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ゴブリンサバイバー〜転生したけどゴブリンだったからちゃんと生き直して人間になりたい!〜 作者:坂東太郎

『第二章 果ての森2』

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第三話 いろいろ準備して、ついに俺ことゴブリオはニンゲンの街に潜入しました!


『ここは《果ての森》って言うんです。あの道の先には村が一つしかなくて、その先はずっと未開の森になってます』

 小さな声で言うシニョンちゃん。
 俺とシニョンちゃんはいま、森を歩いている。

 俺とオクデラとシニョンちゃんが暮らす森には、冒険者が入ってくるようになった。
 ゴブリンの里を潰して以来、行方不明のシニョンちゃんと、護衛役の二人を探して。
 まあその護衛役のうち一人は盗賊とグルで、もう一人はその盗賊に殺されたんだけどね! ニンゲンの非道っぷりがヤバすぎてゴブリンな俺より鬼畜な件!

 ともかくそのせいで、シニョンちゃんはニンゲンのことが怖くなったらしい。
 シニョンちゃんが信用できるのは、ゴブリンから一回、ニンゲンから一回助けた俺とオクデラだけ。
 だから一緒に暮らしてたんだけど……。
 森に入る冒険者の数が増えてきたし、冒険者は『男は殺せ! 女は犯して殺せ!』とか言い出してるし、俺はシニョンちゃんを説得して一度街に帰ってもらうことにした。

 シニョンちゃんを捜しに来る人がいなくなるように。
 ついでに、俺もこっそり街に入ろうと思って。

『川の上流は立派な家が並んでますから、見つかっちゃダメですよ。いいですかゴブリオさん、壁から二つ目の橋で待ち合わせです』

 俺の背中の服をつまんで、小さな声で話しかけてくるシニョンちゃん。
 ニンゲンが怖くなったシニョンちゃんは、街に帰るのが不安でしょうがないらしい。
 すぐ俺と合流する予定だけど、門から入って合流場所までは一人になる。
 小さな声で話すのを止められないのも、俺の服をつまんでるのも、シニョンちゃんの恐怖の表れだろう。

 ゴブリンな俺は門番のチェックを抜けられないから、こっそり街に潜入する予定だ。
 コソコソと森を歩く俺たちは、やがて街を囲う外壁の前にたどり着いた。

『ゴブリオさん、ゴブリンだって見られたらすぐに逃げてくださいね。私、ゴブリオさんがいなくても、ちゃんと話して、ゴブリオさんたちの拠点に、そうだ、ゴブリオさんがゴブリンってバレないように、ゴブリオさんって呼ばない方がいいですよね、えっと、私、リオさんって呼びますから、それで、それで』

『ニンゲン。シニョ、シニョン、大丈夫、落ち着く。シニョンこそ、橋まで、心配』

 木陰にしゃがみこんで、俺はやっとシニョンちゃんと目を合わせる。
 プルプル震えて不安そうなシニョンちゃん。
 信じやすくて騙されやすくて【受難】とかいう厄介そうなスキルと【運命神の愛し子】って明らかに運命に翻弄されそうな称号を持ってるシニョンちゃん。

『私、がんばります。いまがんばれば、あとは、リオさんとオクデラさんと、一緒に、安全に、襲われ、襲われないで、暮らせるんですから』

 シニョンちゃんは、震えながら微笑んだ。

『そう。だから、シニョン、がんばる。俺、すぐ、合流する』

『はい! じゃあ、行ってきます!』

 シニョンちゃんは笑って、そっと俺の手を握ってから、立ち上がった。
 俺と別れて、街に入る門に向かって歩き出す。

 何度も振り返るシニョンちゃんの後を、隠れながら追う俺。
 俺まるでストーカーみたいなんですけど……違うから! 【森の臆病者(チキン)】だし、覗き魔特化のスキル構成だけどストーカーじゃないから! あと【追跡】【隠密】あたりがあれば立派なストーカーになれそうだけど!

 【覗き見】する俺の目に、門に近づくシニョンちゃんの姿が見える。
 見つからないように気をつけながら、俺は、門番と話すシニョンちゃんを見つめていた。

 しばらく門番と会話するシニョンちゃん。
 一瞬だけ、俺が潜んでいる場所に視線を送って、シニョンちゃんは問題なく街に入った。

 次は俺の番だ。
 俺はゆっくりと移動をはじめた。
 川から街に潜入するために。


「荷物よし、重りよし、空気よし。絶好の潜入日和ゴブ! 神様仏様スネーク様、どうか見つかりませんように!」

 街の外壁からちょっと離れた場所で、川に下半身をひたす俺。
 川は生温いぐらいで、あんまり冷たくないのが救いだ。

 俺はいま半裸で、腰にボロ布を巻いてるだけ。
 懐かしの雑魚ゴブスタイル! 初日はこんな格好だったゴブなあ。

 ジャマにならないよう俺の荷物は少ない。
 布のローブをつめた皮袋と、倒したモンスターから得た、というか抉り出した魔石と一角ウサギの毛皮を入れた布の袋。
 潜ったまま安定するように、バラスト代わりの石。
 あと、空気を詰めたボンベ代わりの皮袋だけ。

 ちなみに服や空気を入れた皮袋は、剣シカの胃袋を干したものだ。
 服を入れた方は水が入らないようにして、浮かないように重りの石をつけてる。
 空気用の方はふくらませて、片方を縛ってこっちも石をつけてる。
 呼吸したくなったら、この皮袋に口をつけて中の空気を吸うわけだ。
 変な臭いはガマンするしかない。

 ライフポイントはそこそこ溜まってきたし、本当は役立ちそうなスキルを取ろうかと思ったんだけど、それには死ななきゃいけないわけで。
 死ぬのってめっちゃ痛いんすよ。
 殺されようが自殺しようがめっちゃ痛いし怖いんすよ。

 俺、日和りました。

 さすが【森の臆病者(チキン)】! まあほら、潜入に失敗したらどっちにしろ死ぬからね! 死なないでイケるとこまで行ってみようと思って! 言い訳じゃなくてね? 節約できるならその方がいいかなあってね?

