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第三話 ニンゲンのピンチにゴブリオ参上! ここは俺に任せて先に行くゴブ!
「よーし、野ウサギゲット! この辺のウサギは角が生えてないゴブなあ」
「ゴブリオ、スゴイ! オデ、ウサギ、逃ゲラレタ」
行商人の若い男に教わった漁村に向かって、俺たちは旅を続けてる。
三日ぐらいって言ってたから、もうすぐ見えてくると思うんだけど。
食料はあるし狩りをする必要はないのに、ウサギを見かけたら狩っちゃうあたり俺もずいぶんサバイバルライフに慣れてきたらしい。
「オクデラ、気にすることないゴブ。でかい獣はオクデラの方が仕留めてきたから」
「オデ、前、剣シカ、殺ッタ」
「そうそう! コイツはただのウサギだし、剣シカを殺れるオクデラの方がすごいゴブ!」
「……ヘヘ」
俺の言葉に照れてはにかむオクデラ。
タワーシールドとメイスを持ったオクデラは、ちょっと自信がついてきたみたいだ。
アニキが強敵って言ってた剣シカを一人で狩れたんだし当然なんだけど。
俺は罠を用意しなきゃまだ剣シカを狩れないぐらいだし。
ほら、相性、相性の問題だから! オクデラは野ウサギに逃げられてたし! 素早くて小さいヤツ相手なら俺の方が強いから! ほら俺ちっちゃいし! オクデラでっかいし! いや体のハナシね? 体のハナシだよ?
【ゴブリン語】で話す俺たちを、ニコニコと微笑んで見守るシニョンちゃん。
あいかわらず話はわからないみたいだけど、「仲良しなんですね」とか思ってそうだ。
うん、否定はしない。
なんだかんだオクデラとの付き合いも長くなってきたし。
俺のゴブ生のほとんどはオクデラと一緒にいるゴブなあ。
『もうすぐ漁村ですね! ゴブリオさんもオクデラさんも入れるといいですね!』
港町から離れて、シニョンちゃんは機嫌がいい。
ニンゲンが多い街から離れて、また俺とオクデラとシニョンちゃんの三人になったからだろう。
それに港町にはサハギンとか人魚とかリザードマンとか、シニョンちゃんが怖がってるニンゲン以外の種族もいるって言うし。
『入れる、いい、ゴブ』
たどたどしい【人族語】でシニョンちゃんに返す俺。
くっ、いい加減【人族語】はレベル2にならないゴブか? もどかしいゴブ! でもオクデラは【ゴブリン語LV1】しかないからずっとこの気持ちだったわけで! しっかり伝えることさえ大変なわけで! オクデラ、がんばってきたんだなあ……。
いま俺とオクデラは、寝る前に言葉を勉強してる。
オクデラは【ゴブリン語】と【人族語】を、俺は【人族語】を。
シニョンちゃんは【ゴブリン語】を勉強しないのかって?
俺が止めたゴブ! 俺たちと話しやすくなるかもしれないけど、野生のゴブリンの言葉がわかっちゃったら大変だからね! アイツら「男は殺せ! 女は犯せ!」だから! シニョンちゃんを見たら絶対ゲスな発言しかしないゴブ! あ、俺もでしたわ! ゲスな発言だらけですわ! ゲギャギャッ!
でも、あの若い行商人からシニョンちゃん用のビキニを買わなかっただけ偉いと思う。
見たかったけど、見たかったけどね!
単にお金が足りなかっただけで、漁村に入れたらお金を貯めて買おうと思ってることはナイショだ。
あの行商人に見せるつもりはないけど。
そういえばあの行商人の名前聞くの忘れて……まあまた会えるゴブな、たぶん。
港町から漁村へは、細い道が続いている。
海岸ぞいなのにゆるいアップダウンが多くて、海岸は砂浜と岩場と崖が繰り返す感じだ。
のんびり歩く俺たちが丘を越えると。
下った先に村が見えてきた。
『ゴブリオさん、漁村ってあそこじゃないですか!?』
『そう思う、ゴブ!』
目的地が見えてはしゃぐシニョンちゃんと俺。
丘の上から見下ろすと、奥には青い海。
漁でもしているのか、海には小さな舟が浮いている。
村の内側には桟橋っぽいのもあって、そこにも小さな舟がある。
うん、漁村っぽいゴブな!
