バニラ・エアの搭乗拒否問題は何が問題だったのか?

激安航空会社(LCC)のバニラ・エアで、バリアフリー研究所代表の木島英登さんが、事前通告しなかったために搭乗支援を拒否され、飛行機のタラップを自力で上がることになり、バニラ・エアが謝罪した件が話題になっていますが、海外経験豊富な @May_Roma (めいろま)さんは、この事件に関する議論の問題点を指摘します。

激安航空会社(LCC)のバニラ・エアで、バリアフリー研究所代表の木島英登さんが、事前通告しなかったために搭乗支援を拒否され、飛行機のタラップを自力で上がることになり、バニラ・エアが謝罪した件が話題になっています。

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この件で、バニラ・エアの対応を批判する人もいれば、事前通告しなかった車椅子の方の方を批判する人もおり、意見は様々です。

欧州の場合、欧州内の移動と居住の自由や旅行客の増加がLCCの競争を加速したので、日本よりもLCCが普及するのが早かったので、LCCがバス状態で走っており、日常の足のような感覚です。さて、では欧州のLCCは、車椅子や酸素ボンベで移動が制限される乗客へどのような対応をしているのか、ちょっとみてみましょう。

まずは最大手の一つのイギリスのEasyjetです。以下は同社のウェブサイトの抜粋です。

We have to let the airport know what assistance you need at least 48 hours before you fly. If you give less than 48 hours’ notice, the airport may not be able to provide the service you need or you may have to wait a while for them to organise the assistance. So, please always think ahead and tell us how we and the airport can best assist you.

私どもは少なくとも搭乗の48時間前に、空港側にあなたが必要な援助を伝えなければなりません。48時間前の通告期限以後の場合、空港側はあなたが必要な援助を与えられない可能性があるか、援助の調整を待たなければならない可能性があります。そのため、必ず事前に計画し、私どもと空港が最適な援助を行えるよう通知して下さるようお願い致します。

次はアイルランドのRyanairのウェブサイトの抜粋です。

If you, or a member of your party, requires special assistance at the airport you will need to book these services in advance. We recommend that you request these services when you book your flight, but you can pre-book them on the Ryanair website up to 48 hours before the scheduled flight departure time.

After this time and up to 12 hours prior to scheduled flight departure, passengers should contact our Special Assistance line (subject to opening hours). If you do not provide 48 hour's notice, the required assistance may not be available and your travel plans may be disrupted.

In order for an airport to provide pre-booked special assistance, passengers should present themselves at the airport special assistance desk 2 hours before their flight departure time.

もしあなた、もしくは同行者の方が空港で特別支援が必要な場合、事前に予約する必要があります。支援サービスは搭乗券予約時に要求することを推奨しますが、Ryanairのウェブサイトでは、予定されたフライトご搭乗の48時間前までに事前予約が可能です。

48時間を過ぎて搭乗の12時間前までは、Special Assistance lineへご連絡下さい。(ただし営業時間内)48時間前に通告がない場合、特別支援が提供されない可能性があり、あなたの旅行予定が中断される可能性があります。

空港が事前予約された特別支援を提供するために、搭乗者は空港の特別支援デスクに、搭乗の2時間前までに来る必要があります。

その他の会社の注意書きもほぼ同様で、搭乗48時間前までの事前通告をお願いしていますが、英語表現が「may」となっているように、事前通告なしだからといって、搭乗を拒否するというわけではありません。

48時間前までとなっている理由は、EUにおける障害のある搭乗客への差別を禁止する規制(EC Regulation 1107/2006)と、EUが発表したガイドラインに沿っているためです。

このガイドラインは、欧州内を飛ぶ航空会社と、欧州を離発着する会社に適用されます。

移動に制限がある乗客は、登場に際して介助人を同行する「義務」はなく、援助サービスは無償で、2つまでの移動に必要な機器を無償で運んでもらう「権利」がありますが、48時間前までに航空会社に支援の必要性を「通知」することを「推奨」しています。

あくまで「推奨」ですので、「通知」は義務ではありません。

また航空会社が移動に制限がある人の搭乗を拒否する場合は、安全保障上の問題があると明確に定義しなければなりません。

Passenger rights: what passengers with reduced mobility need to know when travelling by

Disabled travellers still face airline refusals, European Commission

このガイドラインが発表された理由は、欧州においても、移動に制限がある搭乗者への対応が、航空会社や時と場合によりバラバラで、統一性がないことが理由です。

例えば15年もの間、介助者無しで飛行機移動してきた国連の高官が、ヒースローからジュネーブへ移動する際に同行者がいないからと搭乗を拒否された例、診断書の提出を要求された例、同行者が必要ないことの証明を要求された例、援助サービスに費用を請求された例等です。

しかしこのようなガイドラインがあるにも関わらず、EUは移動に制限がある乗客への差別は日常であり、問題は山のようにあると指摘しています。

例えばBBCのジャーナリストであるFrank Gardner氏は、歩行用の補助具が大きすぎたためにケニア空港に搭乗を拒否された事件が有名です。その他にも、登場したフライトの半分で車椅子が壊れてしまった人、同意なしに車椅子を分解されてしまった人、酸素ボンベと搭乗するのに追加料金を請求された人など様々です。

このように日本よりも訴訟社会であり、バリアフリーがかなり進んでいる欧州でも、移動に制限がある人が飛行機にのることはまだまだ大変です。

私は赤子を連れて飛行機に乗ったり、身内に移動が大変な人がいるので、ちょっと他人事とは思えません。自分の場合も、ベビーカーを預ける際に、壊れないかなと気にしますし、搭乗口で色々と助けてくれる会社、そうではない会社と、その対応にもバリエーションがあったりします。(通常日系の会社は支援が手厚いです)