 ぐだぐだ考える自分を止めて、勇気を振り絞る。

 よし、行くぞ! 初めての異世界の街、初めてのニンゲンの街へ!

 意を決して頭まで川に沈める俺。
 川に流されながら、俺はゆっくり泳ぎ出す。
 アニキもこうして流されたのかな、とか思いながら。
 予定では水中にいる時間はそんなに長くない。

 川の中に身を沈めたまま、俺はあっさり外壁がある場所を越えた。
 ……あの、モンスターとか人の侵入を防ぐためっぽい鉄格子、折れまくってたんですけど。
 ニンゲン無防備すぎィ! おかげで簡単に通れました! 流されたアニキもこうやってあっさり通過したのかもね! アニキ、どこで何してるゴブ?

 用意した空気袋も問題なく、ときどき口を付けて呼吸しながら進む。
 水中から川面を見上げても、キラキラと光を反射して街中は見えない。

 ちょっと不安になりながら、石造りの橋っぽい場所の一つ目を通過する。
 シニョンちゃんの話では、この辺は街でも上流階級が暮らす場所らしい。
 上流の方が水がキレイだからって。

 一つ目の橋を過ぎると、川の水はだんだん濁っていく。
 濁る理由とか考えちゃいけない。
 きっと排水的な、下水的なアレで濁ってるんだけど考えちゃいけない。
 大丈夫、飲んでないから! セーフ、セーフだから!

 そんなことを考えながら川を流されて。
 ようやく二つ目の橋が見えてきた。
 水中行はコレで終わり。
 ここから橋のたもとに上がって、ローブを着て、シニョンちゃんと合流する。

 いよいよニンゲンの街。
 いよいよ外から見にくかった川の中から出ることになる。

 静かに泳いで橋の陰にたどり着いた俺は、ゆっくり水面から頭を出す。
 【覗き見】したところ、あたりに人影はない。

 静かに水から上がって、ざっと水を払って、すぐにローブを着る。
 拭くより先に服を着なくちゃね! 俺、覗き魔だけど露出狂じゃないから! いや覗き魔でもねえし! でもローブの中は腰巻きだけです! おおう、変質者!

 テンションがおかしいのは緊張してるからだろう。
 いつも通りな気もするけど、きっと気のせいだ。

 自作の布のローブをまとって、フードをかぶって角を隠す。
 これがホントの角隠しだね! 花嫁さんがつけるヤツじゃなくてガチだけど! 俺ゴブリンだから! 額にちっちゃい角あるから!
 うん、どうでもいい。

 ローブをまとった俺は荷物を整理する。
 売れるらしい魔石と毛皮は大きめの布の袋に入れて肩から提げ、スリ対策にローブの内側に。
 空気を入れてた皮袋に、今度は川の水を入れて飲み水用に。

 それだけでもう準備はできた。
 とりあえず、パッと見でゴブリンとはわからないと思う。
 天然っぽいシニョンちゃんの言葉だから、あんまり信じきれないけど。

 俺は橋のたもとから川岸を登って、橋の横に出た。
 ついに、ニンゲンの街の中に。

 橋の上には一人の女性がポツンと立っている。
 どうやら問題なく合流できたっぽい。

『シニョン、無事、だった』

 声をかけた俺を振り返り、パッと花が咲いたような笑顔を浮かべるシニョンちゃん。

『ゴブリオさん! あっ! ……リオさん!』

 おいニンゲン、学習能力ゥー!
 バレないように街中ではリオって呼ぶって自分から言ってたゴブ! 俺、がんばって語尾にゴブってつかないようにしたのに! これからが不安でしょうがないゴブ!
 ねえシニョンちゃん、俺ほんとに大丈夫? 殺されるだけなら生き直せるし別にいいけど、俺捕まったら大変ゴブよ? 死なない程度の拷問とかイヤゴブよ?

 うん、慎重に行こう。
 バレないとか大丈夫ってシニョンちゃんの言葉を信じるのはほどほどにしとこう。

 でも。
 ヒャッハー、街だ! 文明だ! 俺、まだゴブリンだけどついにニンゲンの街に入りました! テンション上がるゴブなあ!
 獣人、犬耳とか猫耳の獣人はどこですか! まさか狐耳もいるゴブ? あとドワーフとエルフもいるって聞いたゴブ! エ、エエ、エルフは、まさか、エロフゴブ? ワクワクが止まらないゴブ!

『ゴブ……リオさん、良かった、ほんと、無事で、それに、ここは、人間がいっぱいで、私、たくさん見られて、怖くて……』

 テンションのまま歩き出そうとした俺を正面から抱きしめるシニョンちゃん。
 身長差のせいで、俺の顔がおっぱいちゃんのおっぱいに挟まれる。

 神様、楽園はここにあったゴブ……。
 あ、でも苦しいからちょっと離してほし、あ、ヤバ、息ができな……。

 俺は死ななかった。
 おっぱいちゃんはギリギリで気づいて離してくれたみたいだ。

 危うく死ぬところだったゴブ! でもどうせ生き直せるんだし一回ぐらいおっぱいで窒息死してもよかったとか思ってないゴブ! 思ってないゴブよ?  本当ゴブ!


章タイトルの場所の名前、入れるの忘れてました。
本当は一章エピローグで入れるはずが……
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