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ゴブリンサバイバー〜転生したけどゴブリンだったからちゃんと生き直して人間になりたい!〜 作者:坂東太郎

『第三章 漁村 ペシェール』

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第二話 こんな商品があるなんてやっぱり文明バンザイ! ニンゲンって素晴らしいゴブ!


 港町には入れなかったけど、若い行商人は俺たちに良い情報を教えてくれた。
 ここから北上したところにある漁村は、モンスターとされる種族でもニンゲンに敵対しなければ入れるって。俺たちもイケるだろうって。
 徒歩で三日ぐらいだし、とりあえず俺はその漁村に行ってみようと思ってる。

『肌がウロコっぽいゴブリンですか? さあ、見たことも聞いたこともないですね。行商人仲間からも聞いたことがありません。私が仲間はずれにされてなければですけど! あはは!』

 コイツ、ポジティブが過ぎるゴブ! いやこれポジティブっていうか鈍感? ハートが強いって言うべき? 『あはは』って頭イッてるゴブか! いい意味で、いい意味でね?

『俺、仲間。行商人、聞く、教えて』

『ええ、それぐらいは! どうせ漁村にはちょくちょく行きますしね!』

 アニキが投げ込まれた川の河口にある港町まで来たけど、アニキの情報はない。
 港町に出入りしてるこの行商人が知る限り、だけど。
 若い行商人はこの後、港町で聞き込みしてくれるらしい。
 それで漁村に来た時に教えてくれることになった。
 頭イッてるとか言ってごめんなさい、めっちゃ助かります! でも俺の頼み事を聞くとかやっぱり頭イッてるゴブなあ! 俺ゴブリンなのに!

『さて。漁村に行くのでしたら、オススメしたい商品があるんですよ!』

 話が一段落したところで俺に言う行商人。
 いま行商人と向き合ってるのは俺だけだ。
 シニョンちゃんは長時間ニンゲンと話すのはまだキツイらしくて、木陰で休んでる。
 オクデラはその護衛だ。
 行商人はシニョンちゃんをチラッと見てニンマリ笑い、俺の横に移動した。
 シニョンちゃんとオクデラに背を向けて、俺と並ぶ形になる。

『どうした、ゴブ?』

 地面には行商人の背負子が置いてある。
 俺たちはしゃがんで、背負子の前に並んだ。

『ほら、これから漁村に行かれるでしょう? でしたら漁をされるかもしれないわけで! ご存じかもしれませんが、布というのは濡れると重く、大変に動きづらくなるものです』

『……それで?』

 続けるように促す俺。
 なんとなく、なんとなくわかった。
 だってコイツ、わざわざシニョンちゃんに見られないように移動して、俺とコイツの背中でこれから見せる商品を隠してるし。
 そんでこの売り文句だし。
 というか、さっきチラッとシニョンちゃんを見たエロ目。
 それでゴブリオ察したゴブ! ゴブリオ、ゴブリンだけど元人間だからね! まさか、まさかこの世界にもアレがあるのか!?

『そこでコレです! 海獣の皮から作った服で、濡れても動きにくくならないんですよ!』

 背中でシニョンちゃんから隠して、行商人が俺だけに商品を見せる。

 水着を。
 ビキニを。

 …………。
 お、おお、おっぱいちゃんと海に行ってビキニ着せるなんて! そ、それなんて楽園ゴブか! 白い砂浜、青い海、ビキニを着たおっぱいちゃんのおっぱい! 神様ありがとう! 天国はここにあったゴブ! なんでこの世界にビキニがあるかって? そんなんどうでもいいゴブゥ!

『漁をされるならコレは必要な装備です! 必須です! 他に意味はありませんよ?』

『わかる、わかってる、ゴブ』

 そう、他に意味なんてないゴブ! 海で泳ぐには水着じゃないと危ないからね! 服を着て水に入ったら溺れちゃうから! 巡礼者のローブで海に入ったら自殺みたいなもんだから! しょうがなく、しょうがなくゴブよ?

