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第二十話 雑魚ゴブリンとオークでも環境と武器で何とかなるって信じてるゴブ!
 捕まったおっぱいちゃんと田舎の若者を助けるために、俺とオクデラは洞窟に侵入した。
 なんで助けるかって?
 さっき俺たちが助けられたから。
 ここでニンゲンを見捨てたら、前にニンゲンを助けた時に行方不明になったアニキに申し訳ないから。
 それに……俺、体はゴブリンだけど、心はニンゲンのつもりゴブ。
 鬼畜生じゃなくて、ちゃんとニンゲンとして生きるゴブ!
 ……あれ? 死体漁りしたり騙し討ちしたり、けっこう鬼畜生なような……あ、相手はモンスターと盗賊だから問題ないゴブ! セーフ、セーフゴブ!
 洞窟の奥、広間っぽいところを【覗き見】した俺は、ヒドい光景を見た。
 遊びながら殺された田舎の若者。
 聖職者の女の子の服を引き裂いて、襲おうとするニンゲン。
 気がつけば、作戦を忘れて俺は広間に飛び込んでた。
 中央にまとめて置かれてた光る石に、ブラックジャックを叩き付けて。
 助けに来たよ、おっぱいちゃん!
 広間は真っ暗ゴブ! でも俺とオクデラには問題なし! なんたってスキル【夜目】があるからね! やっぱりニンゲンにはなさそうゴブなあ! ゲギャギャッ!
『******!』
『***、**********!』
 急に真っ暗になったことで、盗賊とヒゲ面のおっさんは混乱してる。
 俺は走り出して、そのままの勢いで、おっぱいちゃんの服を引き裂いた盗賊に一角ウサギの角と木で作った槍を突き刺した。
『******』
 よし、これでおっぱいちゃんに近いヤツは無力化したゴブ! あ、槍は刺したらひねってます! うん、外道ゥー! さすが鬼畜生ゴブ! けっこう深く入ったし、手足動いてるけどコイツはもうアウトゴブ!
 広間にいる盗賊とヒゲ面のおっさん、動けるヤツはあと五人。
 暗闇の中で突然あがった悲鳴に、ヤツらの混乱が加速する。
 続けて俺は、近くにいたヒゲ面のおっさんの腹に、剣を突き刺した。
 入り口で倒した盗賊から奪った剣を。
 うん、一角ウサギの角とは違うね! さすが金属、あんまり勢いつけなくてもブッスリ刺さるゴブ!
『**、***』
 ヒゲ面のおっさんは声を出す余裕があったので、剣を抜いてもう一回突き刺す。
 なんだろ、元人間がニンゲンを攻撃してるのに、何にも感じないのがちょっと不思議だ。
 モンスターとか獣を殺してたから慣れてたのか、さっきコイツらのゲスな行動を見てたからか。
 それとも俺がゴブリンだからか。
 あんまり罪悪感ないゴブ! まあ今はそれどころじゃないからオッケーゴブ! 切り替え切り替え! くっ、深く刺さって剣が抜けないゴブ!
 真っ暗な中でも、二回目の悲鳴で襲われてるのに気づいたのだろう。
 残る四人の盗賊たちは武器を構えていた。
 空いた手で腰の皮袋を探って、光る石を取り出した盗賊が二人。
 洞窟の広間がぼんやり明るくなる。
『**? ******?』
『**、***********!』
『****、*******!』
 なんか話をしながら、俺を囲んでゆっくり近づいてくる。
 俺が入ってきた道は盗賊たちの後ろにあって、広間は行き止まりっぽくてほかに逃げ道はない。
 捕まってた女の子は、俺に気づいたのか目を丸くしてる。
 縛られたまま。
 ……。
 …………。
 あれ? これヤバくね? 俺囲まれてて逃げ道なくね? それに一対四じゃ勝ち目なくね?
 たらりと冷や汗をかく俺。
 うん、やっぱりちゃんと作戦通り、広間に入る前に何人か釣り出して、数を減らすべきだったゴブなあ。
 これじゃバカなゴブリンのことを笑えないゴブ!
 でも。
 初めてニンゲンを助けたあの時と違って、俺は諦めたわけじゃない。
 俺は、一人じゃないから。あ、違った、一ゴブじゃないから。
 あの時、アニキが俺を助けてくれたように、今度は。
 ほら、ドタドタ足音が聞こえてくるゴブ! おまえらの後ろ、通路からなあ!
 四人の盗賊が音がする方を見たスキに、見張りの盗賊から奪った大振りなナイフを、端にいる盗賊に投げつける。
 よし、腹に刺さった! やっぱり金属の刃物は違うゴブ! 汚くないゴブよ? お前らがさっきやってたことゴブ! ゲギャギャッ!
 うん、俺、ますます外道っぽくなってきた気がする。
 ダメージを与えた盗賊に近づいて、ブラックジャックを振り回す。
 端っこにいるコイツだけは、気を引いておいた方がいいから。
 通路に近い三人の盗賊? うん、そっちは心配いらないゴブ! こっちを見たり通路を見たり集中できてないからね! それにほら、ドタドタが近づいてきたゴブ!
 端の盗賊のまわりをウロチョロしながら気を引いてると。
 通路から広間に、大きな影が飛び込んできた。
 俺が作った木の盾を、体の前にかざして。
 オクデラァ! 来てくれるって信じてたゴブ! そう、オクデラのデカい体で勢いつければ、ニンゲンなんかじゃ対処できないゴブ! 薄暗くて狭い空間に突進してくるオーク! うん、反則ゴブ!