漁村は、海岸線以外は木の柵で囲まれてるみたいだ。
木の柵の外側、俺たちが歩いてる道の方には麦畑っぽいものが見える。
その手前は俺たちがいる丘と同じような草原で、そこには何人かのニンゲンがいた。
あとオオカミっぽいヤツが何匹も。
……え? オオカミ? ニンゲンのまわりに?
『ゴブリオさん、あの人たち、襲われてます!』
ですよねえ! ニンゲン、完全にオオカミに囲まれてるゴブ! 木の柵があるんだし、警備の人はいないゴブ? ああ、麦畑がジャマで見えてないのか! 物見台ぐらい作っておくべきでしょ! ニンゲン賢くないゴブなあ!
『俺、行く。シニョン、後から!』
『あっ、待ってくださいゴブリオさん!』
「オクデラ、オオカミ狩りだ! ニンゲンから攻撃されないように気をつけるゴブ!」
「ワカッタ、オデ、気ヲツケル!」
俺はシニョンちゃんを置いて走り出す。
オクデラがドタドタ走る音が後ろから聞こえてくる。
走りながらニンゲンの様子を【覗き見】する俺。
オオカミに囲まれたニンゲンたちは二人。
一人はまだ子供っぽくて、もう一人はその子供を守るように武器を構えてる。
武器を構えるニンゲンは戦えるっぽいけど、完全に包囲したオオカミに翻弄されてる。
くっそ、オオカミたち頭よさそうゴブなあ!
丘を駆け下りながらボヤく。
ほら、働けスキル【逃げ足】! こういう時は足が速くならないゴブか? 【覗き見】できるのに追いつかないのがもどかしいゴブ!
届かないことはわかってるけど、俺は懐から短剣を取り出して、走りながら投げる。
ちょっとでもオオカミの気を引ければいいかなあって。
やっぱり短剣は届かなくて、オオカミは気付きもしなかったけど。
スキル【投擲術】を取っておくべきだったゴブ! ライフポイントはもう30越えたし、一回死ねば取れるんだけど! 一回死ねば! 痛いとか怖いとか言わないで大人しく死んどけばよかったゴブなあ!
オオカミたちはまだ俺に気付かない。
ひょっとしたら俺のスキル【隠密】が効いてるのかも。
くそ、ありがた迷惑ゴブ! 気付かれればこっちに注意がそれるのに!
そんなことを思いながら、今度はナイフじゃなくてボーラを取り出す。
ボーラは細いロープの両端に重りがくっついた投擲具だ。
足に投げつければ、絡まって転ばせたり、走りづらくする。
それをオオカミに投げようと構えて。
俺の足がもつれた。
丘を駆け下りる俺の足が。
あっ、やべ。
転んだ俺。
勢いよく転がる俺。
ゴロゴロと丘を転がる俺。
おおおおお! 目が、目がまわる! 洗濯物になった気分ゴブ! もしくはチーズ転がし祭りのチーズね! 俺ゴブリンなのに!
ゴブリオ知ってるゴブ、こういう時、ムリに止まろうとして手とか足を出したらポッキリ折れるゴブ! ここは止まるまで転がるのが正解ゴブな! あ、でもまわりすぎてよくわからなくなってきたゴブ!
ぐるんぐるんまわる視界の中、焦るオクデラとか、丘を転がる謎の物体に慌てるオオカミたちとか、呆気にとられるニンゲンの姿が目に入る。
あ、やっと回転がゆっくりになってきた。
丘を転がりきってようやく止まる俺。
目が回ってるんで立ち上がれない。
片ヒザをついてショートソードを構える俺。
『オオカミ、俺が、倒す! ニンゲン、逃げろ!』
決まった、決まったゴブ!
これピンチに駆けつけるヒーローっぽいゴブなあ! 俺ゴブリンだけど! じゃっかん揺れてる気がするし、そもそも転がってきた情けない姿を見られてるけど!
オオカミもニンゲンも俺を見てるけど、驚いてるのかどっちも動かない。
『ニンゲン、ここは、俺、任せる。逃げる、ゴブ!』
やべえ、俺いま輝いてる!
アニキ、俺やっとこのセリフ言えたよ! あの時のアニキみたいに!
……あれ? アニキみたい? 俺なんかすごくイヤな予感がするゴブ! これ死亡フラグじゃないゴブな? 違うゴブな?
※村の遠景から「大きな」「広い」を削除しました。
こじんまりとした漁村のイメージです。
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