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第二十四話 俺、復活! ただいま、オクデラとおっぱいちゃん!
VRMMOのキャラメイクみたいな空間で、俺は種族とスキルを選んだ。
やった、これで俺も強くなれる! チートで無双でハーレムだ! とか思ってたけど、選べたのはこれまでとほとんど変わらない。
種族はゴブリンで、スキルは【人族語LV1】が増えただけ。
ライフポイントって何ゴブ! これ増やすにはどうしたらいいの? チュートリアルも案内役もないとか不親切すぎゴブ! そこんとこどうなってるんですかねえ神様!
そんなことを思ってても変わらない。
とりあえず、ニンゲンと話せるようになっただけで良しとしよう。
それに、一度スキルを取ったら持ち越せるっぽいし。
よっしゃあ! あとはライフポイント増やす方法がわかれば! ガンガン強くなれるゴブ! これやっぱりチートゴブなあ! ゲギャギャッ!
そこまで考えて、気づく。
あれ? 俺、あの謎の空間で意識を失ったと思うんだけど……なんで考えられるようになってんだ? 考えるゆえに我ゴブってことはもう意識ある? あ、ひょっとしてもうスタート地点かな? え、マジで何の合図もなし?
キャラメイクっぽい感じなのに、スタートは何の合図もないらしい。
ワクワク感ってものをわかってないゴブな!
これもしゲームだったらマジクソゲーゴブ!
ぷんすかと怒る俺、ゴブリオこと雑魚ゴブリン。
うん、まったくかわいくない。氏ねばいいのに! あ、ついさっき死んだところでした! ハハッ!
なんとなく体の感覚が戻ってきた気がする。
戻ってきたのか新しくできたのかってところは当然のごとくスルーする。
ところで、頭にやわらかくてあったかくて、何だかわからないけどすごく幸せな気分になる感触があるんですけど……。
これ、ひょっとして。
俺は、目を開けた。
視界いっぱいに見えたのは、肌色だった。
ゴブリンの緑色の肌じゃない。
肌色だ。
色白ですべすべな感じの肌色だ。
目は肌色しか見えてないけど、耳に音が聞こえてくる。
『ごめんなさい、ごめんなさい、私のせいで、私なんかを助けに来たから、私がもっと魔法を使えたら、ごめんなさい、ごめんなさい』
視界をふさぐ肌色の、やわらかい感じのとこが、声に合わせてちょっとぷるぷるしてる。
「オ、オデ、オデ、アニキガ、イナクテ、ゴブリオ、死ンダラ、オデ、オデ、一匹デ」
あと、オンオン泣いてて途切れ途切れの声も聞こえる。
……。
…………。
これ、おっぱいちゃんとオクデラじゃんね。
俺が死んだ時と同じ状態じゃんね。
ああうん、スキル【人族語LV1】を取ったせいか、おっぱいちゃんの言葉がわかるようになってるけど! よし、これだけでも死んだ甲斐があったね! あれ? 死んだ甲斐っておかしくない? まあいっか、気にしたらハゲるゴブ! あ、俺最初から髪の毛ないけど! ゴブリンだから! ゲギャギャッ!
それにしても……。
死んだ場所からスタートのタイプか! よっしゃ、おっぱいちゃんとオクデラを探す手間が省けたゴブ! 深く考えるのはやめ! ラッキーってことで!
さっそくおっぱいちゃんとオクデラに話しかけようと思ったけど、声が出ない。
あれ? と思ったら、視界が真っ白になった。
『きゃっ!? な、なんでしょう、この光は! まぶしい! ゴブリンさん!?』
「グワッ! ニンゲン、魔法カ? ゴブリオ、元気、ナルカ?」
なんか俺の体が光ったらしい。
そうだねオクデラ、さっきおっぱいちゃんが魔法を使ったら手が光ってたからね! そう思うのもしょうがないかもね! 単じゅ、素直でゴブリオうれしいゴブ!
