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第一話 港町には入れなかったけど入れそうな場所を教えてもらいました!
港町・デポールの入り口にたどり着いた、ゴブリオこと俺とオクデラとシニョンちゃん。
でもゴブリンな俺と、オークなオクデラは街に入れないらしい。
リザードマンとか微妙な人種も入れる街だって聞いてたんだけど、さすがにゴブリンとオークはダメみたいだ。
そりゃそうだ、俺たちモンスターだし! ゴブリンもオークも「男は殺せ! 女は犯せ!」らしいし! ゴブリオ賢いから入れないってうすうす気づいてたゴブ!
『巡礼者シニョンよ。貴女は街に入れるが、ゴブリンとオークは入れるわけにはいかん』
『そう、ですか……』
がっくりと肩を落とすシニョンちゃん。
『で、でも、ゴブリオさんもオクデラさんも賢くて、優しくて、その、人に危害を加えるようなヒトじゃなくて』
まだニンゲンが怖いシニョンちゃんだけど、視線を落として震えながら反論してる。
その気持ちはうれしいけど。
『シニョン、諦める、ゴブ。ゴブリオ、ゴブリン。入れない、しょうがない』
震えるシニョンちゃんの手をとって言う俺。
街の中で文明的な生活を送れないのは残念だけど……まあ粘ったところでムリでしょたぶん。俺ゴブリンだし。
『でも、でも、ゴブリオさん』
シニョンちゃんの言葉に、俺は頭を振る。
元人間な俺にはわかる。
いくら言葉が通じるからって、見た目ゴブリンな俺を街に入れるわけにはいかないって。
むしろ門番たちが俺とオクデラを攻撃しないのが不思議、というか懐が深すぎてビビるぐらいだ。
街に入る順番待ちしてる人たちも、引き気味だけど逃げたり攻撃してこないし。
すごく理性的でむしろゴブリオ感動してるゴブ! ゴブ即斬な前の街の冒険者たちに見習ってほしいゴブ! 聞いてるか鉄兜ォ! 殺すばっかりじゃいつか自分がモンスターになるゴブよ?
『ゴブリオ、気にしない。シニョン、街入る?』
『そんな、私は、ゴブリオさんと一緒にいます』
『じゃあ、行く』
シニョンちゃんの手を引いて街の入り口から離れる俺。
オクデラはすぐ後ろを無言でついてくる。
うん、素直でよろしい! さすがオクデラ!
シニョンちゃんも諦めたのか、ペコリと頭を下げて俺の横を歩く。
さあて、これからどうするかなあ。
来た道を戻る俺たち。
街に入るための行列は商人が多いみたいだ。
護衛は俺たちを警戒して、商人は不思議そうな目で俺たちを見つめてる。
おうおう、俺たち見せ物じゃないゴブ! あ、でもおひねりくれたら見せ物になってもいいゴブよ? 最近死体漁りしてないから懐がちょっと寂しいゴブ! プライド? ゴブリンにプライドなんてないですから! ゲギャギャッ!
頭の中で言い張って、フードを深くかぶり直して歩く俺。
とりあえず近くの森にでも入って作戦会議かなあ。
ゴブリンってバレても攻撃して来ないから、この近くなら平和に暮らせそうなんだけど。
近くに拠点を作って、モンスターを殺しまくって、時々ニンゲンと取引するってのが良さげゴブな! 狙われずに文明的な生活をしつつ、ライフポイント貯めまくってはやくニンゲンになってやる!
そんなことを考えつつ道を進む。
やっと行列から離れて、人気がなくなってきた。
よし、そこの木立で休憩して、と考える俺の耳に聞こえてきたニンゲンの声。
『待って、待ってください巡礼者さんたち!』
荷物を背負った若い男が俺たちの方に走ってくる。
護衛らしき人の姿はなく、一人で。
『ゴブリオさん、えっと……』
『シニョン、待つ、ゴブ。一人だし、戦っても、勝てる』
男はどうも俺たちに用があるらしい。
武器を向けてくるわけじゃないし、俺は話を聞いてみることにした。
相手は一人だし、なんかしてきたら俺とオクデラでボコればいいゴブ! 冒険者でもないニンゲン一人なんて俺たちの相手にならないから! 敵になるならボコッてやんよ! タワーシールドとメイスでめっちゃ強くなったオクデラが! ゲギャギャッ!
『なんか用、ゴブ?』
行商人っぽい若い男は俺とオクデラとシニョンちゃんを追ってきたらしい。
いま俺たちは、道を外れて木立の横にいる。
『う、うわあ、ほんとにゴブリンが【人族語】を話してる! すごい、すごい!』
ニンゲンの言葉で質問した俺に興奮する男。
くっ、話が進まないゴブ!
『おい、ニンゲン?』
『あ、すいません! 僕は駆け出しの行商人なんですけどね! 街に入るのに並んでたら「新人はゴブリンの相手がお似合いだろ」とか言われちゃう感じの! でもそう言われて僕は気づいたわけですよ! 話が通じるなら、ゴブリンだって商品を買ってくれるかもしれないって!』
ニコニコと笑顔でまくしたてる男。
荷物を背負ったこの若い男は行商人らしい。
コイツ、ポジティブが過ぎるゴブ! イヤミをマジメに受け取ってゴブリン相手に商売しにきたとか頭イッてるゴブ! いい意味で、いい意味でね?