バリアフリー研究所代表の木島英登さんは、様々な国を訪問し、一般の人よりも遥かに多くの航空機に乗られているので、今回の件は問題提起のための意図的な行動だったのかなと思っています。

事前通告すべき、ルールは守るべきという意見もおっしゃるとおりだと思います。

しかし、こういうショック療法的な広報や問題提起というのは、実は、問題を世間に知ってもらうためにはとても大事なことです。波風を立てないのが美徳の日本では眉をしかめる人が多いかもしれませんが、しかし、こういうアクションを取る人がいなければ、議論は活性化しません。

いくらLCCであっても、運ぶのは人ですから安全性や、様々な乗客への対応はマストです。それができた上でコストを下げなければなりません。乗客には最低限の権利がありますから、それを保証した上でコストを換算し、料金を決めなければなりません。

多様な乗客へ対応できるかどうかは、実はその会社の運行の安全性にも関係してくるのではと考えています。その程度の対応すらできない体力だとしたら、メンテナンスや管理のコストも削るはずですから、安全性に疑問符がついてしまいます。

その次に、このショック療法は、一旦車椅子になったり、動きにくくなったら、航空機や公共交通機関での移動は思いの他大変だと多くの人に気がついてもらう点でとても重要だったということです。

事前通告なしだったことを批判する方もいると思いますが、しかし、その前に考えてほしいのは、自分も車椅子になったり、事故や病気で移動が制限される可能性がないとはいいきれない、ということです。

例えば予期しない交通事故や病気には誰だって遭遇する可能性があります。

案外指摘する人がいないのですが、特に日本の場合は自分が障害を負う可能性が実は少なくありません。首都圏の場合の通勤の過密さは他の先進国に比べると異常なレベルですから、そのストレスが脳梗塞や心筋梗塞等の病気の原因になります。長時間労働や、細かすぎる要求、短い睡眠時間も原因です。日本の睡眠時間は先進国最低レベルです。

私の身内は事故で何度か死にかけています。どれも相手方過失100%か、それに近い割合で、その理由は、過労による前方不注意や運転ミスでした。後遺症で大変な障害が残りました。知人は30代で脳梗塞で倒れました。

高齢者になると、健康な人は多くはありません。街中で見かけるナンパしてくる助平老人や家電の店で理不尽な要求をしている人、あれは健康な老人です。日本は平均余命は長いのですが、実は死ぬまで健康という人はそれほど多くはありません。

自分が障害をおったり、病気の老人になって、身内や大切な人芽球に亡くなったり事故にあい、急遽飛行機に乗らざる得なくなった場合。48時間前に通告してないからと登場拒否される可能性だってあるわけです。その場合、自分が悪いんだ、と諦めきれるでしょうか?

この件で私が思ったのは、様々な議論がある中で、航空会社が助けられないなら、周りの乗客がちょっと手を貸したり、なんとかすればよかったんじゃないか、という声があまりにも少ないことです。

欧州の航空会社も問題が多いですが、しかし、普段の生活で、バスや電車、お店などでは、見ず知らずの人がさっと手を差し伸べてくれたり、お助け合戦になってしまうことが多いのです。周りが助ければ、係員の人を呼びに行く手間暇を節約できますし、その分電車もバスも早く出られますから、合理的な判断でもあります。ラッシュ時でも嫌な顔をする人はいません。乗るのが当たり前だからです。

日本だと困った顔をしていても、さっさと言ってしまう人や、「あそこに係員がいますよ」(つまり、私は助ける気もないし義務もない、あんたあそこの人に頼みなよ、という意味)と物凄く冷酷にいう人がいることが珍しくありません。

日本の駅にはエレベーターがたくさんありますが、その幅は狭く、使い勝手はよくありません。通路でベビーカーや車椅子に配慮する人は多くはなく、我先にと他人を押しのけて早足で歩いて行く人ばかりです。子供が泣いていると怒る人がいます。

「白い羊の中の黒い羊」になる勇気を持って問題提起した人に対しても、「不快な奴だ」と冷たくあしらう人ばかりで、一緒に考えようという人も多くありません。

高価な家電やシャンプーは溢れていても、日本は貧しい国なのです。

ケイクス

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世界のどこでも生きられる

May_Roma

海外居住経験、職業経験をもとに、舌鋒鋭いツイートを飛ばしまくっているネット界のご意見番・May_Romaさん。ときに厳しい言葉遣いになりながらも彼女が語るのは、狭い日本にとじこもっているひとびとに対する応援エールばかり。日本でしか生き...もっと読む

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コメント

honey_holic めいろまさんの意見合わないこと多いけど、この件はほぼ同意だなぁ。我がごととして考えられる人が増えれば今よりちょっと生きやすくなるんだろうと思う 21分前 replyretweetfavorite

koshian まあ船に救命ボートが なかったみたいな話だと思うしねえ。 これは妥当な 記事だと思う。 42分前 replyretweetfavorite

ayaneco6 海外で暮らす知人も、駅での日本人の様子を見て同じような事言ってました。 『私が思ったのは、周りの乗客がちょっと手を貸せばよかったんじゃないか、という声が「あまりにも少ない」ことです。』 43分前 replyretweetfavorite

akira_freestyle 海外ではどんないかつい兄ちゃんでも手を差し伸べる。企業のルールや事情はさておき。 貧しい人間たちが起こした問題。 約1時間前 replyretweetfavorite