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第二章 エピローグ
「ゴブリオ、コレ、武器、スゴイ。盾、スゴイ」
「お、おう、よかったなオクデラ。ほんと頼りになるゴブ!」
「オデ、役立ツ、ウレシイ」
ブンブンとメイスを振って照れ笑いするオクデラ。
ニコニコ笑顔なのはいいけど、剣シカを仕留めたメイスからピシャピシャ血が飛んでるから! 武器と防具にご機嫌すぎだろオクデラ! 一人で剣シカに立ち向かってった時は驚いたゴブ!
俺とオクデラとシニョンちゃんはいま、川のそばを歩いて港町に向かってる。
木の上の拠点に帰ってから、俺たちは何日か過ごした。
俺たちの拠点がある「果ての森」へ、シニョンちゃんを捜しに入ってくる冒険者がいなくなるまで。
その間に、俺はオクデラに説明した。
俺もオクデラも入れるかもしれない街があるって。
川の下流だから、アニキを捜しながら行かないかって。
オクデラは考えることなく、俺に任せるって言ってきた。
俺を信じすぎだろオクデラ! もうちょっと自分で考えるようになろうな!
三日もすると冒険者の数が減ったので、俺は木の上の拠点と、アニキの休憩場所と、崖の途中の拠点にアニキ宛ての書き置きを残した。
書き置きっていうか、俺もアニキも文字はわからないから絵だけど。
通じるかどうか不安だけど、アニキが見たらわかるって信じてる! 信じてるよアニキ! ゴブリンだけどアニキは賢かったからね! ゴブリンだけど! ゴブリンだからなあ……通じるかなあ……。
でもアニキは川に流されて、しかも近くの街じゃ見つからなかったわけで、だとするともっと下流に流された可能性が高い。
それより手前ならとっくに俺たちの拠点に帰ってきてるだろうし。
ってことは、下流に進む俺たちはアニキに近づいてるはずだ。
たぶん、きっと。
諦めたわけじゃないからねアニキ! 街で暮らしたいからアニキのこと見捨てたわけじゃないから! 下流にいるって信じてるゴブ!
そんなことを考えながら森を進む俺。
【隠密】と【覗き見LV2】を持ってる俺を先頭に、オクデラとシニョンちゃんが続く。
下流にあるっていう港町を目指すにあたって、俺たちはニンゲンの道を使うのを避けた。
シニョンちゃんはあいかわらずニンゲンが怖いし、そもそも俺とオクデラはゴブリンとオークだし。
俺は自作のローブを着て、オクデラには俺が買ってきたローブを着せてるけど、オクデラ明らかにでかいし! くっそ、顔が隠れるタイプの兜でも買ってくればよかった! 鉄のヤツでね! そしたらオクデラが鉄兜になっちゃってね! オークなのに! ハハッ!
ニンゲンの道からちょっと離れて、川の近くを歩く俺たち。
オクデラは俺が買ってきたメイスと盾がうれしいのか、戦闘や狩りに積極的になった。
でかいタワーシールドで敵の攻撃を防いで、オクデラにはちょうどいいサイズのメイスで攻撃するのがパターンだ。
木製をベースに鉄板と皮で強化したタワーシールドは、オクデラにぴったりだったらしい。
俺が一度殺されて、罠を仕掛けてやっと倒した剣シカさえあっさり殺せるようになった。
……強くなりすぎでしょオクデラ!
え、でかくて重いオークがちょっといい装備手にしたらこんな強くなるの? オークやばくね? むしろ戦闘の役に立ってない俺やばくね? さすが雑魚ゴブリン! おかげでライフポイントが溜まらないんですけど! 鬼畜生!
ほんとはオクデラに、俺がとどめをさせるようにして欲しいんだけど……。
でもいまは、オクデラに自信をつけさせるのも大事かなって。
オクデラ、ちょっと俺に依存気味だからなあ。
『順調ですね、ゴブリオさん』
あ、依存気味な人はここにもいました! シニョンちゃん寝る時はずっと俺の手を離してくれないんだけど! ゴブリオ困っちゃうゴブ! モテモテすぎて困っちゃうゴブなあ! ゲギャギャッ!
三人で港町を目指す旅は順調だ。
シニョンちゃんが聞いてきた情報では、あの街から港町まで、ニンゲンが道を歩いて一週間ぐらいらしい。
俺たちは森を歩いてるから、それより時間がかかるとして……でも、もうすぐ見えてきてもおかしくない。
川もずいぶん広くなってきたし。
港町・デポール。
俺ゴブリンだけどスキル【人族語LV1】持ってるし、入れるといいなあ。
それで俺、ライフポイント溜めるためにモンスターを殺しまくりたいから、冒険者ギルドに登録しちゃったりなんかして! 期待の新人! いや、期待の新ゴブとか呼ばれちゃったりして! 俺ゴブリンなのに! ハハッ!
