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第二十一話 盗賊を退治して女の子を助けて、おっぱいちゃんのおっぱいちゃんに包まれて俺は死んだゴブ!
七人の盗賊たちを倒して、俺とオクデラは聖職者っぽい女の子を助けた。
田舎の若者っぽい男は間に合わなかったけど。
すまん。
でもきっとキミの犠牲が女の子を救ったゴブ! 稼いだ時間で俺たちが女の子を助けられた、はず! よくがんばったゴブ!
洞窟の広間で、田舎の若者っぽい男に伝える。
……さて! しんみりするのは終わりゴブ! とりあえず盗賊どもが死んでるか確認しないとね! 後ろからブッスリとかそんな油断はしないゴブ!
「オクデラ、全員死んでるか二人で確かめるゴブ」
「ワカッタ」
コクリと頷くオクデラ。
うん、一人でチェックするより二人で確かめた方がいいよね! ダブルチェックは基本ゴブ! ミス即死!
そんなことを考えながら、盗賊たちが死んでることを確かめる俺。
おっぱいちゃんは、ずっと俺にしがみついている。
よっぽど怖かったらしい。
前が破かれた服で、俺にしがみつくおっぱいちゃん。
あの、身長差で、おっぱいが腕じゃなくて頭に当たるんですけど。
役得ゴブ! 背が低いゴブリンでよかった! 助けてよかった! いや違う、そんな下心はなかったゴブ! 本当ゴブよ?
歩くたびに、動くたびに幸せな感触が後頭部に。
うん、戦いの興奮が癒され……違う興奮しちゃいそうゴブ! ダメダメ、ジェントルゴブ!
広間にいる盗賊たちは、六人ともちゃんと死んでた。
オクデラが突進で二人、俺が倒したのは四人。
外にいた見張りも俺が殺ったから、俺は五人のニンゲンを殺したことになる。
でも俺に罪悪感はない。
これ、なんでだろうなあ。
心までゴブリンになったわけじゃないと思うんだけど。
でもまあ俺がニンゲンだったとしても、盗賊を殺すのに罪悪感を持たなかったかもしれない。
コイツらマジ鬼畜だったからね! 騙して攫って、男はもてあそんで殺して、女の子はヒャッハーするとか鬼畜生ゴブ! 鬼畜生なゴブリンだってどん引きゴブ!
あ、里のゴブリンは同じことしようとしてましたわ。むしろ標語になってましたわ。
悪いニンゲンを倒したいいゴブリンだから罪悪感がないってことで! ゴブリンはニンゲンを襲うもんだしね! そう考えたらおかしくないゴブ! たぶん!
「よし、全員死んでるゴブ」
「オデモ、確カメタ。ニンゲン、ミンナ、死ンデル」
よし、ダブルチェック終了!
俺もオクデラも、盗賊たちは全員死んでることを確認した。
俺はやっと、ふうっと一つ息を吐く。
ずっと俺にしがみついてた女の子も、ちょっと安心したみたいだ。
震えが止まってる。
でもまだ俺にしがみついてるけどね! ありがとうおっぱいちゃん! 何このやわらか地獄!
「オクデラ、一回外に出るゴブ」
「ウン、ワカッタ」
あいかわらず素直だなオクデラ! それで女の子にしがみつかれてる俺に何も言わないのな! え、なんで? これ当然なの? ひょっとしてまたモンスターの常識的なアレ? 勝者の権利、みたいな? うん、わからないことは気にしないゴブ!
俺たちは広間を後にする。
オクデラを先頭に、ゆっくり通路を歩く俺と女の子。
一オクデラ分の横幅しかない通路はゴブリンとニンゲンが並んで歩くには狭くて、女の子は俺に密着してる。
あの、頭が谷間に挟まれてるんですけど! お、俺の後頭部が! 何これヤバい! くっそ、俺がニンゲンだったら! ニンゲンだったなら!
歩きにくいのは通路が狭くて、女の子が密着してるからだ。
それ以外の理由はない。
ないったらない。
それに疲れなのか緊張がほぐれたのか、ちょっとフラついてる気がする。
外に出たら休憩して……一息ついたら死体漁りだな!
