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第二十五話 ニンゲンの女の子とコミュニケーションとったらエラいことになったゴブ!
「オクデラ、ちょっと落ち着くゴブ。えーっと、そうだ。さっき倒したニンゲンの武器を集めてきてほしいゴブ」
「ゴ、ゴブリオ、オデ、ゴブリオガ、死ンダカト、オデ、オデ。ヨカッタ、ゴブリオ」
とりあえずオクデラを落ち着かせよう。
そう思って仕事を頼もうとしたら、俺はオクデラに抱きつかれた。
うんうん、不安だったんだなオクデラ! オクデラはホントいいヤツだな! オークなのに! でもちょっと離れような! 涙と鼻水とヨダレと返り血でよくわからないことになってるゴブ! あ、待って、ちょっと痛い、折れ、折れる! 俺また死んじゃうゴブ!
何度も背中を叩いたら、ようやくオクデラも気づいたらしい。
そっと離れて、俺にケガがないか確かめてくる。
危なくもう一回あの空間に行くところだったぞオクデラ! 行けるかどうかわからないけど! うん、そのうち検証が必要ゴブな!
「オクデラ、もう大丈夫か? ニンゲンの武器は強いからな、オクデラに集めてきてほしいゴブ」
「ワカッタ! オデ、スグ集メテクル!」
オクデラはそう言い残して、さっと洞窟の中へ入っていった。
あいかわらず素直すぎィ! ゴブリオちょっと心配になるゴブ!
でもいまは助かった。
オクデラには今度ゆっくり注意しよう。
俺は、体の向きを変える。
うずくまって震える、聖職者っぽいニンゲンの女の子の方へ。
ゆっくりと近づいたら、小動物みたいにビクッと反応した。
おそるおそる俺を見る。
ぷるぷる、ぼくわるいごぶりんじゃないよ!
こう、俺としては優しい笑顔のつもりで、両手を広げて武器を持ってないことも見せる。
怯えさせないように近づく感じ。
でも、ニンゲンの女の子は、予想外の行動に出た。
『うわあん、ゴブリンさぁん! 私、わたし、怖かったです! 人間ってあんなに、人間が人間に、あんなにひどいことをするなんて!』
俺に抱きついてきた。
ガバッと。
ちなみに、けっきょく俺は雑魚ゴブリンのままだ。
つまり小さい。
いや身長の話ね? 身長の話だよ? 小さいのは器でもゴブリオのゴブリンでもないよ?
俺の小さい体じゃ飛びついてきた女の子の勢いを受け止められなくて、後ろに倒れた。
抱きしめられたまま。
女の子の服は破れてて……。
当たってる、当たりまくってるゴブ! 俺の顔におっぱいちゃんのおっぱいが当たりまくってるゴブゥ! さっきからなにコレ、え、俺まじで主人公スキル【ラッキースケベ】覚えたのかな?
どうでもいいことを考える俺。
どうでもいいことを考えないとヤバい俺。
心頭滅却すれば火もまた涼し! どうでもいいことを考えればゴブリンもまたED! あ、EDはオクデラだったゴブ! ハハッ! すまんオクデラ。
むにむにした感触は気にしない。
それよりも、女の子の背中にまわした手に伝わる、震えを気にする。
『も、もう、大丈夫、ゴブ。敵、いない。俺、いいゴブリン』
いいゴブリンってなんだよ! そんなゴブリン見たことねえよ! アニキだってニンゲンのこと犯して孕ませろとか言ってたし! しょうがないよねゴブリンだから! ゲギャギャッ!
もちろんそんなことは口に出さない。
震える女の子が落ち着くように、大丈夫、俺はいいゴブリンだと言って背中をさする。
あ、ちょうどいいや、この機会に確認しとこう。
違うことを考えた方がゴブリオのゴブリンが落ち着くからね!
ニンゲンの女の子の慰め方とか知らないゴブ……。しょうがないよねゴブリンだから! 俺ゴブリンだから! 元人間? 何のことゴブ?
スキルウィンドウ!
もう慣れたもので、頭の中で命じるだけで頭に浮かんでくるのも知ってる。
そう、ニンゲンの言葉も話せるようになったけど、いちおう確かめておこうと思って。
【ライフポイント】
5
【スキル】
夜目、ゴブリン語:LV2、覗き見、逃げ足、人族語:LV1
【称号】
森の臆病者
……。
…………。
うん、ちゃんと表示されたねスキル【人族語LV1】! 【夜目】に【覗き見】に【逃げ足】も問題なし! 称号も【森の臆病者】のまんまだね! やっぱりあの空間で選んだスキルがゲットできると! どんどん強くなれるゴブな!
わかってる。
ツッコミどころはそこじゃない。
そもそも頭の中に思い浮かんだのに、最初にある。
ヒャッハー! ライフポイントが見えるようになってるゴブ! え、これ溜まる方法の検証とか余裕じゃない? いまスキル取れないゴブか? スキルセレクト! スキル選択! くっそ、それはムリっぽいゴブ!
でも、でも。
ライフポイントが確かめられるのはデカい。
たぶんだけど、ライフポイントは残機。
俺が死んでも復活できる回数だろう。
あの空間で種族を選ぶのにも使うし、スキル取るのにも使うけど。
復活っていうより生まれ直し、うーん、リスタート?
種族が変わるかもしれないから、復活とかコンテニューはしっくりこないゴブ。
うんまあどうでもいいね!
とにかくライフポイントが見られるようになったこと、溜める方法がわかるかもしれないことが重要ゴブ! うまくいけばチートで強ゴブリンで無双する日も近いゴブ! あ、違う、俺、ニンゲンを目指すんだったわ!