ははあ、意識とか霊体的なアレが先に戻って、ちょっと遅れて光る感じゴブな。
それで復活する感じゴブな。
ゴブリオ理解したゴブ。
理由とか原理とかスルーゴブ。
真っ白になった視界が元に戻ると、至近距離で光を浴びたおっぱいちゃんは両手で目を押さえていた。
つまり。
俺の目の前にある、おっぱいちゃんのおっぱいはむき出しだ。
盗賊に前を破られて、俺が死ぬ時に抱きしめてくれてたからね! ヒャッハー、これが主人公スキル【ラッキースケベ】ゴブ! そんなスキル取った覚えないけど! 神様ありがとうございます! 今後もよろしくお願いします! ちょっと触っても……ダメダメ、ジェントルゴブ!
今度こそ、俺は話しかけようと口を開く。
「オクデラ、ただいま」
……ただいまってなんだよ! オクデラからしたらずっと目の前にいたよ! 第一声はおっぱいちゃんじゃなくてオクデラの方かよ! そうだよ仲間だもんね!
脳内ツッコミは、たぶん照れ隠しとうれしさだ。
俺はゴブリンだけど、オクデラと、アニキとサバイバルしてきた。
仲間として。
だから、声をかけるならおっぱいちゃんじゃなくてオクデラだと思ったんだ。
俺の声が聞こえたのか、オクデラもおっぱいちゃんもフリーズしてる。
だから俺は、ずっと握られてたオクデラの手を、ギュッと強く握った。
おっぱいちゃんのおっぱいから目を逸らして、オクデラを見る。
けっこう意志が必要だったってことはナイショゴブ! むしろ目の前のおっぱいからオークに視線を動かした俺を褒めてほしいゴブ! おさまれゴブリオのゴブリン!
「ゴ、ゴブ、ゴブリオ? ゴブリオ?」
オクデラ、ちょっと語尾のゴブが移ったみたいになってるゴブ! 落ち着けオクデラ! まあムリか! 逆だったら俺もムリですわ! ハハッ!
「ゴブリオ、生キテル、ノカ? ゴブリオ?」
「ああ、オクデラ。俺は生きてる。だからオクデラは一人じゃないゴブ」
俺の言葉を聞いて。
オクデラは、またオンオンと泣き出した。
握ってた俺の手に頬ずりしながら。
涙と鼻水とヨダレでびちゃびちゃの顔で。
う、うん、ちょっと好きにさせておこう。
引いてないゴブよ? 喜んでもらえてうれしいなって思ってるゴブ。本当ゴブよ? 俺を引かせたらたいしたもんゴブ!
ちょっとオクデラのことは置いておく。
俺は、ニンゲンの目を見つめる。
目を丸くしてフリーズしたままのおっぱいちゃんを。
『ニンゲン、謝る、ない。俺が助けたい、だから、助けたゴブ。さっき、魔法、ありがとう』
ニンゲンは、大きな目をさらに丸くする。
そりゃそうだ、ゴブリンがいきなりニンゲンの言葉をしゃべったんだから。
でもちゃんと通じてるらしい。
取ってよかった【人族語】!
『え、だって、ゴブリンさんはゴブリンで、それにいま確かに死んでましたし、え? あれ? 私、え? ゆ、夢でしょうか』
にんげん は こんらん している!
当然ゴブ! 元人間な俺だけど見た目はただのゴブリンだからね! さっきまで話せなかったし! 混乱しなかったらちょっとおかしいゴブ!
なんて説明しようかなあ。
この子は俺のことをいいゴブリンだと思ってるみたいだし、できればニンゲンの情報をいろいろ聞き出したい。
ほかのニンゲンはだいたいゴブ即斬だったからね! 里のゴブリン、簡単に殲滅されたゴブ! 話しかけて殺される俺の姿が目に浮かぶゴブ! 特にあの鉄兜とか! アイツまじ怖すぎゴブ!
『俺、ニンゲン、言葉わかる。だから、いいニンゲン、助けた』
とりあえず、ニンゲンの言葉がわかるからニンゲンに親近感があって助けた、とかそいう感じでいくか。
おっぱいちゃん信じやすそうだし大丈夫だろ。そんな間違ってないし。
あ、「いま死んでたよね」ってことには何も答えてないわ。失敗ゴブ!
