論文というと硬い読み物だというイメージのある人が多いのではないでしょうか。
たしかに一見、タイトルも回りくどいし、文章もなかなか、なにがわかったか断言してくれなくて、わかりにくそうに見えます。
しかし、長年おもしろ論文ハンターとして活動している私からすると、それらすべてが「わかりやすい」。
タイトルが長いのは、「どういう状況・条件下で」「なにを」「どうしたのか」が全部書かれているので、タイトルを読めばなにをやったか一発でわかる。「かもしれない」とか「だと思われる」を「だ」「だと思う」と言わないのは、100%ではない以上断言しないという「真実」へのリスペクト。
世の中の「まだわからないこと」をなんとかして「わかるところまで調べよう」としている人たちがいます。「ここまでわかった」あるいは「これではないことがわかった」ことも論文になるんです。
もっとも知られていないことは、どんな身近なことでも研究になる、そして論文にまとめられるということ。今回はそんな「ヘンな論文」をご紹介します。
たとえば、下着のことって普段だれかと話したりしますでしょうか?
これだけ毎日身に着けていながら、会社や家族ともなかなかしゃべらない。少しだけタブーになっているようなことも、研究の世界ではなんの先入観も偏見もなく行われています。
大村知子さん、山内幸恵さん、平林優子さんが2008年に『日本家政学会誌』に投稿した論文です。
「本研究では、姿勢変化の過程における人体とパンツの軌跡を三次元動作解析システムにより捉えた。」
いきなり本気の「三次元動作解析システム」って言う言葉が出てきちゃうあたり、ちょっと笑っちゃいませんか? いや、人体とパンツの軌跡ってなんだよ、とか。キラーフレーズ連発じゃないですか。この人たちは三人で真面目にこれ研究しているんですよね。
でも、こういう研究がないと、実際に着る下着の着用感って向上しないんですよ。
実は企業がお金を払ってこういう研究をお願いしている場合もあるし、大学ではなくて企業が研究チームを組織して常日ごろからこういうデータをとったりアンケート調査をして、よりよい着用感を目指しているんですよね。
おなじ『日本家政学会誌』には「走行中のブラジャー着用時の乳房振動とずれの特性」という論文(岡部和代、黒川隆夫、2005年)という論文も載っていました。
これは走っているときにブラジャーがどれだけずれるのか、おっぱいの揺れとの関連性を0.01秒ごとに撮影して検証した論文です。うらやましいと思いますか?
「走行中の」という条件を絞っているということは、おなじ実験を「歩行中」でもやるし、あるいは「立っているときと座っているとき」とかでもやるということです。地道ですよねえ。ほとんどが計測したデータと向き合う日々。しかしこうした研究の先に、着心地のいいブラジャーがあるのです。
そのうち、男性でも付け心地のよいブラジャーが出るかもしれません。
下着は色の意識調査や、付き合っている相手にどういう色の下着を着ていてほしいかとか、どこからどこまでを勝負下着と思うかなど、それはそれはたくさん研究されています。これは研究者がエロいからではなく、それだけ身近なものだからです。
こんなことが研究になるの!? と思う人もいるかもしれませんが、身近なものだからこそ研究対象になるんです。