もちろんやらないわけないゴブ! 武器もたくさん、皮の鎧もあったし服もあるゴブ! 今回は身ぐるみはごうかな! 便利そうな光る石も回収したいし、弓矢もまだあるはず! ヒャッハー、大漁ゴブ!
死体漁りの罪悪感? うん、もうないよね! 捨てるにはもったいないゴブ! それに死体漁りしてなかったらここまで生きてこられなかったからね! 今回だって剣もナイフも使ったし!
盗賊たちが持ってた弓矢の練習もしたいゴブなあ。
遠距離攻撃ができれば、狩りだってラクになるはずだ。
うん、やっぱり死体漁りは外せない。
洞窟には宝箱がつきものゴブ! いやあ、この洞窟は狭いのに宝箱がいっぱいゴブなあ! ハハッ!
とりとめもないことを考えながら、歩いて。
気がつけば入り口が見えてきた。
オクデラはもう先に出たらしい。
外は暗い。
まあスキル【夜目】がある俺とオクデラには関係ないんだけど!
またフラッとして、洞窟の入り口に手をついて。
俺は、外に出る。
続けて女の子も外に出てきた。
なんかひさしぶりの気がする、外。
やっと助かったことを実感したのか、女の子はひざまづいて祈るように手を組んで、ブツブツ言ってる。
聖職者っぽかったし、きっと本当に神に祈ってるんだろう。
まだ森の中で、隣にはゴブリンとオークがいるんだけどね! でも大丈夫! 少なくともオクデラに襲われることはないゴブ! 襲おうとしてもたたないからね! EDだから! すまんオクデラ!
ボーッとそんなことを考えながら、戦いを切り抜けた達成感にひたる。
キレイな森の空気を吸って気分転換しようとして。
俺は倒れた。
あ、あれ? そんなに疲れてたゴブ? たしかにさっきからフラフラしてたけど……あ、これが緊張からの解放ってヤツゴブか? うん? ……腹が痛い? おっぱいちゃんがくっついてなかった方? 右の脇腹?
「ゴブリオ、ドウシタ?」
『******、******?』
倒れたまま、自分の横っ腹を見る俺。
【夜目】があっても、色はあんまりよく見えない。
でも。
身にまとった毛皮が、濡れている。
イヤな予感がする。
腹は、さらにじんじん痛くなってきた。
そっと手を近づける。
濡れた毛皮は、破れてた。
破れた場所を指でなぞる。
いって!
痛い、痛いゴブ!
え? ウソでしょ?
触った場所には、傷口があった。
俺の腹に、傷が。
けっこうデカくて、触ってわかるほど血が出てる。
……え? はい?
「ゴブリオ! 血、血ガ!」
オクデラの声が聞こえる。
いつやられたんだろ。ほとんど接近戦はしてな……ああ、角の槍をさした一人目? 手足をバタつかせてたゴブなあ。
ええっと、血を止めるにはどうするんだっけ? 押さえる? そんで包帯を巻く?
とりあえず手で押さえて、と思ったら、俺より先に女の子が動いた。
俺の傷口を両手で押さえる女の子。
おっぱいちゃんのおっぱいが深い谷間を作る。
ヒャッハー、目の保養ゴブ!
あれ? あんまり興奮しない?
え、コレ血が足りないとかいうヤツじゃない?
そんなことを考えてちょっと焦ってると。
『**、***********。**』
おっぱいちゃんの手が輝く。
はい? 手が輝く?
あ、ちょっとあったかい。
え、コレ魔法ってヤツじゃない?
俺を治そうとしてくれてるのかな?
女の子はニンゲンで、俺はゴブリンなのに?
でも。
傷は、ふさがってないみたいだ。
一度気づいたら、どくどくと鼓動にあわせて血が流れ出すのがわかる。
『**、***********。**』
おっぱいちゃんの手が輝く。
それでも傷はふさがらない。
「ゴブリオ、オデ、オデニ、デキルコト」
「オクデラ、落ち着く、ゴブ。ニンゲンに、任せて」
あ、あんまり声も出せなくなってきた。
あれ? これヤバくね?