 2メートル近い体で、でっぷりとしたオクデラはたぶん120kgは超えてるだろう。
 ほぼお相撲さんゴブ! でかい木の盾を手に全速力で走ってくるお相撲さん! しかも避ける時間もスペースもなし! ジャマできそうな盗賊は俺が相手してる! うん、必殺技ゴブ!
 突進してきたオクデラは、その勢いで通路の近くにいた三人をはね飛ばした。
 というか止まりきれなくて、二人の盗賊は木の盾と洞窟の壁の間に挟まれた。
 二人ともゲボァって感じで血を吐いてる。
 あ、うん、コレもう交通事故ゴブな。なむなむ。
 これで残りは、俺がナイフを投げて傷つけた盗賊と、オクデラにはね飛ばされたけど壁には挟まれなかった一人だけ。ソイツは地面に転がってうめいてる。
 二対二で、相手は二人ともケガしてる。
 うん、ゴブリンとオークでも、ここまで来たら冷静にやれば負けないゴブ!
 俺は錆をとったナイフを右手に構えて、左手でブラックジャックを握る。
 腹に傷を負った盗賊は、右手のナイフを気にしてるのがわかる。
 そうだよなあ、さっき投げナイフが腹に刺さったもんなあ。ほら、こっちを見るゴブよ!
 右手のナイフを投げて、相手に注目させて。
 左のブラックジャックを、思いっきり振り抜いた。
 盗賊の脇腹にヒット! 痛くてもうずくまったら終わりゴブ! がんばって立ってないと殺られるゴブよ! もう遅いけど! ゲギャギャッ!
 あばらでも折れて、内臓に刺さったのか。
 俺の相手をしていた盗賊は、しゃがみこんでうめいている。
 俺はあんまり近づきすぎないよう気をつけながら、ブラックジャックを振り下ろした。
 頭にヒットして倒れたので、念のためもう一回。
 油断なんてしてやらないゴブ! なんせこっちはただの雑魚ゴブゴブ!
 刃物が手元にないので、トドメは保留してオクデラの方を見る。
 オクデラは、さっきはね飛ばした最後の一人を見ながら、石斧を構えて固まっている。
 うん、勢いで殺った時はよかったけど、いざってなるとビビっちゃったパターンね! KAKUGOが足りないぞオクデラ! それでもオークか! 気弱すぎか!
 しょうがないね、俺がやるって言って、仲間ダカラって一緒に来てくれただけだから。
 いいんだオクデラ。
 あの突進だけで充分だから。
 オクデラに近づく途中で、さっき突き刺した相手から剣を抜く。
 うん、足かけて思いっきり引っ張れば抜けました。
 オクデラの前で倒れてうめいてる盗賊にトドメをさす。
「オクデラ、来てくれてありがとう。本当に、助かったゴブ」
「ゴブリオ、オデ、オデ、トドメ、デキナクテ」
「気にすんなって。ホント助けられたんだから。さあ、ニンゲンを助けてさっさとこんな洞窟から出るゴブ!」
「アリガトウ、ゴブリオ、オデ、オデ」
 ポンポンとオクデラの腹を叩く俺。
 オクデラは、震えていた。
 気は優しくて力持ちってヤツだな! モンスターなのに! オークってむしろ嬉々としてニンゲン殺す方じゃないですかねえ! 純情かよ! うん、純情弱気オークだったねオクデラ!
 おっぱいちゃんのところに戻りながら、途中、最後に相手してた盗賊にトドメをさす。
 俺は俺で簡単にニンゲン殺しすぎじゃないですかねえ! 鬼畜ゴブ! うん、ゴブリンな俺は鬼畜だけど! ゲギャギャッ! 
 返り血で汚れたゴブリンが武器を持って近づいてきたのに、おっぱいちゃんはホッとした表情を見せる。
 おっぱいちゃんはもうちょっと人を疑おうな! すっかり俺とオクデラのことを信じ切ってるゴブ! ゴブリンとオークなのに! ああもうツッコミが追いつかないゴブ!
 縛っていた縄を切ったら、聖職者っぽいおっぱいちゃんは俺に抱きついてきた。
 おっぱいちゃんはさっき服を引き裂かれて、服の前がむき出しなわけで……。
 おお、おおおおお! 直接! 直接当たってるから! おっぱいちゃんのおっぱいちゃんが当たってて、ゴブリオ、ゴブリンになりそうゴブ! 落ち着け、落ち着け俺! おっぱいちゃんは怖かっただけだから! ここでゴブったら元人間じゃなくてただのゴブゴブ! 里のゴブリンとかこの盗賊と一緒ゴブ! 俺は雑魚ゴブだけどジェントルゴブ!
 震えながら抱きつくおっぱいちゃんの背中に手をまわしてポンポンする俺まじジェントルゴブ。
 とにかく。
 俺とオクデラで、七人の盗賊たちを倒した。
 田舎の若者は間に合わなかったけど、聖職者っぽい女の子は助けられた。
 うん、上出来の結果ゴブ。
 格上のニンゲンを倒しまくったのに、あいかわらずスキルも称号も変化ないけどなあ! これマジどうなってるゴブ! そこんとこどうなってるんですかねえ神様!
 しかもコレ、ニンゲンだったらおっぱいちゃんに惚れられるところだったのに! 早くニンゲンになりたいゴブゥ!
 
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