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第九話 荷物を持って森の拠点に帰ってきました! ただいまオクデラ!
『街を出る、簡単、いい?』
『リオさ……ゴブリオさん、外に出る時はこんなものですよ。ふふ、やっと外ですね!』
俺たちは二日前に、シニョンちゃんは無事で巡礼に出るから捜さないでくれって伝えるために街に入った。
神殿で一泊して用事を終えて、宿でもう一泊して。
いま俺とシニョンちゃんは街を出て森を歩いてる。
俺は自作のローブで、シニョンちゃんは巡礼者のローブを着て、背中にはそれぞれ荷物を背負って。
くっ、オクデラ用に買ってきた大盾とメイスが重いゴブ! 盾がでかすぎてうまく背負えないからよけいに! 俺の身長と同じぐらいあるもんなあ。俺がちっちゃいからね! ほら俺ゴブリンだから! 緑の小鬼だから!
街に入る時はコッソリ川から潜入したけど、出る時は門から出てきた。
いやもちろんゴブリンだってバレないようにフードをかぶってたけど。
入る時のチェックは厳しいけど出る時は適当なんだって。
ならず者もモンスターも禁制品も街に入れたくないけど、出てく分には大歓迎ってことゴブな! 「おつかれさまでーす」ぐらいのノリで出られちゃってビビったゴブ! でかくて重い荷物あるから普通に出られて助かったけど! というか出てくのに大歓迎ってなんだよ! 大歓送? なんか違和感感じすぎる感じゴブ!
門を出てしばらくは道を歩いて、門番から見えなくなったところで俺とシニョンちゃんは森に入った。
ニンゲンに見つからないようにね! シニョンちゃんを捜してる冒険者にはまだ連絡いってないだろうし、俺ゴブリンだからね! 見つかったらゴブ即斬ゴブ! どう考えても俺がシニョンちゃんをさらったって思われるから!
近くにニンゲンがいなくなって、シニョンちゃんはご機嫌だ。
前を歩く俺はニンゲンやモンスターに見つからないように【隠密】しつつ、キョロキョロまわりを【覗き見】しながら歩く。
森に入ってから気づいたんだけど、【覗き見LV2】は、どうも遠くまで見られるようになってるみたいだ。
俺の感覚だからはっきりとは言えないけど、たぶん。
くっそ、説明書が欲しいゴブ! やっぱり欲しいぞ【鑑定】! それか、なんか万能な解説機能ないゴブか! わりとよくある頭の中で答えてくれるAI的なヤツ!
ないものはないし、わからないものはわからないので考えることは止める。
スルーしてばっかりな俺。
でもスルーしなかったこともある。
今朝出発する前に、俺はこっそり宿屋のおっさんに聞いたんだ。
避妊具ってどこで売ってますかって。
…………。
ち、違うゴブ! いまシニョンちゃんとするとモンスターのゴブリンが生まれちゃうから、避妊具さえあればって思ったわけじゃなくて! ただ知りたかっただけゴブ! ぶ、文明度を知りたかったし、ほら、知識欲的な? ゴブリオ賢いゴブリンだから! いろいろ知りたい勉強熱心なゴブリンだから!
ちなみに避妊具はあるらしい。
豚とか山羊とか、動物の腸を使う感じの。
それ衛生的に大丈夫ゴブか? むしろ変な病気をもらいそうな……衛生を気にするゴブリンって! なんか違和感感じすぎる感じゴブ!
宿屋のおっさんがニヤニヤして言うには、避妊具はイマイチらしい。
あと残念ながら魔法で避妊とかはできないらしい。
おっと、ぜんぜん残念じゃないゴブ! ゴブリオ早くニンゲンになっておたがい好きっぽいシニョンちゃんとお、おお、お付き合いして、それで、好き合う二人が、自然に結ばれるだけだからね! ゴブリンないまはガマン、いや、ぜんぜんしたいなんて思ってないゴブよ? 俺ジェントルゴブだから!
