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第四話 こちらゴブリオ、潜入に成功した。ニンゲンの街はおなじみ中世ヨーロッパっぽいゴブ!
俺はニンゲンの街を歩いている。
大きめに作ったフード付きローブは袖も長い。
緑色の肌が見えないように、俺は手を袖で隠してる。
萌え袖ってヤツゴブな! でも俺がやってるから萌えないゴブ! 俺ゴブリンだからね! 鬼畜生だから! ハハッ!
フードを深くかぶって、横目でチラチラ街を見ながら歩く俺。
街は二階建てか三階建てで木造の建物が多くて、道は舗装してないむき出しの地面だ。
最初は気づかなくてデカい家ばっかりだなーとか思ってたけど、どうも一軒一軒の隙間がなくて、何軒かが隣り合って立ってるらしい。
ミ……メゾネットタイプのアパートみたいな。
これ隣の音が丸聞こえゴブな! プライバシーとか微妙っぽいゴブ! あれ、俺が思い描いた文明的な生活ってひょっとしてニンゲンの街にもない感じ?
気になるけど、俺は黙って街を歩く。
シニョンちゃんに手を引かれて。
うん、だから萌え袖で手が見えないようにしたゴブ! チラチラ横目で街を見てるのも、繋いだ手を意識しないようにね!
でも無言なのは緊張して何しゃべったらいいかわからないせいじゃないゴブよ? つい語尾にゴブって付けちゃうからゴブリンってバレないようできるだけ黙ってるゴブ! ホントなら俺の軽快なトークが炸裂してるところゴブよ?
今度は街を歩くニンゲンを観察する俺。
森に入ってきた冒険者と違って、すれ違うニンゲンたちは武装してない。
下は麻っぽい布のズボンで、上は七分袖で裾が長いTシャツ、長い裾のところは腰当たりで革紐を結んでる。
予想通り中世ヨーロッパっぽい! いや中世の服装とか知らないけど! とりあえずアレだ、みんな色が地味だね! あんまり裕福なニンゲンじゃないゴブ?
薄汚れた生成りのローブを着ている俺が浮くことはないっぽい。
俺よりも、むしろ手を繋いでるシニョンちゃんの方がニンゲンの目を引いてる。
そうだね、歩くだけでぽよぽよ弾んでるもんね! さっきから俺の顔のすぐ横で弾みまくってるゴブ! 目が吸い込まれる魔性のおっぱい! さすがおっぱいちゃんゴブ!
でも、おっぱいちゃんにとってはキツイだろう。
あ、いや服の話じゃなくて。
シニョンちゃんはニンゲンに騙されて襲われて、目の前で護衛が殺されるのを見ていた。
それ以来、ニンゲンが怖くなったシニョンちゃん。
なんとか門を抜けて待ち合わせ場所まで一人で来れたけど、俺と合流したらしがみつくように抱きついて、しばらく震えていたシニョンちゃん。
いまもシニョンちゃんは目が合わないように下を見て、手は震えている。
近い距離でニンゲンとすれ違うだけで、ビクッてなって。
かわいそうだけど、俺には何もできない。
道もわからないし、シニョンちゃんは無事だと代わりに伝えるわけにもいかない。
ニンゲンの女の子が行方不明になって、ゴブリンが「無事に保護してる」って言って信じてもらえるわけないゴブ! ゴブリオ賢いからそれぐらいわかるゴブ! 元人間だからね! おバカなゴブリンじゃないから!
……賢さの基準が低くなってる気がする。
気のせいゴブな? ゴブ化してるゴブか? 気のせいだって信じてるゴブ!
おっと、くだらないこと考えてる場合じゃない。
シニョンちゃんがこんな状態だから、警戒するのは俺の役目だ。
ぽよぽよ弾む魔性のおっぱいに目を向けないよう気をつけながら、俺はまわりを警戒して歩く。
中世ヨーロッパで物騒な冒険者がいて、シニョンちゃん【受難】と【運命神の愛し子】とかいう厄介そうなスキルと称号持ちだからね。
絡まれたり通りかかった貴族に声かけられたり、あとスリとかに狙われそうゴブ! 浮浪児から格好の獲物に見られそうゴブ!
ボロい服着て顔を隠して背が低い……あれ? それ俺じゃね? いま見た目そのまんまじゃね? 違うから、俺スリな浮浪児じゃなくてゴブリンだから! 俺がやるのは死体漁りだけで……はいアウトー!
どう考えても怪しい見た目な俺と、手を繋いで歩く神官な女の子。
うん、道理ですれ違うニンゲンがけっこうな距離を取るわけですわ。
明らかにトラブルの匂いがするもんね。
俺がスリとか盗みとかしようとした浮浪児で、神官な女の子が捕まえてどこかに連れてくみたいな。
孤児を保護してる神殿に連れてく、みたいな。
ちょうど俺たちが向かってるのって神殿だし。
ま、まあアレだ、どう見られてたって、ジャマされなさそうだから良しとしよう。
やめて、そんな目で見ないで! 俺スリじゃないから! ストリートチルドレンじゃないから! 死体漁りするゴブリンだから! あ、そっちの方が問題ですわ! ニンゲンの敵ですわ! ゲギャギャッ!