 見つめ合っておたがいに頷く俺と行商人。
 俺、ゴブ生で初めてニンゲンの男と通じ合った気がする。

 だけど。

『高い、話、ならない』

『これは貴重な海獣の皮から作られた一点モノなんですよ! これ以上まけられません!』

 水着は高かった。
 さっき取引した食料と調味料を諦めて、手持ちの皮と現金をつぎ込んでも買えない。
 くっ、ここまで来て! 楽園が、天国がそこにあるのに!

 俺の頭の中で悪魔がささやく。
 盗賊のアジトで見つけた装飾品があるだろう、売っちゃえよ、と。

 対抗するように天使がささやく。
 ゴブリオよ、天国に行くのに何を迷っているのですか、売ってしまいなさい、と。

 ゴブリンがささやく。
 男は殺せ、女は犯せ! ヒャッハー、お祭りゴブ!

 ……おい天使ィ! 悪魔に対抗できてないから! 誘惑する方になってるから! いや売らないからね! 水着のためにもしものための貴重品は売らないから! あとゴブリン、いまそれ関係ねえから! というか頭の中でゴブリンがささやいてくるってなんだよ! そうだね俺ゴブリンだもんね! 鬼畜生!

 ゴロゴロと転がる俺。
 行商人は生暖かい目で俺を見つめてる。

『ではこういうのはどうですか? 割引する代わりに、着てるところを見せていただくってことで! ほら僕まだ駆け出しなんで、目利きに自信がなくてですね、仕入れた商品の出来が気になるんですよ! ええホント、商品に問題ないかどうか気になるんです!』

 鼻息荒く力説する若い行商人。
 おいいいいい! コイツまじ頭イッてるゴブなあ! ただエロいだけじゃん! だめだめ、シニョンちゃんの水着姿で弾けるおっぱいをこんなヤツに見せるわけにはいかないゴブ! シニョンちゃんは俺の、俺のこ、ここ、恋人、だし! 俺がニンゲンじゃないからまだ付き合ってないだけだし!

『ない。それなら、諦める、ゴブ』

『そうですか……』

 揃って肩を落とす俺と行商人。
 俺は後ろにいるシニョンちゃんを振り返る。
 シニョンちゃんは話が聞こえてないらしく、微笑みを浮かべて首を傾げるだけ。
 俺のことを疑ってない微笑みがまぶしい。
 俺は、すっぱりと諦めることにした。

『俺たち、漁村、行く』

『そうですか……ではここでお別れですね』

 立ち上がる俺。
 若い行商人のテンションは低い。
 高額商品を売れなかったせいゴブな? 水着姿のシニョンちゃんを見られなくてテンション下がったんじゃないゴブな?

『ゴブリンさん、いい取引ができました。今度は漁村でお会いしましょう!』

『漁村、行く。俺、お金、貯める』

 そう言って右手を差し出す俺。
 若い行商人は俺の言葉にブハッと吹き出して、笑いながら俺の手を取った。

『あはは! では期待して、アレは売らずにおきましょう! くくっ、こんなに賢いゴブリンがいるってみんな信じないだろうなあ』

 この世界にも握手の風習があることは知ってる。
 港町に来る前、俺が忍び込んだ街の市場で何度も見かけたから。
 でもあの時は緑色の肌を隠してたから、握手はできなかった。
 若い行商人の手はシニョンちゃんの手とは違う感触で、なんかうれしくなる。いや変な意味じゃなくて。

 ともかく。
 駆け出しだっていう若い行商人との取引を終えて、俺たちはまた歩き出した。

 漁村は入れるといいゴブなあ。
 水着を売ってるってことは、漁村には水着の女の人とか人魚とかいるってことゴブなあ。

 くっそ楽しみゴブ!
 あ、違う、違うから! 俺はシニョンちゃん一筋だから! で、でもほら、男の子だから多少目がいっちゃう分にはね? あ、俺男の子っていうかゴブリンでしたわ! 男の子ではあるけれども! 鬼畜生!

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