準の獣医学教育の提供は無論,当該獣医学教育施設及び体制が閣議決定した4条件を満たすか否か,内閣府,文部科学省,農林水産省等で厳しく審査すること,さらに今回決定された「広域的に獣医師養成系大学等の存在しない地域」を1カ所かつ1校のみとすることの明記を要請した.(筆者、太字、改行変更)

「平成28年12月8日付け28日」という書き方では時系列が分からないので、問い合わせることにした。対応してくれたのが、境専務理事本人だった。

安倍首相ら4大臣と有識者に要請した出した

その話をまとめると、以下の通りである。

「日本獣医師会は、2016年11月9日開催の「第25回 国家戦略特別区域諮問会議」で、「国家戦略特区における追加の規制改革事項」が決定された時には、特区で獣医学部を新設することには反対だった。

特区による獣医学部新設はなじまないという主張です。もともと獣医学教育を国際水準のものにすることを、(獣医師会は)半世紀余りやってきたんです。たとえば16大学あるものを統合して、人材を集めたり、施設を高度化したり、欧米なみの獣医学教育を実現しようという活動やってきたんです。

そこで、11月18日から12月17日のパブリックコメントが行われた時には、地方獣医師会や16大学に、獣医師会の考え方を添付した上で、パブコメに意見を述べて下さいとお願いをした。

同じものを、安倍総理とか、山本地方創生担当大臣、山本農水大臣とか文科大臣とかにも出したし、竹中平蔵議員とか八田議員や有識者にも出しました。11月28日付けです。 」

その文面を送ってもらうと、それは、11月9日の「国家戦略特区における追加の規制改革事項」を受けた形で、それが、石破4条件(2016年6月30日閣議決定の「日本再興戦略」改訂2015)に「該当」しないことと共に、「愛媛県・今治市が提案する獣医系大学の構想」を検証した結果、新規性はなく、既存16大学で既に取り組んでいるものであることを述べている。また、根拠データを添付して、「獣医は不足していない」ことを述べている。

そして、有識者が諮問会議で、「従来あるあまり競争力がない獣医学部を退出させるメカニズムを考えていくべき」と発言するなど、獣医学教育の現状や獣医師の職域・需要動向などの知見を全く有しない議論に基づき制度改正が決定」されたと批判している。以下の通りだ。

日本獣医師会11月28日付け文面より抜粋(赤線筆者加筆)
日本獣医師会11月28日付け文面より抜粋(赤線筆者加筆)

境専務理事は、こうしたパブコメの働きかけや4大臣への要請を行ったのは、「獣医師会はまったく意見を述べる機会がなかったものですから」と語った。

2度目の苦渋の要請は、12月8日に山本地方創生担当大臣だけに

さらに、同じパブコメ期間中に、パブコメとは違う要請を12月8日に行っていた。その理由と中身は、境専務理事によれば、次のようなものだった。

「獣医学部を特区で作られると、人的資源も分散する。11月9日の時点では反対だったが、もう決まってしまった。11月9日に『広域的に獣医師系養成大学等の存在しない地域に限り』となりましたから、実際に『加計』かどうかは書いていませんが、ほぼ決まったと。 パブコメは「反対」で出したが、次々とできるのは困るので、苦渋の選択として、「1カ所1校にみにしてくれ」というのを12月8日に出した。これは以前、成田市で国際医療福祉大学の医学部新設が国家戦略特区で認められた時に、(告示に)『1校に限り』と書いてあったんですね。私たちもその前例に倣って出したのが12月8日です。」

つまり、日本獣医師会は、1カ月のパブコメ期間に2度の要請を行った。

1度目は11月28日。「基本的には反対意見を述べる」趣旨の要請を4大臣に。それと同じ内容をパブコメに込めた。

2度目は12月8日。「実質11月9日で、もう決まった形に読めるので、念のために、次善の策として、やむを得ず、作るなら1校にしてくださいと」要請したのだと境専務理事は述べた。要請のタイトルは、「国家戦略特別区域による獣医学部の新設に関する要請」だ。中身は、次の2点だという。

