ヘルシー志向の若い女性の間でも人気の豆腐だが、スーパーなどによる買い叩きが問題となっている。豆腐製造には精緻な職人技が要求され、体力的にも厳しい仕事だが、納品価格はどんどん下げられ、今では一丁20円ほどで売られている。

 農林水産省は今年3月、豆腐が安価で買い叩かれることを防ぐため、スーパーと製造業者間の取引を適正化するためのガイドラインを発表。農林水産省の担当者は「日持ちのしない商品で、売り先が地域的にも限られる場合、どうしても買い手側の立場が強くなってしまう。そこで作り手である食品製造業者に大きな負担がかからないようガイドラインを策定した」と説明する。

 1927年創業の豆腐製造業者、株式会社いづみやの青山隆氏は「スーパーで100円で売られている商品は、かつては82円で納入していたが、現在は60円以下で、我々の手取りは30円以下。運送費用や配送センターへの手数料など、負担も大きい」と嘆く。

 また、豆腐の原料となる大豆の価格は高止まりしたままで、生産量も少ない国産は安定的な供給も難しい。いづみやはかつて、1日15万丁を作ることができる工場を持ち、大手スーパーなど約100社と取引をしていたが、約10年前にスーパーとの取引を停止し、現在は直売所など、地元客向けに販売を行っているという。

 1960年には5万1569件あった豆腐事業所だが、2015年には7525件まで減少。豆腐・油揚製造業の売上総利益も1999年には2179億円だったが、2012年には1504億円と市場が縮小している。

 食品の流通や価格に詳しい農産物流通コンサルタントの山本謙治氏は「20年ぐらい前は、安い豆腐を作るための大豆は一俵2000円ぐらいだった。それが今は5000円ぐらいになっている。豆腐の価格も2倍になってもおかしくないはずが、そのままにされている」と指摘する。

 山本氏によると、「豆腐以外にも、納豆やこんにゃくなど、スーパーに必ず並んではいるが日持ちのしない商品を『日配食品』という。これらは恒常的にスーパーから”安くしろ”と言われ続けていて、そのせいで製造会社はバタバタと潰れていっている」のだという。

 こうした激安販売が、市場の健全な競争を阻害する「不当廉売」に当たる可能性について山本氏は「公正取引委員会がスーパーの安売りで不当廉売を取り締まるというのはあまり聞かない。消費者のために安く売っているのだから、強くは出られない思っているのかもしれない」と明かす。

 豆腐一丁の適正価格について山本氏は「少なくとも160円以上で、基本的には200円以上あれば、豆腐業者の人も納得するのでは」と話す。

 このような事態に至った背景には、スーパーなどの小売業者だけでなく、豆腐業界、消費者の側にも問題があるようだ。

 山本氏によると、安く作ることを追求し過ぎてきたため、技術革新や美味しく作ることを目指す業者が圧迫されてしまっているという。

 スマートニュースの松浦茂樹氏は「食の安全が叫ばれているが、消費者は生活のことを考えて安ければいいと、値段に引っ張られてしまっている。情報の流通をやっている身として、コンテンツ作りをする部分が圧迫されていると感じているし、”日本はモノづくりの国”と言うわりには、モノづくりをしている人たちを軽視しがちだと思う。流通させる側も、作り手に対しリスペクトをもってやっていくべきだ」と警鐘を鳴らす。

 山本氏は物価が上昇しても価格が上昇しない漬物、ネギ、卵、ハム、酢なども”安すぎる”商品だと指摘、「申し訳ないが、消費者が一番悪い。解決方法は5回に1回でもいいから、いい商品を買うこと。いいものに手を伸ばす消費者がいることをスーパーの人にわかってもらわない限り、状況は改善しない」と訴えた。( AbemaTV /AbemaPrimeより)

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