『そうなんですね! 私、ゴブリンさんに二回も助けてもらって、いま、いまなんて、私の護衛さんは、目の前で、私、危ないところで、ゴ、ゴブリンさんが来てくれなかったら、私、わたし、あのまま』
護衛の一人に裏切られて、もう一人の護衛は目の前でもてあそばれて殺されて、自分は犯されるところだった。
おっぱいちゃんは思い出してしまったらしく、両腕で自分の体を抱えて震えてる。
俺はやっとおっぱいちゃんの腕から解放された。
……ところでおっぱいちゃん、信じやすすぎじゃない? 『そうなんですね!』じゃないゴブ! そんで俺が死んでたこと忘れてるゴブか? まさかのツッコミなし? ああうん、心折られてトラウマっちゃったのね! じゃあゴブリンが生き返ったなんて小さなことだよね! うんうん、俺もそう思うゴブ!
……ってなるか! そんなんだから何回も襲われるんだよおっぱいちゃん! もうちょっと人を疑おうな? 俺ゴブリンだけど! ハハッ!
でも好都合だからいまは放っておく。
もし話ができるようなら、いろいろ教えてもらうお礼に忠告するかもしれないし、俺もいろいろ説明するかもしれないけど。
それよりも。
問題が、一つ発生した。
俺とおっぱいちゃんが会話してる間に。
オクデラだ。
オクデラが、号泣しながらおっぱいちゃんの前に跪いてる。
「ニンゲン、魔法、スゴイ! ニンゲン、ゴブリオ、助ケテクレタ! ニンゲン、スゴイ! 魔法、アリガトウ! オデ、オデ、ニンゲン、アリガトウ!」
……。
…………。
そうだね、俺が死ぬ前、おっぱいちゃんは魔法で治そうとして手が光ったもんね。
そんでおっぱいちゃんが俺を抱きしめてたら、俺がめっちゃ光ったもんね。
そしたら俺が動き出したもんね。
うん、おっぱいちゃんの蘇生とか復活みたいな大魔法だと思ってもおかしくないよね。
右を見る。
盗賊のアジトでの出来事を思い出してガタガタ震えるおっぱいちゃん。
左を見る。
おっぱいちゃんに向かって跪いて、拝むように感謝を伝えるオクデラ。
……。
…………。
なにこれカオスすぎィ!
え、これひょっとして俺が二人ともなだめる感じ? リスタート早々難題すぎるゴブ!
おっぱいちゃんは危険っぽい世界だからもうちょっと強くなろうね!
オクデラはしょうがない気もするけど単純すぎだからね!
洞窟の入り口で、俺は一人立ち尽くす。
一回死んで、復活した。
キャラメイクっぽい空間だったけど、どうやらリセットとか死に戻りじゃなくて継続っぽい。
うん、生き直し的な。
コンテニュー的なアレな感じ。
チートっぽいものは見つかったけど、ひとまず【人族語】を取れただけでまだ強くなったわけじゃない。
ライフポイントってヤツを溜められればどんどん強くなれそうだけど。
ただ、いまは、とりあえず。
誰かこのめんどくさい状況をなんとかしてほしいゴブ!
あ、でも自分でなんとかするしかないんだけどね! ほら、モンスターに見つかってもニンゲンに見つかっても攻撃されるだけだから! 俺はゴブリンだからニンゲンの敵で、おっぱいちゃんはニンゲンだからゴブリンの敵だしね! それ以外のモンスターだったらゴブリンもニンゲンも関係ないし! ヒュー、四面楚歌ってるゥー! ハハッ!
くっそ、早くニンゲンになりたいゴブ! そうすればせめてニンゲンからは攻撃されないのに!
でも、いまは、とりあえず。
ただいまオクデラ!
ただいまおっぱいちゃん!
どこかで生きててくれるよねアニキ!
俺、また生きていけるゴブ! ありがとう神様! まあ雑魚ゴブリンだけどね! ゲギャギャッ!
はあ。
俺、転生したっぽいけどゴブリンだったから、ちゃんと生き直してニンゲンになりたいゴブ!
何度だって生き直して強くなってニンゲンになってやるゴブ!
目指せ100万ライフポイント!
……ところで神様、ライフポイントってどうやって溜めるんすかね?
ということで、サブタイトル回収。
「何度も」生き直します!
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