1.仮に国家戦略特別区域諮問会議の決定に従い、地域が指定され、獣医学部の認可申請があった場合には、国際水準の獣医学教育を提供と、当該獣医学教育施設および態勢が、閣議決定4条件を満たすよう、厳しく審査してください。

2.『広域的に獣医師系養成大学等の存在しない地域に限り』とは、1カ所かつ1校であることを公的に明確にしてください。

「それで1月4日の告示になった」という境専務理事は、この時に要請した相手は「山本幸三大臣だけですね。権限は彼のところにしかありませんので」と述べた。

行政手続法の不適正利用

行政手続法は、「行政運営における公正の確保と透明性(行政上の意思決定について、その内容及び過程が国民にとって明らかであること)の向上を図り、もって国民の権利利益の保護に資することを目的」とした法律だ。その意思決定の経緯が、国民に明らかでなければならない。

内閣府のパブコメ画面
内閣府のパブコメ画面

ところが、ここまでで述べてきた「パブコメ」は、この行政手続法に基づいたものでありながら、その目的に適った使い方には反していることが見えてきた。

まず第一に、今回は、政策決定過程で、一番の利害関係者であると言ってもよい「獣医師」の団体に正式に意見を聞かずに行ったものだった。第二に、にもかかわらず、内閣府は告示の案を「概要」でしか出さなかった。国民の目からは、「1校のみ」という文言が、「告示案」の段階で既にあったか、あったのに「概要」ではしょったのか、または、パブコメで意見を反映して加えられたのかが、まったく分からない。

告示案の概要
告示案の概要

パブコメには目もくれず、「1校のみ」の加計学園ありきか

さらなる問題は、「1校のみ」と要請を行った獣医師会自体が、パブコメでは「反対」意見のみで「1校のみ」とは書かなかったとしている。実際、内閣府がまとめた結果でも「1校のみ」という意見は寄せられていなかったことが分かる。

すると、内閣府(告示を行った安倍首相と文科大臣)は、パブコメ期間に、パブコメとして出された様々な意見ではなく、国民の目からは見えない「1校のみ」にと、日本獣医師会が山本地方創生大臣に行った要請~行政手続法ではない陰のルートで行われた要請~にだけ応じたことになる。それは何故なのか。

残念ながら、「1校のみ」を入れたのは誰で、どの段階なのかは、未だに明らかではない。何故なら、内閣府の担当者が「不在」と「休日」によって、「1校のみ」という文言が「告示案」の段階で既にあったのかなかったのか、「概要」ではしょったのか、または、パブコメで意見を反映して加えられたのかという取材に、一切、回答がないからだ。

繰り返す。

告示案ですでに「1校のみ」と入っていたなら、安倍総理が「獣医師界からの強い要望をふまえ、まずは1校だけに限定して特区を認めました」(産経新聞)ということは虚偽になる。

あるいは、一部に利して、その他に不利益を与える事項「1校のみ」を告示案で隠していたのだとすれば、行政手続法の目的に反した運用であり、内閣府の落ち度である。

あるいは、パブコメ期間後に「1校のみ」が始めて加わったのであれば、それは行政手続法に基づいて寄せられた以下のような意見には耳を傾けることなく、政治的に山本大臣に要請があった「一校のみ」が受け入れられたことになる。そしてそれが、行政手続をまったく無視した形で、正式な告示となったことになる。そして、それが「加計学園」ありきにつながったと言える。

上記3つのどれでも問題は大きい。そして、果たしてどれなのかが分からない、それ自体が問題である。

既存の大学への助成等(獣医学部の定員増を含む)による教育基盤等の充実の方が効率的である。(同旨のご意見:161件)

●獣医師の需給については、獣医師の職域・地域偏在が課題なのであって、獣医学部の新設では対応出来ない。(同旨のご意見:123件)

広域的に獣医師系養成大学の存在しない地域に限定する要件平成30年度開設に限定する要件不要ではないか。(同旨のご意見:47件)

(既報総理大臣名の告示「1校に限り」を新たなご意向で「全国展開」かより再掲)