34/79
第五話 新しいスキルをゲット! ヒャッハー、覗き魔特化が強化されたゴブ!
いま俺は、シニョンちゃんが暮らしてた部屋にいる。
木のベッドと小さな木製の机、木箱が一つで飾り気がない狭い部屋だ。
ふーん、女の子の部屋ってカワイイものだらけだったり、色使いが派手だったりするんだと思ってたけど、違うゴブなあ。
あ、こういう子もいるって知ってたゴブよ? ゴブリオ元人間だから。
元人間だし人生で初めて女の子の部屋に入ったわけじゃないしね。本当ゴブよ? おっと、ゴブ生では初めてだったゴブ! ハハッ!
狭い部屋は清潔な感じだけど、特にいい匂いはしない。
神殿暮らしだし、私物が制限されてるとかそういう感じなんだろう。
しがみついてきたおっぱいちゃんは、俺から離れてベッドで眠ってる。
ニンゲンが怖くなったシニョンちゃんは、人と話して、人の視線を浴びて、疲れちゃったみたいだ。
危うくベッドに引きずり込まれるところでした! 手を握るだけで許してもらったけど抱え込まれて大変だったゴブ! おっぱいちゃんのおっぱいちゃんがヤバかったゴブ!
シニョンちゃんはベッドで寝てて、俺はベッドに腰かけたまま、夜中になった。
神殿は静かだ。
シニョンちゃんの保護者の司祭とか、神官とか見習いとか、保護してる孤児とかで30人ぐらいいるって聞いたのに。
俺はシニョンちゃんに抱え込まれた手を、そっと抜いて動き出す。
俺が神殿に来たのはシニョンちゃんが心配だったからだけじゃない。
シニョンちゃんの部屋の扉を静かに開ける俺。
廊下は暗いけど、スキル【夜目】持ちな俺には問題ない。
フードを深くかぶって、音を立てないように、誰にも見つからないように歩く。
場所はシニョンちゃんに聞いてたから迷うことはない。
こちらゴブリオ、潜入に成功した。指示を頼む! いや指示してくれる人いないんだけど! シニョンちゃんはお休み中でオクデラは森の中だから!
段ボールもないけど、俺はコソコソ動きまわって、誰にも見つからず目的地に到着した。
深夜の礼拝堂に。
街中の建物も神殿の生活空間も木造だったけど、礼拝堂は石造りだ。
広い空間の真ん中は道になってて、横には丸い柱が何本も立っている。
壁際には火が灯ったロウソクが何本も並んで幻想的な雰囲気だ。
木製のベンチと同じ高さまで腰をかがめて、俺は中に侵入する。
礼拝堂の中央を越えると、神様の石像が目に入った。
正面の二つの石像が最高神の夫婦で、左右に並んでるのも神様の石像らしい。
石像の視線が交差する場所は何もない空間になってた。
シニョンちゃんいわく、そこが祈りの場だそうだ。
そこで祈れば、充分に鍛錬されてればスキルが生えたり、スキルレベルが上がるらしい。
そう、神殿に行かないとスキルが生えないんだって! 神殿じゃないとスキルレベルが上がらないんだって! これモンスターはどうなるゴブ! ニンゲン優遇されすぎゴブ! あ、俺もチート持ちで優遇されてるんだけど!
シニョンちゃんは【ライフポイント】ってヤツは聞いたことがないらしい。
モンスターもニンゲンも、死んだら死んだままで復活することはないそうだ。
生き直しも種族とスキルのセレクトも俺だけっぽい。
そんなことを考えつつ、神様の石像に見られながらヒザをつく俺。
手を組んで、シニョンちゃんに教わった祈りの姿勢を取る。
ヒザ立ちで手を組んで目を閉じるだけだけど。
シニョンちゃんは、ニンゲンとかエルフとかドワーフとか、街に入れる種族はみんなここで祈ってスキルを得たり、スキルレベルを上げたりするって言ってた。
でも、ゴブリンな俺に同じ効果があるかわからない、とも。
そりゃそうだよね、ゴブリンはニンゲンの神殿に入れないから! 里のゴブリンが祈ってるとこ想像できないし! ああいや、蛮族の神とか邪神には祈りそうゴブ! イケニエの心臓を捧げたりしてね! ……ありそうで怖いゴブ。
どうなるかわからないけど、とりあえず祈りを捧げる俺。
神様仏様ゴブ神様!
どうか俺にスキルを授けてください!
あとスキルレベル上げてください!
これでスキル生えたらライフポイント節約できるゴブ!
どうかこの哀れな雑魚ゴブリンにチートで無双でハーレムな日々を!
なんだったらライフポイントをくれてもいいし、さっさとニンゲンにしてくれてもいいゴブよ?
くっ、欲望垂れ流しすぎゴブ!
じっと祈ったけど、俺にもまわりにも変化はない。
とうぜん神様の石像にも変化はない。
ニンゲンの神様にゴブリンな俺が祈ったけど、石像が動き出すこともなんか裁きの雷みたいなアレに攻撃されることもなかった。安心したゴブ!
さーて、どうなったかなあ。
スキルウィンドウ、オープンッ!
■ ゴブリオ(ゴブリン)
【ライフポイント】
23
【スキル】
夜目、ゴブリン語:LV2、覗き見LV2、逃げ足、人族語:LV1、隠密
【称号】
森の臆病者
…………。
いよっしゃあああああ! 増えてる、増えてるゴブ! ライフポイントは雑魚モンスター倒した分で変わってないし、称号もそのままだけど! そんなんどうでもいいゴブな!
