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うつにボルダリングが効果、悲観的な自動思考を解消

井手ゆきえ [医学ライター]
【第347回】

 切り立った崖や壁を身一つで登るボルダリング。装備は専用シューズと手指の汗を止めるチョークくらい。東京オリンピックの追加種目でもあり、このところ競技人口が増えている。

 このボルダリング、どうやら「うつ病」の治療に有効らしい。その効果が先月開催された米国の心理学関連の学会で紹介された。

 紹介された研究は、約100人のうつ病患者を介入群と待機群にわけて実施。介入群はうつ病の重症度の評価を受けてすぐに、週3時間のボルダリング療法を始め、8週間続けてもらった。

 一方、待機群は一般的な治療を8週間行った後、ボルダリング療法を開始している。

 参加者は、8週間ごとにうつ病の重症度と自覚症状のチェックリストを使い症状の推移を記録した。

 その結果、ボルダリング介入群の自覚症状が大きく好転したのだ。たとえるなら、重症が軽症になるほど劇的な変化だった。一方、待機群はわずかな改善にとどまった。

 研究者は「登攀中は意識を拡大しつつ落ちないよう一心に集中する状態。人生のあれこれに悩んでいる暇がない」という。

 集中が途切れれば落ちる、という危険な状況が脳内の神経伝達物質に影響し、一種ニュートラルな状態を生み出すのだろう。

 この治療法は、2015年にボルダリングの治療効果を初めて示したドイツの小規模研究から発展したもの。ドイツでは、すでにうつ病治療に取り入れられている。

 ボルダリング療法の良い点は、「うつ病で最も問題になる、悲観的な考えをあれこれ反すうするパターンを解消できること」だ。さらに「社会から孤立しがちな患者が仲間と交流できること」も見逃せない。実際、ボルダリング療法を受ける患者の多くは初心者だが、とても楽しんでいるようだ。

 うつ病イコール薬物治療の日本とは違い、欧米では認知行動療法など非薬物療法が盛んだ。ボルダリングほど劇的ではないが、ウオーキングやジョギングの治療効果も認められている。

 身体を動かすにはいい季節。そろそろ薬以外の選択肢に目を向けませんか。

(取材・構成/医学ライター・井手ゆきえ)

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井手ゆきえ [医学ライター]

医学ライター。NPO法人日本医学ジャーナリスト協会正会員。証券、IT関連の業界紙編集記者を経て、なぜか医学、生命科学分野に魅せられ、ここを安住の地と定める。ナラティブ(物語)とサイエンスの融合をこころざし、2006年よりフリーランス。一般向けにネット媒体、週刊/月刊誌、そのほか医療者向け媒体にて執筆中。生命体の秩序だった静謐さにくらべ人間は埒もないと嘆息しつつ、ひまさえあれば、医学雑誌と時代小説に読み耽っている。

 


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