そんな夢を見ているうちに。
ニンゲンの女の子の震えがおさまってきたっぽい。
『あの、ゴブリンさん、ありがとうございました。落ち着いてきて、私、その、は、はしたない……』
俺を押し倒した状態から、ちょっと体を起こして俺を見る女の子。
ちかっ! え、近すぎゴブ! こ、ここ、これ異世界では当たり前ゴブか? あああああ! さっきニンゲンになれてれば! 100万ライフポイントあれば! まあ11しかなかったけどね! ハハッ!
『大丈夫、ゴブリオ、気にしない』
ホントはめっちゃ気にしてるゴブ! おっぱい当たってるし! 顔めっちゃ近いし! でも大丈夫、ゴブリオ、ジェントルゴブ!
『ゴブリオ? お名前ですか? ゴブリンに名前が?』
『俺、名前、ゴブリオ。俺、頭いい』
『ふふ、そうですね、ゴブリオさんは賢くって優しくて、ゴブリンじゃないみたいです。ゴブリオさん、本当にありがとうございました。あ、私、シニョンって言います』
ニンゲンの女の子は、そう言って微笑んだ。
俺の至近距離で。
ゴブリンの俺の、目の前で、微笑んだ。
お、おおう……いい子すぎゴブ……そんなんだから襲われるゴブよ。
いまゴブリオも襲いそうになっちゃうぐらいの破壊力だったゴブ……ゴブリオゴブるところだったゴブ。
くらっときた。
ああうん、まあ俺もう惚れちゃってるんだけどね!
シニョンちゃんの腕に抱かれて死ぬ前に!
もぞもぞ動いて、とりあえず俺はシニョンちゃんの下から抜け出した。
あぐらをかいて座る。
うん、マジでヤバかったゴブ……。シニョン、恐ろしい子!
よし、落ち着こう俺。
元人間なんだし、これぐらい大丈夫だ。
『シ、シニョ、いや、ニンゲン、道まで送る。ニンゲン、帰る、落ち着く、また森に来る。ゴブリオ、は、はな、話したい』
……はいぜんぜん大丈夫じゃありませんでした!
恥ずかしくて名前さえ呼べないってなんだよ! 初心かよ! 俺オクデラじゃないのに! そんでこれ俺言ってから気づいたんだけど、デートの誘いみたいじゃね? ぐおおお、恥ずかしい! 死ぬ! あ、さっき死んだけど! ハハッ!
頭を抱える俺。
え、俺こんな初心だったの? 人間だった頃はモテモテだったんじゃないの? 友達も恋人もいるリア充だったんじゃないの?
俺、人間だった頃もぼっちだった疑惑。
頭を抱えたままシニョンちゃんをチラ見する。
シニョンちゃんは、いまにも泣きそうな顔をしていた。
『あ、ごめん、ゴブリオ、ゴブリン。ゴブリンと話す、イヤゴブな』
『違うんです! その、ゴブリオさん……私、帰りたくないんです』
……。
…………。
は? え? パードン? 帰りたくない? ヒャッハー、今夜はお祭りゴブ!
ってなるか! うん、わかってる。
シニョンちゃんは、泣きそうな顔で、震えてる。
『わるいニンゲン、いる。いいニンゲン、いる。ニンゲン、森、危ない』
『心配してくれるんですね。でも私、人間が怖くて』
『ゴブリオ、ゴブリン。シニョン、ゴブリン、襲われる、あった』
『はい。でも、あの時もゴブリオさんとオークさんが助けてくれました。今回も……だから、お二人なら、安心できるんです。その、ダメですか?』
ぐっ、また破壊力高いゴブ!
うるうるした上目遣いも、手を組むのも反則ゴブ! 谷間、谷間が! でもゴブリオそんな誘惑には負けないゴブ!
『わかった。ニンゲン、落ち着く、いる。大丈夫、なる、ゴブリオ、道、送る』
『ありがとうございますゴブリオさん!』
おっぱいには勝てなかったよ……。
ち、違うゴブ! シニョンちゃんからいろいろ聞きたいことがあるだけで! ほ、ほら、ニンゲンの情報とかスキルのこととか魔法のこととか! こ、ここ、このまま一緒に暮らしちゃおうかなとか思ってないし! 森の中で若い男女が二人っきりだとか思ってないし! だいたい二人って、俺ニンゲンじゃなくてゴブリンだからね! 一人一ゴブっきりだから!
「ゴブリオ、オデ、武器、持ッテキタ」
あ、うん、あとオクデラもいるし。
二人きりじゃないからってぜんぜんショック受けてないゴブよ? 本当ゴブよ?
俺がゴブリンなうちに手を出すわけにはいかない。
俺は心までゴブリンになったわけじゃないから。
くそう、はやくニンゲンになりたいゴブなあ。
とりあえず、オクデラがシニョンちゃんを襲うことはない。
それだけは間違いない。
なにしろEDだから。ハハッ。
よし、切り替え切り替え。
んじゃ、恒例の死体漁りをはじめるゴブ! 今回は武器も防具も服も、ニンゲンの道具まであるゴブ! 使える物が大量でテンション上がるゴブなあ!
罪悪感? うん、盗賊の方は知ったこっちゃないゴブ! あ、騙された田舎の若者だけは考慮しないとね! シニョンちゃんもいるし! ゴブリオ、気遣いできるゴブリンゴブ! 鬼畜生だけど! ゲギャギャッ!
ちなみに。
名前の由来ですが……フランス語で「おっぱい」は「ニション」(俗語)です。
字面と響きから、ちょっとイジって「シニョン」です。
髪型もきっとシニョンなことでしょう。
ゴブリンのゴブリオ、オークのオクデラ、アニキっぽいアニキと違ってちょっとひねりました!w
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