アニキはまだ見つからない。
でも港町はニンゲン以外も入れるらしいから、ひょっとしてそこにいるかもしれない。
オクデラは新しい装備で頼れるようになった。
シニョンちゃんはまわりに俺とオクデラしかいなくて、だいぶ落ち着いてきたみたいだ。
まだニンゲンが怖いのは治ってなくて、夜はうなされてるみたいだけど。
とにかくいま、俺たちは港町を目指して歩いてる。
元人間で現ゴブリンでニンゲンになりたい俺と、オークだけどオーク語がしゃべれなくてピュアでEDなオクデラと、ニンゲンが怖いニンゲンのシニョンちゃん。
変な三人組で、港町へ。
そう、俺たちの旅はこれからゴブゥ!
青い空と青い海、白っぽい石造りの外壁。
俺たちは港町にたどり着いた。
いま俺とオクデラとシニョンちゃんは、街に入るための列に並んでる。
フードをかぶったまま。
やがて、俺たちの順番になった。
『よし、次! おっと、そのローブにネックレス、巡礼者ですか。お名前をお聞かせください。それと念のため、フードを外していただけますか?』
『はい。私はシニョンです』
『ありがとうございます。お付きの方もよろしいですか?』
『俺、ゴブリオ。シニョンの、付き人』
そう言ってフードを外す俺。
門番がギョッと目をむく。
『は? ゴブリン?』
『俺、ゴブリオ。スキル【人族語】、ある』
『へ? お、おい、こういう場合どうなんだ?』
『領主様は言葉がわかって害意がなきゃ種族は問わないって方針だが……ゴブリン、なあ』
門番たちがざわつく。
後ろの列に並んでたニンゲンたちもざわつく。
なんかどんどん門番の数が増えてく。
そりゃそうだね、俺ゴブリンだし! っていうかゴブ即斬じゃない方が驚きゴブ! 【逃げ足】の準備はしてたんだけど!
『隊長に確認するか……ああそうだ、その前に。もう一人のお付きの方は? お名前と、フードを外してもらえますか?』
門番の問いかけに、オクデラのローブをクイクイッと引っ張って合図する俺。
オクデラは合図に気づいて、フードを外した。
『オデ、オクデラ』
俺とシニョンちゃんが教え込んだ通りに発音するオクデラ。
うんうん、上出来! やっぱりスキルなくても勉強すれば多少はできるよね! 神殿に行ったらオクデラに【人族語】が生えるかもな! 【人族語】を話すEDなオークとかコレもうわかんねえな!
門番たちの返事はない。
『今度はオークかよ! しかもこのオーク、【人族語】のスキルはないね?』
『聞き取りづれえからなあ。しっかし、ゴブリンとオークが大人しいもんだ』
『いやでもダメでしょう。あっ、隊長!』
『話は聞いた。巡礼者シニョンよ。貴女は街に入れるが、ゴブリンとオークは入れるわけにはいかん』
『そう、ですか……』
がっくりと肩を落とすシニョンちゃん。
それを見て俺は……。
ですよねえ。
うん、うすうす気づいてた! ゴブリンとオークがニンゲンの街に入れたらビックリですわ! むしろそんなん領主様の頭を疑いますわ! 当然ゴブ!
さよなら街での生活! さよなら新しい冒険! おっと、街で暮らせないならこれからの生活はまた冒険だらけゴブな! またサバイバルライフゴブ!
ゴブリオ雑魚ゴブリンだけどがんばってまた生き延びてやるゴブ!
そう、俺はゴブリンサバイバーだ!
あれ? ライフポイントもそれなりに溜まってるし、街に入れそうな種族になるために一回死んでみるって手もあるゴブな?
……でも痛そうだからやっぱり止めておくゴブ! さすが【森の臆病者】! ゲギャギャッ!
【二章終了時のステータス】
■ ゴブリオ(ゴブリン)
【ライフポイント】
28
【スキル】
夜目
ゴブリン語:LV2
覗き見LV2
逃げ足
人族語:LV1
隠密
【称号】
森の臆病者
【装備】
ぬののふく
自作のローブ
ショートソード
短剣
ボーラ
ブラックジャック
一角ウサギの角、剣シカの角ほか
■ オクデラ(オーク)
【スキル】
夜目
ゴブリン語:LV1
鈍感
【称号】
オーク the ED
【装備】
ぬののふく
ぬののローブ
皮の手甲
タワーシールド
長柄のメイス
短剣
■ シニョン(普人族)
【スキル】
人族語:LV4
夜目
魔力感知
魔力操作
光魔法LV1
受難
【称号】
運命神の愛し子
【装備】
ぬののふく
巡礼者のローブ
巡礼者のネックレス
木の杖
短剣
■ アニキ(ゴブリン / 行方不明中)
【スキル】
夜目
ゴブリン語:LV3
棍術
鱗化
【称号】
突然変異の革新者
【装備】
皮の腰巻き
皮のベルト
棍棒
黒曜石のナイフ
ウサギのポンポンのアクセサリー
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