そんなどうでもいいこと、いや、俺にとっては大事なことを考えつつ森を歩いて。
俺とシニョンちゃんは無事に帰ってきた。
森の中の拠点、バオバブっぽい木の下に。
じっくり周囲を【覗き見】して、まわりにニンゲンとかモンスターがいないこと、変化がないことを確認する。
安全を確認して、俺は木の上に呼びかけた。
「オクデラ、帰ってきたゴブ!」
ガサゴソと音がして。
拠点から、オークがひょっこり顔を出す。
「ゴブリオ、オデ、オデ、心配シテ、オカエリ!」
「お、おう、ただいまオクデラ。縄梯子を投げるから、受け取っていつものとこにセットして欲しいゴブ」
「ワカッタ!」
二日ぶりに帰ったきた俺を見て、オクデラはもう泣きそうになってた。
あいかわらず純情すぎるぞオクデラ! オークに「おかえり」って言われてホッとする俺もどうかと思うけど!
まあそのへんはいいとして。
ただいま、オクデラ!
「ゴブリオ、ニンゲン、無事、オデ、心配、デモ、オデ、待ッテタ、オカエリ!」
俺とシニョンは木の上の拠点に帰ってきた。
オクデラに手伝ってもらって、重かった荷物も拠点に運び上げた。
それで俺はいま、オクデラに抱きつかれてる。
心配だったのはわかるけど泣きすぎだろオクデラ! 純情かよ! 純情だったわ!
「お、おう。オクデラは大丈夫だったゴブ?」
「ウン、ウン、オデ、ズット、拠点イタ」
オクデラはずっと拠点で引きこもっていたらしい。
お腹がすいたら準備しておいた木の実とか肉を食べて、ニンゲンやモンスターに見つからないようにまる二日、木から下りないでボーッとしてたらしい。
俺のアドバイス通り。
オクデラが俺の言うことを素直に聞きすぎてちょっと心配になってくるゴブ……。
「よし、じゃあそんなオクデラにお土産があるゴブ! これ、オクデラの武器と盾な。持てるゴブ?」
「オ、オデ? オデニ、オミヤゲ? オデニ、武器?」
「そう。この武器で敵を倒して、この盾で自分と俺とシニョンを守って欲しいゴブ」
「オデ、オデガ、武器、盾……」
重くてくじけそうになったけど、ここまで背負ってきた大きな盾と長いメイスをオクデラに渡す。
オクデラは右手にメイスを、左手に盾を持って立ち上がる。
右手の武器を見て、左手の盾を見て、何度も視線を行ったり来たりさせるオクデラ。
まるで、武器と盾がそこにあるって信じられないみたいに。
「オデ、オデ、コンナ、立派ナ、武器、盾」
「ほら、こんなでかいと俺もシニョンも使えないし、アニキだって無理だろ? だからこのメイスと盾は、オクデラの物だ」
「ホント、ホントニ、オデノ?」
「そう、オクデラの物。さっきも言ったろ? この武器で敵を倒して、この盾で俺たちを守って欲しいゴブ」
「ワカ、ワカッタ! オデ、倒ス! オデ、守ル!」
そう言うとオクデラは、武器と盾を置いてまた俺を抱きしめてきた。
おんおん泣きながら。
おうっふ、武器と防具を用意しただけで泣かれたゴブ! そういえば石斧と木の盾を作ってあげた時もそうでした! 単純すぎてちょっとかわいく思えてきたぞオクデラ! もうちょっと自信を持とうなオクデラ!
オクデラの腹肉と腕の隙間からチラッと横を見ると、シニョンちゃんは笑ってた。
俺とオクデラの友情が微笑ましい、みたいに。
【ゴブリン語】だったから俺とオクデラの言葉は通じないはずなのに。
まあこんな行動ならだいたい理解できるか。
でもオクデラ、うれしいのはわかったからそろそろ離して欲しいゴブ! ちょっと苦しくなってきたから!
くっ、昨日まではおっぱいちゃんのおっぱいで苦しくなったのに、いまはオクデラの腹肉で苦しいゴブ! なんなのこの落差! 天国と地獄! おっと、地獄は言いすぎだったゴブ、すまんオクデラ!
あ、ヤバ、苦し、離れるゴブ! ちょっ、ちょっとだけでいいから離れ、ゴブリオのゴブリンはゴブらないけど離れるゴブ! ちょっ、苦しいから離れてオクデラ!
ゴブリオ思った、これいつかオクデラかシニョンちゃんに抱き殺されそうゴブなあ! まあ、俺死んでも死なないんだけど! ハハッ!
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