お世話になりまくってきた【覗き見】がLV2になって、【隠密】とかいうスキルが増えてるゴブ!
ヒャッハー、覗き魔っぷりが強化されました! 夜に隠れて覗いてバレたら逃げる! 完璧な覗き魔ゴブ! 完璧に覗き魔ゴブ! 覗き魔ゴブ……。
で、でもほら、スキル【隠密】がなんなのかわからないけど、きっと隠れた時にバレにくくなったってことゴブ。
生存率アーップ! まあ俺、死んでも復活して生き直せるんだけど! だったら武器スキルとか攻撃系が欲しかったってのはナイショゴブ!
シニョンちゃん、鍛えたらスキルが生えるって言ってたからなあ。
暗器っぽいブラックジャックとか剣とかナイフとか弓矢とか、いろんな武器を使ってる分、俺の武器スキルの熟練度は溜まってなかったってことだろう。
よし、次に死んだら武器スキルをゲットするゴブ! 次に死んだら! 痛いから死にたくないけどね! ライフポイントあるから大丈夫だと思うけど、次も復活できるかわからないし!
考えてもしょうがないことを考えるのは止めよう。
なるようになるゴブ! ゴブシゴブサってヤツゴブ! それを言うならコムシコムサゴブな!
あれ? なるようになるってケセラセラだっけ?
……ゴブリオゴブリンだからわからないゴブ! ゲギャギャッ!
一人でボケて一人で突っ込む俺。虚しいゴブゥ……。
それにしても。
スキルがあって、神殿でスキルを得たりスキルレベルが上がったりして、俺は死んだら種族とスキルを選んで生き直せる。
これ、ほんとゲームみたいゴブなあ。
めちゃめちゃリアルなゲームか、それとも神様が実在する世界ゴブか? ゲームっぽいシステムを適用した、みたいな?
ヒザ立ちのままキョロキョロと神様の石像を見る俺。
石像に動きはない。
当たり前ゴブなあ! うごくせきぞうとかただのモンスターゴブ! あ、モンスターは俺でしたわ! こんにちは、立派な雑魚ゴブリンです! ハハッ!
はあ。
理由を考えたってわからないんだしスルーだスルー。
難しいことは投げっぱなしジャーマンして、生き延びて強くなってニンゲンになることを考えよう。
【覗き見】のレベルが上がったし【隠密】も生えたし上出来ゴブな! さっそく【隠密】しながらシニョンちゃんの部屋まで帰ろうっと! 【隠密】がどうやって発動するのかわからないけどね!
くっ、チュートリアルが欲しい! それか脳内お助けキャラみたいなヤツ! 質問したらなんでも答えてくれるようなよくあるチートが欲しいゴブ! アカシックレコードから情報を引き出してます的な!
俺のチート微妙ゴブなあ……。
隠れながら静かに、トボトボとシニョンちゃんの部屋に向かう俺。
誰にも見つからずに、部屋に戻って来れた。
ひょっとしたらコレも【隠密】の効果なのかもしれない。知らんけど。
シニョンちゃんは、俺が出てった時と同じ姿勢で眠ってる。
悪い夢でも見てるのか、涙をこぼしながら。
そっと手を伸ばして涙を拭いたら、気配を感じたのかシニョンちゃんに手を掴まれた。
そのまま抱え込まれる俺の手。
『んん……ゴブリオさん……』
抱え込んだ俺の手を枕にして、むにゃむにゃ寝言を言うシニョンちゃん。
なにこのカワイイ生き物! ヤバいゴブ! くっ、ダメダメ、ジェントルゴブ!
初めてニンゲンの街に潜入して、シニョンちゃんが暮らしてた神殿に潜入して、新しいスキルをゲットしてスキルレベルも上がった。
激動の一日で疲れてるけど、俺は座ったまま寝ることにする。
女の子が寝てるベッドに潜り込むとかハードル高すぎるからね! 手を掴まれてて体勢キツイけどしょうがないゴブ!
シ、シニョンちゃんと添い寝とか、ゴ、ゴブリオできないゴブ!
さすが【森の臆病者】! しょせん覗き魔ゴブなあ!
違うゴブ、シニョンちゃんの寝顔をじっくり見ようとか考えてないゴブ! これ覗きじゃないからね! でもでもノータッチならセーフゴブな?
あ、【覗き見LV2】って何を覗けるゴブ? ひょっとして服を透視して中を覗いたり?
ハッと気づいて、服を押し上げるシニョンちゃんの双丘を見つめる俺。
スキル【覗き見LV2】発動!
……ゴブリオ知ってた、そんなうまくいくもんじゃないって。
ガッカリなんかしてないゴブよ?
はあ、厳しい世界ゴブなあ。
ゴブシゴブサ、ゴブ。
あ、なるようになるはコムシコムサじゃなかったゴブ。
はあ。
コムシコムサがフランス語で「まあまあ」、
ケセラセラがスペイン語で「なるようになる」、ですね。
ニュアンスはそれぞれもっと意味があるみたいですけど。
知ったこっちゃないゴブ!
■ ゴブリオ(ゴブリン)
【ライフポイント】
23
【スキル】
夜目
ゴブリン語:LV2
覗き見LV2 ※UP!
逃げ足
人族語:LV1
隠密 ※NEW!
【称号】
森の臆病者
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。
この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。