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ゴブリンサバイバー〜転生したけどゴブリンだったからちゃんと生き直して人間になりたい!〜 作者:坂東太郎

『第二章 果ての森2』

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第八話 狭いベッドで二人っきりで……これ、これひょっとしてOKサインってヤツゴブか!?


『それで、女性のギルド職員に話すことになったんです。でも、それでも私、わたし』

『シニョン、落ち着く。大丈夫、もう大丈夫』

『ありがとうございます、リオさん。それで、個室で、護衛の人に騙されて盗賊に捕まったって、男の子の方は、ころ、殺され』

『シニョン、説明、がんばった。えらい、えらい』

『それで、盗賊はモンスターに襲われて、混乱してるところを逃げた、って言いました。リオさんとオクデラさんのことは、言ってないですよ』

 冒険者ギルドから宿に帰って、俺はシニョンちゃんから話を聞いていた。
 シニョンちゃんは俺とオクデラのことを言わなかったらしい。
 盗賊たちはモンスターに襲われて、その時に逃げたって。
 うん、だいたい合ってるね! 襲った俺はゴブリンでオクデラはオークだし! 違うのは盗賊を全滅させたってとこぐらいゴブ! 宝箱おいしかったです! ゲギャギャッ!

『あ、うん、ありがとう、シニョン。でも俺とオクデラのこと、言っても、信じられない』

『どうでしょうか……あ、アニキさんは、街で見たっていう情報はないそうです。森で助けてもらったから、私もお礼が言いたいんですけど』

『そっか……アニキ、どこで何してるゴブ』

 冒険者ギルドはモンスターの情報が集まる組織だ。
 俺はシニョンちゃんに、アニキのことを聞いてもらった。
 ニンゲンが怖いシニョンちゃんに長話は酷かもしれないけど、シニョンちゃんは前に助けてもらいましたからって頷いてくれた。
 がんばって聞いてもらったけど、情報はなかったらしい。

『あと……ニンゲンが怖いっていう私に、女性の職員さんは、ある港町のことを教えてくれました。獣人さんとかリザードマンさんとかが多いから、普人族と話さなくても暮らしていけるかもしれないって』

『……お、おう? ひょっとして、ひょっとして俺やオクデラも!』

『そこまではわからないみたいですけど、でもその港町は、他の街と比べて普人族以外も入りやすいって言ってました。巡礼に出るより、そこで暮らした方がいいんじゃないかって教えてくれたんです』

『おお、おお! どこ、どこゴブ!? 』

『ふふ、リオ、落ち着く』

 いつもの俺の口調をマネるシニョンちゃん。
 まだニンゲンのことを怖がってるけど、俺と話してる時はずいぶん落ち着いてきた。
 きっとこれがシニョンちゃんの素顔なんだろう。

『この川の下流にある港町です。私、果ての森を出たことなかったから、知らなくて。ごめんなさいリオさん』

『謝る、違う。そっか、そんな街が……』

 いま俺は元人間としてはひさしぶりに、ゴブ生では初めて街で生活してる。
 ゴブリンだってバレないようにコソコソ【隠密】するのは大変だけど、それ以外はやっぱり森での暮らしより快適だ。
 なにしろお金さえあれば武器も道具も簡単に手に入るし、食事はあんまりおいしくないけど木の実と生肉よりはるかに良い。
 中古だけど服も手に入ったし! これで裸か草か毛皮しかなかったサバイバルライフから脱出できるゴブ! ああうん、盗賊倒した後はアイツらの服着てたけど! 俺がヘタに自作することもなくなるゴブな!

 もしこれで、ゴブリンとオークだって隠すことなく街に入れるなら。
 最高ゴブなあ! 堂々と街に入れるなら、モンスターを倒しまくってライフポイントを稼ぎたいゴブリオは冒険者になっちゃうゴブか? 「こ、これは……!」くっ、夢が広がるゴブ!

『で、でも私、森でオクデラさんと、リオさんと暮らすの、好きです。怖いニンゲンはいないし、リオさんは優しいですから』

 うるんだ瞳で俺を見つめるシニョンちゃん。
 ち、近い、近すぎるゴブ!

 冒険者ギルドから宿に帰ってきて。
 シニョンちゃんはよっぽど怖かったのか、震えが止まらなかった。
 俺はシニョンちゃんを安心させるために抱きしめて、でも長時間そのままの体勢でいたらちょっと疲れてきちゃって。

 それで、だから、つまり。
 俺とシニョンちゃんはいま、狭いベッドに横になってる。
 添い寝ってヤツだ。
 俺の腕にシニョンちゃんが頭を乗せて、向き合って密着してる。

 抱き枕状態! でもしょ、しょうがなくゴブ! シニョンちゃんが震えてたからしょうがなくて、そんな下心とかないゴブよ? 俺ジェントルゴブだから! おっぱいちゃんのおっぱいちゃんがすごすぎて逆に密着できてないとか考えてないゴブ! しずまれゴブリオのゴブリン!

『私、リオさんに会えてよかったです。もしリオさんがいなかったら、私、ゴブリンに捕まったままか、盗賊に捕まったままで、わた、わたし』

 ぎゅっと俺にしがみつくおっぱいちゃん。
 よしよしと頭を撫でつつ腰を離そうとする俺。

『リオさん……?』

『シニョン、ちょっと、暑い、ゴブな? 離れる、ゴブ?』

 体を離そうとする俺を、さびしそうな目で見るおっぱいちゃん。
 だからヤバ、ヤバいゴブ! 俺の理性がヤバいゴブ! ゴブリオゴブりそう!