『***、********! **、***********。**』
おっぱいちゃんの手が輝く。
三回目。
でも、治らない。
おっぱいちゃんは泣きながら、詠唱っぽいものを繰り返す。
でも。
おっぱいちゃんの手は、もう光らなかった。
魔法は打ち止めらしい。
血が流れてく。
俺の傷を押さえて血で汚れながら、もう魔法は使えないっぽいのに何度も詠唱するおっぱいちゃん。
俺は、そっと手を重ねた。
こっちを見た女の子と目が合ったから、俺は首を振る。
それだけでも大変になってきた。
女の子は、泣きながら俺の体を抱きしめてくれた。
『******、******』
ずっと同じ言葉を繰り返してる。
「オクデラ、近くに、手を」
近寄ってきたオクデラが俺の手を握る。
体は女の子に抱かれて、手はオクデラに握られて。
血が、どんどん流れていくのがわかる。
オクデラの手も、おっぱいちゃんのおっぱいもあんまりはっきり感じない。
せっかくの感触が残念ゴブ! ああうん、手はどうでもいいけどね! ハハッ!
オクデラは、俺の手を握って泣いていた。
ありがとう、オクデラ。
元人間でいまはゴブリンで、俺が何なのかわからないのに、俺のことを仲間だって言ってくれた。
純粋に、信じてくれた。
うれしかった。
なんとか、オクデラは純粋なまま生きてってほしいなあ。
あ、EDも治るといいゴブな! ハハッ!
ここにはいないけど、アニキにはいろいろ教えられた。
アニキがいたから、サバイバル生活を生き抜けた。
アニキがいたから、俺は元人間としての誇りを守れたと思う。
俺、アニキはきっとどこかで生きてるって信じてるゴブ!
名前もわからないニンゲンの女の子も、ありがとう。
助けられてよかった。
ちょっと襲われすぎだと思うけど! 次から気をつけるゴブ!
元人間として、ニンゲンを助ける。
俺が心までゴブリンにならなかったのは、きっとこの子がいたからだ。
それに。
この子は、俺のために泣いてくれてる。
ずっと繰り返してる言葉は、たぶん謝ってるんだろう。
俺を助けられなくてゴメンナサイって。
俺はゴブリンなのに。
たぶんこの子にとって、俺はいいゴブリンで。
ひょっとしたら、モンスターもニンゲンも関係なくて、いいモンスターも悪いニンゲンもいるのかもしれないゴブなあ。
元人間のゴブリンが、ニンゲンの女の子を助けて死ぬ。
うん、雑魚ゴブリンにしちゃ立派な最期ゴブ。
短いゴブ生だったけど。
でも。
せめて、言葉がわかったらなあ。
ずっと謝ってるこの子に、お礼を言えたのに。
ああ。
ニンゲンになりたいなあ。
そうすれば、俺のために泣いてくれるこの子の涙を止められたのに。
チビでブサイクでハゲなゴブリンの俺のために泣いてくれるぐらい優しくて、かわいくて、しかもおっぱいが大きいとか奇跡ゴブ! 異世界パネエ!
うん。
優しいおっぱいちゃんの腕の中で、おっぱいに包まれて死ぬなんて、死に方としては最高ゴブな!
ああでも。
やっぱり死にたくないゴブ。
せっかく好きな子ができたのに。
俺、ゴブリンだけどニンゲンのこの子に惚れたっぽいゴブ!
相手はニンゲンで、俺ゴブリンだけど! 鬼畜生!
神様、次は俺をニンゲンに……。
そんでおっぱいちゃんとデートしたりイチャイチャしたり、あ、ああ、あんなこととか、こんなこととかしちゃったり……ゲギャギャッ。
「ゴブリオ! 死ナナイデ! オデ、オデ、イヤダ!」
『******、******』
視界がだんだん暗くなって、音も聞こえなくなってく。
頭もぼんやりして……。
俺は死んだ。
……終わりませんよ?w
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