あ、でも巡礼者でニンゲンのシニョンちゃんもいるってわかってるか。
だったら商売できるってのは当たり前なわけで。
『さあさあゴブリンさん、欲しい物はありませんか? そこのオークさんも! それから巡礼者の、巡礼しゃの』
俺を見て、オクデラを見て、シニョンちゃんを見る行商人。
シニョンちゃんを、というかおっぱいちゃんのおっぱいちゃんを見て固まる行商人。
おいいいいい! いや気持ちはわかるけど! ほらシニョンちゃんが怖がってるゴブ! おっぱいを見て冷静でいられないってさすが駆け出し! まああの魔性のおっぱいを目にしたら当然ゴブ! ゴブリオがゴブりそうになるぐらいだからね! ハハッ!
固まった行商人の視線を遮ってシニョンちゃんの前に立つ俺。
ニンゲンが怖いシニョンちゃんを守るためゴブよ? このおっぱいは俺が予約済みなんでとか思ってないゴブ! くっそ、はやくニンゲンになりたい!
『あ、すいません! それで、何か欲しい物はありませんか?』
ようやく気づいたのか視線を外す行商人。
顔が赤くなってるあたり、商売人として失格ゴブなあ。
でもゴブリンな俺と取引してくれるんなら大歓迎ゴブ!
『毛皮、売りたい。食料、調味料、買う。あと、俺たち、入れる街、知らない?』
『おおお、ゴブリンって賢いんですね! これマジで取引できるじゃないすか! 追いかけた甲斐がありましたよ!』
『ゴブリオ、特別。それで?』
『あっ、すいません興奮しちゃって。えーっと、毛皮の買い取りはいつも農村でやってるんでもちろん歓迎ですよ! 食料と調味料も扱ってるんで売りましょう! あとはどこか街の情報ですか……』
そう言って考え込む若い行商人。
いよっしゃあ、ラッキー! 毛皮を換金して物を買えるとかサイコーゴブ! またコッソリ街に忍び込むか、シニョンちゃんを一人で行かせるしかないところだったからね! 取引に免じてシニョンちゃんのおっぱい見てたことは許してやるゴブ!
俺とオクデラの荷物に入れてた毛皮を取り出しつつ、そんなことを思う俺。
とりあえず街の情報は後にして、若い行商人は毛皮をチェックする。
食料と調味料を見せてもらって交渉をはじめる俺と若い行商人。
ゴブリンと交渉するとかコイツまじで頭イッてるゴブなあ! でもすごく助かるんで大歓迎ゴブ! 入れなかったけど港町に来てよかった!
『……こんなところでどうですか?』
『オッケー、ゴブ!』
最初の取引だし、持ってた毛皮で買える分の食料と調味料を手に入れた俺。
盗賊から、おっと、洞窟の宝箱から手に入れた装飾品は見せてない。
ぼったくられるかもしれないし、いまのところお金には困ってないからね! まだ隠しておくゴブ!
『さて、あとは入れそうな街ですか』
『街、村。近い、遠い。なんでも、いい』
『おお、それでいいなら知ってますよ! ゴブリンとオークが入れるかはわかりませんけど……そこは、リザードマンどころかサハギンや人魚、普通はモンスター扱いされる種族なんかも村に入れるんです!』
『サハギン? に、人魚!?』
『ええ、ええ! サハギンはなんて言うか、まあ手足がある魚ですね! 人魚は上半身はニンゲンで、下半身は魚という種族です』
『おおおおお! そ、それで、サハギン、人魚、村に入れる、ゴブ?』
『ええ、そうなんです。そこは大きめの漁村なんですが……ほら、海にはモンスターがいるでしょう? 漁をするのに舟を使うわけですが、人間じゃ命がけですからね! 彼らに協力してもらったり取引してるうちに、敵対しないなら村に入れてもいいか、となったんですって!』
……適当な村ゴブなあ! まあでもあり得る、のか? たしかにニンゲンじゃキツくてもサハギンとか人魚なら魚を採るのも簡単そうだけど! というかそれ共食いじゃないゴブか? 大丈夫?
『場所、どこ?』
『ここから海沿いに北上して三日ほどですね! ほら、港町でも認められてない種族が村の中を歩いてるもんだから、気持ち悪がってあんまり商人は寄り付かないんですよ! だから僕はちょいちょい取引に行って儲けさせてもらってます!』
いらない情報までくれる若い行商人。
……あれ? 気持ち悪がって? その村大丈夫ゴブか?
『村、名前』
『そうですよね、名前を言ってませんでした! ペシェールっていう漁村です!』
ポジティブが過ぎる行商人の言葉を聞いてほっとする俺。
よかった、気持ち悪がってとか焦らせないで欲しいゴブ! これで名前がインスマスだったらゴブリオ近づけなかったからね! あるわけないけど何しろシニョンちゃんはスキル【受難】持ちで称号【運命神の愛し子】だし! 何があってもおかしくないゴブ!
よーし、よしよし!
次の目的地、決まったゴブな!
俺たちの旅はこれからゴブゥ!
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