『私……。リオさんなら、いいですよ。リオさんは優しいから、でもその私、初めてで、だから、その』

 うるんだ瞳で俺を見つめるおっぱいちゃん。
 俺の動きが止まる。

『私、リオさんといると落ち着いて、リオさんの優しさがうれしくて、リオさんにくっついてるとホッとするんです。おかしいですよね。私はニンゲンで、リオさんはゴブリンなのに、私、リオさんのことが』

 俺の至近距離でささやくおっぱいちゃん。
 くっ、ヤバいってもんじゃないゴブ! 狭い部屋の中で二人でベッドに横になって、かわいいおっぱいちゃんにこんなこと言われたら! ダメダメ、ジェントルゴブ! でも据え膳食わねばとかなんとか!

 理性と本能が頭の中で戦ってる。
 元人間の理性と、ゴブリンの本能が。
 人間でもきっとこの状況なら止まらないゴブな! 女の子にここまで言わせたら答えないと! くっ、理性も本能もGOを出してるゴブ! つまりゴブる方がジェントルゴブ!

 でも。
 俺は、目を閉じたおっぱいちゃんの唇をかわして、頭を抱きしめる。
 体はできるだけ離して。

『ゴブリオ、うれしい。でも、ゴブリオ、シニョン、できない』

『……どうして、ですか?』

 そう。
 たとえシニョンちゃんが俺を好きで、俺がシニョンちゃんを好きだとしても、俺はシニョンちゃんを抱けない。

『ゴブリオ、ゴブリンだから』

『で、でも、私はそんなリオさんのことを』

 ぎゅっと力を込めて抱きしめて、シニョンちゃんの言葉を止める。

『ゴブリン、ニンゲンと、する。子供、できやすい』

『こ、ここ、こども、そ、それはたしかにそうで、でもわたし』

 わたわたと手を動かすシニョンちゃん。
 本当に素直でいい子だと思う。
 でも。

『ゴブリオ、ゴブリン。シニョンとする、子供、ゴブリン』

『あっ』

『子供、きっと、頭よくない。ゴブリンとニンゲンする、子供、ゴブリン。ゴブリオの子供、ゴブリン』

『そ、それは』

 シニョンちゃんを助けた後、シニョンちゃんから普通のゴブリンの話は聞いた。
 ゴブリンはニンゲンを襲って、犯して孕ませてゴブリンを生ませるって。

 その時に思ったんだ。
 もしシニョンちゃんが俺を好きで、俺がシニョンちゃんを好きだとしても、俺はシニョンちゃんを抱けない。

 俺はゴブリンだ。
 ゴブリンとニンゲンがすると、生まれるのはゴブリンだ。
 頭が悪くて、男は殺して女は犯せが標語で、ニンゲンの敵なゴブリン。

『で、でも、リオさんはゴブリンじゃないみたいで、賢くて優しくて、だからもしかしたら、子供だって』

『たぶん、それは、ない。子供、ただのゴブリン』

 俺はゴブリンだけど元人間だ。
 人間だった時のことはあんまり覚えてないけど、それでも、元人間だからゴブリンより頭がいいだけ。
 もし子供が生まれて賢かったとしても、俺みたいに元人間なことはないだろう。

『そんな賭け、できない。子供、ただのゴブリン、ニンゲン襲う。俺、許せない。子供、殺す』

『それは……』

 だから、シニョンちゃんが俺を好きで、俺がシニョンちゃんを好きだとしても、俺はシニョンちゃんを抱けない。
 ようやく俺の言いたいことがわかったのか、シニョンちゃんは俺の胸に頭をつけたまま。

『リオさん……。ニンゲンって何ですかね。ゴブリンって何ですかね』

 涙声で言うシニョンちゃん。
 俺の胸元が湿ったみたいで温かい。
 きっとシニョンちゃんは、俺のことを思って泣いてくれてるんだろう。

『わからない、ゴブ。でも俺は、ニンゲンに、なりたい』

『リオさん?』

『その時……俺がニンゲンになって、もしシニョン、その時、気持ち、一緒なら。ゴブリオ、シニョン、その時、えっと、その、お、俺、俺たち』

『ふふ……はい。私、待ってます。ううん。がんばりましょう! リオさんがニンゲンになる方法、私も一緒に探します!』

 俺の胸から頭を離して、シニョンちゃんは俺を見つめて笑う。
 くっ、うまく言えなかった自分が情けないゴブ! シニョンちゃんは優しいゴブなあ!

『ありがとう、シニョン』

 照れ隠しみたいに、俺はシニョンちゃんをぎゅっと抱きしめた。

 大丈夫、ニンゲンになる方法はもうわかってるゴブ! モンスターとかニンゲンを倒したら手に入るライフポイントを貯めれば、俺ニンゲンになれるゴブ! 殺して殺して殺しまくるゴブ! 目指せ100万ライフポイント! いま23LP(ライフポイント)だからあとたった99万9977LPゴブ! 先は長いゴブなあ!

 密着したシニョンちゃんの温もりを感じる。
 あとお腹のあたりにむにゅっとした柔らかさを感じる。

 くっそ、俺の体がもっと小さければおっぱいちゃんのおっぱいちゃんがゴブリオのゴブリンに当たったのに! ダメダメ、そんな、そんなのダメゴブ!
 おっぱいちゃんのおっぱいちゃんでとか、く、くく、口でとか、そんなのダメゴブ! 愛し合った二人が結ばれて、そ、それで、その時にとかはアリだけど! それだけなんてまるで風俗みたいでダメゴブ! しずまれゴブリオのゴブリン!

 あああああ! 早くニンゲンになりたい! 待っててねシニョンちゃん!

 それでニンゲンになったらその時、その時こそ!

 二人は幸せなキスをして、むむ、む、結ばれ…………ゲギャッ。

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