俺の考えが正しいのか、街を歩いても話しかけてくるニンゲンはいない。
俺にとっても、シニョンちゃんにとっても幸いなことに。
キョロキョロと【覗き見】しながら警戒して、ようやく目的地が見えてきた。
シニョンちゃんが暮らしていた、神殿に。
『シニョン、ここで別れる』
『……はい、リオさん』
『大丈夫、すぐ会える、ゴブ。シニョン、ずっと、神殿いた。心配ない』
『そう、ですよね。……リオさん、すぐ来てくださいね』
『わかった』
シニョンちゃんが暮らしていた神殿。
俺は一緒に入るわけにはいかない。
もし一緒に行ったら、どう考えても俺のことを聞かれるから。
それでフードを取ったらさすがにゴブリンってバレるから。
俺は歩き出したシニョンちゃんを見送る。
シニョンちゃんが神殿の敷地に入ったところまで見届けて、その場を離れる俺。
ここからはコソコソと行動する。
まるでコソドロな浮浪児みたいに。
見た目ピッタリゴブ! 捕まらないように気をつけなきゃね! コソドロじゃないけど捕まったら大惨事だから! 死体から盗みをしてるゴブリンだからね! ハハッ!
しばらく一人で行動するシニョンちゃんは緊張してたけど、俺も緊張してるんだろう。
どうでもいい考えが次々に浮かんでくる。
それでもまわりを警戒しながらコソコソ動いて、俺は神殿の裏庭に着いた。
シニョンちゃんから教えてもらった場所に。
神殿の裏の方はここで暮らす人たちの生活空間になってるらしい。
ここから、三階にあるシニョンちゃんの部屋が見えるって言ってた。
出番だぞスキル【覗き見】! こっそり潜んで女の子の部屋を【覗き見】するとか完全に覗き魔だね! 【夜目】が利く夜の方が見つからなくてよかったけど!
息を潜めて裏庭の木陰に隠れる俺。
この時間はヒトが近づくことはないって言ってたけど、警戒するのは当然だろう。
やがて、一つの窓が開いて。
シニョンちゃんが姿を見せる。
ちょっとだけ顔を出した俺を見つけたらしく、シニョンちゃんは笑顔になった。
続けてシニョンちゃんは、俺が預けてた縄梯子を部屋の窓から垂らす。
俺が入れるように。
さっと近づいて縄梯子を登る俺。
木の上の拠点でめっちゃ使ってるからね! 手慣れたものゴブ! いまごろオクデラは縄梯子なしで木の上の拠点に隠れっぱなしだけど! オクデラ、引きニートゴブな! 10年経ったら異世界に行くゴブか? ゲギャギャッ!
俺は縄梯子を登りきって窓から飛び込んで、すぐに縄梯子を引き上げた。
窓についてる木の板をシニョンちゃんが閉めて。
俺は、ガバッと抱きしめられた。
『ゴ、ゴブ、あ、リオさん、私、怖かったですけど、私、わたし』
『よしよし、がんばった、ゴブ。シニョン、偉い』
ヒザをついて俺を抱きしめるシニョンちゃん。
これなら俺がおっぱいで窒息することはない。
残念じゃないゴブよ?
俺は、シニョンちゃんを抱きしめて、そっと頭を撫でる。
こ、これがウワサの頭ポンポンゴブ! つ、続けて頭を撫でちゃったりして! ゴ、ゴゴ、ゴブリオ、女の子の部屋で、抱きつかれて、頭を撫でてるゴブ! イケメンみたいゴブな! こ、ここ、恋人みたいゴブ!
でも恋愛的なこととかピンクなことはない。
ちょっとの間俺と別れて、保護者だった司祭様って人と話をするのさえ怖かったのか。
シニョンちゃんは、俺にしがみついて震えてた。
『シニョン、無事、説明、できたか?』
『はい。司祭様は帰ってきたことを喜んでくださって、ただ私、司祭様に近づかれただけで震えてきちゃって、司祭様は何も聞かないで、今日はゆっくり休みなさいって』
…………。
司祭様、物わかり良すぎゴブ! そりゃそうか、冒険者はあんな感じだし人を襲うモンスターがいる世界だもんね! ここ神殿だし! きっと司祭様はそういう女性を何人も見てきたゴブ!
物騒な世界、ゴブなあ。
ゴブリンな俺が言うのもどうかと思うけど。
なにしろゴブリンは「男は殺せ! 女は犯せ!」だったからね! 鬼畜ゴブ! 鬼畜生ゴブ!
『シニョン、大丈夫。俺、ここいる』
『はい、はい。ありがとうございます、リオさん』
俺にしがみついたまま言うシニョンちゃん。
どうやら俺は、まだ抱き枕扱いされるらしい。
シニョンちゃん? あの、そろそろ離してもらえませんか? そんなにしがみつかれると、すごくその、おっぱいの感触が……。
……ヤバ、離れるゴブ! ちょっ、ちょっとだけでいいから離れ、あ、ゴブリオのゴブリンがゴブりそうゴブ! ちょっ、離れておっぱいちゃん! ゴブリオ気づいた、これ街で一番の敵はシニョンちゃんゴブなあ!
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